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*5*
「蛹が割れるぞッッ!!ヅッチ―が出てくる!!」
黒い蛹は強い電力を発しながら少しずつ、少しずつその殻を割っていきました。
そしてついに中から出てきたのは……。
――妖精
妖精といっても羽の生えた小さな子供ではない。
背中に蝶のような透き通った四枚の翅を持ち、髪の毛は乱れながらも背中まで伸びきっていた。
顔立ちはまだ幼さが残るものの、大きな瞳と口元には意志の強さを感じさせる力強さがあった。肌の色は白く、手足や胴体などは華奢な印象を受ける。
そして…体は、成人した女性のように成長しきっていた。
「ヅッチー」
「よう、上手くいったみたいだ、間に合ってるか?」
「…ギリギリ間に合ったって感じだな、話してる暇もありゃしねぇ」
「雷神トゥルギウスは?」
「妖精王国に向かってる」
「そうか、なら急がないとな」
その時だった。
――パキィンッ! 甲高い音が響いた。
外で何が起こっているのか分からないが、何か良くないことが起きたに違いない。
その証拠にこの家の中で、窓の外を見つめる人影が二つあった。
「たくっちスノー、ちょっと頼んでいいか?」
「どうした!まだ足りんって言うんじゃないだろうな!」
「私が出てきたあの黒い蛹の抜け殻…あれ全部持ってってかなちゃんに渡してくれないか?」
「まだ、使えるかもしれない」
それは、妖精達にとってみればあまりにも巨大な存在だった。
その体躯は妖精達の数十倍の大きさを誇り、その巨体を揺るがしながら妖精の森へと侵入していたのだ。
だが、妖精達は恐れることもなければ逃げ惑うこともなかった。
妖精達がその怪物に立ち向かっていく様はまるで……騎士そのもの。
森の入り口を守るように陣形を組み、勇敢にもその怪物に立ち、無謀にも雷神トゥルギウスに立ち向かう。
「私の国でプリシラ達が戦っている、私を待っている」
「全てこの時の為にやってきたんだ…」
「おや、意外と早い目覚めですね」
「!」
「かなちゃん様!?」
後ろを見ると、かなづち大明神がいつの間にか後ろに待機していた。
「うん、スタイルもいいしいい女の体つきになりましたね」
「勿論、精神も」
「ああ、なんか進化してから悩みがぶっ飛んだ気がするんだ」
「うん、それでこそヅッチーの顔だ」
「………それでかなちゃん」
「ええ、任せてください、2分で仕上げてきますので」
「よし、行ってくる」
ヅッチーは羽を広げ、目にも止まらぬ速さで彼方まで飛んで行った。
「………へっ、やるな」
「たくっちスノーさん、あの時ヅッチーに用意したのただの発電機じゃありませんね?」
「当たり前だろ、相手は破壊神だぞ?」
「普通にやらせるんじゃとても勝てねーよ」
「私もあちこち回ってアプローチは大変でしたよ」
「マーロウさんの武器を新調し、ヤエさんの超能力を促進させ、マリオンさんのアップデートまでして、貴方もゴーレムを弄ってきました?」
「おう、ここまでやればもう俺らが手出する必要も無い」
「勝つぜ、この戦い」
「そうですね、そう信じたいですね」
雷神トゥルギウスは妖精の森の上空を旋回し、やがて雷雲を呼び込み、徐々に空を覆いつくしていく。
その様子はまさに天変地異、空に浮かぶ黒雲から幾つもの稲妻が地上に降り注いでいった。
その光景を見ていた妖精達は恐怖に怯え、中には泣き出す。
プリシラも応戦していたが、既に傭兵のストックも尽きて、満身創痍の状態だった。
「くっ……このままじゃ……」
雷神トゥルギウスへの意思疎通は出来そうにない。
文字通り大きな災害が人の形をして襲い掛かっているようなものなのだから。
その時だった。
――パキィイインッ!!
――バリィイッ!!!!
――ピシャアアアンンッッ!! 突如として降り注いだ落雷、そしてそれと共に響き渡る轟音と閃光。
その場にいた妖精達は皆耳を押さえ、目を瞑る。
そして、妖精達は見た。
空に浮かんでいた黒い影は、その姿を消していた。
そして……妖精達の前に立っていたのは、妖精でもなければ人間でもない。
そこに居たのは――妖精女王ヅッチー。
「ヅッチー……なの?」
「よう、待たせたな」
「その姿は……本当に」
「ばっちり仕上げてきたぜ、よく私の国を守ってくれた」
「やっぱりお前は、よく出来た私の参謀だよ」
「お前らもよく頑張った、後は任せろ」
「づ……ヅッチー……❤」
プリシラは涙を浮かべながらヅッチーに抱き着く。
「おや、彼の言っていた通りだ」
「随分変わったのねー」
「それはマリオン達も同じだがな……」
(……ああ、電気信号を通して分かる、遠くに居るあいつらの感覚)
(あいつらも順当に強くなってる……そして、自分の番を待機している)
「その前に、ヅッチーがブッ倒しちまうけどな」
(………凄い、ヅッチーの電力が何倍も増幅してるのが分かる、溢れかえって盛れ出している)
(………というより、静電気が常に盛れ出してて、滅茶苦茶痛い)
――――
妖精王国は妖精達の住処であり、自然と妖精達のエネルギーが集まってくる。
妖精達の意思とは関係なく、無意識のうちに、勝手に集まってくる。
妖精達もそれを理解しており、それを自然に還している。
「たとえ相棒がいなくても、この世界を、この国を…」
「災害だろうが、魔獣だろうが……神であっても」
「私はこの手で守り抜いてみせる」
「行くぞ、雷神トゥルギウス!!」
ヅッチーの体からは膨大な量の電流が流れ、それが更に膨れ上がっていく。
「おお……ヅッチー……!」
「私は強くなるために魔力の限界を……いや」
「電力の限界を作らず、その先を追求して……電撃まで進化させた」
「!?」
ヅッチーを中心に色んなものが引き寄せられていく。
鉄製品、数多くの武器が回って集まる。
「こいつがヅッチーが進化して、脳内でも必死にシミュレーションして得たこれまでの電力を超えた電力」
「『電磁力』だ」
「さあ、雷神トゥルギウス……この国の王である私を怒らせたことを後悔させてやる!」
「いくぞぉお!」
「ぐおおおおっ!」
ヅッチーは両手で剣を握り締め、そのまま雷神トゥルギウスに突っ込んでいく。
「おりゃあああっ!」
磁力の反発で剣を弾丸のように飛ばし、トゥルギウスに突き刺す。
砂や水ですら高速で放てば石のように威力のある弾丸になる、これを磁石を放す力で武器を放っているのだ。
「………まだだ、メニャーニャ」
「お前の作ったゴーレム、しっかり使わせてもらうからな」
………
「ちょっとたくっちスノーさん!!」
「100%の性能を出すようにゴーレムを弄ったって……」
「部品が大体抜き取られているじゃないですか!!」
「そうカリカリすんなよって、それでもヅッチーに合わせて動くようにしといた」
「はあ!?中身も足りないのに起動するわけが……」
「め、メニャーニャ様!」
「ゴーレム………勝手に動いていきます」
「…………!!」
「凄いね♡電磁力♡」
「では、私も完成したアレを投げておきますかね!」
…………
「お……届いた届いた」
ヅッチーは磁力で帝都から投げ込まれた黒い剣を掴む。
それは自分の抜け殻から加工させた、黒曜石のように鮮やかな結晶。
「電磁石の刀!!」
「なあ、刀ってただ相手に当てても斬れないんだってよ」
「刀を敵に当てて……押し当てて引く、これで初めて斬った事になるらしい」
「だから………」
「敵の方から刀に押し寄せたら後は引くだけでいいんだよなあっ!!」
ヅッチーの体から発せられる高エネルギーの電力は、触れたものを静電気だけで軽い電磁力を生み出すように変換できる。
その力を存分に使い、迫り来る雷神トゥルギウスの攻撃をいなしていく。
「ふっ、はっ!!」
「ヅッチー……何してるの?」
「いや、見せ場は与えておきたいからな……来るぞ!」
「来るって……何が?」
…………
そして外では………
「流石にデーリッチの奴よりは万能じゃないから、沢山中間挟んでのテレポーテーションになるけどごめんね」
「問題はありません、トゥルギウスの雷を防げるだけでも新しい剣は大したものです……ふっ!」
雷を弾きながら、ヤエとマーロウが少しずつ近づいていくと………
「これは……」
「なにかに引き寄せられる!?私達じゃなくて……私達の剣と道具が!?」
…………
「おい、雷神トゥルギウス」
「この世界に喧嘩売ったのが間違いだったな!!」
ヅッチーは電磁力で全て引き寄せる。
宇宙戦艦も、ゴーレムも、剣も、鉛玉だって全て………
「一斉重力攻撃!!」
――ズオオオオッ!!
「なんだあれは……!」
「まるでブラックホールみたいに……全てのものを吸い寄せてる……」
空に浮かぶ巨大な黒い球体、それは徐々に大きくなりながら地上に降り注いでいく。
それはまるで天変地異。
妖精達は皆その光景に目を奪われていた。
――ゴオオォッ!!!!
そして、雷神トゥルギウスに直撃した瞬間、それは更に巨大化して………………
……
「トゥルギウス・メイドウィン・雷牙」
「別世界滅亡に失敗したお前は時空法に乗っ取り、ロストメイドウィンへ降格」
「自身が管理していた世界は責任を持って……」
【死んでもらった】
「……………」
…………
「いやはや!この度のご活躍は見事でしたヅッチー殿!」
「私共が開発した電磁力の剣は気に入ってもらえましたかな?」
「……カグラギ、私はかなちゃんに剣を作るように頼んだが」
「ですが!このカグラギ・ディボウスキ、かなづち大明神様へ自ら鉄加工の手ほどきを貰い、このまで発展するに至りました」
「これも妖精王国とトウフとの……」
「本当はハグレ王国が狙いだったろ」
「!」
「雷神の件は無関係なのは分かる、だがお前は本当は私たちと仲良くして、ハグレ王国と同盟を結ぶ口実が欲しかったんだ」
「なんせあらゆる生物、あらゆる分野が入り乱れてる国だ、甘い汁でも少しは欲しくもなる」
「………」
「けど、私が数日見ただけでも分かる、アンタはいい王様だ、相棒も気に入るだろ」
「こういう小手先使わないで、ちゃんと相棒に正面からぶつかってみろ」
「………アンタの国民が作った野菜、美味かったよ」
「………お気遣い、感謝いたします」
……
「あー、終わった終わった!」
「まるで予防接種を終えてきた後みたいなスッキリ感だ」
「………この国を、守れた」
ヅッチーは満足そうに呟く。
しかし、まだ戦いは終わっていない。
またいつこの世界が狙われるかも分からない、デーリッチ達が不在という隙を狙ってくる時空犯罪者だっているかもしれない。
ヅッチーの脳裏には、トゥルギウスの生物と思えない顔がちらつく。
(……まだ、まだやれる事はある)
ヅッチーは拳を握り締める。
この国を自分が守っていくのだ、軽い気持ちから始まり、大きく広がったこの妖精王国を……
「………が、ヅッチーは少し疲れた!ちょっと温泉にでも入ってくるか」
……
ヅッチーが温泉旅館に入ろうとすると、先客が居た。
「あ」
「ああ……貴方、デカくなったとは聞きましたが本当に生意気な体になりましたね」
「なんだ、メニャーニャも温泉入りに来たのか」
「ええ………そういえば私、雷神の件から1週間も風呂に入ってなかったので」
「流石にこんな状態で先輩に顔見せられませんので」
「そっか、じゃあ2人揃って電気風呂だな」
「洒落にならないこと言わないでください、私じゃなかったら殺人現場ですからねそれは」
ヅッチーはメニャーニャの隣に座り、肩を並べる。
すると、ヅッチーはふと思い出したかのように、自分の体を見回した。
………
「ヅッチー!!?デーリッチ達がいない間、世界にとんでもない事がって!!」
「あー大丈夫だ!ヅッチーが居たし、お前の国民も凄かったからな!」
「ヅッ……」
「おかえり相棒ー、なんかお土産とかあるか?こっちは土産話は山ほどあるけどな」
「…………えっ、どなた?」
雷神を打ち倒して、【神話】になった
妖精女王の数日の物語であった。
【ざくアクZ外伝 ヅッチー神話】
【END】