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ネイロンがいなくなっても、闇の七柱神がいなくなっても。アンダルシャとゼクシオールとヴァイルハイネンと。たった三体の神々だけで、創世は続く。その中で、アンダルシャは他の二神に、己の創世の力の一部を分け与えた。そして、彼らは創った。それは、新たなる神々。
炎の神を創れば炎が生まれ、
水の神を創れば水が生まれた。
命の神を創れば生命が生まれ、
運命の神を創ったら、あらゆる事象は彼らの手の内で遊ばれた。
次々と創られていく新たな事物。世界は神々によって豊かになり、ここに、原初神ネイロンの望んだ世界が、その姿を現した。
人間、という種族が生まれた。
彼らは火を使い、創世の時代の名残である高エネルギー体、魔法素(マナ)、原初魔法素(オリジンマナ)、反魔法素(アンチマナ)などを利用して、後に「魔法」と呼ばれる術の、その原型を使い始めた。それは画期的なことだった。
そんな「人間」達に興味を持った、ヴァイルハイネンを始めとする神々は後に、彼らをめぐって争いを繰り広げるのだが……。それはまだ先の事。
とにもかくにも、安定した世界に兄を呼ぶべく、アンダルシャは準備を始める。
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この世界、アンダルシアの中には、「界」が五つある。
一つは、天界。アンダルシャら神々の住む、彼方の世界。神々の世界。
一つは、地上界。植物や動物、人間など、神々の被造物の住む世界。
一つは、精霊界。地上界とは二重写しの、精霊たちの住む謎めいた世界。
一つは、冥界。死者たちが一時的に住まう、裁きの世界。
一つは、魔界。悪魔や堕天使など、堕ちた者どもの住む悪夢の世界。
これら五つを合わせて「五界」と言う。
それらのうち三つを創ったのはアンダルシャだが、残りを創ったのはネイロンだ。
それら「界」はこのようにして生まれた――。
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ようやく世界も落ち着いてきたので、アンダルシャは提案した。
「ねえ、ゼクシオール、ヴァイルハイネン。わたし、思うのですけれど」
「……そろそろ闇の主を呼びたいって事か? オレは別に構わないけどな。というか、もうその時期だろって予想はしてた。ゼクも異存ないだろ?」
「……ハインに同じく。しかし、闇の主の世界を創るにしても、一体どうするつもりだ? 考えはあるのか」
創世の力がありますもの、とアンダルシャは微笑んだ。
「大丈夫、兄上があらかじめ、そのための道筋を与えてくれました。わたしはそれに沿って創るだけ。でも、それにはあなた方の協力が要ります。……協力してくれませんか?」
「了解。手順を教えてくれよな」「無論だ」
「ありがとう」
アンダルシャは微笑んだ。
「じゃあ、いきます――三界創造!」
アンダルシャの創世の力が、ネイロンから、原初神から、最愛の兄から受け継いだ創世の力が、今、満を持して解き放たれる。
創世の時以上の強い光が、全世界を包み込んだ――。
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「…………っ」
ヴァイルハイネンは身を起こす。どうやら意識を失っていたらしい。隣にゼクシオールが倒れている。二人そろって気を失ったのか。笑えるぜ。
そして、彼は見た。
圧倒的な暴力となって襲い来た光の中。それに耐えて、意識も失わず、未だ立ち続けるアンダルシャの姿を。
彼は、感じた。
これまで一つだった世界が、見えない壁に隔てられ、三つに分かれているのを。新たなる創造が成功したのを。
――ついに願いが叶ったのを。
「っ、アンダルシャ!」
ハッとなり、彼女に駆け寄る。彼女は少しばかり虚ろな、しかし満ち足りた瞳で、空を見上げていた。
「出来たよ……わたし、出来たよ……」
うわごとの様に、彼女は呟いた。
「兄上……出来た……これでようやく、会える……」
「おいアンダルシャ、しっかりしろ。全部終わったし、いい加減休めよな」
彼がその体を揺らすと、彼女は焦点の合わない眼で彼を見た。
「……ヴァイルハイネン……。目、覚めたんだね……」
「オレの事は良いから」
「――ハイン」
「ゼク……?」
彼の言葉を遮るようにして、ゼクシオールの声がした。彼は二人に近づいていく。いつの間にか目を覚ましていたらしい。
「闇の主からの伝言だ。冥界で待っている、と。」
「…………っ!」
アンダルシャの顔に笑顔の花が咲いた。その情報の示すところは――!
「光の主は成功した。冥界の中でならば、闇の主は生きていける」
「やったわあ!」
アンダルシャは、まるで幼子のように飛び跳ねた。その目に喜びの涙を浮かべ、踊るように辺りを駆け回る。
「ありがとう、ゼク。ありがとう、ハイン! ありがとう、ありがとう、ありがとう!」
アンダルシャは、喜びに上気した声で叫んだ。
「じゃあ、行きましょう! 兄上の待つ冥界へ!」
その足を地に踏み下ろして転送陣を創り、二神と共に、喜びの中、旅立つ。いざ冥界へ!
★
生まれたばかりの冥界には、闇が満ちている。しかし、まだ死者はいない。これからたくさんやってきて、冥界の主の裁きを受けるのだろう。
冥界の、死者を裁くための「裁きの間」の中央には、骨で作られた玉座があった。まだ、ものらしきものの無いその世界においては、その玉座は妙に浮いていた。
その玉座にどっしりと腰を据え、そこにネイロンがいた。
「……久しいな、我が妹」
呼び掛ける声も変わらず、別れた時のままだった。
その声を聞いて、ワッとアンダルシャは泣き出した。玉座に座る兄のもとに一直線に駆け、兄にしがみつく。
「会いたかった、会いたかった……兄上……!」
「……大儀であったな。よく、我の世界を守ってくれた」
ネイロンの声は、いつになく優しい。
「感謝する。我の世界を守ってくれただけでなく、こうして我の居場所を創ってくれたこと。そなたたちのお陰で我の望みは全て叶った。礼を言う」
まったく、いつも通りのその声、その口調に。
「そもそもあんたがいなけりゃ、世界どころかオレたちもいないさ。あんたが世界を創って、オレたちがそれを育てる。これでどっこいどっこいだろう? 感謝なんて要らないね」
いつも通りに、ヴァイルハイネンが返す。
「……闇の主も、お変わりなく」
ちょっと堅物なゼクシオールも、いつも通りで。
今ここに、創世に関わった神々が、長い長い時を経て、五柱を欠けさせながらも再集結した。再び、出会った。――出逢えた。
「アンダルシャ、ゼクシオール、ヴァイルハイネン」
不意に、ネイロンが口を開いた。
「我はもはや創世神ではない。それは知っておろうな」
「……それが、何か……?」
不審げにするアンダルシャ。ネイロンは答える。
「そして我は、冥界でしか生きられぬ。ゆえに我は今より創世神の名を返上して、『冥王』と名乗る事にしよう。そして、冥王から餞別がある。原初神最後の仕事だ。我の創世の技、とくとご覧にいれよ」
彼は、その両手を天に差し上げた。
「三界ではまだ足りぬ。そなたらはよくやってくれたが、今、その足りぬ二界を我が創ろう。そうしてこそこの世界は――アンダルシアは、完璧になれる」
その手に力が渦巻いていく。
最後の創造が――始まる。
アンダルシャのそれとは違い、眩しくもなく輝きもしない、しかしすべての根源にある力によって、二つの「界」が創られていく。
それは――
「二重写しの神秘なる世界!」
精霊界。
「堕ちた者どもの悪夢の世界!」
魔界。
世界を構成する上で足りなかった二つの「界」が創られていく。
やがて――。
光は、溢れなかった。
代わりに、優しい闇が全てを包んだ。
アンダルシャの時とは違って、遥かに穏やかに、ネイロンの――冥王の、創造は終わる。
「――創造完了」
今のネイロンにはもう力はない。最後の創造で、持てる力を使い尽くしてしまったから。それでも、後悔は無かった。
「アンダルシャ、これよりそなたがこの世界の主神だ。我はこの世界から出ることがかなわぬが、そなたならばどの『界』にも行くことが出来るだろう。後事は託した。後を頼むぞ」
冥王は満足げに言ったのだった。
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とあるところのとある世界、アンダルシア。
主神はアンダルシャ、冥王はネイロン。創世の絆で結ばれた兄妹神。
闇の七柱神とその他の神々の住まう、五界に分かれた一つの世界。
いにしえの昔に誕生した世界の、神々の系譜は続いていく――。
(Fin……)
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……とまぁ、完結です。四話とか言っていたけれど、三話で終わりました。
まだまだ未熟なところの多い藍蓮ですが、皆様、これからもよろしくお願いいたします!