コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 傷つくことが条件の恋のお話
- 日時: 2016/04/09 15:38
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
どうも。皐月凛雅です。
今回は、高校生に登場してもらいます。
深い傷を負ったEIGHTEEN女子高生と、
いたって普通だけども普通じゃない男子高生と、
人気モノの男子高生がメインの高校生活のお話。
頑張りますから、小学校の授業参観に来た父兄のような、
温かい目で見守ってくだされば。
ー登場人物ー
・北川 優
佐久間高等学校3年B組。社会の女王様のあだ名で、落ち着いた雅やかなお姉さま。男女関わらずに人気は高いようだ。テニス部のエースで図書委員会委員長。
・能澤 崇
別に特徴のない優の同級生。彼はC組でいたって普通。剣道と空手なら誰にも負けないし、水泳とテニスとサッカーだったらできる方。でも面倒臭いから帰宅部。
・朝瀬 翔也
『めっちゃイケメンで、むちゃくちゃイケボですんごく頼りになる』優のクラスメイト。家も結構な金持ちのお坊ちゃまで、文武両道の憧れの的高校生。
≪優 side≫
今から4年前の夏、私は大切なものを失った。
原因は私にあった。どう考えてもそう。
それなのに、それなのに彼の親は私のことを責めなかった。
蔑みもしなかった。私にあたることもしなかった。
ただ、泣きながら一言、
「ありがとう」
そう言った。
私にはそんな言葉をもらう権利などない。
私は貴方の息子の命を奪ったのに。
なんでそんなことを言えるのか、貴方の神経がわかりません。
その時以来、葬式にも出なかったから彼の親に会うことはなかった。
そして、私は心から誓った。
『私は、絶対恋に落ちるようなことをしない』
そうして彼との思い出を、心の奥に封印した。
自分の、心からの笑顔も。
4時限目、あんまり面白くない音楽科が終わり、音楽室から教室に帰る途中、
「ゆ〜〜う!!」
後ろから誰かがばんっと背中を押してきた。
ひょっこりと顔を出すのは私の唯一無二の親友、斉藤沙穂。
「沙穂。今筆箱でぶつかったでしょ。めっちゃ痛かったよそれ。」
そういって彼女を睨めば悪気なんてそっちのけで、すまんね、とだけ言った。
「それより聞いた?朝瀬って、A組の永井紗菜振ったんだってよ。」
「まあ、当然じゃない?永井紗菜ってあの派手なギャルでしょ。あんなのと付き合って長続きした方がおかしい。」
思ったことを、包み隠さずに率直に述べる。この口調が気に入らない沙穂は、その毒舌何とかしなよ、優、と苦笑してから続ける。
「まあ、永井さんって結構面倒臭そうだから付き合ってくれるまで朝瀬に付きまとって、朝瀬が諦めてやっと付き合えたってことじゃないの?」
「・・・、そんなに面倒なの?そのこ。なんか朝瀬に同情できそう。」
そんなに付き纏われていたのなら、あんまり話したことのない朝瀬でも、素直に可哀相だと思える。
「永井紗菜って、女王様気分でいる出しゃばりとか、女子力が半端ない人ってゆうような見た目だったけど、男子にはどう見えているのかな。」
素直に疑問を口に出してみると、じゃあ、と言って沙穂が上を指差した。
「今の疑問、莫迦男子に聞いてみる?誠と拓真、今日は屋上でお昼食べるらしいから。」
「ああ、そうね。聞いてみようか。」
そう答えると彼女は、優のお弁当持ってくるから先行ってて、とだけ言い残して教室へと入っていった。
沙穂と広瀬誠、山崎拓真、それに私は、中学時代の仲間で、4人一緒にこの高校を受験し、合格した。
いつでも一緒だった。今でも放課後になれば4人で新宿行ったり、誰かの家に泊まったりしてるくらいだ。
「誠、拓真。」
屋上まで行き、手すりに寄り掛かっている2人に呼びかける。
2人とも私を認識すると、ふっと笑って手招きしてくれる。
「なんだ、沙穂はどうした。」
誠が笑いながら、話しかけてくる。
「お弁当取りに行ってる。もうすぐ来るよ。」
「あいつはパシリかよ。」
「そうね。自主的にパシリやってくれて助かる。沙穂っていいね。」
「うわっ、出たよ。優の腹黒思考。女っていつみてもおっかねえ生き物だよ。マジで俺そう思う。」
「お前、ほんと擦れたぜ。もう少し大人しくしてればもうちょっとは可愛げあるんじゃねえか?」
拓真の言葉に少しカチンと来て言い返そうとしたタイミングで後方から声がかかった。
「あんただって人のこと言えないでしょ。このぐれ男。」
「うっせーよ。沙穂は黙ってろ、口デカ女。」
「それ、乙女な女子高生にいう言葉?もうちょっとは考えなさいよ、莫迦不良!」
「誰が不良だっての、俺より脳味噌ないくせに。」
これ以上やりあうと白熱しそうなので、そっと私は誠に目くばせする。
「こらこら、ご夫婦様。痴話喧嘩はどっか違うとこでやってください。こちらとしてもこんなに仲睦まじい様子を見ていると少々焼けるので・・・、」
にこにこしながらお世辞を投げかける誠。
「誰が夫婦だっての!!!」
2人一緒になって誠に怒鳴る拓真と沙穂。
拓真と沙穂は幼馴染で、小さいころから一緒にいるのだ。この二人の痴話喧嘩は、言ってしまえば恒例行事なのである。
「で。どうして男同士の貴重な時間を邪魔しにやってきたの?」
夫婦と言われたことでまだ拗ねている拓真が聞いてくる。
優がおにぎりを口に入れてまだもぐもぐしているところを見て、代わりに沙穂が説明してくれる。
「A組にさ、永井紗菜っているじゃん。男ってああいうタイプ、どういう目で見てるのかなあって、疑問ができたから聞きに来たのよ。」
「別にあんま気になんないけど。美人なんだろうなあとは思うけど、やっぱ遠目に見てて、気に障るような奴だとは思う。」
あんまり感情が入っていないこの声は拓真の声。
「気が強いのはわかるけど、自分の意見がしっかりしてるだけなのかもよ。自分に自信があるみたいだし。まあ、男はエロいからね。漫画なんかに出てきそうな美少女だから、付き合いたいと思う男子は多いよ。」
この、客観的な発言は誠のもの。
「美少女ならこんなに近くにいるのに、よくそんなこと言えるねえ。ま・こ・と?」
沙穂の口調には、はっきりと揶揄の響きがある。
「沙穂・・・、私のこと莫迦にしてる訳?凄くムカつく。」
実際に自分が美人だとか、綺麗だとか思わない。みんなが興奮して称賛するような要素は一つも持ち合わせていない。
「優は確かに美少女だけど、中身がめっちゃ黒いから・・・グハッ!」
間髪入れずに飛んだ私の〈怒りの回し蹴り〉のおかげで、誠は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
「あらぁ、お大事にね、誠。拓真も誠の対処よろしく。」
私がすたすたと屋上を後にしたせいで、沙穂が慌てて後を追ってくる。
次は、私が好きな和山先生の古文。早く戻って予習しよう。
そう心の中で唱えることで、静かに心の怒りを抑えた。
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- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.44 )
- 日時: 2016/05/25 18:04
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪優 side≫
朝瀬君と海岸まで行った日以来、彼と一緒にいる時間が少しだけ増えたような気がした。
彼はいつもと変わらず接してくる。
初めはあの告白が頭から離れずにどう接したらよいのかよくわからずにおどおどして、上手く言葉を繋げ合わせられないでいた私だけど、朝瀬君の旗鼓聞いた言葉の一つ一つでどうにかうまくできた。
慣れてみれば、少しくらい微笑を浮かべて上手く話せる。
“偽り”が、“自然なもの”に変わっていくように。
私も、彼のおかげでかたくなな態度がなくなり始めたと思う。
彼が好きか、そう聞かれたら今はまだ答えられる自信がない。
でも、隣に居たいと思うのは確かな心。
その心さえあれば、私は彼のもとを去る事が出来ない。
そう、その思いが、私を自然体にする唯一の鎖。
我ながら思う。
やっぱおかしいなって。
幼いころから言われ続けた。
‘あなたは子供っぽさがなさすぎる。’
‘輪の中で一番かわいくない。’
‘弟さんの方がよっぽど可愛らしい。’
挙句の果てには、
‘人間じゃないんじゃないの?’
‘ヒトとしての素質がない。’
こんなことをぶつける親戚がいた。
それをなんとか耐えきって、そんなことを言われないように作り上げた自分は、嘘だらけの自分。
本当の自分を持ったのは一体いつだろう?
もしかしたら、ずいぶんと長い間自分を無視し続けていたのかもしれない。
不幸だらけの私の汚い人生。
私の全てが私自身の心を汚染していく。
ああ、なんて嫌な人間なんだろう。
なんでこんなに何もできないんだろう。
せめて何か一つでもできることを見つけたくて、嘘の自分を作り上げた。
それを浄化してくれる人に会った。
人間は、自分の徳の為なら悪に手を染めるのを惜しまない。
でも、そうでない人がいることを知った。
それを初めて教えてくれたのが、壮也だった。
彼は、自分が幸福になれる機会を自らの手で押しのけ、代わりに他にそのチャンスを与えた。
“他が幸せになるんだったら、自分はそのために身を尽くすよ。”
屈託のない笑顔でいつもそう言っていた。
一見冷たそうに見えても、本当の心はすごく暖かかった人もいた。
彼は、“自分だけでやらずに、周りを頼れ。”
そう言いながらも私のかたくなな態度を受け止め、最後まで受け止めてくれた。
でも、もうあの二人はいない。
今更だけど、現実を見る。
忘れられない。忘れられるわけがない。
でも、もう子供のような行動は出来ない。
嘘だらけで生きていくことなどできない。
だから、私はすべてを過去にしてみせる。
今まで、きちんと目標を守り切れたことはないけど、でも今回は。
今度こそは。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.45 )
- 日時: 2016/05/30 17:45
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
杯、読者の皆様どうもお疲れ様でした。
皐月凛雅です。
そして、参照500越です。
どうも皆様ここまでありがとうございます。
ここらで区切りをつけます。
≪終わり≫ではなくあくまでも≪区切り≫。
ここまでで名前を付けます。
亦の編〜次へのステップ〜
これは“重ねて次へと進む”という意味のものです。
(あくまで自分だけの意味ですが・・・・。)
さて、ここでQuestion。
第二章の名前はなんでしょう。
Answerはいつになるか未定ですが、勘の良い人ならわかるはず。
まあ、この物語を読み進めていただければ、いつかは分かります。
それでは。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.46 )
- 日時: 2016/06/29 16:36
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪翔也 side≫
「なあ、北川?」
「うん?」
「今度の土曜、ちょっと俺に付き合わないか?」
「どこに行くの?」
「ん〜、お楽しみとしますか。行くの、行かない?」
わざとらしく挑発してみる。
最近分かったことだが、彼女はどこか単純な神経が通っているらしい。それで小さな挑発でも真に受けることが多い。
全体的に隙のないと思われている完璧な彼女の抜け目を見つけて、少し嬉しがっている自分に少し呆れる。
彼女が自分をどう思ってくれているのかは知らない。
知らないし、自分の方からそれを知ろうとすることもしない。
ただ、彼女の行動の変化からは少しずつ変化が見られた。
その変化が自分の心をどれだけ揺さぶっているのか。
それだけで少しずつ少しずつ。
確実に彼女に惹かれ続ける。
それと同じように、彼女の心にも心境が出来ていてほしい。
ただ願うだけだ。
そして少しだけ自分気持ちに気付いてほしくてカマを仕掛ける。
まるで子供のようだ。
少し考え込んだ後、北川はふわっと微笑んで、いいよ、といった。
「土曜日はちょうど講義お休みだし、バイトも入ってないし。」
「あれ?お前バイトしてたっけ?」
「結構前からしてるよ?あれ、言ってなかったっけ。」
「初耳。」
「そっか。あともう少しで結構長くたまるから、それを機に今の家でたいと思ってて。」
「そうなのか・・・。」
「朝瀬君はまだ実家?」
「ううん。大学進学と同時に家でた。」
「やっぱみんな大体独り暮らし始めるよね・・・。」
そして、彼女はうーんとうなりながら視線を落とした。
今住んでいるのは、大学とは一駅分はなれたアパート。
ラッキーなことに彼女とは変える方向が同じで、自分が帰るまでずっと一緒に居られる絶好の場所だ。
その時、後ろから微かな声が聞こえた。
「・・・・・・う・・−、ゆぅ・・・・!!」
「なあ、あれ確か・・・、」
「沙穂だ。」
「だよな、斉藤だよな。でもなんでここに・・。」
「優ー!!」
「沙穂・・・。なんでここに・・・?」
「んと・・、途中で見っけたから!!」
「・・・そう・・。」
高校卒業してからは会うことがなかったのだろう。
少し気まずいというような顔をして北川は視線を下に下げる。
斉藤は、少し苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうにして一言呟いた。
「優、ほんとごめんね・・・。」
「・・・え・・・?」
「本当に・・・、ごめん。」
「いきなり・・、どうしたの?」
「この前、能澤と会ったの。その時能澤君、‘北川には少し無理をさせたかもしれない。今度会った時、悪かったと伝えてくれ。’って言い残した。」
そこで斉藤は息を吸うと、突然に息を吐くようにして喋り始めた。
「去年、優が普通になった時、それの発端が能澤だったから、能澤だったら壮也の代わりを務めてくれるんじゃないかって、そう思ったの。優の彼になったら、壮也と一緒にいたときの優になるのかなって。人間に戻って、ずっとずっと幸せになってくれると思った。それなのに、今更昔のあたしみたいに虐めなんかに遭って、おまけにそのせい完璧にこなせるはずだった推薦まで落ちて。おまけとばかりに能澤も手放して。あの時は優の為に何かできたと思ったのに、今考えれば、優の彼氏をあたしたちが決めてるみたいで凄く莫迦らしいって思ってる。普通、こんなことありえない。すごい莫迦なことしたなって今更だけど、悔やんでるの。」
「・・・。」
「・・・・、ほんとに、ごめん。」
「何?それ言うために来たの?」
「・・・・うん。」
北川の感情のない声に続いた斉藤の声は、心なしか少し元気がなかった。
僅かな沈黙が続いた後、北川がバッと斉藤に抱きついた。
「そんな気にしなくていいのに、何莫迦みたいにしょぼくれてんの?能澤にも行っといて、あれは全面的に私の我儘だったんだから、能澤君が責任を感じることじゃないからって。少し無理させた?無理してたのはきっと彼の方。私の行動に振り回され続けて、凄く傷ついているのは私じゃないから。だから、沙穂が謝るなんて間違ってると思って。謝られても許さないよ。謝られるようなこと何もされてないんだから。本当に沙穂、なんかずれているよね。」
「・・・、語尾の一言、けっこー傷ついたよ?あたし・・・。」
「そう。じゃ、そういうことだから、能澤君にも言っといてね。」
いこう、とでもいうように北川は俺の腕を引いた。
なぜか少し震えている、その華奢な腕で。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.47 )
- 日時: 2016/07/11 16:33
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪優 side≫
「一体、沙穂はどこであんな誤解をしたんだろう。」
「・・・。」
「ね、沙穂の態度、絶対不自然だよね?」
「・・・、うん。」
「ほらやっぱり。」
「ただし、北川の方が。」
「え?」
思いもよらない言葉に、硬直する。
私が?どうして?
そんなの知らない。
知らない。
知らないから。
「そうやって自分に嘘つくんだ。」
そう話す彼の口調はいたって穏やかだった。
物腰もいつもと変わらない。
ただ、瞳の色だけは静かな怒りの炎を帯びていた。
「北川さ、多分お前覚えてないだろうけど俺、高校の時に一回告白してしてんだよ。三年の冬頃。結局はそのまま卒業しちゃって返事もらえなかったし、大学であったときすぐに俺の名前出てこなかったろ?」
「・・・・。」
「別にそれで、今更責めたり、その時どうだったかとかそのことでどうのこうのととやかく言ったりはしない。」
そんなの意味ないから——。
言外にそう伝えてくる彼の行動からは、何かに対する諦めが混ざっていた。
その何かは分からない。
けど、心が悲しんでいる。
なぜだろう。
「ただ、もういい加減自分には嘘をつくな。」
朝瀬君の真摯な言葉が胸を貫く。
あぁ、わかった。
どうして悲しかったのか。
彼の諦めが悲しかったんじゃない。
彼にこのことで呆れられるのが悲しかったんだ。
「・・・ごめん。もう少し正直になってみる。」
呆れられた上にこの気持ちまでは知られたくなくて、明るく笑ってみた。
ごめんね。
やっぱ、意地っ張りな性格はどうしても直らないみたい。
能澤君にも、散々言われたけど。
壮也にだって、言われたことがある。
でも、直らないのならそれを強みにすればいい。
この言葉をくれたのは、壮也だった。
自分に嘘を吐く人なんて、結局は自分を信用していないとイコールの関係である。
自分を信用できない人間が、強味など作れるわけがない。
でも、作れなくとも、視点を変えて、強味に変えることは出来るかもしれない。
「正直になれなくても、自分を騙すことさえやらなければ十分だけどね。」
「頑張ってみる。」
「頑張ってごらん。」
その時にはもう、朝瀬君の瞳はいつもの爽やかなものに戻っていた。
柔らかな、温かみのあるその瞳、その佇まい。
「・・・あさ・・・、」
「待った。」
言いかけた言葉を朝瀬君に遮られる。
どうしたんだろうと首をかしげて朝瀬君を見れば、何やら意味深な笑みを浮かべている。
「なあ、いつも北川に付き合ってるから、一つだけ頼まれてくれる?」
「・・・、いつ私に付き合ってるの?」
いつもほとんど君の私情ではないか。
そう言いかければ、まあまあ、とまたもや遮られる。
「じゃあ言い方変える。いっこだけ願い叶えてよ。」
「はあ・・・、」
今までの流れを踏んで考えれば、これはまた何かとんでもないことやらかそうとする予兆だったりする。
下手に抗えば、面倒になるかもしれないとっておきのとんでもないこと。
そんな考えに気を取られていて、私はその少しだけ変化した声音と表情に気が付かなかった。
「もうさ、そろそろいいんじゃない?」
「なにが。」
「何だと思う?」
「・・・。」
彼の言わんことが分かってしまうのがどうしようもなく憎らしい。
黙っていようと思えば、催促するように笑みを深める。
「・・・呼び名?」
「分かってんじゃん。」
「そりゃぁ分かるでしょ。」
「優。」
柔らかく微笑んでそんな優しく呼ばれれば。
拒める者も拒めない。
「返事は?」
「はい?」
「じゃなくて。」
「・・・朝瀬君・・・。」
「じゃなくて?」
ハァー。
盛大な溜息が零れそうになるのを必死で抑え込む。
私は、沙穂たちと、壮也と以外此の一線を越えたことはない。
この一線を越えれば、切っても繋がり続けるものが生まれるから。
少なくとも、今までそうしてきた人たちとは何があっても縁が切れたことがない。
そうやすやすと丸め込まれてはならない。
ただその反面、少しづつ惹かれていくこの人だったら、なんてそんな甘い考えや誘惑が脳裏をかすめる。
どうなんだろう。
許すべきか許してはならないのか。
「何で迷っているの?」
そそのかすように朝瀬君が耳朶に吹き込む。
その声に、少しだけ笑った。
「優。」
暗くはない。明るくもないアルト声。
壮也にも、能澤君にもない、爽やかさのある聡明な、それでいて優しさの含むその声。
——この声になら。
そう思える声。
この声に答えることはまだできないけど。
いつかきっと。
「はい。」
これ以上の返事が出来るようになるはず。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.48 )
- 日時: 2016/06/06 17:42
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪翔也 side≫
北川、いや、優と斉藤の会話が頭から離れない。
‘能澤だったら壮也の代わりを務めてくれるんじゃないかって、’
‘壮也と一緒にいたときの優’
‘昔のあたしみたいに虐めに遭って、’
壮也って誰なんだ?
虐めに遭っていたなんて全く知らない。
そしてそれらを全てこの脳に留める枷となっている言葉。
‘優の彼氏をあたしたちが決めているみたいで凄く莫迦らしい’
この一言が、なぜか妙に引っかかる。
言葉の意味が分かる。
でも、どうして引っかかっているのかという意味が混乱している。
家の近所の広場で、笑いあう二人の中学生が視界に入った。
あぁ、分かった。
今回も、同じような形だったからだ。
そして。
優の幸せになるべきものが、すべて誰かの手によってつくられてはいはしないか?
そう思った。
「君は・・・、一体どんなことを思っているんだ?」
自分の部屋で、俺は一人ごちた。
いつでもどこでも、自分に嘘を吐いて。
ずっと周りに気を配って。
どんな気持ちで一日一日を過ごしてきたのだろう。
思えば思うほど、考えが止まらなくなる。
彼女について、もっと知りたかった。
今の彼女が、幸を感じているのか。
——どうか、つらい時は傍にいたい。
一度ゆっくりと瞳を閉じ、俺はベッドから静かに下りた。
一度、あいつに会う必要があると思った。
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