完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*6*
【異世界転星】その2
「つまり貴方方『田口』さんは兄弟そろって僕からの電話を受けているということですか」
『そのうえ弟は無事テスト赤点取ったし、ボクは異世界転生したあげく……いや、まだ転生してないから転移? ま、どうでもいいけど宇宙人と会話してる。ふつうないよこんなこと』
―――――――ー
「いやあ、僕もよみがえった人からの電話なんて初めてです」
『あのな、異世界転生ってのは、死んだと思ったらちがう場所で寝てて、神から特殊能力を与えられて、仲間作って魔王を倒すってのが主流なの』
「田口兄さんはなぜ、そんなに物知りなのですか? ご自分が死ぬことを理解していたのですか?」
『そーだよ漫画の読み過ぎ! 冴えない陰キャの高校生! ワンちゃんあるんじゃねと思ったら本当に現実になった。現在ちょっと転移する世界がおかしい系ラノベの真っ只中にいる』
「情報過多です」
『そりゃこっちも同じだよ。なんか毒気が抜かれた気分だ』
「特殊能力って話ですが、その神とやらはまだ来てないのですか? だったら異世界転生? ではなく、貴方のいる場所は地獄か天国か……」
『やめろ夢を壊すな。実際一時間くらい経ってるけど』
「……神などいないのではないですか」
『やめろ、それ以上は自分が本当に痛い奴になるからやめろ』
――――――――ー
「もしかすると魔王? のポジションが僕だったりします?」
『……なにその冴えなさすぎるムーブ。あんまりだよ。論破で戦うんか? 宇宙人相手に?』
「【スキル】 コミュニケーション、とか」
『お前無駄に話対応するのやめろよ。傷をえぐるな。そして伏線を回収するな。すごいぞ回収しても虚しさしかない』
――――――――――ー
「うーん、らのべ? ってやつは分かりませんが、僕の星にも主人公と仲間が悪を倒す話はあります」
『マジ? どんな話?』
「主人公が持ってるのは【対応力】という能力です。舞台は白いお部屋。敵さんは、ちょっとイラッとくる言語で攻撃を仕掛けます』
『……ん?』
「主人公とその仲間は、【対応力】で敵をやっつけます」
『え、待って、クレーム対応じゃねそれ。いやいや、全然華もないストーリーじゃん』
―――――ー
「生憎セキュリティに難のある星ですので、結局は言葉で封じ込めるしかないんですよ……」
『哀愁を漂わせるな。コミュ障の傷が増えるからやめて。ことごとく失礼だねお前。弟から聞いてるけどマジで失礼。天然? っていうか、なんだろう、悪意のない言葉づかいがなんかなあ、心にこう、グッとくるんよ』
「【スキル】かどうかは知りませんが、僕は、自分の話がシラン人の体調不良につながるらしく」
『これが【コミュニケーションスキルに難のある】ってやつか……いや、一周回って怒りもないな』
「怒られると僕も困ります」
―――――――
「それで田口兄様。神はどこにおられますか? もしよろしければその、大賢者とやらのデータも取りたいのですが」
『神はボクを見捨てたようだ。すげえ、言葉並びはめちゃくちゃかっこいいのに、めちゃくちゃダサいぞこれ』
「美少女とやらは、どこにおられますか? キャッキャウフフの意味を拝受願いたいのですが」
『二次元の中にしかいなかったみたいだ……」
「……貴方のいる場所のお名前を、今一度確認したいのですが」
『多分地獄だ。それかあれだ、【無駄に三輪車にはねられた男子高校星】だ。絶対これ異世界転生じゃない。ひどすぎる』
「んじゃ、【異世界転星】としておきますね。グッドラック。……すみません僕は地獄には行けそうもないや」
『また電話がかかってきたら、そんときは多分地獄でキャッキャウフフしてると思うから、こうご期待ってことで』
「……その際もまた寝そべったままだってセンはないでしょうか」
『そん時はまた、グッドラックって励ましてくれよ大賢者』
【X月X日 シラン星『無駄に三輪車にはねられた男子高校星』を記録】