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ざくアクZ外伝 ヅッチー神話
作者: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E  (総ページ数: 6ページ)
関連タグ: メイドウィン小説SEASON3 ざくアクZシリーズ ヅッチー 大人化 短編 
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*2*

「プリシラ、貴方はどう思いますか?」

「どう思うって、何が?」


「最近のヅッチーの傾向……雷神トゥルギウスとやらがどんな力を持っているのかは我々には想像だに出来ませんが、その存在に対抗すべく……とにかく時空から異世界人を招いて、それにぶつかり稽古している」


「これを見てください」


大明神は、袋詰めにされた剣、槍、斧などの武器類を机の上に置いた。

「この武器類は、全てヅッチーが私に作るように命じたものです」

「ハグレ王国と出会ってから初めての私への国王命令でした」

「……このままじゃヅッチーは」

「ええ」


「これまで以上に取り返しのつかない所まで行ってしまう」

そして、そんな妖精王国の心配が的中するかのように、事態は急速に悪化していった。

「…………」

ヅッチーの玉座には非常に分厚い辞書が置いてあった。

「アクトジン、アザカ・トンネッレ、ハイキリ、タケミカヅチ、ホラガルレス、スサノオ、トラロック、ソヴィオソ……」

「あいつの持ってる辞書、1つの世界にすらこれだけの雷神が伝わっているのか」

妖精王国との謁見後、ヅッチーは再び目的の為ハグレ王国へ戻ってきていた。
そして今 ハグレ王国から借りたある世界の雷神の本を読んでいる最中だった。
しかしそれは、ただ読むだけでは済まなかった。
なんと、雷神達の力を借りて、その力を試すという試みが行われていたのだ。
八百万の神とは言うが、雷神に分類される物だけでもその規模は膨大である。
しかも、それをヅッチーはたった一人で相手にするという無謀な事をしようとしていた。

「うおおお!!」

ヅッチーは手始めに自分の持つ武器の中から長柄の棒を選んだ。
そして、それを振るい、まるでダンスでも踊るように軽やかな動きを見せる。

「……ッ!」

すると、突如として激しい雷撃が棒から放たれ、避雷針のように伝わりヅッチーの中に入っていく。

「まだ足りない」

「雷のエネルギーをどれだけ溜め込んでも、貴方では変換出来ませんよ」

「………」

「大明神」

かなづち大明神が棒を取り上げて、ヅッチーの傍に座る。

「今日は外に出るなって言っただろ」

「そうは言われましても、1度追放された身とはいえこの国の守護神でもありますので」

「追放……か、もうだいぶ昔とはいえ今でも鮮明に思い出すよ、プリシラと国が私を討ち滅ぼしに来たあの日を」


「この際だから直球で言います、今の貴方はあの時よりも深刻な状況ですよ」

「……かもな、ローズマリーでもそんな事を言いそうだ」

「雷神トゥルギウス……貴方がそれくらいする程ですから規模は私達の計り知れない物ではないでしょう、しかし貴方の相棒達と組めば出来ないことなど……」


「ダメだ」


「確かに相棒は強い、ハグレ王国は強い」

「でもいつまでも頼る訳にはいかない、あの国に気遣ってるわけじゃない、王としての私の意地だ」

「………それも悪く言えば、ただの私の我儘なのは理解している」

ヅッチーはふぅと息を吐いて、玉座に深く腰掛けた。
まるで疲れ切った老人のような様子だ。
だが、ヅッチーはそれでも諦めようとしない。
いや、既に心の中で答えが出ているのだ。
だからこそ、彼女はここへ帰ってきた
この妖精王国へ。

「かなちゃん、プリシラ、そしてこのヅッチー」

「もうハグレ王国にも滞在して長かったからこそ分かる、あの国の強さ」


「相棒はどこまでも『人脈』が強かった、時空に進出する前から数多の種族と結んでいるし、沢山の街や集落とも縁がある、ウチだってそうだ」

「……この国は違う、プリシラが派閥を利かせて色々手を回してくれているがそれはあくまで商売上の繋がりでしかない」

「あの戦争以降、皆も色々成長したがそれはほぼ経営学や加工術の商材側だ……元々戦いが得意な奴らじゃない」

「城の近くの大砲は貴方が作らせたのですか?」

「いや、私達が居ない間に妖精達で作ったらしい、カタパルトからあそこまで発展したものだ」

「………なあ、かなちゃん」

「ここもいい国になったよな」

「発展とかは私はあまり手助け出来なかったが……その分、私が国王として意地でも守り通さなきゃならない」

「誰1人死なせたくないからこそ、誰にも頼らない」
妖精王国、玉座の間。
そこには2人の影があった。
1人はヅッチー、そしてもう1人はかなづち大明神。
2人とも、真剣な表情で向き合っていた。
そんな2人に、新たな訪問者が現れた。
ヅッチーはそれに気づくと、扉の方へと振り向く。
来訪者は、ケモフサ村の村長マーロウだった。

「おや、珍しい組み合わせですね」

「私も呼んだわけではない」

「事情は全て聞いているよ、雷神トゥルギウス……強大な力がここに来るかもしれないという予知にも似た感覚」

「実は私の所にも同じものが来た」

「………やっぱりな」

同じ雷を司る者として通じ合うものがあったのだろうか、あるいは大きな戦争の生き残りとして勘が冴えていたのか……ヅッチーと同じものを感じていたようだ。

「とすると、ハグレ王国でも動きがあるのか」

「ええ、今の所電撃の力を宿す物は皆」

「…その中で1番過酷な特訓をしているのは君だと聞いて、今回は上に立つ者同士として下見を」

「お互い突っ走っちまうな、守るべきものがある奴は」

ヅッチーが雷神トゥルギウスに対抗する為の力について……
しかし、そんなヅッチーの考えてる事に、かなづち大明神が待ったをかけた。

「恐らくだが、今こう考えたね」

「自分もプリシラのように変異出来ないのかと」

プリシラは過去に魔力を増幅させて、その身を成長してしまった事がある。
ヅッチーも同じような現象が起きないかと。
かなづち大明神はヅッチーの思考を読み取ったかのように言った。

「そうだな、その通りだ」

「あれくらい成長出来れば……」

「しかし貴方もプリシラも妖精としては特殊な部類であり、その性質も全く異なります」

「プリシラがあの大人びた姿になっていたのは、彼女が後天的な天才型であり、欠乏していた魔力を大量に得たことによる急成長が原因と考えられます」

「ですが貴方の場合は逆に先天的、最初から充分に魔力が行き渡っており……逆に言えばここから変異することは無い」
かなづち大明神はヅッチーの考えを読み取りながらそう告げる。
それに対してヅッチーは、どこか納得したような表情を浮かべて、小さくため息をついた。
プリシラの時は、プリシラ自身が魔法に関して知識を与えられたので、自分でも制御出来るようになれたがヅッチーにはそれが無い。
更に言えば、プリシラと違って、自分の力を完全にコントロールする事は難しいだろう。

「そもそも貴方の場合、妖精王国の女王という立場もありますから、迂闊に変身などしたら国が混乱しかねない」

「ただ、私も貴方も、もう1つだけ忘れている事がありますよ」

「もう1つ……?」

「それは……そう、あの時の事です」

「あの時……ああ、そういえば相棒も…」

過去にハグレ王国でも似たようなことが起きていたことを思い出した。
王より強い家臣たちに自分の立場が不安になった王は、手を尽くして家臣達を見返したいと願っていた。
そんな時に、相棒である王は、願いに応えようと自らを犠牲にし、己の存在そのものをかけて家臣達に勝負を仕掛けた。
結果は、引き分けに終わったが、その時の相棒の行動により、王の気持ちは晴れ、結果オーライとなったのであった。
だが、ヅッチーと相棒の関係ではそれは叶わない。
ヅッチーは、ふと疑問に思った。

「雷神の事で騒ぎになっているのは私だけじゃない、マーロウはそう言っていたな」


「この国に帰ってからしばらく外の様子は見てなかったが、一体どうなってる?」

「それはもう結構な騒ぎになってますよ」


「サイキッカーのヤエさん」

「普段やらない滝行に瞑想までしてます」


「帝都召喚士協会のメニャーニャさん」


「もう3日も徹夜して何十m長のゴーレムを開発しています」

「星の守護者マリオン」

「数年ぶりに宇宙船を調整し、自身も時空の力を得て数百年越しのバージョンアップをしているとか」

「今挙げたのを並べた通り、電撃に特化した方々全てがヅッチーと同じように雷神の接近を予知しています」
かなづち大明神はヅッチーの質問に対して、ヅッチーの知らない情報を次々に挙げていく。
まるでそれは、ヅッチーがハグレ王国へ帰る前に、既に調べ上げていたかのようだ。
ヅッチーは、感心するように何度も首を縦に振った。
同時に、これだけの生物や規模で察知し行動に移している事からも深刻さが伺える。

「かなちゃん」


「私は一体どうしたらいい?」

「どうしたらいいなんて、それこそヅッチーらしくもない」

「決まれば稲妻のように、何も考えなくてもやり通して一直線で決して信念は曲げない」

「それがこの国を作った貴方だったじゃないか」
ヅッチーはかなづち大明神の言葉を聞いて、ハッとした。
そして改めて自分が何の為にここに戻ってきたのか、思い出す。
ヅッチーは、玉座から立ち上がり、大きく息を吸い込む。
そして、力強く、宣言する。
玉座の間に響き渡るように、大きな声で。


「誰か!!誰でもいいんだよ!!」


「ヅッチーはこの国を守らなきゃなんないんだ!ハグレ王国にも頼らず、この国の力で!」

「誰でもいい!!なにかしてくれよ!!」


「…………本当に誰でもいいなら、俺がここに居る」


「あっ、お前!!」



「たくっちスノー!」


「よっ」

いつの間にか背後に居たのは、マガイモノ王国国王、たくっちスノー。
その彼の手には、小さな木箱があった。
ヅッチーは、彼がそれを持っているのを見ると、目を丸くした。
しかしすぐにヅッチーは、彼に詰め寄る。
ヅッチーは、珍しく怒った様子を見せる。

「んだよ、なんかヤバそうだってかなちゃん様が言うんで菓子折りつけて、わざわざ国王としてお前の国にやって来たんじゃねえか」

「次から次へと変な王様がここに来るよなこの場所は……」

「ああうん、カグラギ・ディボウスキがここに来て同盟結んだんだって?」

「おや、知ってましたか」

「だって俺、ぶっちゃけるとカグラギと共謀して同盟国になるように仕向けたもん」

「この国の王は天才的な交易の才能があるから手を組んで損は無いって」

「異世界の国がたまたまヅッチーを見て同盟交渉までするなんてそういう事だろうと思ったよ」
ヅッチーは、かなづち大明神の話を聞いていた。

彼女は、かなづち大明神とたくっちスノーの会話に、聞き覚えのある名前が出てきた事に反応を示す。
トウフ王国の王殿にして、今はかなづち大明神の弟子であるカグラギ・ディボウスキ。
同盟を結んだ数日後も今も尚目を光らせており、話を聞いていることは確かだろう。

「でもお前が来てくれてちょうど良かった、聞きたいことがある」


「雷神トゥルギウス……だろ、元よりその為にかなちゃん様に呼ばれて来てるのでな」


………

「雷神とか女神とか、極たまに神様(メイドウィン)でもうっかり歴史に残っちまうやつはいる、雷神トールも全能神ゼウスも皆目立つ真似をしちまったうっかりさんだ」

「トゥルギウスもメイドウィンなのか?だが……」

「お前の考えてる事も分かる、けど実際は創造するだけがメイドウィンじゃない」

「時々、ほんの時々だが別世界に降りたってその世界を気分で破壊して回るようなメイドウィンもこの世には存在する。」

「そして、全て消滅しきれずにうっかり歴史に残っちまった奴はこう呼ばれる」


「『破壊神』……と」

「だが破壊神が歴史に残る奴はほんのひと握りだ、俺の世界でも伝わっているのはシヴァやマハーカーラ等、簡単に数えられる程度だ」


「………トゥルギウスはどうだ?」


「そうだな………俺の見た限りじゃ、絶対に後は残さないタイプだ」

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