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THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
作者: 多寡ユウ  (総ページ数: 20ページ)
関連タグ: 異世界、リープ、AI 
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10~

*6*


「????」


僕の頭には、文字通りはてなマークが浮かんでいた。


「つまり、ユウキ君。この世界、今君が息をして、何かを食べ、誰かに裏切られ、誰かを愛するこの世界は、偽物の世界ということだ」

僕を見るアイさんの目は真剣そのものだった。そのまっすぐな瞳はうそをついている様子は、一ミクロンたりともない。それがまぎれもない真実ということを物語るごとく、彼女はレジスタンスの最終目標を僕に告げる。

「私たちの本当の世界は、“別”にある。その、私たちの本来の世界に到達する。それが、レジスタンスの最終目標だ」

「本当の世界は、別って・・。なにを言ってるか、さっぱり」

「そのままの意味だよ。ユウキ君。この世界は、君の元いた本当の世界ではない。この世界は、私たちのために新しく創られたゲームの世界なのだ」

「な、なんでそんなことがわかるんですか」

僕の父や母も、実際にこの世界で生活を営んでいる。生きている。まさしくあの古びた村は僕の出身地だし、父と母も明らかに僕の親だ。隣に住んでいる薬局ショップのおばさんだって、いじめられていたけどタクムだって、コータだって、アモンだって。みんな確実にこの世にいたはずだ。

「本当のことだ。これを見てほしい」

ヴォンッ!という音を立てて、アイさんの手から3D映像が僕の目の前に投影される。
どうやらアイさんが僕に見せてきたのは、99層迷宮の全体マップだった。

よくお父さんが二層のモンスターの狩場に出かけて、お金を稼いでいるダンジョン。危険なエネミーが多く住むとされていて、父にはあまり近づくなと警告を受けていたダンジョンだった。

「99層迷宮は、全部で99層のダンジョンで構成されている。この世界の地下に張り巡らされたこの地下迷宮世界は、森・雪原・噴火口・神殿などの、様々なステージがある」

知らなかった。99層迷宮はてっきり、なんか薄気味悪い感じの迷宮なのかと思っていたけど。まるで、

「この下にもう一つの世界が広がっているみたいですね」

「ああ、いい線を言っているよ、ユウキ君」

そういうと、アイさんは99層迷宮の全体マップをスライドしていき、一番最深部の99層迷宮を指さす。

「ユウキ君。ここに何があるか分かるか」

「・・・?なにって、お宝でしょうか」

「ウン。それもいい線を言っているな」

そういうと、アイさんはおもむろに地面に手を付け、呪文を唱える。

「透明化」

アイさんが地面に向かって呪文を唱えると、地面がどんどん透けて見えるようになっていく。たとえて言うならば、ソナーの魚群探知機のように色合いはわからないが、どこにどういったものがあるかを判別することはできる感じだ。

(こんなスキルがあるのか、きいたことない・・)

しかし、僕を含めて、多分アイさん以外には3層よりも下は、なにがどうなっているかは判別できない。下に空間があることはなんとなくわかるが、複雑に青い線が絡み合い、ごちゃごちゃしていてよく分からない。

そのソナーは果てしなく底の層まで届くようで、アイさんはじっと地面に手を添えて、その透明化のスキルを使用し続ける。どうやらアイさんは、全体像を俯瞰して透明化で見えるようだ。

すると、

「見えた」

何かを見たアイさんは突然そう言うと、手を地面から離した。

「今私のゲーム画面で、私の視界をスクリーンショットした。ユウキ君には、私の透明化で観た映像を見てほしい」

「は、はい・・・」

僕がそういうと、アイさんはにっこり笑って、自分の視界のスクリーンショットをこれまたヴォンッ!と僕の目の前に投影させた。
そこには、狭くて暗い洞窟の道の先に、何やら扉があるのが見えた。そしてその扉
の上の立て札には、次のように書かれていた。
:CONGRATURATIONS! WELCOME BACK TO YOUR REAL WORLD:

「こ、これは?」

「これは私が透明化のスキルを使用して視た、99層迷宮の最終ゴール地点の扉だ。ユウキ君、扉の上の文字は読めるかい?」

「はい、少しなら。・・・ええと、おめでとう、ようこそあなたの本当の世界へ・・ですか」

「そうだ。 良く読めたな、ユウキ君。その英語、どこで学んだ?」

「え、そんなのきまっているじゃないですか・・。えっと・・・、あれ、どこだっけ?」

あれ、この言葉は知っているはずなのに。なぜか思い出せない。そして、英語?ってなんだっけ。どうしてこんな文字が読めるんだろう。

「なんででしょう。どこかで学んだ気がするんですけど」

「正しい反応だよ。ユウキ君。君の感じている違和感は、もちろんここにいるレジスタンスのみんなも感じている」

「えっ」

「読めるはずのない言葉が何故か読める。それは、私たちがどこかでこの文字を勉強していた、ないしこの言語で話をしていたという意味になる。ところで、ユウキ君。君は幼い頃のお母さんやお父さんとの記憶は思い出せるかい?」

「え・・・、はい!もちろんです。父は優しくて、家にはいなかったような・・・」

あれ。なぜかぼんやりとしか思い出せない。

優しかったとか、厳しかったとか、そういった感情はなんとなく思い出せる。しかし、どこに住んでいたとか、どんなことをしていたかとか、そういった実際に目にしているものは思い出せず、ぼんやりとしている。まるで、景色とかそういった情報が、すべて上書きされて削除されてしまったみたいに。
父と母と一緒に過ごした感情しか思い出せずに僕はいた。

「なぜかあまり鮮明には思い出せません。でもそれがどうしたっていうんですか。思い出せないのと、本当の世界があるというのに何の関係が?」

「つまりだ。私たちは、本来いた世界の記憶を、何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているのではないだろうかと推測している」

「!」

本来いた世界の記憶を何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているだって?
そんなことあるわけ・・、とあぜんとした僕の心を見透かすように、隣にいたサユリさんが口を開く。

「ユウキ君。あなたの思っていることは正しいわ。そんなことあるわけないって、思っているんでしょう。でも、99層迷宮最深部にあるゴール地点のあの言葉と、私たちの記憶の曖昧さや齟齬を鑑みるとね。あり得ない話じゃないと思うの」


「そうだぜ、少年。俺もさぁ、たまに自分の親父とお袋の実家に帰ると、何かが違うだよなぁって思うわけよ。少年もそんなことない?もしあったら、俺らと一緒に、この99層迷宮最深部まで行ってよ、ちょっぴり確認してみねーか!」

リュウがサユリの後に続けて陽気な顔で言う。本当にもう一つの世界があって、その世界が僕たちの世界なのか?にわかには信じれない。そんな疑心暗鬼の様子の僕を、慮ってかゴウが口を開く。

「ユウキ君。君がアイの言っている推論を信じることができないのもよくわかる。私もレジスタンス入団当時、信じることはできなかった。この世界でクエストを受注し、お金を稼ぎ、当たり前に生きていることに、なにも違和感を私は感じなかったからだ」

だったら、なんで、こんな推論を信じるんですか。
あまりにも証拠がなさ過ぎる。この99層迷宮最深部の下に続く世界が、もしかしたら振出しに戻る形式で、僕らがいる今の世界に戻るかもしれないのに。

そういいたくなる気持ちもあった。しかし、その後、ゴウの言葉を聞いて僕も考えが変わったんだろうなと、今になれば思う。

「しかしだ。私は、アイを信じる。私のことを窮地から助けてくれたのは、アイだ。それはサユリも、リュウも。そしてほかのみんなも同じだ。このレジスタンスにいるメンバーは、全員アイに命を助けられている」

ゴウが全体を見渡すと、みんなが一斉にうなずきだす。
今はこんなに強いゴウさんも、サユリさんも、リュウさんも、僕とおなじようにアイさんに助けられたってことか。

「だから、私は命の恩人であるアイを信じている。もちろん元の世界の存在を信じていないメンバーもいるかもしれん。しかし、アイの掲げる旗のもとに、皆この身を賭して我らがクランリーダーのために戦うつもりだ」

・・・ここにいるみんなが、アイさんを命の恩人だと思っている。だから、そのアイさんの言っていることがハチャメチャであっても信じぬく。そうゴウは言っているのだ。

ハチャメチャだ。理論も全くない。証拠も不十分だし、なにより、元の世界に戻れる保証もない。それなのに、レジスタンスのメンバーはアイさんの旗の下に集まっている。
どうかしている。

そんな渦中のアイさんが続いて発言した。

「現状、99層迷宮の最深部までは程遠い。私たちレジスタンスが、攻略を完了しているのは12層まで。13層は先日チャレンジしたが、強いエネミーを前に私たちは撤退せざるを得なかった。」

アイさんは僕ではなく100人近くいるレジスタンスのメンバーを見ながら、唇を前歯で噛み仕切りながら言う。

「13層攻略では、100人という、多くの犠牲者を出した」

大きな責任感や、謝罪の気持ちの入り混じった、アイさんの悲痛な顔を今でも忘れられない。

「私たちは必ず、消えてしまったあの子たちのためにも、この世界の根源たる99層迷宮最深部、つまり99層に到達する。それが、あの子たちのために、私ができる唯一のことだ。私を信じてくれたレジスタンスの仲間のために、戦う」

そうして、最後にアイさんが僕の右肩に手をのせ、話しかけてくる。

「ユウキ君。君を無理に連れて行こうとは思わない。私たちが行うのは、危険なダンジョン攻略だ。実際に、100人の隊員がHPをゼロにし、この世から消えてしまった。君だって消えてしまう危険がある。だから、無理強いはしない。君は、どうしたい?」

・・・・・・。

10秒程度、考えた後に僕は僕の意見を述べた。


「僕は、あなたのために戦います。アイさん。あの時決めたんです。あなたが僕を地獄から救い出してくれた時、あなたに尽くそうと決めたんです。だから、アイさんの掲げる旗が不安定なものであったとしても、その旗を掲げるあなたを守るために僕は闘います」


それが僕の率直な意見だった。
みんながアイさんに尽くすことは、みんなの過去を知らないから僕には理解できない。
確かに同化していると本気で思う。
でも、僕個人のことを考えたら、アイさんが無茶苦茶なことを言っていたとしても、僕はこの人を守るために、戦いたい。
そのために、ここにきた。そこには何も変わりはないんだ。あの時にした決意に、嘘はない。

「行ってやります。99層迷宮の最深部まで」

そう宣言すると、アイさんの表情が笑みと申し訳なさの入り混じった表情になり、その綺麗なオレンジ色の瞳にうっすら涙さえ浮かべながら、この世界で一番さみしい言葉を聞いた。

「ありがとう。ユウキ君」

その表情は、悲しみと喜びが混在する、何ともさみしい表情だった。
そんな悲しい顔をしないでほしい。
そうアイさんに思う人間が集まったのが、このレジスタンスという組織なのかもしれない。
リュウも、
ゴウも、
サユリさんも、
他の隊員の皆さんだって、
アイさんにこんな悲しい表情をさせたくなくて、彼女の隣にいて彼女を励まし続け、戦い続けるのだろう。

彼らの各々の気持ちを量り知ることはできないが、
その部分では、僕も同じ気持ちなのだろう。

かくして、僕は正式にレジスタンスのクランメンバーになった。
アイさんの隣で、アイさんを守るための戦士になるために。


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