コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 偶然の雨。 【完結しました!】
- 日時: 2012/05/26 13:51
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: uY/SLz6f)
雨が、降っている。
細かくて、柔らかくて、霧のような雨だ。
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- Re: 偶然の雨。 ( No.5 )
- 日時: 2011/12/23 23:43
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hTgX0rwQ)
- 参照: ジャージは白だよね、白。でも自分で着るなら黒だな。
外に出ると、少し、肌寒かった。
思ったよりは雨は降っていなくて、ほぼ霧のような雨だった。
「どっちやろ……うー、こっちかな。」言うが早い、彼は建物の右手に伸びる道をスタスタと歩いて行った。
急いで後を付いていくと、いきなりピタッと止まって回れ右をした。「ごめんな、やっぱこっちかも。」
え、地元民じゃなかったんすか……。多少不安になってきたが、私には付いていく以外に選択肢はない。他愛のない、すぐに途切れる会話をしながらも歩みを進めた。これは、本当に帰れるのだろうか……?
しかしそれは杞憂だったようだ。何だかんだで彼は物凄く勘が良かった。
こっちかな、いや、こっちかなぁ、とかブツブツ言いながらも、数分ですぐに駅に着くことができた。小さい駅で、どうやら地下鉄のようだ。地上にぽっかりと開いた穴のような入口をくぐり、地下へと続く階段を下った。
気のせいかもしれないが、駅が見えたときらへんから彼の口数が多くなっていったような気がする。彼も私と同じで本当に駅に着けるかどうか不安だったのかもしれない。
階段を下る度にカンカンカン、とリズムのよい音がする。階段を下る靴音がめちゃくちゃ響いているのに、彼はお構いなしに喋り続けた。さっきまでの調子からでは考えられないくらいに喋っていた。けれど相変わらずボソボソと喋るもんだから、何と言っているのかよく分からない……きっと喋り慣れしていない人なんだろう、と勝手に解釈した。
階段を下り終わって、ホームに着いた。やはり喋り続けていた。私の方も慣れてきて、ベラベラと喋った。初対面の人とこんなに喋れたのは初めてだった。
どこに住んでいるのか、何と言う学校に通っているのか、部活は何しているのか。そんな自己紹介的な話題から始まって、いつの間にか視力の話まで発展していたもんだから恐ろしい。
話しているとお互いに、「え?」とよく聞き返した。無理はないだろう。あちらは京都弁で、こちらは東北なまりの標準語で喋りまくっていたのだから。
まぁとにかく、喋りまくった。
私は学校の仲の良い女友達ともこんなには喋らない。どうして初対面の、それも異性の人とこんなに会話が弾んだのか自分でもよく分からなかった。不思議だった。今でも不思議に思う。
まるで、昔から知っている人みたいだった。しかし当然ながら今まで一度も会ったことは無いのだ。
やがて電車がやって来て、二人で乗った。関西と関東では随分と電車の仕様というか、中のデザインが違っていて新鮮だった。
二駅ほどですぐに乗り換え、また新しい電車に乗った。こっちも斬新だった。デザインがカッコよくてびっくりした。なにせ電車の床が黒くて、石畳風のデザインだった。
「なにこれ、石畳!?」
興奮してそう言うと、彼が笑った。「いや、ゴムだと思うけど。」
座席に座ると、やけにふかふかだった。高級感が漂っていた。思わず有料電車なんじゃないかと思ったが、違うらしい。
「俺は毎日これ乗ってるよ。たぶんここらで一番綺麗な電車だと思う。」
隣同士で座った。初め、なんだか照れ臭かったが、数十秒で慣れた。
「今何時だろうね。」言いながら、携帯の電源を付けた。19時ちょっと過ぎたらへんだった。
「え、なにその待ち受け。地元?」彼が私の携帯の待ち受け画面の写真を覗きながら言った。
「うん、地元。こことは比べものにならないくらい景色が悪いけど。」
「ほぅ。よく見せてよ。」
「ああ、いいよ。」
どーせ見てもつまんねぇよ、と思いながらも携帯を渡した。渡した時に、少しだけ手が触れて、温かかった。あ、この人ちゃんと生きてる人間なんだな、と当然のことを改めて認識した。なんだか変な話だが、同じ生きてる人間だという感覚が薄かったので、少しびっくりした。
- Re: 偶然の雨。 ( No.6 )
- 日時: 2011/12/29 00:12
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
その後はしばらく電車に揺られていた。短いようで、長いようで、よく分からない時間だった。何を喋ったのかあまり覚えていないが、どうでもいいことを喋ったような気がする。あちらもどうでもいいことを喋っていた気がする。
ただ、居心地は悪くはなかった。
確か、別れた駅は丹波駅だったと思う。
別れ際、乗り換えについて詳しく教えてくれた。
電車慣れはしていたのでそんなに説明はいらなかったのだが、彼は電車の色やホーム、電車が来る方向まで全て事細かに教えてくれた。半端なく親切な人なんだなと思った。
やがて電車は速度を落とし始める。もう、ここでお別れか。
「いつ頃地元に着けるの?」
「そうだな……」できるだけ、視線が合わないように私は下を見ながら話した。「日が変わる前には着けると思うんだけどね(笑) なんせ、田舎だからさ。そっちは明日試合なんだろ、頑張ってね。」
「ありがとう。頑張る。」
いよいよ電車は完全に止まって、私は座席から立ち上がった。あまり帰りたくないな、と思った。
「じゃあ。」
「気を付けてな。」ふと目が合って、思わず逸らした。
「大丈夫、ちゃんと帰れるよ。」笑って答えると、あちらも笑い返したみたいだった。
「そっか。元気でな。」
それから少しだけ、お互いに手を振った。その後は振り返らなかった。振り返れなかった。
やがて、目が覚める。
品川駅だった。寝ている間に数時間が経過して、あっと言う間に東京に着いていたようだ。ここからまた、地方への電車に乗り換えて、それでやっと地元に帰れる。
新幹線から降りるとき、他の大勢の人も同じように降りていた。みんな何をしてきて、あるいは今から何をするのだろうと疑問に思った。こんなに大勢の人が、それぞれの予定に基づいてそれぞれ行動しているのかと少し不思議な気分になった。
地元行きの電車に乗った後もまた眠った。寝ていた時の記憶と意識は全くなかった。
数十分後、車内放送が聞きなれた駅名を告げる。まだ眠っていたいと訴える体を無理やり動かして、ホームに降りた。
やっと地元に着けば、もう夜はだいぶ深まって、寒かった。
駅から降りると、なんだかとても懐かしい匂いがした。たった一日地元から離れたけで、こんなにも恋しくなるものかと思った。
暗い夜道に、一人、帰路に着く。
微かに吹く夜風が、ひんやりと頬に冷たかった。
今思えば全て夢だったんじゃないかと思った。数時間前まで、数百キロも離れた地に居たなんて、到底信じられなかった。
- Re: 偶然の雨。 ( No.7 )
- 日時: 2011/12/31 15:03
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
それから数か月後。冬になった。
私の地元の冬はあまり雪は降らない。乾燥した、スカッと晴れた晴天の日が永遠と続く。
しかし今日は、珍しく雨が降った。霧のような細かい雨で、寒い。目が痛くなるほど太陽の光を飽和させた灰色の空から、さんさんと灰色の雨が降っていた。どんよりと曇った嫌われ者の空は、むしろ私は好意的だった。この頃の晴天続きに、少しウンザリしていたのだ。根暗な人間に晴天はキツい。
ふと、忘れていた記憶が思い出される。
あの日も霧雨の日だったな、と柄にも無く独り呟いた。
多分あれは、恋だったんじゃないだろうか。
あんな感情抱いたこと無かった。今まで恋をしたことはあったつもりだったけど、そうでも無かったようだ。だったら私はほぼ初対面の人に初恋をしたということになる。……ひえー、そんな自分が恐ろしい。
そこで初めて気が付いた。彼の名前は何だっけ?
彼の通っている学校名や、住んでいる場所、何部なのか、それに視力までばっちり思い出せる。が、名前だけはどうしても思い出せない。
ふとあの日のことを思い返してみると、私たちは互いの名前を言い合わなかった。今考えれば変な話だ。ふつう、自己紹介は名前の紹介から始めるものだろう。
名前も分からない人に初恋か、と他人事みたいに笑えた。笑うしかないだろう。
まぁそれもアリかな、と思った。名前が分からない方がなんだかロマンがあるではないか。
もう一度会えるのなら会いたいな、と切に思った。会ってどうこうという訳では無い。本当に存在する人なんだともう一度確かめてみたい。
けれど、もう。
二度と会うことは無いのだ。
降りしきる灰色の霧雨は、おぼろげな記憶に似ていて、少し切なくなった。
することも無く、駅のベンチで霧雨が止むのを待っていた。雨が止むのを持っているのに、雨が一生止まなきゃいいのに、と思った。このままでいい。このままずっと、降っていればいい。灰色の空で、地上を憂鬱に濡らし続ければいい。
しかし雨はいずれ止んでしまう。いつの間にか、陰気な雨雲はどこかに去って行ってしまった。
すると少しずつ空は晴れてきて、傾いた太陽は地上を温かい光で照らし始めた。いい迷惑だ。
せっかく雨が濡らした建物や地面も、太陽のせいでだんだんと乾いていく。雨水は蒸発して、水蒸気となって、また空へ帰っていく。
じゃあこの雨水たちは、一体いつになったらまた地上へ帰ってくるのだろう?そもそも、またここに帰ることはあるのだろうか?
きっと、帰ってこないんだと思った。
私のこの記憶だってそうなんだろう。気まぐれな霧雨のように突然現れては、脳裏に刻まれる。かと思えば少しずつ空に帰っていく水のように、少しずつ、少しずつ、薄れていく。
最後には、誰からもきっと忘れられてしまうのだろう。
………けれどまぁ、
多分それでいいのだと思った。
- Re: 偶然の雨。 ( No.8 )
- 日時: 2011/12/29 21:43
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
- 参照: あとがきー。
ついに完結いたしました!\(^0^)ノヤッター
やっと完結作品を書くことができました!
自分は普段、ぶっ飛んでる系の物語しか書かないんですが、今回は珍しく実話をもとにしたものを書いてみました。っていうか実話モノは初めてやってみました。
それで分かった事。
実話って……恥ずかしいんですね(爆
ぐらいです(^ω^;)テヘッ
一応これで自分でも完結できるということが判明したので、
残りの4作品(笑)も完結させるべく頑張っていきたいと思います(・ω・´)!
■以上、小説カキコに感謝の意を表して ryuka■
- Re: 偶然の雨。 【完結しました!】 ( No.9 )
- 日時: 2013/03/31 21:10
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ECnKrVhy)
- 参照: ちょいと宣伝ー。
■ちょいと宣伝コーナー
さてryukaの完結作品第一作目の「偶然の雨」でしたが、
ついに完結作品第二作目ができましたー!!
ジャンル: 二次小説(紙ほか)板【新】
題名 :【竹取物語】二次小説【羅生門】
あらすじ:本作品は二部構成となっています。第一部は芥川龍之介先生の作品「羅生門」の二次小説です。原作ではラストシーンでどこか闇の中へと消えた下人。そんな彼のその後があったら……? そ想像して書きました。描写に使う言葉の美しさや、それに対照するグロテスクさに力を入れた作品です。
第二部は作者不詳、日本最古の物語「竹取物語」の二次作品です!
舞台は平成。かつての高校の同窓会に出かけた主人公と、そこで久しぶりに出会ったクラスメートが体験する、摩訶不思議な物語。満月の夜に、こっそりと紐解かれる秘密とは……?
その他にもカキコではすべて合わせて七作品執筆させていただいております。自分の作品の登場人物は作品間を跨いで登場いたします。あ、こいつ見たことある!というキャラもいるかもしれません。
もしよろしかったら、他の作品もどうぞ!!
コメディ・ライト板 : 『小説カイコ』(長編/執筆中)
『偶然の雨』(短編/完結)
シリアス・ダーク板 : 『昨日の消しゴム』(長編/執筆中)
『壁部屋』(長編/打ち切り。昨日の消しゴムでやり直し。)
複雑・ファジー板 : 『菌糸の教室』(長編/執筆中)
『絵師とワールシュタット』(短編/執筆中)
二次小説(紙ほか)新板 : 『【竹取物語】二次小説【羅生門】』(短編集/完結)
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