コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 携帯電話で闘えてしまう世界 〜久々更新〜
- 日時: 2012/02/25 12:33
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)
プロローグ
新月の、夜の話。何かが、誰かが暴威を振るっていた。月明かりも照らさぬその日は、絶好の犯罪日和とでも言いたいのか大柄なその男は暴れていた。
警官がそれを止めようと束になって襲い掛かっていたが、全く手に負えない。それどころか、より被害は甚大なものになっている。止めようとする警官までもが犠牲になっている。
彼らは皆、その手に携帯電話を持っていた。
「オイオイ、まだ本気出してねぇぞ」
猛威を振るう男が嘲るように警官に呼び掛ける。それを耳にした警官の顔が苦渋に染まる。一矢報いてやろうとその手の内の、携帯電話のコールボタンを押した。
ピッポッパッとありふれた電子音が聞こえる。無表情だった一人ぼっちの彼の顔つきが一変する。狂気とも言える狂喜のような不吉な笑み、強い者とのぶつかり合いに応じるように、自分の携帯電話も開く。
「calling[コーリング]」
共に彼らは耳に携帯電話を当てた。その瞬間に、場を取り巻く雰囲気も変化する。
そして翌日——。
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>>23キャラ募集
皆さま、初めまして北野(仮名)と申します。
以前ここで書いていたのですが挫折して以来、ずっとファジーに引きこもってました。
それで、現在メールで友達に読んでもらっているのが個人的に気に入っているので出してみることになったんです。
注意書き
1、くどい文章お嫌いな方・・・見ない方がいいかも。
2、ヘタクソを見たくない人・・・他の人の読んでおいた方がよろしいかと・・・
3、コメントしてくれても部活で忙しくてそちらを読めない可能性が・・・
以上です、まあ読んでくださったら幸いです。
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calling。phoneを核として発動する契約者の解放と使役。契約とは多彩なものと交わせることができる反面、自分が何と契約するかは全くのランダム。洗濯機を呼び出せる者もいたら、砂糖なんてものを呼び出す奴もいる。中には動物を呼び出す者もいて、その人達はanimalfamiliar[アニマルファミリア]と呼ばれる。そして、最も強いタイプは、事象や現象といった類のものと契約しているEffect—Callerだ。竜巻のようなものと契約していたりする者もいるし、念動力のような者もいる。
次に、発動させる方法はphoneという携帯電話のような機械を用いる。phoneは見た目は完全に携帯電話だが、普通に電話をかけることはできない。callingしかできないという訳だ。そして発動させるのに、自分自身のphone-number[フォンナンバー]を入力する。声紋と同じように一人一人のphone-numberは違う。だが、他人の番号を使ってもその人のcallingskill[コーリングスキル]は使えない。callingを発動させるにはその人その人の体内を駆け巡る波動のようなエネルギーが必要だからだ。裏を返すと、波動と番号が正しいのならば、誰のphoneを使っても自分のcallingskillは発動できる。
三ケタと四ケタの数字がEffect—Callerだ。数字が小さくなるほどその力の強さは上がるが、110以下の数字だとその強さはイコールになる。
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序部
Chapter1 ELEVEN暴走編
一話>>1 二話>>2 三話>>3 四話>>4 五話>>8-9 六話>>14-15 七話>>16-17 八話>>26-27 九話>>28-29 エピローグ>>30
本部
Chapter2 第零班登場編
一話>>31二話>>32三話>>33四話>>34五話>>35
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.1 )
- 日時: 2011/10/28 20:35
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: r9aqtm1a)
一話
とある事件は新聞の一面を飾った。事件の内容を簡単に説明すると警官殺しだった。本日未明、公園で十数人もの警官が死体で発見された。出かける前に話を聞いた同僚の話によると外に出て一向に帰ってこない友人の様子を見に行ったらその人たちも帰ってこなかったのだとか。その公園には、callingでの戦闘痕跡が多数見受けられた。
今現在、犯人探しが迅速に進められている、とテレビの中のアナウンサー集団は大々的にニュースを流していた。それもそうだ、警察とはその国最高のcalling戦士部隊、ただ圧倒されるだけでなく、こうまで一方的に十数人も殺害されるなど、考えられなかった。
突然、苛ついた男はいきなり、乱暴にその喋る箱の電源を切った。箱ではなく、今の時代では板の方が形容する言葉としては充分正しいかもしれないが。
そんなことはお前たちに言われるまでもなく分かっているのだと荒々しい警官はアナウンサーに対して憤る。
確かにそれなりの実力者である、Effect—Caller[エフェクトコーラー]でないと警察にはなれないが、決して最強の人間が属している訳ではない。実際、警察の中にも信じられないように弱い者もいる。
「あいてっ」
ガシャガシャとCD-Rの山を蹴散らし、バサバサと紙が舞い散る音が向こうから聞こえる。又あいつかと、彼らは溜息を吐く。ここに住む中での、最も鈍臭く、最も弱いと嘲笑されている若手。どうせ何かに足を引っ掛け、転けて残念なことになったパターンだろう。よくあることだ。
「すいません、今すぐ直しますんで……」
あたふたと、急いで片付け作業に入る。散乱したCD-Rを一ヶ所にまとめ、積み上げて机の上に戻す。その次に、落ちた書類全てにざっと目を通して内容で大体を分別して事件ごとに分けている。なぜこんな作業は楽々とこなすくせにそこまで鈍臭いのだろうかと、肩を落とした。人ごみの中歩くと必ず誰かに因縁を付けられる、物が立ち並んでいたら倒す、そして何もないところでいきなり転ける。
警官らしくないと、子供から笑われるほど、第一印象は悪い。ただ、同じ職場で働く者は知っている。事務的作業は天才的に力を発揮する。それを活かすためにこの班の長が余所から引き抜いたのだ。ただしやはり、彼がphone[フォン]をphoneとして使っているところを見たのは中々いない。
「倒された奴はたまにラッキーなんだよな。自分以上に綺麗にまとめあげるんだから」
そういうこともあって、飲食物ではなく、書類やCD-Rのようなデータ類が落ちても文句を言う奴は誰一人いなかった。それどころか全く怒らずに片付けてくれたら良いと告げる奴が多かった。
「召集かかってるぞ」
テレビの電源を乱暴に切った彼は隣にいた仲間に声をかけられた。さっきの話に出てきた班長からの召集だ。おそらくさっき堂々と報道していた事件のことだろうと皆の集まる輪に向かった。
二人が最後にやって来た二人で、もうすでに自分を入れて七人の班員と班長はすでに集合していた。
「諸君、知っているとは思うが、今朝警官が十数人死体で見つかった。犯人はおそらく強力なCaller[コーラー]だ」
やはりそうかと皆が頷く。彼の取り仕切る班は主に凶悪なcalling犯罪に対処するために動いている。
「壁にはphone-number252と刻まれていた。おそらくこれは犯人の番号だ。とすると相当な手練れだ。心してかかれ。……の前に担当のメンバーを決める」
起こる事件は一つではない。日に五件は起こっている。いくらてこずるとはいえ一人検挙するのに総動員する訳にはいかないのだ。
「いつも通り千里眼に従うぞ」
千里眼、それが班長の契約者だ。あらゆる状況を解決する最良の手段を導きだす。
班長が胸ポケットから携帯電話型の機械を取り出した。3084とコードを入力する。そして、それを耳に当てて、小さく強く言う。
「calling……」
十秒程度の短い時間だけだが、そのCallerは目を見開いて空のただ一点を見つめていた。論点から外れたそんな所に何があるかは分からない。それでいつも答えを知れているのがcallingskillの一つ、『千里眼』のEffect[エフェクト=効果]。
その十数秒という時間は何度経験しても周りの者はさっぱり慣れなかった。神秘的な感覚に陥り、我が心の内の不安のような気持ちを沸き上がらせるような気がして、永久の中に閉じ込められた閉塞感のごとき感覚に苛まれる。
「見えた」
その、気味の悪い感覚にもようやく終止符は打たれる。軽く風が吹き、頬を撫でて髪をかきあげるような解放感がさらりと身体の芯を通り抜ける。目に映る全ての光景は、いつもよりも眩しい。生きている幸せのようなものを感じられることは、この副作用で中々に凄い事だといつも皆は感じている。
「ところで、どのようなものを御覧に、いえ、どのような答えが出たのでしょうか?」
班一番の切れ者であり、一応最強と班長に言われている奏白(かなしろ)が訊いてみる。すると、変則的な内容が返ってきた。
「それがだな、奏白。千里眼はお前がこの班で最も強いと思う者をメンバーに入れろと訊いて、答えた者らしい」
皆の脳裏に今まで無かったパターンの答えが返ってきて首を傾げるが、当の本人、奏白はすぐにその問いに答える。
「そうですね……まあ、知君(ちきみ)ですかね?」
その言葉に一同は目を丸くする。誰しもが必ず多少謙遜しつつも彼自身の名を出すと思っていた。しかしだ、出てきた名前は知君、あの超鈍臭人間である。
無い無いと、冗談だと思い、高笑いする同僚を尻目にやれやれと肩を落として奏白は知君の肩に手を置いた。
「ま、そんなんだからたまにはcallingしとけよ」
それだけ言い残し、解散となる。結局メンバーは千里眼に従って知君と奏白になった。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.2 )
- 日時: 2011/10/30 17:39
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: RcHXW11o)
二話
三日月の夜の話、警察署から少し離れた閑散とした空き地で警官数名が一人の人間と対峙していた。多対一にも関わらず、一人の方は並々ならぬ力で警官たちを圧倒していた。
物理的な理を外したような超常的な力で、周囲のものは歪んだり、破壊されていた。高速で動く狼のような風貌の者や、炎を操る超能力者のような者、瞬間移動能力者も全て一人の男に良いようになぶられていた。一見優勢に見えて一切の攻撃は当たっていない。
「おい、前のも今のも信じようがないぐらい弱ぇぞ」
暴力の限りを尽くして暴れ回るその男は喋る隙を見つけたと同時に、嘲笑を含んだ嫌味な声で、一見挑発のような言葉を吐く。だが現状は、そういう風な暴言を吐かれても仕方ないほど情勢は傾いていた。
そして警官の群れはすでに分かり切っていることを彼の台詞で再確認する。この、目の前にいる存在は、三日前に警官十数人を完膚無きまでに圧倒し、殺害した犯人だと。
それが事実だと分かった数名は瞬間的に背筋に凍り付くような何かが走るのを感じた。このままでは自分も死んでしまうのではないかという悪い予感。敗北するのではないかという諦めにも似た恐怖。冷や汗がすうっと、額を伝い首に達する。
「興醒めだ、calling…」
ヤバイと思った瞬間には時すでに遅く、彼のたった三回のプッシュ音が響く。耳にそのphoneを当てた時、その場を絶望が支配する。もう終わりだと、誰もがすでに心の中で不本意な、何かに似た感情でなく、純粋な諦めを感じ取った。
そして自然災害のような、避けようの無い暴威は今日もまた、暴れ始める。彼自身のcallingskillから生まれる、力によって——。
そして翌日……
「またかよ、くそっ……」
報道陣と警察内部は前日同様に、いや、もしかしたらそれ以上の興奮を見せていた。興奮しているのはおおよそ楽観的な一般人とマスコミの連中だけで、警察内部はただ焦っていただけだが、同士の仇を討とうと奔走する警官の姿は興奮と表現するのが正しいかと思われた。
「ELEVEN[イレブン]を起動した方が良いのか…」
ELEVENとは、Effect—Callerの中でも特に最強と謳われる百十番以下の十一人の人間のことだ。その内の一人が日本の警察の一番のトップであり、もう一人は十年前に日本で見つかり、他のELEVENは全てとある国が保持している。ただ一人、百番の人間だけを除いて。その百十番の能力、つまりはcallingskillどころかその素性すら知らぬ者がほとんどだった。
「しかし警察の一番のトップに頼み込める奴なんていないし…百十番も行方不明だし、踏んだり蹴ったりだな」
phone-number110はいつの間にか、発見の五年後に行方不明になったらしい。もうそれからさらに五年が経過したが、未だに見つかっていないらしい。phone-number100も同様だ。一つだけ違う点は、百番は未だに一度たりとも発見されていない。
ELEVENという言葉を耳にした時に、ぴくりと、ほんの少し奏白は反応した。だがそれとは対照的に、知君の方は全くと言って良いほどに反応が無かった。奏白の反応に何か意味があるのかと、周りの者は勘ぐろうとしたが、思い返すとただ単にそこまで危機的な場に置かれていると再確認しただけだろうと、各々の仕事に戻った。
彼がcallingをする瞬間を、皆は何度も見ているので、phone-numberも知っている。三百二だ。それなりに強いことは間違いないのだが、ELEVENには遠く及ばない。
犯人の手掛かりを全く得ることができていないこの段階では額に汗を浮かべてせっせと考えなくてはならなかった。詳しいデータの無い状況でそんなことができる人間がいるのかと訊かれたら大半の者はいないと答えるだろう。だが、奏白の場合はあいつならできるかもしれないと、知君の場合、少しぐらいならできるでしょと返す。要するに、知君の場合少ないヒントで大きなヒントに結びつけることができる。
「という訳だ、頼んだぞ知君」
頼られた知君は奏白の方に寄っていこうとするも、平らな床の上で転倒した。おいおいと、周りの者の目には憐れみの表情が現われるも、本人には届いていない。
膝を打った痛みに悶絶して、歪めた顔のまま起き上がった。そのまま自分を呼んだ奏白のところへと向かう。ただ一人、転けたことに関しては無関心でいた彼が口を開く。
「大丈夫だよな?じゃあちょっと考えてみてくれ」
えっ、痛いんですけどと話しかけた知君に構う事なく、考えろと押しつける。少々渋い顔をしたが、手渡された資料とこれまでの聞いたら情報からいくつか考える。
「たった二回だから断言できないんですけど、やっぱり被害者は警官だけなんですよね。しかも署の近くであり、閑散として人のいない所でだけ起こってます。これが本当なら犯人は、革命でも起こそうとしているのではないでしょうか?それよりも不思議なのは…」
流れるように持ち前のプロファイリング能力を活用して、共通点とそこから推測することを述べる。口だけ動かしている知君は思っている以上に頼もしい。
素の彼を知っている同僚にとってはあまり凛々しくは見えないが、素を知っているからこそ、その変貌には舌を巻いた。
「革命……か。物騒な世の中になったな」
遠くの空を見上げて、飲みかけの缶コーヒーを机の上に置いたまま班長は立ち上がった。昔を懐かしむ哀愁のような雰囲気が漂っていた。
数年前に、全世界を震撼させる大規模なテロが日本で起こった。主犯は女であり、callingの契約相手は停電という現象だった。全国で一斉に大停電。しかし発電所は動いている。この奇妙な事故の原因は前述の通り主犯の女のcallingskillだった。
そして、班長はその事件の担当だった者の部下だった。中々解決しないその上司に嫌気が差したさらに上層部の連中は、その人を首にした。今の班長が父のように慕っていた人間を。
「あんなことはもう真っ平ごめんだ。何としても食い止めろ。時間はかかっても良い。確実にだ。お前達は絶対に死ぬな」
力強く、自分の価値観を押し付けるような無理矢理さでそう奏白と知君の二人に班長は言い寄る。
あんな上司には俺は絶対にならないとでも上を否定するような誓いのような思いは、このような状況で彼を頑なにしていた。
「必ず、俺たちで検挙します」
力強く、奏白はしっかりと班長に言葉を返した。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.3 )
- 日時: 2011/11/07 22:09
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 91QMlNea)
三話
月が半円から一欠片程度が欠けたような形をするはずの日の、昼の話。依然として暴威を振るう犯罪者の存在は全てが謎に包まれていた。被害は三日月の晩以来増えていないが、それでも二十人以上の警官が殺されていた。
痺れを切らした上層部は、遂にとある決断を下すことになった——。
Wepon-Callerの起動を命じるとのことであった。
基本的に、Effect—Callerは三桁と四桁の者だけだと以前説明したが、そこには少し例外が含まれている。phone-number9999である者だ。九千九百九十九番だけは、この世に複数人の、同じphone-numberを持つ人間がいる。
そのphone-number9999のcallingskillは、携帯の形状変化、それも武器化である。そういう集団を集めた特殊部隊、Army[アーミー]を起動するとのことだ。徹底されたその集団戦術にはただ押し流されるのみと、一人一人の質より量で押し切る実力行使部隊、それがArmyだ。
「かなり上も焦っているのだな…総監直属のArmyを起動するなど。あの時と違って今度は流血しているからか…それも警官が、数十人も…」
Armyは孤立すると普通の警官一人と比べて圧倒的に弱い。だが、数十人集まった場合は同人数のEffect—Callerを楽々圧倒する最強の集団戦法を持っているとのことだ。そのため、訓練等は相当に厳しいのだが、敗北する機会など滅多に無い。そういう事から、Armyの奴らは弱くして警官の立場に就いているEffect—Callerが大嫌いである。実力が伴っているならまだしも知君のような者は…
「おい役立たず共ォっ!!」
壊れるかと思うような、一瞬はた迷惑にも思える程に荒々しくドアは開けられる。役立たず、そう暴言を吐いて現われたのはArmyの内の一人だった。
「なんで知君とかいうお荷物を使ってんだ!?確かに奏白なら強ぇがな、その知君とかいう奴はカス中のカス、キングオブカスだろうがァっ!!てめぇらは黙って俺たちに任したら良ィーんだよ!」
煩く長く一方的な話し方に班員は皆顔をしかめた。現われたのは一人の男、年齢は三十路と言ったところだろうか、多少の年を渡って勤務しているような雰囲気を放っている。
兵隊のような迷彩柄の敵意丸出しの服を着て、手元には携帯電話に酷似した一本の刀を持っていた。
あれこそがcalling-number9999、transform[トランスフォーム=変形]のcallingskill。
「Army五番隊隊長…西川慎二…」
Armyにはいくつかの分隊がある。特攻隊の一番隊、諜報活動の二番隊、救護班の三番隊、陽動部隊の四番隊、そして力押しの最強集団、五番隊。
五番隊は確かに最も強いが、班員の個々の能力が高いために隊長自体はあまり身体、精神的な能力が高くなくても就くことができる。よってここは有能な人材のために設けられた登竜門とも呼ばれている。
「えっと…知君に何か文句でも?」
「大有りだぁッ!!なぜ貴様のような雑魚が我らを差し置いて世を牛耳っている!?それを言いに来た。試しに知君、てめぇcallingしてみろ」
言われっぱなしではいけないと思った、パートナーである奏白が極めて冷静を保って彼に質問する。何か知君に文句でもあるのかという風に。
しかしそれもあっさりと肯定されてしまう。それの証明だとでも言うのか、知君にcallingを促そうとしている。
「なんだと……!」
奏白の額に怒りの血管が浮き出る。しまったと、西川は後悔した。一人で来たのだ、他のEffect—Callerの機嫌を損ねたら自分が不味い事を思い出したようだ。
だが、その険悪な雰囲気を一時中断し、さらに油を注いだのは知君だった。
「喧嘩は止めて下さい。それに…警察に居続けたいのなら、僕にcallingはさせない方が良いですよ」
喧嘩はするなと、極めて平和の下の住民のような意見を知君が提案する。争うだけでも解決しない上に奏白の機嫌を直したい西川はそれに同意するように頷こうとした。
頷こうとしたのだ、だがその同意の証明の前に知君が今度は爆弾発言をしてしまった。警察に居続けたいのならば自分にcallingはさせない方がよい。それは西川に自分は彼、知君自身に劣ると宣告されているようなものだった。
「えらく上からだなぁ?知君、てめぇやっぱり舐めてんだろ?言えよはっきりと!ア゛ァ!?」
せっかく厚意で言ったのに、なんでこうなるのだろうかと知君は頭を悩ませる。個人としてはそれほど悪いことを言ったつもりは一切無かった。
そんな心情を噂だけ聞いている初対面の西川慎二に察しろと言う方が不可能だった。
それ以前にまず、なぜそのような自信満々な言葉が口から出てくるのかさっぱり同僚すら分からなかった。
「分かった…何でも良いからとっととcallingしろや!てめぇに情けかけられるほど落ちぶれてねぇぞぉ!」
弱ったようにポリポリと彼は頭を掻く。本当にやっちゃって良いの?と奏白の方を向いて首を傾げた。苛立つ奏白はやってやったらいいと、ふんぞり反っている。
疲れたような溜め息を吐いて知君は自分のphoneを、ポケットから取り出す。
重苦しい雰囲気がその場に漂う。ピッ…ピッ…ポッ…とコール音が、その静寂の中で、小さい音ながらも存在感を出して響く。
その携帯電話型の機械を彼は耳にゆっくりと当てた。
「calling……」
瞬間、千里眼などとは比べ物にならないほど怪しい感覚がした。身体中を機械が這い回り、全身の粗を探されているような感覚。それを最も大きく感じていたのは他ならぬ西川だった。
「…………」
何も起こらないじれったい時間が数十秒経過する。誰も言葉を発しようとしないので依然沈黙の均衡は保たれたままだ。
痺れを切らした西川が苛立って怒号を飛ばそうとした時だ、それを遮るように知君が言葉を発した。
「transform、携帯電話武器変形能力。基本変形、日本刀」
「………は…?」
何を言うかと思うといきなりcallingskillの解説を始めた。今そんなことは不要だと言うのに。
「それがどうしたって?」
怒りなど飛んで呆れて目を丸くした西川が間の抜けた声でそう問う。
こいつのcallingskillは一体何だ、今の発言にまるっきり関係ないじゃないかと、ほとんどが頭に疑問符を浮かべる。
そろそろ疑問もじれったさに変わってきたこの頃、ようやく変化が訪れた。いきなり彼のphoneが変形を始めた。ガシャガシャと音を鳴らして、その形は柄のようになる。
どこかで見たことがあるcallingskillだと皆が感じた次の瞬間にその柄のようなそれから、光り輝く粒子の刀身が現れた。
「これじゃあまるで…」
phone-number9999そのものではないか、最初に皆が感じたのはそれだった。
でも一抹の疑問が頭の中を渦巻く要因になっていた。確かにコール音は三回しか鳴らなかった。
三桁のphone-numberで四桁のcallingskillが発動している。その理由は謎に包まれたまま、その日の公務は始まることとなる——。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.4 )
- 日時: 2011/11/13 21:35
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: z9DnoDxA)
四話
去る日から数日後、半月の、夜の話。数百人の武装警官が一人の青年と戦っていた。殺気全開で、本当に殺害しそうな勢いで。練りに練られ、鍛えに鍛えられた最高の戦術と強靭な筋肉が集団を構成する者たちのほとんどに見受けられた。
彼らが一番上に着こんでいるジャケットには五番隊と荒々しく赤の糸で刺繍されている。
だがここには、いないといけないはずのあの人間の姿は見えなかった。各分隊の隊長、この班で言う西川慎二だ。彼は到底人に言うことのできないような理由で辞職したということだけ、隊員は聞かされていた。
何を原因としてそうなったか、それは誰も聞かされていなかった。ただ一つ断言できる事は、確実に西川はあの日、凶悪calling犯罪対策課第一班に赴いてからおかしくなった。
「こいつを倒して何があったかあの連中に聞くぞ。皆一斉に片を付けるぞ」
隊長のいない今はリーダーシップを持ち合わせている奴が代表して取り仕切っていた。とは言ってもどの戦術が適しているか考えるだけ。新しい作戦等は考えない。
だが隊長に起きた事を奴らに問いただす、それを目的としているその隊の全員は掲げられた目標にたどり着くために目の前にいる一人の青年を見据える。
「俺を殺るってか?やってみろよカス共」
優越感とそれから生まれる恍惚の感情に浸りながら不敵に青年は高笑いしている。かかってくるなら早くきてみろと。
言われなくてもだと心の中で頷いた隊員達は駆け出す。これで隊長の無念を晴らし、Effect—Caller共を見返すことができると。黙したまま、襲い掛かる。
そして無情な、コール音が、鳴る——。
「calling……」
青年が、自身の、契約者の能力を解放した。
「で、大口叩いたくせにおめおめと逃げ帰ってきた、と?」
傷つき疲弊した兵士達に労いの言葉も返さずに、辛辣にも現実を突き付ける。それが事実なのだから、一層質が悪く、参列する数百人の怪我人は気と肩を落とした。
つい昨日、またしてもあの例の青年が出現した。前回と違う点は、ヤバイと判断した隊員達が総撤退したので、一切の死亡者が出なかったこと。しかしそれでも、相手に傷を負わせることすらできなかったし、惨敗の上に尻尾を巻いておめおめと引き下がっただけだった。
「その件については、言わずともこちらに非がある。我々の隊長の失言、我らが心から謝罪する」
「分かってるよ、これ以上引きずるなよ」
心からの誠意を見せるために一同は凶悪calling犯罪対策課第一班の面々に頭を下げた。
その誠意を感じ取った奏白は気にするなと軽く言い放つ。そんなことより今はその相手についての情報が欲しい。
「相手について、何か覚えていないか?」
「そのことなんだが、一つおかしいことがあったんだが……」
「おかしなこと?」
「そいつは、複数のcallingskillを保持していた」
その言葉に驚いた奏白は瞠目した。ありえない、一人の人間が複数のcallingskillを持つなんて。絶対に一人当たり一つしか無い。複数犯の可能性も示唆したが、それならばArmyの五番隊の連中がとっくに感付いていると、否定する。
そのような混乱の中、いきなりその焦りを鎮静化させる横槍が入る。
「その可能性もあります」
横槍を入れたのは知君だった。話の腰を折られても、一切奏白は嫌な表情をしなかった。
横槍を入れたのが同僚だということ、犯人が複数のcallingskillを持つCallerの可能性があるということに対する好奇心があったからだ。
「理由…は?」
「壁に刻まれているphone-numberは一回目と二回目で異なっています。ですが、筆跡…と言うには変ですが特徴が似通っているんですよ。おそらく同一犯でしょう」
複数のcallingskillを持てる可能性がある、それはどういうことなのか、奏白は分からなかった。
もしも人のcallingskillを奪ったり、写すようなものだったら軽く三桁の世界に踏み込めるはずだ。だが、三桁のcallingskillは全て発覚している。そのような類のものは無い。
本当に、そんな事があるのか…
知らず知らずのうちにその言葉は小さく、口から発せられていた。そこから奏白の思考を予測した知君は解答を突き付けた。
「もしかしたら相手は、ELEVENの可能性があります」
ELEVEN、そう聞いた時に頭の中で繋がった。
特に、ELEVENの中で唯一行方の知れぬphone-number100なんて怪しいにもほとがある。その上、ELEVENのcallingskillは全て他人の能力の効果の無効化や反射、弱体化や強化など、干渉する能力だ。
「もちろん、そのphone-numberは…」
「百番が怪しいです」
やはりかと、奏白は苦渋の表情を浮かべた。ELEVENが敵だというなら、勝ち目が無いのではないかと、悲観的になってしまったのだ。
不安げに溜め息を吐くと、心配そうに知君が覗いてきた。そういえばと、思い出す。確か知君の能力も三桁であり、それなりに強かったはずだ。
一度だけ共に仕事をした時にwind[ウインド=風]のような感じのcallingskillで相手を圧倒したような気がする。
その時の相手は、焦りながらphoneを取り出したくせに、callingしなかった覚えがある。そんなこんなで自分より強かった気がする。
「それにしても…コピーなら、使い勝手が良いでしょうね」
ポツリと、寂しげに知君が呟いたのを奏白は聞き逃さなかった。どういうことかと、彼の方に振り返る。
その表情には、声音に含まれるような寂しさなど感じられず、ただ憧れのような色が浮かんでいた。
「どうかしたのか?それが」
「いえ、五年前の能力消失事件を思い出して…」
そんなこともあったなという風に、懐旧の思いで周りにいた皆が首を小さく縦に往復させた。
今にして考えても奇妙な事件だ。突然誰かのcallingskillが消えるなんて。
確か、消失したのはspiral-truth[スパイラルトゥルース=捻曲がった真実]、催眠幻覚系のcallingskill。
「でもまあ、今回は被害者いなかったからまだ良いか」
逃げ帰ってきたが、死なれるよりましだと、多少思いやりのような言葉を放つ。それを聞いてすぐに、今度は彼ら五番隊員が訊く番となる。
「なぜ…西川様はご退職なさったのですか?」
この質問に答えたのは知君であり、さらっとだが、悲しげに呟くように解を伝えた。
「彼は警官である必要条件を満たさなくなったんだ」
重々しくそう言うが、周りの者にはその意味が分からなかった。
それよりも気になることがある奏白に、質問の順番が舞い戻ってきた。
「次の襲撃…いつか分かるか?知君」
「月に絡めているような気がします。満月の夜ではないでしょうか」
「そうか……」
その宣言通り、何も起きない日々が続き、ついにとある日は満月を迎えようとしていた。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.5 )
- 日時: 2011/11/17 22:01
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)
お久しぶりです、友桃です^^
北野さんの新作!!ということで来ちゃいました♪
まだ2話までしか読んでいないのですが……
文章がすごく読みやすいです!! すらすら読めて感動しちゃいました^^
内容も大好きな能力者モノで、すごく楽しかったですv 続きが楽しみです^^
登場人物、犯人は別として(←)、警官がみんなかっこいいなぁと思って読んでいたのですが、
個人的によくこける知君くんが好きです、かっこいいです、早くcallingしてほしいです……!!←
今からまた続き読んできますー^^
更新頑張ってください♪ 知君くん活躍させてくだs…(黙;
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