完結小説図書館
<< 小説一覧に戻る
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*5*
* 5話
今、僕の見上げる空もあの日の空のように澄み渡っている。ただ、隣に星が居ないだけ。
あの日星は冗談だ、と言った。でも、それは冗談じゃなかった。
出て行った家は、取り壊されて、新しい家ができた。新婚の夫婦がすぐに引っ越してきて、挨拶をされた。円満な新婚生活をしているようで、赤ちゃんの泣く声が夜に聞こえたりする。
星の消息は分からぬまま、ぽっかりと空いた隙間に触れないように過ごしていると、電話が鳴った。母さんが出て、いつもは穏やかな声が荒く、焦ったようになった。そして告げられた。
『意識不明で病院に入院した』と――。
意識不明の状態は続いていたが、半年ほど経って、目を覚ました。奇跡的な回復だと医師は言っていた。目を覚ました星に、母さんと父さんは泣いて怒った。そして、抱きしめた。
僕は、涙も怒りの言葉も、出なかった。ただ、おかえり、とつぶやいた。
そして、今に至る。
昔はそりゃあ大変だった。捜索届を出したが、一向に見つからない。母さんはノイローゼ気味になり、父さんはやつれた。僕たちを照らす恒星(あかり)がなくなってしまったのだから。
今は病院という離れた場所でだが、僕たちの手の届くところにいる。
「…………っ!」
世界中から、光が消えた。
遠くで、星の声が聞こえた―――気がした。
【もしも、わたしが死んだら世界から、光がなくなりますように】
終わりは、光がなくなったというところ。
Fin.
PR