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作者: シロマルJr. (総ページ数: 4ページ)
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1.「空気」とは?
7月15日 水曜日
突然だけど、「空気」についてどう思う?私は凄く良いものだと思う。
そういえば、プロローグで自己紹介がまだだった気がする。メンドくさいけど一応やっとくか。
私は未空マナミ。どこにでもいる普通の高校生。
プロローグで話したと思うけど、私はメンドくさい事が嫌いだ。厄介な事に巻込まれたく無い。だから私は学校でも、決して目立たない、まさに「空気」のような存在を理想としている。
空気は、私達生き物の周りにいつも存在している。でも、誰にも気付かれる事は無い。見られることはもちろん無い。
だけど、無いと困る。生き物は空気が無いと生きていけない。私達はいちいち肺から酸素を取り入れて、二酸化炭素を吐き出す、なんて意識してやんないでしょ?ごく自然に行っている事なんだから。
そろそろ私が何を言おうとしてるのか分かったかな?そう、私が理想としてるのはまさにそのような存在だ。クラスで普通に過ごし、かつ絶対目立たないことこそが、私の理想なのだ。
ほら、話してたら学校に着いちゃった。
私が通っているのはここ、私立樹海高校。この辺ではそこそこ有名な進学校だ。ここはなんと、中学校も一緒にあって、高校受験がないんだ。さらに制服も無い。なんて良い事だろう。
私のクラスは1年B組。私は真っ直ぐ自分の席に向かった。もちろん挨拶なんてしない。空気はそんなことしないしね。
実はここまでくるだけでも相当苦労している。運が良ければ、このまま誰にも話しかけられずに、HRの時間に突入する。運が悪ければーー
「よお未空、今日も早いな!」
ーーこうなる。
話しかけてきたのは、クラス一のお調子者、星茂流だ。髪を茶髪に染めて、その髪を逆立てている。しかも隣の席。こんなバカと授業を受けるなんて、メンドくさい事この上無い。
そのバカというと、一緒に登校してきたと思われる仲間達とワイワイ騒ぎあっている。まるで、ずっとミンミン鳴いてうっとうしいセミのようだ。
ーーうるさいなぁ。その元気を勉強にも活かしたらどうなんだよ。
本気でそう思った。もちろん口にはしない。口にしたところで、超超メンドくさい事に巻き込まれるのは目に見えている。
「未空ー」
別の声が聞こえてきた。この声は・・・
「こないだの科学のプリント、提出日今日までに変更になったから、やっておいてな。まぁ、真面目なお前なら心配無いと思うけど、よろしくな!」
そう思うなら、わざわざ話しかけてこないで頂きたい。
ちなみに今のメガネの生徒は、1年B組の学級委員、吉丸澪也だ。学級委員だけあって、なかなか頼りになる。さらにルックスも良く、クラスの人気者だ。おまけに何でもそつなくこなす、まさに非の打ち所がない男である。私はどうも、彼のあの態度に、何か裏があるんじゃないかと思われるのだが。
その後、一人で小説でも読んでいると、
「みんなおはよう、HR始めるから席ついてー。」
教室に50代くらいの男性が入ってきた。担任教師の森山だ。
森山は、いかにも眠そうな顔で、ある話を持ちかけた。
「えー・・・、昨日ニュースで見たと思うが、この近くの広場で高校生が暴行を加えていたと、話がありました。ここの生徒では無いと信じたいですが、みんなくれぐれも注意するように。」
ニュース?ああ、そういえばやってたなあ。思い切り聞き流してたけど。
森山がその話を持ちかけた途端、いつもセミのようにうるさい茂流が、バツが悪そうにうつむいていたのを、私は見逃さなかった。
ーー何かあったのだろうか?
まさかとは思ったが、私には関係無い話だろう。それ以上考えないようにした。
「はいはい、授業始まるぞ。準備しろよー。」
森山の声が教室に響いた。とりあえずは、授業に集中する事にした。
なんだかんだあって、帰りのHRが終わった。この日は幸い、特に問題は起こらなかった。隣のバカがうるさいと思った事はあったけども。
私は屋上に向かっていた。最近はこの場所で、グラウンドにいる野球部やらサッカー部やらを見物しながら、のんびり音楽でも聴くのがお気に入りだ。
ちなみに今聴いているのは4人組女性バンド「クローバーメイズ」の『私のdream』という曲だ。この深い歌詞と響くようなメロディーが、私は好きだった。
曲が止まり、屋上の手すりから離れた時、
「あれ、マナミちゃんじゃん。何やってんの?」
背後から声が聞こえた。落ち着いた声から、持ち主はすぐに分かった。
早乙女凛花。藍色の髪とポニーテールが特徴。副学級委員で正義感が強く、やはりクラスの人気者。
だが、彼女と話すのだけは、いつも不思議と嫌な気はしない。なぜなら、
「あ!これってクロメイじゃん。マナミちゃんもこれ好きなの!?」
凛花が私のスマホの画面を見て言う。イヤホンを外し、彼女の話に耳を傾ける。
「あ、うん・・・。最近聞いたんだけどね・・・」
そう、私達はお互い共通の趣味がある。クロメイとは、先ほどの「クローバーメイズ」の略称である。それから凛花とは気が合い、私の唯一の友達のような関係になっていた。私をこの小説の中で初めて喋らせるんだから、大したものだ。
「私もよくここで聴いてたな〜。」
私達は、それから10分程、クロメイの話で盛り上がっていた。
「やば!もうこんな時間!?私もう弟達の迎えに行かないと!じゃ、じゃあねマナミちゃん、また明日!」
「うん、また明日。」
もう少し話していたかったが、彼女も忙しいのだろう、急いで帰っていった。
ーー私も帰ろ。
そう思って、階段から下の階に向かおうとしたその時、
コンッ
頭に何か小さな物体が当たったような音がした。その小さな物体は、私の足元を転がり、屋上の入り口でピタリと止まった。そして、
「やあ、元気?」
・・・喋った。
目の前の、そら豆が少し大きくしたなったような生物が、私の前で。
ーー何が起きている?
突然頭がくらっとした。それからのことは、私は全く覚えていなかった。