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THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
作者: 多寡ユウ  (総ページ数: 20ページ)
関連タグ: 異世界、リープ、AI 
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10~

*4*

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彼女は黒髪をたなびかせ、黒色の鎧を身にまとった少女だった。
刀の色も、黒色。どんな黒よりも黒い、漆黒の二輪刀だ。
そのいかにも熱を通しやすそうな2つの刀がいとも簡単に、ケルベロスの魔炎弾をかき消したのだ。

「・・・・きれいだ・・」

僕は言葉が出なかった。綺麗と言うしかない。彼女の立ち姿は、細いその身に似合わず、勇ましかった。僕よりも少し身長の高い彼女は、僕の目の前で盾としてケルベロスに立ち向かっていた。“綺麗”という言葉が最も似合う、そんな立ち姿だった。

「さて、私はコイツを倒してくるから、君は少し後ろに下がっていろ。魔炎弾の残り火には近づかないようにな」

そういわれて、僕は「ハイ」と言う以外なく、おとなしく後方に下がった。
僕が後ろに下がったのを、横目で確認した後彼女は、
ものすごいスピードでケルベロスに切りかかっていった。

「・・・ッ」

今まで見た誰よりも速いスピードで、彼女はケルベロスに切りかかっていく。彼女は高くジャンプし、ケルベロスの首をかっきるために、黒色の二輪刀を構える。ジャンプの高度は優にケルベロスの首の高さを越し、ケルベロスが見上げる形になった。

「GYASaw3&%$E%#%%#&$&$&$%$#%$#%’&〜aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

ケルベロスは今までで一番不気味な声をあげて、6つの目が彼女をにらむ。まるで“やっと骨のある敵が来た”と言わんばかりに、どう猛な唸り声をあげて、彼女を焼き尽すために、その三つ首から魔炎弾を放とうとしていた。しかし、それは叶わず。

「睡蓮華」

ケルベロスがどす黒い魔炎弾を放つ前に、綺麗な漆黒の斬撃がケルベロスの3つの首を同時に掻き切った。

「gayae・・・・・・・ぁ」

三つ首を切られたケルベロスは、声にならない声を最後に出して、青色のポリゴンになって虚空に消えていった。

「す、すごい・・」

シュタッっと地上に降り立った少女は、まるで黒ずくめの天使だった。強くて、可憐で、そして何よりも綺麗だった。
少女は地上に降り立つと、あぜんとしている僕の方に向き返り、こう言った。




「君、名前は?」




「え・・・?あ・・・、ゆ、ユウキ、です」

「そうか、ユウキ君。君の勇気を買おう。私とともに来てくれないか」

そう言うと少女は僕に近づいてきた。近づかれるとわかる、少女は僕よりも全然背が高い、少女というには似つかない背丈だった。ちょうど僕よりも5〜7センチ高いその姿は、やはり勇ましくて、可憐で、綺麗だった。

「私のクラン、レジスタンスへ」

突然のクランへの誘いに戸惑いを隠せない。

「って、あなた誰ですか」

「ン?ああ、スマン、申し遅れたな。私はレジスタンスというクランで、リーダーをしているアイだ。宜しく頼む」

アイさんと名乗る少女は、僕に向かって手を差し出し、握手を求める。その手は先ほどの攻撃とは打って変わって、繊細で真っ白な手だった。剣を握っていたとは思えないその華奢な体は、オーラを身にまとい、人を惹きつける魅力があった。

ただ、そんな彼女に「はいそうですか。宜しくお願いします」と言えるほど、僕の危険度センサーはぶっ壊れてはいない。なにやら怪しい匂いはぷんぷんするのだ。タクムのパーティーにいた時だって騙されてきたんだ。そう簡単に騙されてなるものか。

「で、そんなアイさんがなんで僕を助けてくれたんですか」

「たまたま森に用があったんだ。そうしたら、逃げ帰って来る連中がいたもんだから、どんな敵がいるのかと見に行ってみたら、君がいたんだ」

タクムたちのことだろう。逃げ帰った連中というのは。そんなところに居合わせるなんて、幸運だな僕も。ただ、今の答えは僕を助けた理由にはなっていない。僕を見殺しにもできたはずなのに。

「でも、なんで助けてくれたんですか、見殺しにもできたでしょう」

「ンー。そうだな。自分より強い敵に対して、一歩もひるむことなく、立ち向かった。その姿勢を買った。というのではダメだろうか?」

なんだそれ。どっかの熱血教師かなんかか。美化しすぎだ。ただ僕はあいつらに思い知らせてやりたかっただけなのに。そんな大それたことじゃなかったんだ。ただ、生き残ったやつらに、見捨てた人間の記憶を抱えて、生きてほしかっただけだった。
それなのに。

「美化しすぎです。僕はそんな人間じゃない。のろまで、クズで、最低な人間です」

「君がいくらそう感じようとも、君の闘う姿勢は素晴らしかった。勇気に満ち溢れていたよ」

あれは別に勇気なんかじゃない。ただの復讐心なんだ、わかっていない。僕はそんな高尚な人間なんかじゃないんだ。僕はあなたと喋れるような人間じゃない。あなたのように強さもない。可憐さもない。綺麗でもない。弱くて、どす黒くて、汚い。そんな人間なんだ。

「だから、そんな君をだな、ぜひ私たちのクランに招待したい。つまり勧誘だな」

そんな高尚な人間じゃない。
じゃないけど。
このクランに入っても、また裏切られるかもしれないけど。
それでも。
僕はこの人の慈悲に報いたい。
弱い僕を、惨めな僕を助けてくれたこの人のために働きたい。だって、今までの人生で、僕のことを助けてくれた唯一の人だったから。
だからこの人のために、できることならやりたい。と、この時の僕はそう思っていた。

「僕はあの時、あなたが助けてくれなかったら、ケルベロスに焼き殺されて死んでいました。だから、助けられた分、あなたに報いたい!だから僕、なんでもします!」

それは僕の本心だった。助けてくれた恩義を返す。それが僕にできる唯一のことだった。
しかし、僕の独白の一方で、彼女の反応は芳しいものではなかった。

「報いる、か。それは違うよ、ユウキ君。君のように絶体絶命の場面で自分の心を奮い立たすことができる人間は少ない。その力は何にも代えがたい力だ。そんな君の力を、私に課してほしい。私にないその力を持つ君なら、ついにやってくれるかもしれないから。だから君の力を、私に預けてほしい」

「・・・・?それって、どういう?」

「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。それよりも、なんでもするということは、レジスタンスに入ってくれるという認識で構わないか?」

「・・ハイ。できることなら、なんでもします!」

ポーション運びだってかまわない。剣を研ぐことだってかまわない。タンクになって盾になってもいい。なにかこの人に、唯一僕を助けてくれたこの人のためになることがしたい。

「そうか。断られるのを覚悟だったが、訊いてみるもんだな」

コホンと咳払いすると、アイさんは続けてクランへの招待メッセージを僕に送信した。
続いて、≪to:ユウキさん 見知らぬプレイヤーからのメッセージです。 クランへの招待のご連絡です≫のメールが、ポップアップに表示される。
ここにサインすれば、僕はアイさんのクラン、レジスタンスに参画することになる。聞いたこともないクランだが、アイさんがクランリーダーをしているということは恐ろしく強いクランなのだろう。
一抹の不安を抱えながら、僕は送られてきたメッセージに≪ユウキ≫とサインをする。
いいんだ。僕の役目は、別に仲間を作ることじゃない。この人のために、動くことだから。
サインして、アイさんに返信をすると、アイさんは満面の笑みで僕の方を見つめた。

「これで登録完了だ。ようこそ、私たちのクラン、レジスタンスへ。これからよろしく頼む、ユウキ君」

その言葉に赤面しそうになりながら、小声で照れ臭そうに「はい・・」という僕がいた。

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