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*4*
1日目「君と放課後デートしてみました」
朝です。
私の目の下にはもちろんのこと、真っ黒なクマがあり、鏡を見るなり私は深くため息をついた。
クラスに人気者、有馬君に好意を寄せていた私は勢いついて、彼に告白というモノをしてしまった。
それを聞いた彼は一言、一週間付き合ってみよう。
さて、これはプレイボーイという部類の人が言う言葉じゃないのか? 私は遊ばれているのではないか、そんな風に考えてしまって、昨日一日全然眠れなかった。
「おはよう」
教室に入るとまず目に付くのが、窓際の人だかり。その中心には、私の「彼氏」さんの有馬君がいた。彼はクールであるからなのか、あまり楽しそうな表情を見せない。それでも、人はどんどんと集まっていく。
「有馬ーっ」と隣のクラスから呼ばれたり、女子にきゃーきゃぁされたりと、なんだか忙しそうだ。
授業が始まっても私は有馬君をじーっと見ていた。
彼が冗談を言うようなキャラにも見えないし、騙すようなことをするようにも見えない。
もしかして、昨日お酒を飲んだ勢いでついとか!?
私の告白も勢いだったため、それを否定できないのが悲しいトコロだ。
またため息が漏れた。
あっという間に授業が終わった。
よく言う放課後だ。クラスのみんなが「また明日ー」と言って教室を出ていく。私も鞄に教科書を突っ込み、椅子から立ち上がる。
ちょうど教室から出ようと思ったとき、とんとんと肩を叩かれた。
誰だろう、と簡単な気持ちで後ろを振り返ると、そこには焦ってきたのか、制服を着崩した形の有馬君の姿があった。
「え……どうして?」
「どうしてって、沢渡さん、一緒に帰らないの?」
「……え、ええっ!? 有馬君一緒に帰ってくれるの?」
「え、帰らないの?」
話がかみ合わないまま、私たちは自然と玄関の方に歩き出していた。
今隣に有馬君がいる、ありえないことみたいに見えて、本当のことなんだ。チラリと彼を見てみる。有馬君も丁度こっちを向いたのか、私たちの目が合う。吃驚して私はすぐに目を逸らす。
緊張して声が全く出てこなかった……。
「あの、有馬君の言ってた「すぐに好きじゃなくなる」ってどういうこと?」
私は気になったことを思い切って聞いてみた。
有馬君はボーっとしていたのか、私が言って五秒くらいしてから「あぁ」と声を漏らした。もしかしたら昨日の告白も、こんな感じで受け流されていたのではないか!?
疑問が隠せないが、私はにぃっと笑って見せた。
「すぐに分かると思うよ」
あいまいな答えに私は戸惑ってしまう。すぐに分かるって何時なんだ? 有馬君と付き合っている一週間以内に分かるのだろうか?
空っぽなはずの私の頭でパンクが起こってしまった。
「それよりさ、ちょっと本屋寄りたいんだけどいい?」
玄関を出た後に言われた言葉に、私は大きく頷いた。
***
「うわぁ、珍しい色。これ虹色なんだ」
本屋につくなり有馬君は一言。しばらく一人で回りたいから好きなことしてて、だとさ。確かに本屋は一人で回りたいよ、そんなのみんな一緒だと思う。でも初めての放課後デート? というやつで彼女をほったらかしにするのもいかがなんだろう。それでも私は彼と一緒に帰れる喜びを忘れられず、にやりと口元が緩んでいた。
何もすることが無かったので、本屋の隅にある文具コーナーで私は暇を持て余していた。ペンを見ながらどうでもいいことをつぶやく。
「……暇だ」
正直な感想はこれだった。
有馬君と一緒にいるというのに、何だろうこの距離感。
自然とまた大きなため息が出る。
「ごめん、お待たせ」
「……え。あぁ、よかった。何か買ったの?」
有馬君の声が後ろから聞こえて私は笑顔を作って振り返る。
そこには私の予想を上回るくらいの大きな袋を持った有馬君が立っていた。
「……えっと、何買ったの?」
まず普通の女の子なら驚くだろう。驚いても仕方がないだろう。
袋は多分有馬君がこの本屋で買った本たちだ。普通本を二、三冊買ってもこんな袋の大きさにはならない。さて、この人は何冊本を買ったのだ?
疑問が隠せず、私は勇気を出して聞いてみた。
「見てみる?」
「……え、いいの?」
「別に。大したものじゃないし」
有馬君の言葉に甘えて私は袋を覗かせてもらう。
見るために近づくと、なぜかドクンドクンと脈が速くなった。
どうしたんだろう、私。
落ちつかせるように私は大きく深呼吸をする。
「…………えっと」
中身を見せてもらった瞬間、私は声が出なくなってしまった。呆気にとられてしまったというのが正しいだろうか。
中には本が十冊以上。ロボットの絵がかいてあるマンガとか、最近アニメ化したとか言われているマンガとか、ライトノベルというやつなのだろうか……可愛らしい表紙の本とか。
有馬君からはイメージできないものがいっぱい出てきた。
「そうだ、日曜日さ。ライブに行く予定だったんだけど、よかったら一緒に行く?」
「……ライブ? 私なんかが一緒に行っていいの」
「もちろん。チケットもどうせ二枚あったし、使ってもらえると嬉しい」
これはデートのお誘いというやつなのだろうか。
私は嬉しすぎてにやけた顔を有馬君から隠すように、目を逸らした。
そんな嬉しい木曜日だった。
いや、この時気づくべきだった。
有馬君がたくさんヒントをくれていて、私もなんとなくは勘付いていたのだ。勘付いてなお、私は気づかないふりをしていたのかもしれない。
理由は簡単だ。信じたかったんだ……有馬君が「 」じゃないことを。