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空【完結】
作者: 冬野悠乃 ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: 短編 複雑・ファジー 複ファ 
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*2*

「あら、実里。おかえりなさい」
 ただいま。
 その言葉は口からでず、わたしへの挨拶を無視して、わたしは自分の部屋へと向かう。
 ああ、手に持っているバッグが重い。教科書とかがたくさん入っている、というのもあるのだろうが――日常が少し非日常になったせいもあるのだろう。
「重い……全部、あの人のせいだ」
 どこか誰かさんに似た男性。日本という国に合わない、執事のような恰好をした二十代後半ぐらいの男性。
 あの人の口調に、質問に、行動に――惑わされて。
 いつも重いバッグが重い。これも、あとから起きることも全部、あいつのせいだ。


 今日の宿題はなんだっけ。
 そう呟きながら、わたしはなんとなく手に取った数学の教科書を見つめる。
 数学はだされてなかったはず。
 社会は……確か、歴史にでてくる有名な人物を調べろ、とかそのあたりか。
 誰を調べよう。ああそうだ、理科のプリントもあったんだ。
「新撰組とか、そのあたりでいいかな。早く調べて理科もやらないと……」

 ――あらぁ、乃愛! 絵、上手ね!
 ――うん、のあ、ちょおず!
 ――ハハッ。本当だなあ――。

 ――聞きたくない。
 聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない……っ!
 本能的に両耳を塞ぎ、わたしはぼうっと開いたばかりのウェブページを見つめた。
 とにかく今は、無心でいたい。嫉妬せずにはいられないから。
 ――わたしには、妹がいる。乃愛という外国の子みたいな名前の妹が。
 この家は、一言で表すなら典型的、といったところか。妹ばかりに目をやって、姉のわたしにはもう、愛は注がない。
 よくある展開だけれど、それがたまらなく嫌なのだ。
 わたしは今日も心を冷ます。ひどい夢――またの名を現実――から覚めないように。
 今日も寂しく、一人で、宿題を――。

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