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*2*
一話 古典的な出逢いかたをしました
――ただいま、八時二十分。
「遅刻遅刻〜〜〜!」
わたし、蜂田心優は遅刻寸前になっていました。
前日にゲームしていて寝たのが二十三時になったのがいけないのか。
それとも、準備に時間がかかりすぎて説教されたのがいけないのか。
どちらにしても。
「大遅刻だよ〜!!」
冷や汗を浮かべて、曲がり角を曲がったそのとき。
――ドンッ!!
「いたあっ!!」
「――う、あたた……」
誰かとぶつかって、わたしは尻餅をついてしまう。
なんだろ、古典的すぎて頭が働かないよ!
そう心の中でツッコミしながら、わたしはゆっくりと上を見上げる。
――そこには、爽やかなイケメンさんがいた。
「わあ……」
水髪黒眼。その髪はさらさらと風に揺れていて、瞳は黒色なのに宝石のよう。
誰だろう――?
「大丈夫?」
――あっ!
「だ、大丈夫! わたたっ、わたしの名前は蜂田心優と言いまそ……あうっ」
急いで立ち上がり自己紹介を始めたわたしだけど、勢いで舌を思いきり噛んでしまった。
「……」
「あう……」
「面白いですね。俺の名前は爽太。桜井爽太っていいます」
「……! 蜂田! 蜂田心優!」
「それ聞いたよ? 本当面白い人だなあ……」
クスクスと笑うイケメン――爽太くんは、急に真顔になると告げた。
「それより……俺ら二人とも、もう完全に遅刻なんだけど」
――キーンコーンカーンコーン……。
「「…………」」
「あぁあああああああぁぁあああああっ!!!」
重大な事実に気づき、わたしは叫び声を空に轟かせた。
――だらしない!!!
あのあと思いきり叱られたわたしと爽太くんは、なぜか生徒会室に来るように言われた。
――なぜかじゃないね。きっと、生徒会長さんに怒られるんだ……。
「……どうぞ。開いてるよ、お嬢さん、お坊ちゃん」
「――えっ。あ、はい! し、失礼します!」
「失礼します、生徒会長――」
生徒会室に入って、爽太くんはキッと目の前にいた男性を見つめる。
そして、言った。
「結城真白先輩」
「……えっ、えっ! あ、こんにちはっ!」
「こんにちは。蜂田心優に桜井爽太……だよな。入学式早々遅刻なんて、肝が据わってるなあ」
「肝なんて据わってません。……なんの用ですか?」
少し挑戦的な態度をとる爽太くん。
そんな彼を結城先輩は見つめ、ニコリと微笑んだ。
「いや、面白いと思ってさ――」
「面白い……?」
「こいつがね」
「こいつ?」
頷いた結城先輩の後ろにいたのは――明らかに結城先輩よりも小さい背の男の子だった。
「な、聖!」
「あ……『いつもキミのハートを狙い撃ち』って言ってた人…………木ノ下聖くん!」
「うん、そだよ! ボクが木之下聖!」
「はあ……」
放課後、帰り道にて。
わたしは少し二人と喋ったあと、爽太くんと別れ、家までの帰り道を一人寂しく歩いていた。
「……散々な一日だったなあ……」
――ぽんっ。
溜息を吐いたわたしの肩に、一つ小さな手が置かれる。
「ひゃっ!? ……鈴くん!」
「こんにちは、心優お姉ちゃん」
――茅根鈴くん。可愛らしい名前とは裏腹に、立派な男の子である男の子。あれ、男の子って二回言った……。
「どうしたの?」
「心優お姉ちゃんが溜息吐いてたから……どうかしたのかなって」
「あ、別になんでもないよー。いろんなことがあったなあって思って」
「……いろんな? ねえ、心優お姉ちゃん、聞かせてその話!」
「……うん、よしきた!」
目をキラキラ輝かせる鈴くんへ、わたしは語る。
――今日は、古典的な出逢いかたをしました――。