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繰り返される永遠の物語〜魔法界編〜
作者: 夕月カレン  (総ページ数: 27ページ)
関連タグ: ファジー  王国 
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10~ 20~

*12*

****************美嘉

シェルターには射撃している音がずっと響いていた。
眠ろうにも、その音が怖くて、眠れなかった。
・・・こんなにも恐怖を感じたのは、あの日いらいだろう。

『・・・美嘉をよろしくお願いします』

『ええ・・・。はい。わかりました。美嘉ちゃん、今日からよろしくね』

『・・・はい。叔母さん』

母さんは私を、五歳の時に捨てた。
母さんはわたしを嫌がっていたのはしっていた。
それから、知り合いの叔母さんの家にわたしを養子として預けた。いや、捨てた。
五歳でもちゃんとわかっていた。

『美嘉ちゃん。安心していいのよ。叔母さんが良くしてあげるから』

母さんはわたしを捨てたって。
もう、要らないんだって。
最初からいらない物、だったけれど。

『そういう事だから。
イイコにするのよ、美嘉ーーーーーーわかった?』

あんたに言われなくてもわかってた。
イイコしなきゃ愛してくれないって事は。
愛情を捨てたわたしにたった一人、カオルくんだけは優しくしてくれた。愛情をくれた。
うれしくてうれしくて。
カオルくんに不思議な感情をいだいた。
恋愛感情とは別物の、なにかを。

『美嘉。僕は神無月葵。君に会えて良かった。君がいてくれて良かった。』

こんな言葉をかけてくれたのはカオルくんだけだった。
叔母さんも母さんもなにも言ってくれなかった。
ただただ、イイコにしろって。
何でも良かった。
変える場所が欲しかったから。

「美嘉?どうかした?」

「えっ・・・、ああ。ううん。ごめん。全然何でもいいから。えへへ。ごめん・・・」

「何かあるなら話して。いつでも、聞くから。」

カオルくんはそう言ってイヤホンを耳につける。
ーーーまた、聴いてるーーー。

「なんで・・・いつも音楽を・・・?」

わたしはすっとイヤホンを取り、わたしの耳につける。
そっと肩をつけた。
カオルくんはゆっくり目を開けた。

「逃げているんだ。嫌な世界を消すために。僕の知りたくない音を聴かないためにーーー逃げてるだけの、僕は偽善者だから」

「ちがうよ・・・」

わたしは急に涙が溢れる。
何でかはわからなかった。
ただただ、涙が溢れる。

「ちがうよ・・・逃げてないよ・・・偽善者なんかじゃない・・・。わたしは!知ってるから・・・」

「・・・うん、ありがとう・・・やっぱり・・・」

私の声がきみに届くように。
心に届くように。

「君に会えて良かった。君がいてくれて良かった。」

わたしにはそんな優しい声と、ピアノの物静かな曲が響いていた。


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