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*4*
「…だから、もういいって!」
「今日はいつもより暗いからなー」
パターン?、アウト。
「いやでも、もうあと家まで15分くらいだし…」
「その15分で事故とか起きたらどうする?」
パターン?、続けてアウト。
「いやいや、そんなの滅多に起きないから!」
「どうせ家帰っても暇だしー」
パターン?、またまたアウト。
「このアホゥ!暇な時にはゲームだゲーム!ポケモンの世界に浸るのだぁ!」
「あ、信号変わった」
パターン?、あっけなくアウト。
手持ちパターン、終了…
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
さっきからずっと、トウヤのボディーガードから逃れようとするものの。
私の4パターンは全てことごとく打ち破られ、結局また家まで送ってもらうはめに。
今日はいつも帰る時間よりも約10分ほど出るのが遅くなった…までは別に大した問題はないが、問題はそこで日が完全に暮れてしまったことだ。
頼みの綱のMY自転車は、こんな時に限ってパンク。おい自転車、空気読んでくれ、頼む…
「自転車パンクして、重い自転車をズルズル引きずりながら歩いてる=とっさの身動きが取りづらい。こんな状態だと変質者の思うままになるぞ?」
「お気持ちは嬉しいんですけど、言い方怖いです」
あと変質者の思うままとか何だ。
お前は変質者の気持ちでも分かるのか?
あと、確かに自転車は重いが、引きずってはない。
家出た後まず始めに、自転車は重いからっていってから、そっからずっとあんたが持ってくれてるでしょうが。
…これこそ、トウヤの優しいモード。
いや、正式名称【優しすぎて地味に恐いモード】。
普通の女子ならキュンとでもするのかもしれないけど、私に至ってはそんなもの全くしない。
そんなキュンなら、とっくにポケモン達にさせられまくっている。
「…」
「…?」
急に首を傾げて立ち止まるトウヤに合わせて、私も立ち止まる。
一応言っておくが、首を傾げるところまでは真似してない。
「どうしたの?」
「…なんだ、あれ」
「え、あれってどれ…あ。あれ?」
私たちの目の前にあった街灯の下が、暗い。
いや、周りも十分暗いんだけど、何かそこだけが、もっと濃い黒色をしてる。
まるでそこだけ、墨汁が流し込まれたように、格段に黒い。
「…何で?」
こんな現象、もちろん生まれて初めて見た。
それどころか、日本や世界でもこんな事が過去に起こっているのかどうか…いや、絶対ないな。
と、思いきや。
バチバチバチバチッ!!
「え!?な、なに!?」
「何か出てくるぞ!」
すごい音を立てながら、紫色の激しい火花みたいな光が暗闇のあちこちに飛び散り出した。
何これ!?って光が出ているからには、普通は街灯の電気関係のトラブルなんだろう…って思ったけど、よく見れば確かに、何かが暗闇と火花の中、何かがゆっくりと体を見せだした。
でも、こんな火花の中を進める=出てくるものは人間ではないに違いない。
そして…
ズゥン!!
「っっ!っわ!?」
「ヒメノ!」
すごい衝撃波が伝わってきた。
あやうくふっとばされそうになるところを、トウヤに腕を掴んでもらって助かった。
…っていうか、トウヤは何故そんなに力を入れて立っていられるのか…?
そんなことを一瞬考えたけど、その隙にまた衝撃波が来る。
ズゥゥン!!
「っ!ちょっ、トウヤ!こんなの耐えられる!?」
「俺は…別に大したことは…ない…!それに、今動こうにも、次にいつ衝撃波が来るか分からないからな…っ!」
いやいや、大したことあるからね、それ!
自分で踏ん張るのも精一杯…というよりもはや不可能だった私を、腕で支えながら、トウヤは必死に踏ん張る。
正直、トウヤの握力で腕がどうにかなりそうなくらい痛いが、今そんなことを言っていたら命はない。
(命はない、は大げさかもしれないけど、今の私はそのくらいピンチな心境なのである)
それからはトウヤの言った通り、不定期に衝撃波が襲ってきた。
今動いていたらどうなるか、この私の低脳でも分かる。まぁおそらく、この周辺に私はいないだろうな。
もうどれくらいこのままなのか、時間と身体の感覚が薄れてきた頃。
ついに、衝撃波は止まった。
「…もう大丈夫か」
トウヤはそこでようやく足を動かしてくれた。
そこで私の腕を離そうとしないのは、警戒心が強い上に割と心配性なトウヤの性格らしい。
ただ、後から思えばここで腕を掴まれていることに少しの嬉しさを感じた自分は、衝撃波の疲れでどうにかなっていたと思う。(勿論精神的な意味で)
そして、それからトウヤに引っ張られるままに私達がこの場を立ち去ろうと背中を向けた瞬間。
ドン!ドン!
何か、大きな生物の足音が聞こえた。そしてこの瞬間、私はようやくあの暗闇から衝撃波が来る前、何かの身体が見えていたことを思い出す。
ただ私はもう、この衝撃波に続いて不思議な出来事をくらうのに嫌気がさしていた事もあって、すぐには振り返らなかった。しかし、何事かと先に後ろを見ていたトウヤは、そこから全く動こうとしない。
「…何、トウヤ。何がそこにいるの」
「……なぁヒメノ。俺ついにおかしくなった」
「どうした」
「……目の前に『ポケモン』がいる」
「はぁ?何故にポケモン?そりゃいたら天国だけどさ?やめてよ、もうこれ以上、変なことに巻き込まれるの嫌なんだけど」
「じゃあ俺は今、お前の天国を見てるんだな」
「いやいやいやいや!!私の天国なんて、あんたなんかに見れるようなもんじゃ…」
ないって言うはずだった。
実際、ここで振り向いてしまった自分を本当にバカだと思った。
そしたら、見ずに済んだのに。
「ギァア!!」
この世のどんな生物の声にも似てない声。
何かのゲームのドラゴンにありそうな、銀色に輝く身体には、これまた綺麗な紫の線が混じっている。
この『伝説のポケモン』に、今まで私はどれだけキュンキュンさせられたのだろう。
「………
パルキア?」
異世界と現実は、こうして繋がった__
これからの私達のお話は、またいつか。
本当にこの事実が笑って話せるような、そんな風になれる、その日まで。