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*4*
×日。
巨大な雷が森を襲い、全てが焼け野原になった。
妖精王国は宙に浮かせていたので被害は一切無いが、雷が落ちてきたところにヅッチーが居た。
流石に帝都も召喚士を向かわせ、フェイス准将もメニャーニャを引っ張り出して焼け跡に向かわせた。
そして……
それを見つけた。
…………
「いや………いやいやいや」
「なんで貴方が絡むといつもよく分からない事になるんですか」
「こればっかりは俺のせいじゃねーぞ」
メニャーニャとたくっちスノー、フェイスの三人がかりで見下ろしているのは、1つの黒い物体だった。
「ハグレ王国の奴らはいつ戻ってくるよ」
「随分遠くまで行ったので……マリーさんには連絡は入れましたが、トゥルギウスがここに来るまでには間に合わないと断定できます」
「確かシュゴッダムって国まで行って時空王国同盟に行ってるんだったよな、あれは大分かかるぞ」
帝都の外れで、メニャーニャは腕を組んで考える。
目の前には黒い何かがあるのだが、これは何なのかさっぱり分からなかった。
それは黒くて四角くて、真ん中に小さな穴があって、上の方が少しだけ出っ張っている。
しかしそれがどういう形をしているのか、どう使うものなのかが全く分からない。
「……あ、面倒くさそうなのが来たので暇なら相手してくださいたくっちスノーさん」
「え、俺かよ……なんだよその目、分かったよ言ってくりゃいいんだよ」
……
「ヅッチー……」
「うおっ」
プリシラはほぼショックでやせ細……いやもう棒人間とかそういう領域になっていた。
「ヅッチー……」
「よくここまで歩いてこれたな、ちょっと俺でも同情する、担いでやるから乗れ」
……
「おお、なんか栄養を吸われた花みたいになってますね……いつもなら皮肉の1つでも言いたいところですが、状況が状況ですからね」
「マジで氷みたいに死にかねない状況だから優しくしてやれよ」
「まあ、呼んだの私ですしね……ちょっと見てるだけでとりあえず分かりましたよ」
「先に結論から言っておきますが、彼女生きてますよ」
「えっ!!?」
「うわっ急速に栄養取り戻した気持ち悪っ!!」
急に元気になったプリシラを見てメニャーニャはドン引きしたが、一応説明する。
そして彼女は自分の状況を把握できたらしい。
プリシラは改めて辺りを見回してから、ようやく落ち着いたようだった。
「通常の落雷のおよそ100万倍のエネルギーを持って降り注いだ落下地点に置かれていたこの黒い物」
「十中八九ヅッチーで間違いありませんが、これを軽く調べたら」
「心臓の鼓動音が聴こえました」
「は!?」
「この中に居るんです、遅くなったり早くなったり、大きくなったり小さくなったり、日に日に表現が変わっています」
「表面を触ってみると汚れも何一つない上に非常に硬い……この黒い部分は焦げではなく、黒曜石にも似た膜なんです」
「膜……って、お前それ………」
「そうです……生物学上信じられない状態なのですが……」
「あの黒い物体は…………言うならばヅッチーの蛹なんです」
妖精は主に花から生まれ花に還る。
昆虫のように幼虫や蛹といった段階を踏むことは通常なら有り得ない。
しかし妖精という存在自体がそもそも通常ではないのだ。
メニャーニャもたくっちスノーも、その可能性について考えなかったわけではない。
だが妖精女王であるヅッチーが、自らその可能性を否定していた。
しかし目の前に確かに存在する黒い物体が蛹のように鼓動をしているのが分かる、そしてそれの中に入っているものなど……
「あの野郎……マジで限界を超えやがった」
「超えるのはいいですが問題は山ほどありますよ」
「通常の蝶でさえ、蛹から羽化して殻を破るまでに10日以上はかかるといわれています」
「妖精といえど、それは同じでしょう」
「この生き物は……恐らく2週間近く、いやそれ以上……下手したら1ヶ月近い時間、この中で生きている可能性があるんですよ」
「雷神襲来に余裕で間に合わねえじゃねえか!!」
「流石にこういうものにさっさと目覚めろとも言えませんからね」
「けど、アイツは今までの妖精にも……下手したらプリシラ以上の活性化をマジでやっちまった」
「この中から出てきたら……想像だにしない『妖精』という範疇を超えた物が出てくるぞ」
「あくまでそれが間に合えば……の話ですけどね」
「ああ……なーんでエステルもシノブもハグレ王国ついてっちゃうかな〜!!あの国に縁があるのも分かるけど取り残された俺らの始末も考えてくれよ!」
「私に関してはフェイス准将が残るように言ったんじゃないですか」
「士官までついてかれたら上が回らん」
「正直ヅッチーやお前らの件が無かったら俺もデーリッチの所行きたかったよ」
プリシラとメニャーニャ、そしてたくっちスノーと別れて、帝都に戻った二人はすぐに帝都防衛軍司令室に顔を出した。
そこには帝都防衛軍のトップである中将と少将、それに将軍たちが集まっていた。
帝都の守りは彼らに任せておけば問題無いだろう。
何より今は各国への救援が最優先事項だった。
「そっちの国から誰かしら援軍は出せないんですか、貴方一応マガイモノ王国の王じゃないです」
「もうやってるよあちこち……ハグレ王国残党ですら不在の間に何かあったら俺の首が飛びかねん……いや首無いけど!」
「が、相手は1人とはいえ神がその力で本気で世界を滅ぼそうとしている、本気じゃなかったらそもそも滅ぼしになんて来ない」
「少しづつ小さいところから潰しに来てるのはマメだが、被害が酷くなるのは俺がこの世界の神の立場なら御免だな……」
「なるほど、だからまずは妖精国を……というわけですね」
「そういうことだ」
「しかし……この世界の神様、世界樹の神や福の神とか見てきたので今更な話ですが…」
「言いたいことはわかるよ、この世界のメイドウィン何してるんだってことだろ」
「俺も創造神(メイドウィン)になって気付けば結構経つが、この世界のメイドウィンを見た事は1度もない、雪でも見たことないくらいだ」
「まあここは他所の世界から沢山召喚されて置き去りなんて事件が何千年も続いてたような場所だ、時空になんかした所で助けは来ないだろう」
「だからこうやって我々だけでなんとかしなくてはならないんですよね……大事な戦力が欠けている時に」
メニャーニャは帝国から持ってきた物資を確認しながら、そう愚痴った。
プリシラは安心で吹っ切れて妖精の国へ行ってしまった。
帝都には現在、黒い蛹だけが残っている。
………
「聞きましたよ、ヤエさんを超能力て妖精王国浮かせて酷使したそうですが」
「無理矢理やらせたみたいに言うな、あいつも鍛錬の為だからな」
「…………お前のゴーレム、俺が見てみたら無駄な要素を省いて100%完成までこぎつけられそうだな」
「そうですか、本番も無しに導入するのでそれでも勝てるか怪しいですが……いえ、勝てなくちゃ困るんです」
「ここは先輩の、ハグレの、私達の」
「時空の1つの居場所ですから」
「私達は絶対に死ねない、先輩が安心して帰ってくる為にも」
「私達は世界を守り、生き延びなければならない」
「ああ、何せ相手はカーレッジみたいに舐めプで世界規模で戦争してきた訳じゃない、本気の神だ」
「ある世界の言葉なんだが……神を崇める者。神を否定する者。神とはなんの関わりもない者。神はどれを見逃すと思う?」
「答えは全て殺す、だ。」
「だから破壊神は歴史には基本残らない、遺す為の導すら跡形もなく消えてしまうのだから」
メニャーニャが机の上に広げたのは、今までの黒い蛹に関する資料。
たくっちスノーが調べた内容。
そしてたくっちスノーがまとめた考察。
メニャーニャがまとめあげた、妖精の蛹に対する対策。
それら全てが、ここに集まっている。
帝都に、帝都防衛軍に、そして世界中に。
そしてそれは同時に、全世界が雷神トゥルギウスへ対抗する準備を整えたという事でもあった。
……
「ただ、1つ妙なことがあります」
「なんだ?」
「貴方が妖精王国と組ませたくて連れてきたというトウフ国のカグラギ・ディボウスキという男」
「調べてみればあの王や国はシュゴッダムと同じ世界であり、同盟も結んでいる」
「ハグレ王国をシュゴッダムへ向かうように命じたラクレス・ハスティー王にも連絡入れましたが、素っ気ない返事しか来ていない」
「カグラギとラクレスの関係は分からなくもないが、それが雷神トゥルギウスの件は偶然の一致で無関係だろう」
「ともなれば、カグラギがわざわざ妖精王国をほぼ観察して、せっかくの同盟を潰すような真似はしない」
「カグラギ王殿は確かに二枚舌だし、自国を守るためなら手段は選ばない男だが、王としての筋は見せる男だ」
「妖精王国の件は本当に偶然だろう、むしろそれならそれで良い、俺達がやる事は変わらない」
「しかし、そうなると別の問題があります」
「別の問題?……ああ」
「雷神トゥルギウスを倒したところで、この世界は問題が全て終わる訳では無い……という事にもなりかねない事です」
と、その時たくっちスノーのマガフォンが鳴る。
「どうした?」
「カグラギでございます、周囲の探索をしていたクロダさんより通達が」
「雷神トゥルギウスが………遂にこの地の周辺で確認なされました!半日もせずこの妖精王国やそちらの帝都へと向かわれるとのことです」
「………ちっ、いよいよ来やがったか、おいカグラギ、お前も一応チキューに帰る準備しておけ」
「ヅッチー殿はどうなさりましたか?」
「…………あいつなら大丈夫だ、もうちょっとしたら」
ブツッ
その時、突然マガフォンの通話が切れた上に電気が全て切れた。
突然の停電だ。
「停電!?一体何が……」
だが、次の瞬間、妖精王国上空に巨大な魔法陣が現れた。
そこから現れるは……
空を埋め尽くすほどの雷の竜。
轟音と共に現れたのは……
雷神と呼ばれた存在が見えた……
「ついに現れやがったか!」
「総員戦闘配備!!」
「しかしこれは……」
「予想以上にデカいぞ…………」
「こんなの、どうやって倒すんだ」
「とにかく、やるしかないだろ!」
「砲撃隊構え!!目標雷神トゥルギウス、撃てぇええ!!!」
召喚士達は遠くにいる雷神へ攻撃を放つ。
放たれた炎や氷、風や光、様々な属性の攻撃が、その全てが届く前にかき消された。
まるで、見えない壁に阻まれているかのように。
そして、雷神がこちらを見据える。
雷神から、幾千もの稲妻が走った。
それは召喚獣や兵士達を焼き焦がし、一瞬にして命を刈り取る。
そして……
「……うっ……」
「なっ……」
「そんな……」
召喚術師達は、皆倒れた。
「…やはり、桁が違いすぎる」
「メニャーニャはあのゴーレム引っ張り出せ!!俺はヅッチ―の繭の方を見てくる!!」
たくっちスノーが駆けだして奥へと向かっていくが…最後のドアノブに触れたとたんはねっかえる。
「っ…今のは、静電気?あんな遠くからとんでもない量だ…」
そして、たくっちスノーが扉を開けると……そこには。
黒い繭に無数の工具や機械が吸着された姿があった。
「マジかよ…電力が強すぎて蛹が巨大な電磁石になってやがる」
「一体…中はどんなことになってやがるんだ…」
たくっちスノーが、黒い繭に触れようとした時だった。突如、電撃が走り、触れた手が激しく弾かれる。
思わず、彼は手を離してしまった。そして、繭が揺れる。
中の蛹が動き出したのだ。
黒い蛹が、割れる。
中から出てきたのは……