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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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10ー10
舞が、湊の病室に入ってきた。湊は少しずつ、でも確実に痩せて来ていた。
やせ細っていく湊をみると、舞は言葉にできない、どうしようもなく辛い感情がこみ上げてくるのだ。
舞は、一旦湊に背を向けて、流れ出そうだった涙を必死に拭った。そして振り向いて、意を決して彼に語り始めた。
「湊。よく聞いて…とても話しにくい事なんだけど……湊はね、今…すい臓がんなの。で、救急車で搬送されて来た時点から意外に進行が早くて…実は、もう、ちょっと、助かる見込みが…」
湊は淡々と言った。
「…知ってる」
「え?」
「ちゃんと、自分で判ってるよ。刻限が迫ってるってことは」
舞は、目を見開いてただじっと湊を見つめた。そんな彼女を見て、湊は慌てて笑顔を作る。
「大丈夫だ。俺がいなくたって、舞はもう生きていけるだろう」
「いや、でも……淋しくて、無理かも…しれない。というか、無理でしょう」
「でも遅かれ早かれ、人間は死ぬんだ。死んじゃうんだ。俺がちょっと平均より早過ぎちゃっただけ。…俺だってできたら、もう少し命が欲しかったよ。もっと舞と一緒にいれたら、って思った。だから、離れて過ごした7年間を後悔したんだ。すごく大切な俺の彼女なのに、ちゃんと付き合った年月の方が圧倒的に短かった。十分に舞を護りきれなかったと思ってる。だから今、自分の手で舞を幸せにしたいと思ってるけど、果たしてできてるのか……」
「……」
湊は起き上がろうとした。しかし、力が入らない。仕方なく舞の方に手だけを伸ばして、彼女の手を握った。
「結局俺は、やっぱりカストルだったんだな…」
「えっ、どういう…」
「今はいいよ。じきに分かるさ。…あとはポルックス次第だね」
「私、次第…」
「いいよ、そんな深刻な顔しなくても」
湊は苦笑した。だがすぐに、痛みに呻くような顔になる。
「湊…大丈夫?」
「うん、ごめんな…。俺は…この先、舞が…どんな決断をしようと…カストル、で、あり、続ける」
湊の紡ぐ言葉が、徐々に途切れ途切れになっていく。
早く伝えないと。
心の灯火が微かに揺らめきながら消えていく。