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*3*
ギイイ……
召喚士協会の地下深く。
メニャーニャは5日間も外に出ず整備と作成を繰り返していた。
そこに入ってきたのは、茶髪に染めて白衣を着て女装したフェイス・ジスクード准将だった。
「相変わらず研究詰めか、立場的にアンタは過労死されたら困るんだよ」
「とりあえずなりきってみたが、アンタの真似は出来んな、特に身長を伸ばすことは出来ても縮ませることは………」
「フェイス准将、余計な事しか言わないなら出てってください、殺しますよ」
「はいはい……エステルの事は分かっても相変わらずお前の事は分かんないな」
「猿真似しか出来ない貴方には先輩の事も理解出来ませんよ、私だって分かりませんから」
「…………雷神トゥルギウスってのがどんだけやばいのかは知らん」
「が、それを予知程度でデカいゴーレム作って防衛計画とは、現実主義者のお前らしくもない」
全長20m超、これが命令一つで自在に動くとなると数年かかってもおかしくない、それを今80%までこぎ着けている。
「あの国にはメイドウィンも居ます、その方から色々聞きました」
「メイドウィンが他の世界を滅ぼすことは、成功してしまえば犯罪にならないと言いました」
「逆に言えば失敗すればお縄になるのか……どうしてそんなルールになっていると言っていた?」
「世界1つと言えど規模は人口数百万、それを1人で滅ぼすのは面倒だから、普通はやらない事の方が多いから……だそうです」
「ふーん、要するに食い止めちまえばいいと」
「………なんでどこもかしこもこんな調子なのか、は〜」
「エステルから伝言だ、暇が無くても飯食いに来いだと」
「聞いてるといいが」
………
そして妖精の森では、かなづち大明神がマガフォンで連絡を受けていた。
「ああ、はい……そちらも無理しないでくださいね」ピッ
「メニャーニャの奴本当に5日間徹夜で家にも帰らずゴーレム作ってるのかよ」
「どこもかしこも1人で突っ走って……他の人に無理をさせないようにするのはどの国も変わらないみたいですよ」
「皆なんとなく感じてるんだな、今までのように奇跡すら起こる気配もないと」
ヅッチーとたくっちスノーは空を眺め、いつ起こるかも分からない『それ』を不穏に感じていた
いつもより静かな妖精の国。
妖精達もどこか不安そうな顔で森を見つめている。
「トゥルギウス自体は既に世界で反応はある、いつここに来るかも分からない」
「流石に妖精達も不安になってきている……ヅッチーがなんとかしなくちゃならない」
「それでお前も数日間もめっちゃくちゃな修行してんのかよ……」
「ま、本気でメイドウィンとタイマンする気ならそうもなるか」
たくっちスノーは納得しつつも呆れ気味に言う。
ちなみに現在時刻は深夜。
普通の人間なら寝静まった頃合いである。
メニャーニャが寝ずにゴーレム作成を続けている間のように、ヅッチーを初めとした雷属性を扱うものはいつ何が起きてもいいように、特訓をしていた。
「そうだ!この前見た一撃、あれを習得したい!」
「あれを?あれはちょっと難しいと思うぞ?」
「それくらい出来るようにならなきゃダメだ!それに……」
「出来るはずなんだ、ヅッチーだって、プリシラぐらいの成長が……」
……
メニャーニャがゴーレム作成に勤しみ始めて6日目。
それは唐突に現れた。
ゴゴゴッ……!! 地震のような揺れと共に大地が震える。
木々がざわめき、鳥達が慌てて飛び立つ。
そしてメニャーニャが作業をしていた場所からは、遠く離れているはずの妖精王国がはっきりと見えるほど巨大な何かが近づいている。
大地が持ち上がっているのだ。
「あれは……!?」
「うっわ、流石ハグレ王国を1番リスペクトしてるマガイモノ王国のやることだ、派手だね」
「フェイス准将……?」
「お前はずっーと篭もり切りだったから気付かなかっただろうが、3日前からあの調子だ」
「…………」
「こりゃ、あっちもどうなるか分かったもんじゃないな」
「お前、外見てこい」
「私を外に出す口実にしては短絡的過ぎますよ」
「バン」
その瞬間、メニャーニャは後ろから頭上へ弾丸が打ち込まれた。
少し仰け反りながらも、振り向き、煙が出たばかりの魔銃を見る。
「いつもだったら背後でこんな至近距離でも避けられるお前がこの始末だ」
「更に魔術ってのは2日3日寝ない集中力の低下だけでここまで耐性が落ちる、炎、氷、雷なんでも耐えられたのがお前のはずだぞ」
「今回は准将として言わせてもらうが、無理してレベルが落ちるくらいならもう何もするな」
「自分が迷走していることくらい俺が言わなくても分かっているんだろう」
メニャーニャは黙ったまま俯いている。
フェイス・ジスクードはその姿にため息をつく。
そして頭を撫でようとしたが、その手が途中で止まる。
今のメニャーニャの表情は、まるで泣き出しそうで。
今にも壊れてしまいそうな程に脆く見えたからだ。
「フェイス准将」
「私達は神と戦った経験が無いわけではありません」
「この世界の八百万の神の数体、メイドウィンだってありますし……何より、私やハグレ王国は魔導戦争でその中の頂点であるカーレッジ・フレインにも2度勝利しています」
「雷神トゥルギウス……メイドウィンとしては過去に倒したカーレッジよりも明確に格下の存在にも関わらず……」
「私は恐怖を感じています」
「このままでは全員勝てないかもしれない、そう思っているのです」
「……」
「だからと言って、私が諦めたら、先輩が帰ってこない気がするんです」
「……はぁ」
「お前、まさかとは思うが、エステルが死ぬと思ってんのか?」
「そんな事、思ってません」
「ただ、私にもこの街を守る責任があるんですよ、おちおちと泣き言吐いて国にも先輩にも頼っていられますか」
「………協会の悪魔も、随分と丸くなったもんだ」
「古代、恐竜は環境崩壊によって絶滅し変わり果てた大地から新たな生命が芽生えた」
「今回のことはきっと世界の為になるな……なんであろうと」
……
「なあ、どうにか出来ないか?」
「流石に種族の限界を超えることなどは……」
「限界を超えたいなら、限界を作らないことだ」
「!」
「俺が管理している世界の、あるスポーツ選手の言葉だ」
「たくっちスノーさん」
「他所の世界のメイドウィンに対抗する為に各々で立ち向かわないといけないんだろ?」
「何より、今あいつは……でち王の奴は運悪く他所の世界まで行っちまってる、時空ってのは2日3日で帰れるような場所でもない」
「………今回はデーリッチやハグレ王国の大半抜きでやるからこそ、お前や帝都共が焦ってるのも分かるけどな」
妖精王国の首都。
そこでたくっちスノーは妖精達に事情を説明をしていた。
妖精達も事態の大きさに戸惑いつつも、今まで通りでいいというたくっちスノーの話に安心しているようだ。
たくっちスノーは妖精達の不安を取り除きつつ、同時に自分の不安も取り除くためにここに居た。
そして妖精達の前では平静を保っていたものの、内心はたくっちスノーも軽く不安視していた。
(俺はメニャーニャが不安がっていた理由も、プリシラが不安がる理由も、妖精達が不安がる理由も全部分かってる)
「……」
妖精達には、どうすることもできない。
メニャーニャが徹夜続きで寝不足であるように、たくっちスノーが睡眠を取れていないように。(まあこいつは寝る必要無いのだが)
自分達も、他の誰かを心配する余裕など無い。
………
「時空のデパートからデッカい発電機と避雷針を買ってきた」
「セッティングすれば雷よりずっっとデカいエネルギーがここから出てくる、お前は魔力を吸うよりこっちの方がいいだろ」
「ああ、雷には何度も直撃したことはあるが全然足りないくらいだったからな」
「たくっちスノー!こんなもの与えて、もしヅッチーに何かあれば……」
「何かあれば、のリスクで止まるような王様じゃないんだろコイツ」
「安心しとけ、妖精王国は俺が浮かして被害が及ばないようにしておくから」
……
「あれから3日か……ヅッチー見てないが、どんな調子なんだろうか」
あれから3日。
たくっちスノーが最後に見たときから、ヅッチーは姿を現さない。
時々発電機から電撃が落ちてくる音はしてくるのだが、それっきりだ。
だが、妖精王国はいつもと変わらない。
街も、森も、空も、そして城も。
そして、それは突然現れた。
ゴゴッ!! 大地が揺れ、木々がざわめく。
その瞬間、妖精王国を覆っている結界のようなものにヒビが入り、砕け散った。
その瞬間に、たくっちスノーは妖精王国の至る所から人の感覚を感じ取った。
「トゥルギウスですか!?」
「いや違う、ただの盗賊団共だ……どっからか留守の噂聞いたな」
「ヅッチーの邪魔になるような事はしたくねえ!ちょっくら俺がドクロ丸で……」
「問題はありません、たくっちスノーさん」
「プリシラ……?」
「ヅッチーは今この国の為に、私達の為に命を懸けている」
「でもこの国は私達の国でもあり、ヅッチーも私達のもの、黙って見ているわけにはいきません」
「………」
「お前らは何が出来るようになった?」
「私はただ体と魔力が成長しただけで強くなったわけではありません」
「これが妖精王国流、ハグレ王国にも帝都にも貴方にも真似出来ない私の戦い方です」
そう言うと、プリシラは手をかざす。
すると、彼女の体の周りが光り輝き、やがて光が収まるとそこには先ほどまでの彼女とは違う姿があった。
そして、手には大きな弓を持っていた。
彼女はそれを軽々と構えると、矢を放つ。
ヒュンッと風を切る音が聞こえて、数秒後に遠くで悲鳴が上がる。
「……!」
「今何を飛ばした?」
「ただの信号です、今頃大砲の雨と傭兵が盗賊団へ向かっているでしょう」
「…………」
「傭兵!!?」
「雷神トゥルギウスの話は世間にも知れ渡っています、戦える妖精が少ないなら他所から借り出せばいい」
「私が国と共に作り上げてきた『プリシラ商会』」
「金の切れ目が縁の切れ目……なら、常に金貨を握れていればその縁をずっと維持することが出来る」
「金が人を買い、力を買い、壁を買い、暮らしを買い……命を買う」
「金という力を握り続ければ、国も人も永遠に離れることは無く、常にコントロール出来る」
「……」
「私は元々、国を守る為に手に入れた」
「国を富ませ、国民に豊かさを与え、国の治安を維持する」
「それが参謀の私の役目であり、妖精王国の戦い方」
「だから、私は国とヅッチーと運命を共にする」
「プリシラ、貴女いつここまで……」
「いつかを想定して、何回も何回も投資した結果です」
「改めてこの国、敵に回したらめんどいかもしれな」
その時、誰も目を開けない程の眩い閃光が周囲を襲った。
「何!?」
「また雷が落ちたのか……にしては規模がデカすぎるぞ!!」
「まさかトゥルギウスが!?」
「いや……あれ、森からだ!!」
「ヅッチーの所!」
たくっちスノーが森の方へ視線を向けると、巨大な木が生えている。
その木から放たれる電撃は周囲の木をなぎ倒し、辺り一面の草花を燃やし尽くしていた。
木の幹には大きな穴が開いていて、そこから妖精達が飛び出してくる。
そして、妖精達はたくっちスノー達を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「森が……周囲の森が!」
「あの馬鹿!!最大出力を超えてぶっぱなしたな!?半分の出力でもジャングル一帯を黒焦げにするレベルだぞ!!」
「づ……ヅッチー!!」
「ヅッチイイイイイイ!!!!」