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*2*
「あら、実里。おかえりなさい」
ただいま。
その言葉は口からでず、わたしへの挨拶を無視して、わたしは自分の部屋へと向かう。
ああ、手に持っているバッグが重い。教科書とかがたくさん入っている、というのもあるのだろうが――日常が少し非日常になったせいもあるのだろう。
「重い……全部、あの人のせいだ」
どこか誰かさんに似た男性。日本という国に合わない、執事のような恰好をした二十代後半ぐらいの男性。
あの人の口調に、質問に、行動に――惑わされて。
いつも重いバッグが重い。これも、あとから起きることも全部、あいつのせいだ。
今日の宿題はなんだっけ。
そう呟きながら、わたしはなんとなく手に取った数学の教科書を見つめる。
数学はだされてなかったはず。
社会は……確か、歴史にでてくる有名な人物を調べろ、とかそのあたりか。
誰を調べよう。ああそうだ、理科のプリントもあったんだ。
「新撰組とか、そのあたりでいいかな。早く調べて理科もやらないと……」
――あらぁ、乃愛! 絵、上手ね!
――うん、のあ、ちょおず!
――ハハッ。本当だなあ――。
――聞きたくない。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない……っ!
本能的に両耳を塞ぎ、わたしはぼうっと開いたばかりのウェブページを見つめた。
とにかく今は、無心でいたい。嫉妬せずにはいられないから。
――わたしには、妹がいる。乃愛という外国の子みたいな名前の妹が。
この家は、一言で表すなら典型的、といったところか。妹ばかりに目をやって、姉のわたしにはもう、愛は注がない。
よくある展開だけれど、それがたまらなく嫌なのだ。
わたしは今日も心を冷ます。ひどい夢――またの名を現実――から覚めないように。
今日も寂しく、一人で、宿題を――。
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