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*2*
謝ったところで、皆は、ぼくを許してくれないだろう。
当たり前だ。
ぼくは一度、遠足のときに彼らの乗るバスに魔法をかけて、転落させようとした。
大好きなみんなの命を奪おうとした――思い出という名のペットにするために。
黒鳥さんとぼく以外、五年一組の生徒でこのことを知る人はいない。
ギュービットが忘却魔法をかけたから、皆あの出来事は覚えていない。
けれども、もし何かの拍子で記憶が戻り――黒鳥さんが真実を告げたなら、恐らく全員が全員、冗談だと笑うだろう。
だけど、もしも彼女の話を無条件で信じたら。
ぼくは、失う。
大切な、仲間を。
自分自身の信頼を。
生涯回復することができないほど、深い溝を作るだろう。
それこそ、魔法でも修復不可能な溝を。
誰も口を利いてくれないかもしれない。
苛められるかもしれない。
大好きな皆から、いじめを受ける恐怖。
想像するだけで、血の気が引いていく。
目の前が、真っ暗になる。
幼稚園の年長さんだったころ、ぼくは乱暴な男の子にミニカーを奪われた。大切なものを奪われたとき、とても悲しかった。
それと同時に、強い怒りに飲み込まれている自分が、確かにいたんだ。
あのとき、「またパパとママにねだれば買ってもらえる」と考えていたら、ぼくはあんごるもあの誘いに乗ることはなく、黒魔法を知らずに成長したかもしれない。
過去、現在、未来を自由に行き来できる魔法があるのなら、ぼくは全ての魔力を失ってでも、あの瞬間に戻りたい。そして、自らの過ちを食い止めたい。
けれど、それは不可能な話だ。
冷や汗でびっしょり濡れたパジャマを脱いで別の服に着替え、再びベッドに入る。
「おやすみ、だねぇ」
「いい夢を、だねぇ」
自分を落ち着かせるために、ひとりごとを呟いて、ゆっくりとまぶたを閉じた。
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