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*3*
「こんにちは、みのちゃん!」
この声は、香織?
そう思いながら、わたしは静かに顔を上げた。――当たった、香織だ。
香織はわたしが懐いた、たった一人の親友。他にも友達はいるけれど、なんでも話せるのは、きっと香織だけだと思う。
香織の素敵なところは笑顔。それはまるで向日葵のように明るい――。
――わたしとはまるで違う。
そう思って、その思いを無理矢理消した。ダメダメ、ポジティブシンキング。前向きに考えるのが一番だ。
それも、香織から教えてもらったことだった。
「ねえ、みのちゃん。宿題やった?」
「もちろん。理化のプリントさ、最後ちょっとムズかったよね。挫けそうになったよ」
「ええー、それぐらいで? でも確かにあれはムズかったよね!」
アハハと笑う香織には、言えない。
挫けそうになったのは、乃愛のせいだってことは、とても。
幼い妹に嫉妬して、涙するわたしに腹が立った。
なぜか、とても。腹が立った。
「今日も綺麗な曇り空だね!」
今日はとても大きな声で、彼は言った。
そうですね、と小声で同意する。綺麗なのかはわからないが、確かに今日も曇り空だったから。
同意はしたけれど、もう関わりたくない。わたしはまた、スタスタと――。
「待って、お嬢さん」
去ろうとしたのに――わたしは「なんで引き留めるの」という思いをそのまま表した顔を、彼に向けた。
「お嬢さんは、毎日空を見てるね」
「ええ、見てます。ここずっと、生憎の曇りですけど」
「空は綺麗だよね」
「当たり前のことです」
「……空を突然見れなくなるのって、嫌なことだよね」
嫌なこと? それが?
わたしはそう言いたくなった。どうして、そんなことが。
悲しそうな瞳を向ける彼に、問う。
――どうして、そんなことが嫌なことなのですか?
「僕は、同時にね――家族を見れなくなるのが嫌だった。せめて空を、あの綺麗な青空を、妻と出逢った、あの、渡り鳥たちがのんびりと飛行し、カーニバルで、色とりどりの風船がふわふわと飛んでいく……あの空を見たかった」
「見れるでしょう、今、頑張れば。動けるでしょう? それとも極度の面倒臭がりですか?」
「いいや、どれも違う。僕は存在してはいるけれど、確かに動けないんだよ」
「変なの。どうかしてる」
やっぱり関わるのはよそう。
スタスタと去っていく、そのわたしの背中を。
寂しそうに見つめていたのがわからなかった。