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*2*
0日目「告白というモノをしてみました」
君を見ているだけで胸がどきどきする。
こんなの初めてだ、どうすればいいのか分からない。
***
「わた、私っ……ずっと前から有馬君のことが好きでしたっ!!」
何を口走ってるのだろうか。私は自分の言った言葉をきちんと理解するまで一分ほどかかった。
一分も私が理解するまでに待ってくれていた彼に少々驚きながらも、私は小さく咳払いをする。
事の発端は、ほんの五分前。
今日は本当に幸せだった。
いつもなら面倒くさくて深いため息をつく日直の日。でも、もう一人の日直が私の思いを寄せる少年、有馬君だった。
今朝そのことを知った瞬間、私は奇跡だと思い、心の中で「神様、ありがとう」と何度もつぶやいた。
今日の最後の仕事は数学のノートを集めることだった。私は教室に一人残る有馬君に目を落としながら、全員分のノートを持ち上げる。
はっきり言って重い。居るなら助けてほしい、でも有馬君に助けを乞うなんてできない。私は大きく首を横に振って、教室を出ようとした。
「手伝おうか?」
私の後ろに一人の少年が現れた。もちろんのこと、その少年というのは有馬君だ。小柄な私を上から見下ろしながら、眠たそうな表情で私を見る。
吃驚して、私はノートを落としそうになる。じーっと彼を見つめると、有馬君は不思議そうに
「なに?」
と、尋ねてきた。
吃驚して私は頭が真っ白になる。
好きな人に見られているということは、私にとって初めてのことで、よく言えばいいことだが、悪く言えば何が何だか分からない。
どう答えればいいのだろう。何でもないよって言えばいいのか? でも、そしたら会話が途切れてしまう。せっかくの機会なんだから、もう少し彼と話していたい。
そんな欲張りな私の悪いところが出てきてしまったんだ。
そう、よく言われる「口が滑ってしまった」というやつだ。
「わた、私っ……ずっと前から有馬君のことが好きでしたっ!!」
そして今に至る。
とにかく一分して、私は自分が何を言ったのかを理解する。
ゆっくりと顔をあげると、無表情の有馬君の顔が見えた。
もしかして、いや……やっぱり引かれてしまった?
嫌われたらどうしよう、私なんかに告白されても困るだけなのに……。ぐしゃりと顔がゆがむ。
「あの……、えっと。誰だっけ?」
「あぁ!!……沢渡です。沢渡柚菜ですっ」
クラスメートなんだけどね、と軽く言いたくなったが私はぐっとこらえる。
そんな時、私の身体がすっと軽くなったような気がした。よく見ると、有馬君が何冊かノートを持ってくれているみたいだ。「ありがとう」とお礼の言葉を述べると「別に」とそっけなく返された。
「それで、さ。別にいいよ、俺付き合っても」
「…………はい?」
彼の言葉に、私は目が点になってしまった。
そんなことを言われるなんて思ってもいなかったので、どう答えればいいのか分からない。
「お試しに一週間。嫌なら別れる、多分すぐに沢渡さん俺のこと好きじゃなくなるから」
有馬君はそう言うなり、私の横を通り過ぎ去っていった。
ドクンドクンと胸が高なる、頬が赤まる。
付き合うということは、どういうことだ? すぐに好きじゃなくなるとはどういうことだ?
とある水曜日の夕暮れ、私は手に数学のノートを持ちながら、有馬君の後姿を眺めていた。