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現実と異世界と (ポケモン二次創作)★短編★〜完結しました〜
作者: cinnamon  (総ページ数: 5ページ)
関連タグ: 短編(SS) ポケモン オリキャラ 二次創作 
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*3*

ヒメノside

「トウヤー!来たよー?」

毎日一日練が普通という我がテニス部が、本日、土曜日という名の休日第一日目なのにも関わらず、奇跡的に部停になった。そんな奇跡を前にして、家でじっとしている訳がない。
ということで、私は、自転車で十分ほどの幼なじみの家に押しかけているのだ。

やや間があってから、幼なじみが顔を出した。いつもスプレーやらアイロンやらをしている女子が恨むほどの天然サラサラ髪は、ボッサボサでもはやホームレスレベル。

「…まだ寝てた?」
「今起きてる」
「うん、起きてなかったら怖いよ?」
「とりあえず入れば」

相変わらず素っ気ないなぁー。
幼稚園からのつきあいだからなのか、良くも悪くも、彼は私に遠慮しない。

授業中、体育で力とテンションを使い果たした私が苦手な数学で爆睡していたのも、教師には包み隠さず話す上に、無駄に分厚いノートで空手チョップをお見舞いされるのにはもう慣れてしまった。

あぁ、そう考えると、慣れって怖い。何て怖いんだ。

「その顔。また何か考えてんな」
「いーやー。良くも悪くも、貴方は私に遠慮しないなーってね」
「え、何。今更遠慮なんかしなくて良いだろ?」
「……同感デス」

確かに、今更お互い他人行儀に接していては、お互いの気が持たない。
最近になって、トウヤがやけに意地悪に感じることが多い以外は、殆ど幼稚園の頃から関係が変わっていないのだからな。

「で、今日は何?やっぱポケモン?」
「せーかい!」

毎回トウヤの家に来る際には、勉強を教えてもらう、という建前で来るのだが、最近はそんなものはもう崩壊し、ただゲームをするだけになってきている。

でもトウヤがそれを注意することもないため、私もこうして遠慮なく上がり込んでいる訳だ。
まぁ、私以上にゲーム好きなトウヤが、ゲームを否定することなど、百年に一度の大地震並みに無いことだが。


「そういえば、お前、ゲームは良いけど宿題は?」
「…」

前言撤回。
今日は百年に一度の大地震が起こる!!

「えっと、今それ聞く?」
「まだギリギリスタートしてないから聞いたんだけど?」
「うっわ、そういう事言っちゃいます?トウヤの意地悪」
「何とでも言えばー。で、宿題は?」
「やってる訳ないじゃん」
「即答かよ」


部停という天国を、宿題、しかも数学で潰されてたまるか。
吹き出したトウヤを前に、思わず喉の奥までそんな言葉が出かかったものの、何とか飲み込んだ。
そんな事を言えば、私が部活で上手く行っていないのだと心配されて、よりゲームが遠のくだけだと私は知っている。

トウヤは意地悪でもあるが、実はこれが意外と優しいのだ。

出会った当初こそ、その優しさから起こる大胆な行動に戸惑うことも多かったが、どんなに断ってもトウヤが頑固すぎると分かってからは、その気持ちごとありがたく受け取ることにしていた。


うぅ…真横の愛機からは、現実のどんな男子よりも格好いいポケモンが映っているのが見える。
それなのに、ゲームが出来ないこのもどかしさと言ったら、くしゃみが出そうだけど出ないような時くらいだ。

「ゲームしたい…」
「っ!?いやいやいやいや!それ私の本心だからね?!」
「いや俺もだし」
「じゃ何で宿題の話題出した訳!?」
「えー…出来てないだろうと思ったから」
「いいよ、これくらい私一人の力でっ」
「なら俺、ゲームしたい」
「…ヤッパリオシエテクダサーイ」


またもや苦笑が返ってきて、私の手元に腕が伸びてくる。
そして、つまみ上げられた真っ白なプリントを見て、またまた完璧に私を馬鹿にした苦笑が返ってくる。
私はあまりにも決まり悪くて、さっと視線を外す。

最近よくあることだけど、やけにトウヤの苦笑が大人っぽく見える。
まぁこんな事、本人には死んでも言えないが。

こうして、私のプリントと休日は、あっという間に終わってしまった。
また明日からは部活だぞ、と気合いを入れて、帰る支度をしていた私は、この後の異常事態を想像していなかった。



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