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一万六千
作者: 全州明  (総ページ数: 10ページ)
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*8*

『僕が刑事になるころ』  5692  2023年 曇り


「何か言ったらどうなんだ!! お前には、仲間がいるんだろう!?」
 岡本刑事は勢いよく机を叩いた。
「・・・・・」
 向かいに座る殺人犯は、身じろぎ一つしない。
「どうですか? 岡本刑事?」
 様子を見にきた一人の警官が、岡本刑事に話しかけた。
「全然ダメだ。コイツは防犯カメラに映ってたし、何より被害者がコイツだって言ってるからいいが、その被害者は、もう一人仲間がいたって言ってるからな・・・・」
「まだ続けますか? 事情聴取」
「あぁ、あたりまえだ。コイツは一家を娘だけ残して皆殺しにした奴だからな。簡単にあきらめたら、その子に示しがつかねぇ」
「・・・・わかりました」
 そう言うと、警官は取調室から出て行った。

 ―――しばらくして

 取調室の前で、二人の刑事が話し込んでいた。
「なぁ、いくら粘るとはいえ、ちょっと長すぎやしないか?」
「・・・・確かに。もうかれこれ三十分以上たってるし、さっきから物音一つ聞こえないしな」
「一度様子を見てみよう」
「あぁ」
 片方の警官が取調室のドアノブに手をかけ、怪訝な顔をする。
「・・・・あれ、この扉、開かないぞ。鍵でもかけてあるのか?」
「そんなはずはないだろ? そもそもこのドアに鍵なんてないはずだ」
 もう片方の警官は、ドアノブを回し、ドアを開けようとする。
「おかしいな、ドアノブは回るけど、ドアが開かない。・・・・何か、引っかかってるみたいだ」
「引っかかってる? 中の岡本刑事が心配だ、蹴破ろう」
 事態を重く見た一人が、そう提案した。
「あぁ、その方がよさそうだな」
『せーの!!』
 二人の警官は息を合わせてドアを勢いよく蹴った。
 だが、それでもドアはびくともせず、代わりに中で何か棒のようなものが倒れる音がした。
「おい、開くぞ」
 さっき倒れた棒が引っ掛かっていたのか、嘘のようにあっさりとドアが開いた。
「準備はいいか?」
「あぁ」
 二人の警官はベルトの拳銃を手に取り、一斉に中に入った。
「・・・・!!」
「岡本刑事・・・・」
 二人は腹をくくってはいたものの、中の光景を見て絶句した。
 取調室の壁は赤く染まっており、そのしぶきの中心に、首にボールペンがつき刺さった岡本刑事が横たわっていた。
 そして窓は開け放たれており、事情聴取を受けていた、殺人犯の姿はなかった。

 ・・・・数日後

 あの現場に居合わせた二人の警官のうちの一人が、署長室に呼び出された。
「今日君を呼び出したのは、信用できる君だからこそ、聞いてほしい話があったからだ」
「何でしょうか?」
「・・・・笹本君、今から君には、刑事になってもらいたいんだ」
「刑事、ですか・・・・」
「そうだ刑事だ。君に義務が果たせるというのなら、だけどな」
「どんな義務ですか?」
「まず一つ目、肌身離さずこの銃を装備すること」
 そう言って、署長はやや大きめの拳銃を差し出した。
「この銃には安全装置が付いていない。引き金を引くだけでいつでも弾が発射できる」
「なぜそんな銃を装備する必要があるんですか?」
「それの理由は二つ目の義務だ。殺人犯を現行犯逮捕した場合、即座にこの銃で撃ち殺すこと。例外はない」
「・・・・犯行動機も聞かずに、ですか」
「そうだ。即座に殺さないと、以前のように犠牲者が増える可能性があるからな」
 警官の脳裏にその以前の記憶がよぎる。
「そして最後に、絶対に、殺されないこと。以上の三つの義務を果たせるか?」
「はい」
「それでは、今から君は笹本刑事だ。おめでとう」
 そう言って、署長は笹本にリボルバーを手渡した。
「ありがとうございます」
「・・・・そうだ、もう一つ重要な話があったんだ」
「何でしょうか」
「君は、2000年事件を知っているか?」
「あぁ、名前だけなら聞いたことがあります」
「まぁ、普通ならそのくらいだろうな。なんせあれほど大規模な事件だったのにも関わらず、教科書には載っていないからな」
「2000年事件とは、2000年よりも前に生まれた人を中心に多くの人が殺された事件の総称だ。事件と言うよりは、一種のテロと言ってもいいかもしれない。
 その事件が頻繁に起こっていたころはまだ、自殺と殺人以外の犯罪も起こっていたんだが、不思議な事に、自殺と殺人以外の事件の犯人は皆、2000年より前に生まれた者だけだった。
 だから政府はこれを隠蔽した。この事実が公になれば、大変な事態になると考えたからだ。
 だが、どこからかその情報が漏れ、都市伝説として出回った。
 そしてそれは、瞬く間に世界中に広まった。そしてついには、2000年より前に生まれた人間を殺せば、殺人と自殺以外の犯罪は撲滅できると考えるテロリストが現れた。
 彼らは次々と2000年より前に生まれた人々を殺していった。
 それがきっかけで、今までごく普通の民間人だった人々も同じ事をし始めたり、2000年より前に生まれた多くの人々が、自ら命を絶ったりした。
 それから数年後、とうとう世界の人々の死因の五割以上が殺人と自殺になった。
 これが2000年事件の真相だ」
「それと、これを見てくれ」そう言って、署長は一枚の資料をデスクに置いた。
「この資料によれば、殺人犯のほとんどが2000年より後に生まれた人間らしい」
「・・・・それはつまり、どうゆうことなんですか?」
「つまりこうゆう事だ。2000年を境に何かが変わった」
「何が変わったんですか?」
「それはわからない。だから君にはそれを探ってほしい。余計な犠牲者を出さずにな」
「・・・・ちなみに、拒否権はない」
「・・・・了解です」

 こうして僕は、刑事になった。

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