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作者: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (総ページ数: 6ページ)
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*5*
【第5話】
「う……」
ソラは気が付くと、黒くて雰囲気が重い謎の場所にいた。
見渡す限りの闇に、壁や天井があるのかも分からない。
「ここは……どこだ?」
「目が覚めたようだね」
突然の声に驚き、思わず手を伸ばす。
その声は、目の前にある黒い箱から聞こえてきた。
声は加工されていて、誰のものなのか分からない。
「これは一体……」
「僕の名前は戸北ユカ、このファミリーでは一応1番上の存在だ」
「ファミリー……?」
「そう」
「コレクターズファミリー、まあ現実世界で言えばヤクザとかマフィアになるかも、どの世界にも表と裏があり、その裏の全てがこのファミリーにある」
「………!!」
ソラは危険を感じようとして逃げ出そうと手を伸ばすが、体が動かない。
「やめておいた方がいい、君は分かってないと思うが信じられないくらいボロボロ」
「任天堂世界に連れていかれた人間に寿命は無く、永遠に歳を取らないが病気にはなるし普通に死ぬ」
「とは言っても我々は何もしていない、君は前々からコンビニ弁当を毎日食べていたようだから、そのツケが今になって来たんだろう」
「………」
「言いたいことは分かる、何が目的か……だよね」
「移住区からア・カウント・バーンが出ていった、ファミリーとしては都合がいい事だ、表沙汰にはしていないがマスターアマゾネスとはちょっとした縁もある。」
「今君の事で任天堂世界は持ちきりだよ、街一個分の仮想空間を作れるそうだね、しかも現実世界に繋がるものも何かしらある……」
ユカは言った。まるでゲームでも楽しむかのように。
顔が見えなくても分かる、それは純粋な悪意だった。それは純粋すぎる殺意だった。
その笑顔のまま、日常会話をするかのような声で続ける。
「表も裏もそうだが、人が住む所ってのはそんなに無いんだよ、任天堂世界は」
「実際どんな感じなのかな、入ってみせてよ、そのサテラビューワールドっていうの」
そう言うと、ユカは指を鳴らすような動作をした。すると、黒い箱の上に渦が現れる。
そこに入ってみると……なんと、サテラビューワールドに通じていた。
「なんで……まだ能力は発動していないのに……」
「ふむ……なるほど、街1個分の広さはあるけど入れるところはそんなにない、対応してるのはコンビニくらいで他はほぼハリボテみたいなもの」
「まあ使えなくは無いけど、もっと面白い使い方がある」
ユカは再び指を鳴らした。今度は黒い箱の下に渦が現れた。
そしてその中に入ると……なんと、さっきの場所に戻ってきていた。
「えっ!?どうして……」
「君の能力は特定の場所に移動するんだろう?これが現実に繋がってると勘違いされてたんだから不思議なものだ、何があったの?」
「………現実世界じゃあまり上手くいかなかった、就職は失敗するし、家事も出来ない、そんな中急にこの力を得て、現実よりずっと快適で…」
「一生ここで過ごせたら幸せじゃないかと思って、安全を維持するために守ってもらおうとしたら……上手くいかなくてこの結果に」
「ふむ……」
ユカは興味無さそうな返事をして話を聞いている。しかしソラの方は、自分がやった事に後悔していた。
あの時、ちゃんと上手く能力を使っていればこんなことにはならなかったはずだ。
自分の意志が弱かったせいでこうなった……。
「愚問だね…自分自身に力もないのに理想の生活なんて出来るわけが無い、外付けバッテリーが便利でも充電対象がゴミ性能じゃ豚に真珠だ」
「まあいいや、今度は僕の方から仮想空間に案内するよ」
「え……まさか同じ能力を?」
「元になったゲームこそ違うが、仮想空間に入れる能力はもう1つある……さあ、入りなよ」
ソラとユカは同じタイミングで指を鳴らす。
すると、2人は仮想空間へと転送された。
「ここが……君の能力で入れる仮想空間?」
「そう……名前は『ともだち島』、僕が作った能力だ」
そこに入って、ソラは思い知らされる。
自分の能力で一生快適に過ごすなんて、所詮思い上がりだったのだと。
ここまでやらないといけない、ユカほどの力が……
「君の能力が作る空間が街一個分なら、僕は島1つ分、住処はマンション一択だけど最大100部屋は住める、飲食店はもちろん服屋もインテリアショップもあるし、娯楽も喫茶店に遊園地、擬似的なカラオケショップまであるんだ」
「50年はここで過ごしてるけどイベントも充実してるし、中々飽きないんだよ」
「あ……あああ……」
圧倒的な差を思い知らされる、逃げ出したかった。しかし体が動かない。
「どうしたの?」
「……動かない、一体何をしたんですか……助けてください」
「ああ、そういえば任天堂戦士としての僕の能力名を言ってなかったね」
「僕の能力の元になったゲームは『トモダチコレクション』、この通り舞台になった島に仮想空間として入れる……だけじゃない」
「僕がトモダチになった任天堂戦士をマンションに1度でも招いて部屋を貸すことで能力をコピー出来る」
「つまり管理人の僕を除いて99部屋、99種類の能力をコピー出来るんだよ、あっ、君の部屋は結構高いけどごめんね」
ソラの震えが止まらない、友達なんて言うと響はいいかもしれないが相手は裏社会のトップのようなもの、命がいくつあっても足りない。
その怯えを見透かしたようにユカが笑う。
そして、手を伸ばした。
すると、ソラは一瞬にしてどこかへ飛ばされてしまう。
「助けて欲しいって思ってるね?悪いけど僕は最後に倒されるのがセオリーのアニメな悪役とは違う、生き延びるために最善手を1秒足りとも油断せず打つ、これが快適に一生生きるというコツだ」
「もう全部終わってるよ」
………
任天堂世界では、ユカが巨大な氷山を眺めていた、その中にはソラを含めた数人の任天堂戦士がいる。
「トモダチの判断は僕の独断だ、いいなと思えばそばに置いとけばマンションの部屋を与えるだけでコピー出来る」
「君はここに来る前からコンビニ弁当を食べてて体がボロボロだったからね……能力自体は便利だし、死んでもらっちゃ困る」
「君に会うまでにトモダチは沢山作っておいたんだ、【ドリームアドベンチャー】で君の夢を操作して、その間に【アイスクライマー】で君を冷凍保存させた」
ユカは言った。まるでゲームでも楽しむかのように。
顔が見えなくても分かる、それは純粋な悪意であり、純粋すぎる殺意だった。
『戸北ユカ』という人間の実態を知るものは誰一人いない、初めて任天堂世界に降り立った時は齢僅か7歳。
そのまま数十年…あるいは百年以上、精神だけがすり減り、永遠に子供のまま裏の世界を支配した彼の姿は、まさに魔王と呼ぶに相応しいものだった。
そんな彼が今何をしているのかと言うと……
「ふむ……」
マンションの一室でのんびりと過ごしていた。
「……」
彼は常に孤独だ、他の誰にも心を開かない。
脱出なんて興味が無い、もう既に帰れるかどうかは諦めている。
「サテラビュー……周辺機器の任天堂戦士もいるとは、まだ情報が足りなかったな……」
「ラジオと連動してゲームを配信……これで僕は、ラジオ内のサウンドリンクゲームも全部コピーできるようになった」
「と言っても……ラジオ番組だし使える機会はそんなに無いんだけど」
「……いや、これは……なるほど、テンドウ・ソラは気付いてなかったんだ、この能力の真意に……」
………
これから決まりきっていることを話す必要も無い。
ソラ・テンドウは氷山の中で死ぬことも許されずユカのトモダチとして世界も能力も利用され続けた。
遠い未来に神にも等しい存在やある救世主達の登場によって任天堂世界が崩壊して、遂に訪れる脱出の機会まで……
………
「あ……」
「あーーー」
ソラ・テンドウもずっと氷の中に居た為、生きて日本に帰還した。
しかしソラは何もする気が起きなかった。
サテラビューワールドにまた入ることは出来たが、今更帰ってきたところでどうしようもならない。
文明でも進んでくれれば良かったのだが、残念なことに任天堂世界では何十年も経っていないのに現実世界ではたった数ヶ月程度。しかし、それでもソラは満足していた。
「あの時の俺は……馬鹿だったなぁ」
「……」
「……俺、なんでこんなところにいるんだっけ?」
「……」
「あ……そうだ、思い出した」
「俺、コンビニに行こうとしたんだった、新しい弁当食べたいな」
「でもここどこだ?なんか見覚えのある場所だけど……こんなとこあったかな?」
「まあいいか、腹減ったし、早くコンビニ探さないと」
ソラがひたすら、ひたすら歩いていて
すれ違いざまに何かにぶつかる。
「うっ……!?」
その拍子に、腹部に包丁が突き刺さって……
意識が途切れる。
そこにいたのが、ユカとも知らずに。
ーーーー
「意外とあっさりだった、本当に夢でも強いショックを与えたら亡くなったりするんだ」
「不思議だね、もう任天堂世界はまだ残ってないのに僕らに能力は残されたままなんだ」
「だから僕もまだトモダチが持っている99個の能力が未だに使える」
「…………感謝するよ、ソラ・テンドウ」
もう動かないソラを前にして、ユカは呟く。
そして、ソラの死体を眺めながら、少し考えた。
ソラは死んだ。
このまま放置するのは勿体無い、せっかくなら有効活用したいものだ。
過去の経験上、コピー元であるトモダチが死ぬと自分も能力を使えなくなるので、最大限生かす必要があった、それ故に過去にあれだけの事をした。
だが実の所それも必要なくなった。
「ソラは気付いてないよね……サテラビュー専用のゲームカセット」
「電波を受信して、ダウンロードしたものを入れるなら入れ口が必要になる……メモリーパックがある」
「凄いね、僕自身や能力含めて全部人工衛星の電波にバックアップを残せた」
「君のおかげで僕は死んでもメモリーから復活出来たし、任天堂世界においても死人として扱われたから後はともだち島で悠々と脱出まで過ごせた」
「分かるかい、何事にも邪魔されず、誰かに守られて一生平穏に快適に生きるっていうのは………こういうことなんだよ」
「と言ってももう聞こえないか」
「じゃあ、僕は君を反面教師にしてまた第2の人生を歩むよ」
「ソラ・テンドウ、君から学んだことは、1人では決して生きていけないこと、欲をかくと却って面倒になること、そしてコンビニ弁当は毎日食うものじゃないってこと、それだけだよ」
ユカはそう言ってその場を後にする。
その足取りは軽く、心の底から幸せを感じているようだった。
こうして、ソラ・テンドウという人間は結局、生き延びたことも死んだことも知られず、ただの有象無象として忘れられていくのだった。
【スマブラ戦記 サテラビュー】
END