完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*4*
つまらない日が続くんだろうなぁ…。
始業式中もぼうっとそんなことを頭の中で呟いていた。
辛くて。疲れがますますたまって、毎日を適当に過ごしたくなってきた。
そんな中、始業二日目の、世にも恐ろしい新担任との面談がやってきた。
九石のように勉強とか何でもよくできるやつには心配なんていらないだろう。けれど、私は数学以外全部赤点の、授業を全く理解していない人間だ。心配する、しないではない。それ以上の話だ。
「飴野夜さん、やっぱり特待だけあって、数学は素晴らしいんだけどねぇ…」
目の前に座る木川先生の口から出たのはやはり成績の話だった。
「ありがとうございます…」
「うん、でもね、他の科目なのよ。これ、中2の頃の期末テストの点数表、貴方の何だけど」
う、と私は目をそらす。国語21点、歴史30点、地理29点、幾何100点、代数100点、英語19点、理科二分野18点、理科一分野29点…。
数学を除けば最高点が30点と言うとても悲しい点数が申し訳なさそうに並んでいた。
「…正直、授業は分かってる?」
「いえ……あんまり……」
木川先生は深くため息をついた。いや、本当にすみません。
「予習、復習やったり、友達に教えて貰ったりしなさい。このまんまだと退学の可能性も否定できないから。」
「たたた退学!?」
「私自身、新年度からこんなこと言いたくないの。けど、飴野夜さんの成績はあまりにも、ね…。授業についていけないようなら、授業受ける意味も無くなっちゃうわけだし。」
「えぇぇぇぇ…そうなんですか…」
「だから努力しなさい。飴野夜さんならきっと大丈夫よ。」
はぁ、と疲れた顔で返事をして私は面談室を後にしようとした。
「あ、そうだ。飴野夜さん、全然関係ないんだけど、こういうのがあるの。…行ってみない?」
先生の手から渡されたものは「GWmathセミナー」と言うものだった。某有名T大の教授をはじめ、様々な人を講師として招いて、5日間数学漬けの日を送るというセミナー。講義内容も学校でやるような簡単なものではなく、大学の講義レベルのもので、面白そうではあった。
が。
「…やめときます。また女子一人とかだったら悲しいので。」
以前に何か数学の講習会に出向いたら、参加者が自分以外全員男子と言う肩身の狭い思いをしたことがある。
加えてこのセミナーは5日間連続。あの思いが5日間続くのには、いくら私でも無理。
「いえ、毎年数人だけど、女の子も参加しているらしいの。あと、余談だけど九石君も参加するらしくt」
「行きますっ!」
ライバルに後れを取る訳にはいかない。そんな気持ちがセンターラインに立った。
「そ、そう。じゃぁ、申込用紙、これね。明後日までに私にちょうだい。」
「分かりました!ありがとうございます!」
前半の話はあまり良くなかったが、後半は良かった。今度こそあいつを追い抜いてやる。
「負けるもんか!」
面談室から出て廊下に立った私はそう叫んでやった。
「何に負けないって?」
ひょい、と廊下の角から現れたのはなぜかの九石。
――てか、最近こいつ色々タイミングよすぎだろ。
「何であんたがここに居るわけよ」
「面談お前の次だから」
淡々と答える九石。じゃぁ、面談いってくる、と手を振る九石に私はもう一度叫んだ。
「負けないから!」
ゆっくりと振り返った九石に対し、私は宣言を続ける。
「数学、負けないから!今度のセミナーで勝って見せるから!」
そして、もう一声張り上げる。
「あんたが…あんたが100年に一度の天才なら、私は100万年に一度の天才になって見せる。絶対負けないから!」
西日がオレンジ色に差し込む夕方の廊下。オレンジ色の明るい光に照らされ、それは形だけであっても青春を演出しているように感じられた。
「心に留めておくよ」
ふっと笑った九石。私のライバル。そんなあいつも明るく照らされて、輝いていた。
「じゃぁな、俺、遅れるとまずいから」
手を振って面談室に駆け込んでいく九石。
なんだか、痛々しい宣言しちゃったな。少しクサかったかも。
でも、きっと。
私はそれでいいんだ。それが私の心の内なんだ。
そして、私はきっと、きっと、心のうちを明かせるようなそんなあいつが――
きっと――。
GWが待ち遠しかった。あと1か月近くある。