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cynical【完結】
作者: 美奈  (総ページ数: 63ページ)
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*57*


10ー11
早く………。早く。

「ありがとう、湊。十分私は幸せだよ。また逢えたってこと。私の頭撫でてくれること。優しく抱きしめてくれること。そういう些細なこと全部が、幸せなんだ」

「本当に、幸せ…?」

「本当だよ。ほんとに本当」

「じゃ、俺のこと…好きだって、ちゃんと、言え、る…?」

「大好きだよ。何十回でも何百回でも言ってあげる」

湊はやっと、安心したように笑った。

「じゃあ……」

舞も笑った。

「まだあるの?」

「今、幸せ、で、俺の、こと、大好きで、いて、くれるなら……」

舞がその後の言葉を遮った。
舞が湊に抱きついて、唇を重ね合わせたからだった。
少し長い間そうして、二人はゆっくりと離れた。

「ありがと、な…。俺の妹、で、いてくれ、て、…よかっ、た。優し、くて、まっすぐ、で…」

舞は静かに頷く。瞳が少し、濡れていた。湊はついと手を伸ばして、右手の指で彼女の涙を拭った。傷だらけの、右手で。

「舞に、…出逢え、て……」

湊の瞼が、力なく閉じていく。

…良かった。

口だけが、そう動いた。一筋の涙が、湊の頬を伝っていた。
舞は彼の涙を、左手で拭った。いつも湊の右手の中にあって、ガラス越しに合わせた、左手。
あの時届いた、左手。
そして舞は両手で、冷たくなっていく湊の右手を包んだ。

その様子を、ドアの隙間から真琴は静かに見ていた。

病院の庭に植えられた、茶色く枯れた向日葵の、最後の花びらが風に吹かれて散った。

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