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傷つくことが条件の恋のお話
日時: 2016/04/09 15:38
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

どうも。皐月凛雅です。
今回は、高校生に登場してもらいます。
深い傷を負ったEIGHTEEN女子高生と、
いたって普通だけども普通じゃない男子高生と、
人気モノの男子高生がメインの高校生活のお話。
頑張りますから、小学校の授業参観に来た父兄のような、
温かい目で見守ってくだされば。

ー登場人物ー
・北川 優
 佐久間高等学校3年B組。社会の女王様のあだ名で、落ち着いた雅やかなお姉さま。男女関わらずに人気は高いようだ。テニス部のエースで図書委員会委員長。
・能澤 崇
 別に特徴のない優の同級生。彼はC組でいたって普通。剣道と空手なら誰にも負けないし、水泳とテニスとサッカーだったらできる方。でも面倒臭いから帰宅部。
・朝瀬 翔也
 『めっちゃイケメンで、むちゃくちゃイケボですんごく頼りになる』優のクラスメイト。家も結構な金持ちのお坊ちゃまで、文武両道の憧れの的高校生。


 ≪優 side≫
今から4年前の夏、私は大切なものを失った。
原因は私にあった。どう考えてもそう。
それなのに、それなのに彼の親は私のことを責めなかった。
蔑みもしなかった。私にあたることもしなかった。
ただ、泣きながら一言、
「ありがとう」
そう言った。
私にはそんな言葉をもらう権利などない。
私は貴方の息子の命を奪ったのに。
なんでそんなことを言えるのか、貴方の神経がわかりません。
その時以来、葬式にも出なかったから彼の親に会うことはなかった。
そして、私は心から誓った。
『私は、絶対恋に落ちるようなことをしない』
そうして彼との思い出を、心の奥に封印した。
自分の、心からの笑顔も。

4時限目、あんまり面白くない音楽科が終わり、音楽室から教室に帰る途中、
「ゆ〜〜う!!」
後ろから誰かがばんっと背中を押してきた。
ひょっこりと顔を出すのは私の唯一無二の親友、斉藤沙穂。
「沙穂。今筆箱でぶつかったでしょ。めっちゃ痛かったよそれ。」
そういって彼女を睨めば悪気なんてそっちのけで、すまんね、とだけ言った。
「それより聞いた?朝瀬って、A組の永井紗菜振ったんだってよ。」
「まあ、当然じゃない?永井紗菜ってあの派手なギャルでしょ。あんなのと付き合って長続きした方がおかしい。」
思ったことを、包み隠さずに率直に述べる。この口調が気に入らない沙穂は、その毒舌何とかしなよ、優、と苦笑してから続ける。
「まあ、永井さんって結構面倒臭そうだから付き合ってくれるまで朝瀬に付きまとって、朝瀬が諦めてやっと付き合えたってことじゃないの?」
「・・・、そんなに面倒なの?そのこ。なんか朝瀬に同情できそう。」
そんなに付き纏われていたのなら、あんまり話したことのない朝瀬でも、素直に可哀相だと思える。
「永井紗菜って、女王様気分でいる出しゃばりとか、女子力が半端ない人ってゆうような見た目だったけど、男子にはどう見えているのかな。」
素直に疑問を口に出してみると、じゃあ、と言って沙穂が上を指差した。
「今の疑問、莫迦男子に聞いてみる?誠と拓真、今日は屋上でお昼食べるらしいから。」
「ああ、そうね。聞いてみようか。」
そう答えると彼女は、優のお弁当持ってくるから先行ってて、とだけ言い残して教室へと入っていった。
沙穂と広瀬誠、山崎拓真、それに私は、中学時代の仲間で、4人一緒にこの高校を受験し、合格した。
いつでも一緒だった。今でも放課後になれば4人で新宿行ったり、誰かの家に泊まったりしてるくらいだ。
「誠、拓真。」
屋上まで行き、手すりに寄り掛かっている2人に呼びかける。
2人とも私を認識すると、ふっと笑って手招きしてくれる。
「なんだ、沙穂はどうした。」
誠が笑いながら、話しかけてくる。
「お弁当取りに行ってる。もうすぐ来るよ。」
「あいつはパシリかよ。」
「そうね。自主的にパシリやってくれて助かる。沙穂っていいね。」
「うわっ、出たよ。優の腹黒思考。女っていつみてもおっかねえ生き物だよ。マジで俺そう思う。」
「お前、ほんと擦れたぜ。もう少し大人しくしてればもうちょっとは可愛げあるんじゃねえか?」
拓真の言葉に少しカチンと来て言い返そうとしたタイミングで後方から声がかかった。
「あんただって人のこと言えないでしょ。このぐれ男。」
「うっせーよ。沙穂は黙ってろ、口デカ女。」
「それ、乙女な女子高生にいう言葉?もうちょっとは考えなさいよ、莫迦不良!」
「誰が不良だっての、俺より脳味噌ないくせに。」
これ以上やりあうと白熱しそうなので、そっと私は誠に目くばせする。
「こらこら、ご夫婦様。痴話喧嘩はどっか違うとこでやってください。こちらとしてもこんなに仲睦まじい様子を見ていると少々焼けるので・・・、」
にこにこしながらお世辞を投げかける誠。
「誰が夫婦だっての!!!」
2人一緒になって誠に怒鳴る拓真と沙穂。
拓真と沙穂は幼馴染で、小さいころから一緒にいるのだ。この二人の痴話喧嘩は、言ってしまえば恒例行事なのである。
「で。どうして男同士の貴重な時間を邪魔しにやってきたの?」
夫婦と言われたことでまだ拗ねている拓真が聞いてくる。
優がおにぎりを口に入れてまだもぐもぐしているところを見て、代わりに沙穂が説明してくれる。
「A組にさ、永井紗菜っているじゃん。男ってああいうタイプ、どういう目で見てるのかなあって、疑問ができたから聞きに来たのよ。」
「別にあんま気になんないけど。美人なんだろうなあとは思うけど、やっぱ遠目に見てて、気に障るような奴だとは思う。」
あんまり感情が入っていないこの声は拓真の声。
「気が強いのはわかるけど、自分の意見がしっかりしてるだけなのかもよ。自分に自信があるみたいだし。まあ、男はエロいからね。漫画なんかに出てきそうな美少女だから、付き合いたいと思う男子は多いよ。」
この、客観的な発言は誠のもの。
「美少女ならこんなに近くにいるのに、よくそんなこと言えるねえ。ま・こ・と?」
沙穂の口調には、はっきりと揶揄の響きがある。
「沙穂・・・、私のこと莫迦にしてる訳?凄くムカつく。」
実際に自分が美人だとか、綺麗だとか思わない。みんなが興奮して称賛するような要素は一つも持ち合わせていない。
「優は確かに美少女だけど、中身がめっちゃ黒いから・・・グハッ!」
間髪入れずに飛んだ私の〈怒りの回し蹴り〉のおかげで、誠は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
「あらぁ、お大事にね、誠。拓真も誠の対処よろしく。」
私がすたすたと屋上を後にしたせいで、沙穂が慌てて後を追ってくる。
次は、私が好きな和山先生の古文。早く戻って予習しよう。
そう心の中で唱えることで、静かに心の怒りを抑えた。

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Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.4 )
日時: 2016/03/20 17:36
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

 ≪拓真 side≫

優がどっかに行き、続いて誠もどこかへ消えたのに違和感をもち、ウロウロと学校内を探索していると、誠の怒鳴る声が上から聞こえてきた。
走って屋上まで行くと、誠と、同じクラスの能澤崇が言い争っていた。
彼らは、しばらく言い争うとゴンっと鈍い音が二発聞こえた。
そして、肩を震わせながら誠が僕の隣を通り過ぎた。
「なんで今頃・・・、壮也なんだよ・・・。」
キィィ、バタン。
「能澤。」
「今度はなんだよ。勘弁してくれよ。」
そういって額に手をやった。その様子は何となく、口に出してしまった言葉に対して後悔しているようなそんな感じの仕草。
こいつなら、信じられるような気がした。
今まで沈黙を守り、そうしているうちに口に出すことすら憚られる様になった物語。
その物語を、こいつになら話せる。
「・・・、そして、お前なら・・・。」
「・・・なんだ。」
「いや。だったら、一つ、昔話でも聞いていけ。」
「なんだ、急に。じじくせえ。」
「ちょうど4年前、ある一人の男の子が死んだ。」
「・・・、死んだ?」
「ああ、そいつの名前は枸神壮也。当時、中三だった。そいつと僕、誠と沙穂、そして優は、中学校時代いつでもつるんでて、結構仲が良かったんだ。
誠と優は中学で初めて会って、沙穂と僕と壮也は小学校からの仲だった。あることがきっかけでつるむようになり、高校も、みんな一緒に進学するはずだった。」
「・・・。」
「でも一人だけ受験さえできなかった奴がいた。」
「それが、壮也ってやつか・・・?」
「ああ。優と壮也は、つるんでいるうちに惹かれあって、中二の時に付き合いだしていた。周りから見れば、見ているだけで笑みが零れるようなそんなカップルだった。でもある日、急に仲がぎくしゃくし始めた。」
「なんでそんな仲のいい奴らが・・・。」
訳わからん、と言いたげな顔の崇。
「その喧嘩の内容は僕たちは知らないんだ。優と壮也だけの秘密だったから。それから、中三の夏休みの直前にあいつらは別れたんだ。」
「・・・・。」
「でも、付き合いの長い僕たちには分かるんだ。あいつらはまだお互いのことが大好きだった。毎晩泣くぐらいに。」
「じゃあどうして別れたりなんかしたんだよ・・・。」
「それだけでもお互いの心労は大きかったはずなのに、それに拍車をかけるようなことが起こった。」
「それが・・・、」
そこで僕は自嘲気味に笑った。
「そう、壮也が交通事故にあったんだ。その日壮也がしっかり納得するために話し合いたいと優を丘に呼び出した。そのあと、あいつはトラックに轢かれたらしい。その体には、かすかに枸橘の香りが付いていた。すぐに救急車で総合病院に運ばれたが、搬送している間にあいつは逝った。」
「そんな・・・、」
「酷いよな。俺らの顔を見ないで独りで生き急いでんだぜ。結局、優は約束の丘にも、病院にも来なかった。葬式のときだって・・・、」
「いかなかったのか・・・?」
「ああ。最後の時に愛しい女に見届けてもらえなかった壮也も可哀相だよなあ。」
「・・・。」
「これで僕の昔話は終わりだ。・・・、優に気があるのならそれでいい。だが、これだけは約束してほしい。」
「ん?」
「あいつに・・・、優に、傷を与えないでやってくれ。もうあいつは、自分のことをコントロールすることができていないかもしれない。そんくらい自暴自棄になってんだ。僕らはもう吹っ切れた。」
そこで俺は息を吸って、静かに続けた。
「でもあいつは、悲しみの底無沼にはまったまんまなんだ。僕らが手を差し伸べたとしても、あいつは笑顔のまま首を振るだろう。でもお前ならあいつを助けられるような気がする。」
「俺は、あいつを傷付けることしかできない・・・。」
「無理してまでやれとは言わない。ただ、その気があるのなら、あいつを支えてやってほしい。心が壊れる寸前の一人の女を、助けてほしい。」
そういうと、僕はゆっくりと立ち上がり、能澤に背を向けた。
「じゃあ、またね。」
僕は屋上を後にした。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.5 )
日時: 2016/02/19 17:38
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪誠 side≫

あいつの事なら、俺が一番だと思っていた。
あいつがうれしいと思えば、俺もうれしかった。
あいつが泣いていれば、俺だって悲しかった。
俺にだったら、あいつは本音を言ってくれると信じていた。
・・・なのに、俺には何も言わなかった。
いつからかあいつは、一人で泣く様になった。
いつからかあいつは、嘘の笑顔を振りまくようになった。
どうして、俺じゃ駄目だったんだよ。
どうして駄目だったんだよ、優。

俺は、父親の転勤が理由で、小学校三年生の頃にこの土地に引っ越してきた。
その時に近所のマンションに住んでいたのが優だった。
父親同士もすぐに打ち解けて、遊ぶことが多かった。
そして、何度もあいつに助けてもらった。
俺は小さい頃から知らない人とでもすぐに馴染めたから、学校生活に不自由はなかった。
数日も経てば、すぐにその学校の雰囲気もわかって、色んな人と親しくなれた。
でも最初の日は正直焦ってた。知らない人しかいなくて、誰がどういう人なのか全く分からなくて、パニックになっていた。
その時助けてくれたのが、優だった。
「誠君・・・、だっけ?初めまして、北川優です。呼び捨てしてくれていいからね?」
そう耳打ちしたかと思うと、急に言い出した。
「ねえねえ!誠君がみんなのこと知りたいって!自分のことアピールしたい人はぜひ声かけてあげてね!!」
そう言って笑った彼女の笑顔は、柔らかい春の日差しみたいに明るかった。
そして思った。素直でとってもかわいいな、って。
彼女のその一声で、俺の周りにたくさんのクラスメートが集まってきてくれて、すぐにみんなと打ち解けあうことができた。
優は、みんなからとても信頼されてて、篤実で、素直な性格だから、男女問わず好かれていることが分かった。
中学に進学すれば、すぐ色んな人に取り囲まれて、いつもの柔らかい笑顔ですぐに友達いっぱいになっていた。
そんな優に心惹かれた。
俺だって優に負けないように、色んな人に声をかけて仲良くした。
優のちょっとしたお節介で三人も特別親しい仲間ができて楽しかった。
毎日楽しくて、俺はいつも笑っていられた。ちょっと、浮かれていた。
だから俺は気付いてやれなかったのかもしれない。
気付けば、あいつの顔からは、あの柔らかい春の日差しみたいな笑顔が消え、代わりに仮面みたいな笑顔を張り付けていることが多くなった。
まるで、嘘をつくしかできなくなった人間のように。
いつだったか聞いた、沙穂の話に出てきたあることがきっかけで嘘をつき続ける少年みたいに。
そしてあいつは夜になると、町を見下ろせる高台の公園で、その仮面を外して独りぼっちで泣いていた。
俺はそんな優の姿がすごい嫌だ。
陽だまりの笑顔を見せる彼女が、俺は大好きなんだ。
だけど、俺は臆病だから口に出すことができないんだ。

「あっちいなぁー。」
森山和志の家で散々バカ騒ぎしてきた帰り道、いつも通りの群青色の夜空を見上げて俺はつぶやく。
家に入ろうと門を開けると、優のマンションの前に人がいるのに気付いた。
「優・・・?」
視力は両目とも2,0の俺が言うのだから間違いない。
見覚えのあるヨネックスの短パンとウインドブレーカーをきた華奢な体躯は間違いようもない、優である。
「おーい、優。」
俺が声をかけると、あいつは少し肩をびくっと揺らして、そしてこちらを見た。
「どこ行くの?」
「別に、なんか落ち着かないから外出てきただけなの。もうお父さんとリンの晩御飯作ったから、いいかなって。」
凛は、優の弟で数学に関しては悔しいが俺も歯が立たないくらい賢い中三の坊主だ。
社会じゃ誰にも負けない姉と、高三にも負けない数学中坊。
・・・北川姉弟は、最強だ。
「じゃあ俺も付き合う。久しぶりに芝池でも行こうよ。」
「え・・・、・・うん。」
そう頷く優の無理した顔をしているとこを見ると、また高台にある公園に行こうとしていたのだろう。
そう思いながら、久しぶりに歩く道を踏みしめる。
こいつには、俺が知らないところで一人で泣かないでほしかった。

「ほんとに久しぶりだよなあ。いつぶりだろう、お前と二人でここに来るの。」
「さあ、でも小学校の時しょっちゅう遊びに行ってたよね。芝生で追いかけっこして、池でびしょびしょになるまで遊んで、お父さんたちに怒られて。」
「凛のやつ、父さんたちと一緒になって怒ってさ。どうして僕も連れて行ってくれなかったの?って。あれで父さんたち唖然としちゃってお説教中止になったときあったろ?」
「あれは、面白かったよ。お父さんたちは行ったことに対して怒ってるのに、おんなじように怒ってても、一人だけ違うことで怒ってるんだもん。」
そういいながら芝生の上で寝っころがる。
俺にならって、すぐ横に列転がる優の髪の毛からは、ふんわりとシャンプーの香りがして、それだけで俺の心臓は早鐘を打つ。
「あのころは楽しかった。何にも考えないでいられたから。」
眼を細めて呟く彼女は、とても儚げで。
シャープな目鼻立ちを、縁取るように鈍く青に輝く月の光が、妙に幻想的で。
氷の彫刻のように涼やかな瞳に浮かんでいるのは、俺の期待する色ではなくて。
その瞳を見ると、俺はいつも胸が締め付けられる・・・。
「・・・なんでそんな目をするんだよ、優。」
「それは、お前が莫迦だからに決まってるだろ。」
「そんなあ・・・・、・・・って、うえ!?」
どこからかそんな言葉が飛んできて、俺はその言葉に気味悪いくらいに反応してしまう。
そして、その言葉通りに受け取った俺は確かに莫迦だったなと思う。
がばっと起き上がって振り返れば、森山の家で一緒に騒いでいたメンバーの一人の、竹原玖だった。
唖然としている間に優が一足早く口を開いた。
「君が竹原君ね。女ったらしのキモイ男子だって沙穂が言ってた。
竹原君、責任を持って行動しないと、女子って怖いからね。気を付けた方がいいよ?」
そういってニコッと微笑む優の表情には、清々しささえ感じられた。
ストレートな意見で、痛いところを思いっきり突かれた竹原は・・・。
「すんませんでしたあああ!!」
大声で謝罪していた。
「・・・・、優、率直すぎるよ・・・。」
そして心の中で竹原に語りかける。同情するぜ、モテ玖よ。
「それにしても、社会の女王様は莫迦みたいに素直だよな。」
優よりも何千倍も素直な竹原は、簡単に思ったことを口に出した。
ピキッという音が聞こえるぐらいに眉間に青筋が浮き出て、神業レベルの速さの≪怒りの回し蹴り≫が竹原の腹部に沈んだ。
もう一回心の中で竹原に語りかける。同情するぜ、モテ玖よ。

それから数十分後。俺と優と、あと(おまけの)竹原が、ファミレスのテーブルを囲んでいた。
「・・・へえ、お前らご近所さん同士だったのか。・・・てっきり付き合っ・・・、・・・・ってぇ!!」
にやにやしながら喋ってた竹原から叫び声が上がる。
隣を見れば、人を殺しかねないくらい冷たい殺気をはらんだ優が。
「竹原君。うるさいよ。」
「・・・すんません・・・。」
背筋が凍るくらい冷たい優の声と、弱気に降参してる竹原。
・・・明らかにおかしいぞ、この雰囲気・・・。
優に回し蹴りを食らった竹原の、腹が減った、という一言で、言い出した竹原がおごるという条件付きでここに来ることとなり、
莫迦で間抜な竹原の、お前ら付き合ってんの?という質問に対して、俺らの関係を、優の逆鱗に触れないように説明したところだ。
それから丸一時間、竹原が今まで何人と付き合って何股してたかという話で盛り上がって、母さんに怒られる、という竹原の言葉でお開きとなった。
俺は優を送り届け、家に帰った。
そして今のことを振り返る。
あいつ、怒りながらも楽しそうだった。
少なくとも、あいつの顔には、俺の嫌いな嘘の笑顔はなかった。
竹原は、誰かのことを幸せにする力があるのかな。
俺は、あいつのことを幸せにする男に、なれるかな。
いいや、なって見せるさ。
なってみせるよ。お前の次にな。
・・・・・壮也。


Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.6 )
日時: 2016/02/26 15:38
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪崇 side≫

山崎から、北川の過去を聞いてから約一週間が経った。
七月ももう終わりに近づいた夏真っ盛りの今日は、待ちに待った夏休みの前日でもある。
長ったらしい終業式が終わり、俺は解放感から机に倒れ伏す。
「・・・・、あぁ・・・・。」
「なんか気味悪いよ、お前。さっきまで人殺せそうな威圧感あったし、こっちが失神するくらい目つき鋭かったんだよ?それなのにどうよ、今のだらしない恰好。」
そう言って苦笑する友人は、嘘はついていないとは思うが、俺には何となく理解のできない話だ。
「別に、そうしようとしてる訳じゃないし。それで迷惑がかかるんだったらそれは意味解んないことばっか喋ってる教頭の責任だ。」
「・・・意味を理解できないお前と、じっとしていらんないお前のせいだということを認めないお前が悪いんだよ・・・。」
俺は根っからの体育会系だから、ただ話を聞いて同じ体勢のまま長時間我慢していろという方が無理な話なのだ。
常に俺は体を動かしていなければ気が済まない人の気持ちも、少しは考えて欲しいものだ。
「おーい、山崎と能澤ぁー、斉藤がなんか呼んでんぞぉー。」
「・・・、おう。じゃあな。」
友人と俺を呼んだクラスメートに短い返事を返して、机の脇にかけてあったカバンをひったくり、俺は教室を出た。

その後、俺と斉藤と山崎は駅前のファミレスでテーブルを囲んでいた。
「・・・、そうか。お前は優を傷つけた自覚はあるんだな。」
「ああ。」
「謝りたいって思ってるんなら、私たち、許せる。だからそんなに気にしなくていいよ?」
俺は、北川と関わったきっかけを此奴らに話した。
理由は単純明快。ただ知っとくべきだと思ったからだ。
広瀬と同じような行動を予想していた俺としては、この反応は予想外だった。
「・・・、もっと、怒るかと思った・・・。」
「別に今更お前に八つ当たりしても意味ないし。反省してくれんならそれが一番いいから。」
山崎は冷静に物事を判断できる奴らしい。その言葉に頷いている斉藤も、物わかりがいい。
「優は、見ての通りにみんなに信頼されてて、いっつも笑顔でいなきゃって思ってる。それが、学校の中だけだったら良かったんだけど、優の家庭はお母さんがいなくて、弟の凛とお父さんの三人暮らしなの。」
斉藤が目を伏せてそこまでいうと、バトンタッチするように山崎が続けた。
「だから、いつも優が母親代わり。いつだって家の事するのは優だし、建築家として働いてる親父の居ない間家庭のやりくりするのも優。そんなんで泣き言言ってられるはずもなくて、一人で我慢することしか知らないんだよ。」
山崎の口調はいたって冷静だが、そんな言葉で言えることではないことだと俺は思える。
何でも一人でこなさなければいけない毎日。
何でも一人で考えなければいけない毎日。
そして何でも一人で抱え込むことしかできない毎日。
どれだけ辛いのか、俺には分からない。
いや、分かる人間がおかしいのだ。
「・・・能澤、無理しない範囲でいいから聞いてくれ。優が感情を表に出す人間は相違ないんだ。一番近くにいる誠にも沙穂にもただ笑いかけるだけで、自分のことは何一つ話してくれない。でも、優の感情を見ることができたお前にだから言う。」
そう言っていったん言葉を切る山崎。
「優の、行動を監視して、関係を深めてほしい。」
「優、私たちの事微妙に避けてるから、関りの薄い人ににしか出来ないの。」
懇願する響きのある斉藤の声音。
二人の瞳には、悲しみの色。
「別に無理しなくていい。あくまでこれは僕たちの願望な・・・、」
「やるよ。」
「えっ・・・、」
「だから、北川を、夏休み中追うんだよ。」
俺は、席を立った。
「じゃあな。結果は報告するから。」
「・・・斉藤君、本当にありがとっ!めっちゃうれしい!!」
そう言ってはじけるような笑顔を見せる斉藤は、心の底から嬉しそうで。
「・・・あぁ。」
片頬を持ち上げて、俺は二人に背を向けた。
これ以上、誰かの悲しそうな双眸を見ていることが、出来なかった。

翌日から、俺の計画は始まった。
午前、部活に所属していない人が大半の補習に出席する。
そう、出席するだけだ。
「・・こるぁ!能澤ぁ!!ちゃんと授業きけやぁー!」
こう怒鳴られるのがおちだが。
俺は幼いころから武道一筋の人間である。
そんな人間に何時間も椅子に座ってろなんて無理な話だ。
冗談じゃない。そんなの誰が聞くかってんだ。
最初は先生の意味不明な単語を聞き流して、めんどくさくなったらノートの端に漢文とか剣道の反則とか書いて暇つぶし。
そうしてるうちに剣道の試合をシュミレーションしてすり足を実行。
授業中の俺はとても忙しい。
そんな補習が終わると、午後は図書室に行って、テニスの参考書を片手にテニス部の見物する。
テニス部のエースとして、又まとめ役として働く北側の額にはいっつも汗が光っている。
そんな北川の部活が終われば、今度は下校の後を付ける。
北川の自宅が近くになると、俺は自分の家に帰るための帰路につく。
そんな毎日を送り続けて3週間が経ったある日、いつもは目まぐるしく動き回っているはずの北川の姿が見えないことに気付いた。
「あいつ、サボりか・・・?」
結局部活の終わる3時まであいつは姿を現さなかった。
諦めて帰ろうと図書室を出ると、微かにピアノの音色が聞こえることに気が付いた。
こんな時間に誰かと少し疑問を持ち、その音をたどれば、音楽室のピアノを、黒髪をなびかせてひたすら奏で続ける一人の女子が目に入った。
「なんで、北川が・・、」
一心不乱に音を奏でているのは紛れもない北川だった。
ブラームス[ドイツ・レクイエム]
前に一度、姉さんに聞かせてもらった。
その時よりもずっと深い音。
とても胸が苦しくなる。
とても悲しくなる。
この音は北川の心の叫びそのものだ。
人に気付かれないようにして、隠し通して、溜まっていく気持ち。
お前はこんなに狂ったような音を弾く。
それ位自暴自棄になってたのか。
音が、途切れた。
続けて何かの倒れる音。
一瞬にして底冷えするような恐怖。
勢いよくドアを開けて、俺は中に飛び込んだ。
椅子と一緒に倒れている人影。
「おいっ!!」
傍に膝をついて無理やり仰向けにさせる。
初めに感じたのは異常な程に上がっている体温。
額には大粒の汗。
「少しは自分の限界分かるだろ・・・。」
その後はもう本能のままに動いた。
北川を胸の前に抱きかかえ、彼女の自宅へと向かう。
自分がおかしくなったのかと思うほどに彼女は軽すぎた。
唯一伝わってくるのは、高温の体温だけだ。
途中で住所が分からなくなり、彼女の生徒手帳を取り出す。
裏表紙を捲ったところで目に留まったのは、二つのプリクラ。
一つは北川を含めた中学の制服を着た五人の男女が写っている。
北川と、斉藤と山崎、広瀬と知らない男子。
みんな表情が明るい。
二枚目は、一枚目に写っていた知らない男子と北川のツーショット。
きっとこの知らない男子がみんなの言う壮也なのだろう。
精悍な体躯と、凛々しい面立ち。半そでのワイシャツから覗くのは、綺麗に日焼けした引き締まっている腕。
「・・・こいつ・・・、空手の・・」
試合会場で確か・・・。
まあそんなはずもないだろう。
気を取り直して、北川の自宅へと向かい、生徒手帳に挟まっていた鍵で部屋に入る。
彼女の自室に運び入れ、彼女を横たわらせた。
真夏なのにも拘らず、いつでも低い体温を保っている俺の腕を、北川の熱を帯びた額に載せた。
「・・・、そう、や・・・。」
時折顔を歪め、そうやって苦しそうに呟いた。
確かに俺は、二週間前から北川の行動に不信を感じていた。
いつもはある瞬発力の切れが落ち、動きが遅くなり、機動力が鈍くなる一方だった。
その時に気付けばよかったと今更ながら後悔する。
涼やかな切れ長の目尻に、全体的に整った氷の彫刻の様な面立ち。
お前はいったい、この四年間余りをどうやって笑って過ごしていたんだよ。

「・・・わくん、能澤君ってば!」
「・・うわぁ!?」
「あぁ、起きた。良かった。」
「お前こそいつから起きてた。」
「ついさっき。ここまで運んでくれたの、有難う御座います。感謝してる。」
「別に。森山の時の一件は悪かったと思ってるから。」
「そんな、別にいいのに。」
「いいとは思ってないだろ。」
笑いながら切り返す北川に少しきつめの言葉を言う。
「思ってる。」
「嘘つき。」
「ずっと後つけてた君程ではないけど。」
その言葉に少し目を見開く。
「いつから・・。」
「最初から。誰に言われたの?」
嘘をつきたくない俺は、黙るを決め込む。
そして沈黙。
「ただいまぁ、あれ?誰か来てんの?」
能天気な声が響く。百割俺らではない声。
「あれぇ?誠先輩ら以外の男友達って珍しいね。」
ひょっこりと顔を覗かせたのは、結構美形な男の子。
北川がそちらを思いっきり睨んでるのをいいことに、俺は御暇することにした。
後方で、
「あれ、もしかして空気読まなかった?・・・いってぇ!!」
「・・・少しは、その頭使いなさいよ。」
男の子の悲痛な叫びと、底冷えするような声が聞こえた。
・・・ごめんな、弟君よ。
そして俺は、逃げた。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.7 )
日時: 2016/02/23 18:10
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

お久しぶりです。皐月凛雅です。
なんだか、いつまで経ってももう一人のメインヒーローが出ない。
そうお思いの人も多いと思うので、言います。
実は、まだまだもう一人のヒーローは出る機会がないのです。
御免なさい。作者もそのつもりはなかったのですが、そうなりました。
本当に、すみませんね。ご了承下さい。

 ≪優 side≫
能澤という男子との一件があって、私は極限沙穂たちと顔を合わさない毎日を送るようになっていた。
私にとっては、沙穂と話せないのは辛かった。苦しかった。
でも、私はいつも通りに生活する。
学校生活は、みんなといつも通りに笑い合って、部活で立派な部長を演じ切る。
自宅に帰れば、私は母親代わりの姉として、心配されないように明るく過ごす。
そんなことしてるうちに、夏季の長期休暇に入った。
「優、あんまり無理しないでね?自分で加減が出来ないんだから・。」
確か、沙穂がこの間そんなことを言ってくれた。
だけど、私は大丈夫。大丈夫だから。
そう言って笑って見せた。
声をかけたのが拓真だったら、私は絶対にかわせなかったろう。
拓真は、いつでも冷徹に物事を分析する。人の心を悟ることに長けた人だから。
自分で加減が出来ないんじゃない。ただ、私のやることがみんなより少し多いだけなんだ。
・・・そして、まだ壮也の事を、忘れられないから。
自分のことがすべて終われば、私は、壮也との約束の丘に足を運ぶ。
私は、いつまでも待つよ。壮也。

夏休みに入って数週間が経った頃、私は自分の身体が鉛のようになっているのに気付いた。
「・・・また、無理しちゃった・・・、かな。」
こんなんじゃ、部員のみんなに迷惑かけるのがおち。
だったらみんなに迷惑かけないように大人しくしていた方がいい。
気晴らしにピアノでも弾いてみようかと、午後に私は音楽室へと向かった。
今までの、心の中に溜めてきた想いを、すべてはき出したかった。
レクイエムは、魂に安息を与えるための音楽。
私にとっては、悲しみを表す曲。
そして、壮也と心を通じ合わせることのできる音楽だった。
『優、もう、無理すんの、やめときな。少しは休め。』
そう囁く壮也の声が聞こえた。
そうだね。少し休む。壮也が言うんだったら、休まなきゃだめだから。
私は鍵盤から指を放した。
と、同時に、私は意識も手放した。
床に叩き付けられ、誰かの低いバリトン声。
誰かの体温。似ているんだけれども、少し違う。
求めているものよりも、少し冷たくて。
求めているものよりも、少しがさつで。
『・・・壮也?』
広い草原の奥、懐かしい人影。
その人が、はじけるような笑顔で手招きしてる。
私は少しでも近づきたくて、走る。
でも、走っても走っても追いつかなくて。
『そう・・・、・・やぁ・・。』
苦し紛れにそう呼んでみても、一向にただ笑ってるだけで。
『捕ま・・・、・えた、よ。』
そう思ったら、途端に辺りが暗くなって、そして壮也が消えた。
『・・・、う、そ・・。」
そんなことを私は何度繰り返しただろう。
気が付けば、私の頭に腕を載せて舟を漕いでいる男の子が視界に入った。
最初は、誰が後をつけているのか想像がつかなかった。
だけど数週間後を付けられていると、大体誰なのか分かった。
「最初から。誰に言われたの?」
そう問えば、能澤君はぱくっと口を閉じた。
そうしてるうちに、莫迦な凛が空気も読まずに帰ってきた。
怒りを押し殺そうとしているうちに、そそくさと能澤君が帰ってしまったので、私は怒りを爆発させた。
「・・・少しは、その頭使いなさいよ。」
凛が降参するまで、私の身体は止まらなかった。

翌日、私の身体はまだ少し重かったが、高校の図書室へと向かった。
文庫本を読んでいると、頭上から、北川さん、と声がかかった。
「初めまして。横山です。」
私に声をかけてきてくれたのは、能澤君と同じC組の横山さんだった。
「能澤のこと待ってるんですよね。」
「・・・え、・・」
「能澤、いつも午後にここにきて、窓のところからテニス部の北川さんのこと見てましたから。」
「そうなんですか・・・。」
「能澤、多分北川さんのこと好きなんですよ。北川さん凄いスタイルいいし。」
そう言って微笑む彼女は、大人びててすごい綺麗だなと思った。
「横山さんの方が絶対綺麗なのに。」
「私なんか生ごみだから。」
そしてとっても顕著で、とってもお世辞が得意な自分のことを悪くしか言わない人なんだとも思った。
「・・・もう少し、自分の事認めてもいいと思うな。」
彼女が図書室から出て行ったあと、思わず口に出してしまった。
誰から見ても、落ち着いてるし、可愛いし、綺麗だし、頭も良さそうだし、絶対みんなから好かれてるのに、自分で自分を認めないのはもったいないよ、横山さん。
「・・・、お前・・・。」
案の定考え事をしている最中に姿を現した、逃げ腰の能澤君を捕まえる。
「昨日のこと、きちんとお礼言いたくて待ってたの。」
「別にいいのに。」
「ううんダメ。本当に昨日は有難う御座いました。」
「はぁ、どういたしまして。」
面倒臭そうにしながらも答えてくれる能澤君。
そして疲れたような顔の能澤君に、少しだけ思ったことを口に出した。
「能澤君、良ければお勉強みてあげようか?」
「・・・、は?」
「だって、補習してても疲れるだけなんでしょ?」
「まあな。」
「だったら、私教えてあげる。」
そう言い切った。

それから六日間、図書室で私は勉強会を開いた。
案外能澤君は物わかりがいい人で、少し簡単に説明すれば、すぐに習得する。
一日一教科で英語、理科、数学、国語、現代史、世界史をやって、大半を彼は一日で習得した。
「ただ、先生の教え方が悪かっただけだな。」
「別に、そういうわけでもないけど。でも能澤君凄く呑み込みが早いね。」
「授業とおんなじところ教えてんのに、先生と違って分かりやすい説明する北川も凄い。」
倒れてから一週間後、私は部活に復帰した。
それからしばらく経って、私にとっては、思ってもみないことを彼は口にしたのだった。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.8 )
日時: 2016/07/02 15:14
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

どうも。皐月凛雅です。
試験日も残るところあと一日ということで、更新することにします。
気分がいいので、登場人物を少し書き出してみます。
ー登場人物ー
・北川 優
・能澤 崇
・(朝瀬 翔也)
・枸神 壮也
・広瀬 誠
・山崎 拓真
・斉藤 沙穂
・杉野 友人
・神崎 有希子
・横山 りの
・森山 秋奈
・京極 真
など


≪崇 side≫
夕方、アスファルトがオレンジ色に染まり始めたころ、俺は口に出した。
「話したいことがある。31日の夏祭りに来て欲しい。」
彼女は、足をぴたりと止めてこちらを見た。
眼を大きく見開いて。
「俺、お前の家の前で6時に待ってるから。横山だったら誘っていいから。」
そう言って彼女に背を向け、俺は元来た道を歩み始めた。

数日前、俺は森山に呼び出された。
内容は、
「彼女と夏祭りに行きたいけど、彼女に怒られそう。」
という情けないことだった。
森山とは、中三の夏の大会で知り合い、ちょくちょく相談を持ちかける仲だ。
中学時代は、一年の時バスケ部、二年の時テニス部、三年の時野球部と、色んな部活を回っていた。
理由は、色んな事をしたかったから。
今振り返ってみれば、俺はとてもあほみたいだと思った。
一年ごとに部活を変えたりなんかしたら、内申に響いたはず。
中学時代は、私立を受けたら一発で落ちるような結果だったと思う。
というわけで三年の最後に入部したのが野球部で、なんとなく仲良くなったのが、同じ高校の杉野と、野球強豪校に進学した森山だった訳だ。
こいつの彼女は、俺の高校にいる。しかも同じクラス。
だから俺なんかにこんな情けない相談を持ちかけたんだと思う。
「りのの蹴りはとっても痛い。」
「怒るとめっちゃ怖い。」
森山からはそう聞いていたが、同じクラスになって、見ている限り暴力的には見えなかった。
女子の中でもしっかりしているし、意味のないことをやるようなふざけた真似もしないし。
「俺には怖いの。」
「お前が莫迦なだけだろ。」
「りのにもよく言われる。」
「お前のその性格が治らない限り、彼女もやめるのは無理だな。」
「それじゃあ誘えねぇよぉ〜。」
「俺からアドバイス。そのキモイのも何とかした方がいいと思う。」
「もぉ勘弁して下さい・・・。」
机に倒れる森山。
少しは俺も、同情しようとすれば出来るかな・・・?
そんなことを考えていると、俺の頭になんかが浮かんだ。
「あ・・・。」
「あ?」
「その彼女とお前が夏祭りに行ける方法は思いついた。」
「マジですか!?」
俺の言葉に、目を輝かせる森山。その表情は、餌を見つけた猿を思い出させた。
「ある女子にお前の彼女と一緒に夏祭りに来るように言っておいて、上手くいったとこで二人きりにしてやるよ。」
暗に、その後は実力次第だよ、お前のナ。なんていう俺は、とても意地悪だと自覚した。
「乗ります。」
自信満々に首を縦にして頷く森山。何に対しての自身なのかいまいち分からない。
まぁ、一度約束したことは、最後まで守りきるのが俺の矜持だ。
でもその後は知らないからな、森山和志よ。

北川の事だから、俺と二人には絶対なりたくないと考えるだろう。確かに少しは話したからと言ってそんなに早く打ち解けて心を許すなんてことは絶対にしないと思うし、まだ元彼とのこともあるだろうから。
だからそこに横山とならいいという条件を出すことで、彼女を誘う確率が上がった。
これで、森山との約束は果たせた。
次は、自分自身の問題だ。
北川に図書室で待ち伏せされた日から一週間半が過ぎた。
帰り道に、彼女を自宅まで毎日送り届けた。その時間に言葉を交わして、色々な行動や反応が見れた。
色々なことが聞けたし、彼女の楽しそうに笑う表情も見る事が出来た。
色々な反応を見るうちに、彼女と話すのが楽しくなった。
もうあと数日で夏休みが明ける。斉藤たちの頼みの期限も近くなった。
だから、夏休みの最終日の31日が決着させるのに相応しい。
・・・それに、いつも見る彼女とは違う一面を見てみたかった。

翌日、空手の稽古をつけてもらうために京極真師の道場に足を運んだ。
「・・・ーぁ。」
「何か、やる気がないようだね。」
右眉の少し上に絆創膏を張り付けた京極師の顔が目の前に現れる。
「少し北川のことで・・・、」
京極師には名前を挙げても分からないだろうと口に出せば、眉間がピクリと波打った。
「・・・げ。」
「北川さん、北川優さんですか?」
「はい、存じ上げるようですね。」
「ええ、壮也君の彼女だった人でしょう。」
「京極師もその方をご存じなんですね。」
「何を言っている。君も手合わせをしたはずでしょう。」
非常に驚いたとでも言いたげな口調に、俺は頭をひねる。
確かに顔を見て、どこかでみたような顔だと思ったが、まさかどこかで手合わせをしたことのある人だとは思わなかった。
「どのような方だったのでしょう。」
「僕も、少し彼の師匠としていた時期があったのだけれども、とても筋の入ったいい少年でしたね。正義感が強くて、喧嘩して血塗れのまま道場に来ることもたびたびありました。」
そう言って薄く埃の被ったアルバムを見せてくれた。
幼い表情をしていながら、鍛え上げられた姿をしている。
どれも回りが明るくて、彼自身もとてもまぶしい笑顔を見せていた。
こんな男だったら、女子にも好かれると思う。
いつでも明るそうで、頼れる優男で、おまけに正義感も強くてなんて、そう滅多にいるもんじゃない。
「とても、いい人だったんですね・・・。」
「君も、負けないように頑張りなさい。君だったらいい人間になれますよ。今日は、もう切り上げましょう。」
そう爽やかな笑顔を見せてくれる師匠も、お金持ちの園子お嬢様という彼女がいるらしい。
どうして俺の周りには色んなカップルがそう沢山いるのか。
帰り道、電車の中でスマホをいじっていると、ラインが届いていることに気が付いた。
[31日、横山さんを誘いました。お誘い有難う御座います。家の前で6時、待っています。]
彼女の文面には、余計なものが何一つない。
分かりやすく簡潔な文面で、丁寧な言い回し。
この文面を、友達同士でも使っているのだろうか。
枸神という人とは、どういったやり取りをしていたのか。
枸神は、北川のすべてが分かっていたのかな。
彼女の事が、俺は知りたかった。


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