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パフェイン0% (完) 『原題:今日創られる昨日』
作者: 全州明  (総ページ数: 9ページ)
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*8*

『―――路に人が倒れているとの通報を受け警察が駆け付けると、違う人間の体が繋がった遺体が見つかり、辺りは騒然となっています。警察は、持ち帰り魔と同一犯であると見て、事件を調べていますが、司法解剖の結果、繋ぎ目が拒否反応を起こし、腐っていたことから、生きたまま繋が―――』
 チャンネルが店主によって、料理番組に変えられた。
 数人の客が食事中の手前、さすがにさっきの内容を流すわけにはいかないらしかった。
 じゃあ最初からテレビ点けるなよと言いたいところだが、名前からして変なこの店に、常識など通用しない。
ちなみに、悦子が言うには、一応ここはファミレスらしい。
「それで、結局、何であいつらは人の体が奪えるの? あんたには出来ないのに。
 あいつら、あんたの分身なんでしょ?」
 言いながら悦子は、『カフェインゼロ』という名のパフェを頬張り、笑みを浮かべる。
「いや、やろうと思えばあれくらい、俺にだってできるさ。
 というか、消した物は皆、自分の中に取り込まれるんだぜ? まぁ、俺は神だし、それで自分の体重が重くなっても関係ないし、体の一部が消したものになったりもしないんだけどな」
 言い終わると、セルゼルノは『パフェイン0%』と言う、由来のよく分からないコーヒーを啜った。
最初、甘ったるいコーヒーだな、何て思った。が、
「苦っ!! 何だこのコーヒー!」
 後からその甘みを跡方もなくかき消すほどの強い苦みが、セルゼルノを襲う。
「・・・・」
 しかし、悦子は反応せず、セルゼルノの後ろを見つめている。
「あれ? 悦子?」
 セルゼルノも悦子の視線の先に振り返ると、そこには・・・・
「久しぶり、でもないですね。セルゼルノ」
 澄まし顔のテゥィンクが、突っ立っていた。
「あぁ、えーっと、テゥィ・・・・あっいや間違えた。ようスフィンクス!」
「今わざと言い直したでしょう!!」
「まぁまぁ、・・・・ていうか、何でお前がここにいるんだ?」
「何でではありません。あなたが世・改の扉を開けっ放しにしているからですよ。
 それより、神王様がお呼びです。すぐに神殿へ向かって下さい」
「神王様が? 何で?」
「行けばわかります。さぁはやく」
「わかったよ」
 セルゼルノはテゥィンクに急かされて立ち上がり、とりあえず自分の頼んだコーヒーの代金だけテーブルに置き、悦子に別れを言ってから、店を出た。
 すれ違い際、テゥィンクが切なさに満ちた顔をした気がしたが、気のせいだろうか。


 セルゼルノが神殿へ戻ると、そこには何もなかった。いや、正確には、神王がいたが、それ以外は、本当に何もなく、真っ白な空間が、無限に広がっていた。
「来たか。セルゼルノよ。どうじゃ、災害は収まったか?」
「いえ、まだです。が、徐々に終息へと向かっております」
「そうか。案外、驚かないのじゃな」
「えぇ、この世界は、どう見ても、あの世界には見えないので」
「そうじゃ。まさにその通りじゃ。ここは、三つ目の世界。
 ここには何も無い。有るのは、無限に広がる空間だけじゃ。
 それ故一瞬で造ることができたし、矛盾のない、安定した世界となった」
「・・・・初めからこのような世界を作っておけば良かったのでは?」
「いや、それは無理じゃ。扉の行き先が世界の神殿ではなく、ここに変わっておるのは、この世界を固定するためなのじゃ」
「固定、ですか?」
「そうじゃ。なにせここには、空間以外、本当に何もないからな。
 造る際には、世界と世・改の両の扉と繋ぐことで、固定する必要があるのじゃ。
 じゃがそれは、本当に、造る際のみの話。もうその必要はない。
 そして、ここと世界を扉で繋ぐことによって、世界もバランスが取れ、安定した。
 もう崩壊の危険は、無いと言っても過言では無い」
「つまり、あの世・改はもう、必要ない、と言う事ですか?」
「そう言う事じゃ。もうわざわざあの世界で災害を終わらせる必要はない。
 御主ももう、飽きてきた頃じゃろう? もう消してよいぞ?」
「神王様。私はまだ、あの世界には飽きておりません。それに、あの世界の神は私です。
 私の、好きにさせてください」
「うむ。そうか、ではまぁ、好きにするが良い」
「ありがとうございます、神王様。では―――」
 セルゼルノはおもむろに立ち上がり、身を翻す。
「ん? もう行くのか?」
「はい。まだ災害は終わっておりませんから。
 私は神として、世・改の人々を、守らねばなりません」
 セルゼルノは振り返らずに答えた。
 そして、一歩一歩、ゆっくりと歩きだし、世・改の、扉へと向かう。
 扉が目の前に差し迫り、セルゼルノは手をかざす。
 扉は小気味のいい音を立てて開き、その向こうには、見なれた景色が広がっていた。
 これからも、たくさんの、面倒事が起きるだろう。
 これからも、毎日のように人が死んでゆくのだろう。
 セルゼルノには、そのどちらも、無に変えることはできない。
 そんなことをすれば、世・改の崩壊はまぬがれない。
 だがしかし、セルゼルノは、止めなくてはならない。
 この手で、この、他の誰のものでもない、自分の手で。
 あの時、人ト非は言った。
『僕には、愛の籠った名前がない、帰る場所も、居場所もない』と。
『僕自身は、誰にも求められてない。この仕事は、僕以外にも、できるから』と。
『だから僕は、人間になりたいのだ』と。
 それが何を意味するのか、今の彼には、なんとなく、わかる気がした。
 そのためにも、災害を、終わらせなければならない。
 きっとそれは、限りなく、面倒臭いことなのだろう。
 だから、できればやりたくない。
 しかしセルゼルノは、扉の敷居を跨ぎ、世・改へと足を踏み入れる。
 彼を、他の誰でもない彼を、求めてくれる、彼女を守るために―――

「―――待ってろよ。悦子」

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