コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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笑ってよ サンタさん
日時: 2013/04/07 13:48
名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)

   笑ってよ サンタさん

■このお話は【完結】しています。
 季節も【クリスマス】です。

ではでは、スタート!

——「ねぇ、お母さん。『さんたくろーす』ってどんな人なの?」
 まだ幼く、聞いたこともない言葉を少女は母親に聞いてみる。
「そうねぇ、おひげが生えててちょっとこぶとりのおじいさんなのよ。でも、とーっても優しくていつもニコニコ笑ってるのよ」
 母親は優しい声でゆったりと語る。
「へぇー!じゃあ、サンタさんのそばはきっといつも笑顔であふれててあったかいんだろうね!」
 少女は目を輝かせて満面の笑みで聞き返す。
「えぇ、きっとポカポカするでしょうね」
 母親も優しく目を細めて笑顔で返した。
「サンタさんに会ってみたいっ!!」
「いつか会えるわよ、きっと」——
 数年前、病弱な母が私に話してくれたサンタさん。あったかくて優しいサンタさん。でも、現実はそれをくつがえすように教えてくれた。冷徹で非道なサンタさんがいることを。

「はっ」
 っと目をさまし椅子の上から起き上がった。ついついうたたねをしてしまったようだ。
(なんだか、昔の夢を見ていた気が……?)
 膝からずり落ちそうだった聖書を持ち直し、笑未(えみ)は再び聖書を朗読し始めた。
 桜田 笑未(さくらだ えみ)
は赤毛がチャームポイントの15の少女だ。髪は肩で切りそろえ細身の体にはシスター服をまとっている。そして、ここは大聖堂、教会だ。彼女は立派なシスター……ではなくシスター見習いなのだ。シスターとなるべく空いた時間はいつもここで聖書を読みふけっていた。
(今日もまた、いつもと変わらないわね)
 たとえ今日がクリスマス・イブだとしても。幼くして両親を亡くし、施設育ちの笑未にとって『クリスマス』とはただの外野の出来事にすぎなかった。聖書の文字とにらめっこをしているその時だった——
 パリーッン!とステンドガラスが割れる音が大聖堂中に響いた。笑未はとっさに近くにあった教卓の下に潜り込む。自分の身の安全を確保し、息を飲み込んだ。
(な、なに今のっ!?誰かが窓を割ってはいってきたように見えたのだけれど……)
 先ほどの轟(ごう)音は嘘だったかのように辺りは静寂に包まれている。笑未は深く深呼吸を何度か繰り返し、教卓から頭だけ出してそちらを覗いてみた。そこには赤と白が印象的な服を着た人影が見える。不安と恐怖と、ほんの少しの好奇心を抱き笑未はじっとその人影を見つめた。するとパチッっと目があった。今更隠れても時すでに遅し。こちらに気づいた人影が無言でどんどん近づいてくる。
 コツコツコツ
 足音だけが響く。そして、じょじょにその姿もはっきりとしていく。片手には大きな袋、足にはしっかりとしたブーツ。
 隠れていてもしょうがない、と腹をくくり笑未は教卓から体をだそうとすると近づいてきた人物がいきなり口を開いた。
「おい、子供。早く出てこないと鹿共の餌にするぞ」
 凍てつく声が聖堂に透き通る。無感情な言葉の一部に笑未はカチンッときた。
「誰が『子供』ですってー!!」
 教卓を馬鹿力で放り投げ、目の前の人物を睨みつけた。
「そりゃあ、背だってあまり高くないし童顔だから幼く見えるけど、私はちゃんとした15歳でっ…………!」
 一瞬言葉が詰まった。なぜならそこには美少年と言っていいほどの顔が整った青年が立っていたからだ。白髪の髪をなびかせ深い藍色のつり気味の目がこちらを見つめている。格好はサンタのようだが、それはまるでどこかのおとぎ話から出てきた王子様のようだった。
「お、王子様……?」
 ついつい言葉が漏れてしまった。しかし青年は無表情で
「は?何バカなこと言ってんだ、お前。俺はレイジ、世に言うサンタクロースという仕事をしている」
 と、口は悪いがりちぎに返してくれた。
「あっ、どうも。私は桜田 笑未です」
そのはずみで笑未もりちぎに名を名乗った。
「今回は緊急の用事で来たんだ」
「用事?ステンドガラスを割って入らなければならないほどの?」
「あぁ、そうだ」
急ぎもせず、遅くもないテンポで無表情にレイジは答えた。そんな緊急な用事ならもっと急ぐべきではないか?と、笑未は思ったが口にしないでおいた。
「あの、用事って?」

 【—続く—】


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Re: 笑ってよ サンタさん ( No.1 )
日時: 2012/12/24 11:14
名前: 妖狐 (ID: OZDnPV/M)

「お前はなんのクリスマスプレゼントが欲しいんだ」
「……はい…………?」
 今聞こえた言葉を疑うように聞き返す。
「お前はなんのクリスマスプレゼントが欲しいんだ」
 ……説明してくれたところ悪いが、それが理由でステンドガラスを割って入ってきたのか?笑未は耳を疑うように顔をしかめ、それから鬼のぎょそうに変わっていった。
「ふ……ふ、ふざけるなぁー!!」
今度こそ何かが切れた音がした。
「ステンドガラス代がいくらかかっていると思うのっ!?それを割って入ってきて!」
 笑未は無残に粉々に割れたステンドガラスを見つめる。
「えぇ、そうね。それじゃあ現金とかかしらね?ステンドガラスを治す修理代の現金とか欲しいかしらね!」
 ふつふつと腹の中で煮えたぎる思いを必死に抑えるように笑未は聖書を握り締める。
「夢のない奴だな」
 ふっとどこか遠くを見つめるようにレイジはつぶやいた。
「なっ……!もとはといえばあなたのせいでしょう!?どこの世界に窓を割って入ってくるサンタがいるのよ。煙突から入ってきなさいよ!」
「まぁ、それは一理ある。が、しかしここは煙突がなくてな……」
 まるで悪びれる様子がないレイジに笑未は聖書を放り投げる。
「っこの、そのスノーサンタが!」
 その聖書をぽすっとキャッチし、レイジは今さらながら気づいた。
「お前、シスターだったのか……」
 と、つぶやく。
「おい、子供。現金もできなくはないがもっと子供らしいものはないのか」
「子供子供って……!現金のほかに欲しいものなんてないわっ」
ツンッと突き放す態度で答え、笑未はレイジから聖書を取り戻す。その反抗的な態度にレイジは眉間にしわをよせた。
「お前、本当にシスターなのか?シスターならシスターらしくもう少し落ち着いて話せ」
 先ほどから強気な態度で話す笑未に対してレイジは冷たく視線を向けた。普通、おしとやかな印象のシスターと違って笑未はおてんばで強気なところがあった。そして、この国では珍しい赤髪も加わって「シスターらしくない」と言われることも多々あった。そんな笑未の中では子供っぽい、とシスターらしくない、は禁句なのだ。
「おい、聞いてんのか」
 無言でうつむいている笑未をレイジはいぶかしげに見つめた。しかし、笑未は顔を上げない。先ほどの威勢は嘘だったかのようだ。
「おい……?」
 レイジはどさりと片手に持っていた袋をおろし、肩をたたこうと笑未に手を伸ばした。ちょうど、その瞬間——!
「しょうがないじゃないっ!しょうがないのよ……」
 がばっと笑未が頭を上げた。笑未の頭の上に顔を突き出していたレイジに、頭はドストライクにレイジの顎(あご)めがけてあたっていく。
「うがっっ」
 奇妙なうめき声とともにレイジは後ろに倒れていった。
「い……ってー。どんな石頭してんだよっ」
 顎を撫でるが痛みは飛んで行ってくれない。苦痛に顔をゆがめながらレイジは笑未をみた。そして、目を見開いた。
「だって、クリスマスなんて私には関係ないんだもの……!子供のころは幼い子がいっぱいいてっ、お手伝いで毎日忙しくて……クリスマスの日なんて気にかけもしなかった」
 ポロポロと笑美の頬をつたい、水滴が冷たい床に落ちていく。
 5歳から、ここの教会の児童保護施設にはいった笑未はまだ幼いといえ、自分よりも小さい子を目にし自分がしっかりしなければ、と感じた。そして、年月が経つにつれ精神ともに鍛えられていき、誰にも弱みを見せないような強気な娘へと育ってしまったというわけだ。しかし、そんな笑未でも時にはついつい涙を流していしまう時だってある。たとえばそう、怒りすぎて何かが崩れてしまった今とか……
「だから……だから今更クリスマスだ、プレゼントだって言われても困るのっ!それに何を頼めばいいっていうのよ……?分からない……」
声が震えているのが自分でも分かった。
(こんな話めったにしないのに、なぜ私は話しているの?)
 しかも初対面の相手にだ。自分でも不思議だった。
(なぜ?)
 サンタクロースだからだろうか?たとえ冷徹で口が悪くて無感情なスノーサンタでも、昔から憧れ会ってみたいと思っていた相手だからか?
「じゃあ、他の子共が頼んだプレゼントを見てみるか?」
「へっ?」
 ぼそりと顎を抑えたままレイジがそっぽを向いてつぶやいた。空耳かと思った。あのスノーサンタが友好的に誘ってくるなんて。
「まぁ、プレゼントを配布しながらだから、手伝うという条件付きでいいならな」
 ふんっと、勝ち誇った顔でレイジは付け加えた。そんなスノーサンタを見て笑未は苦笑した。
(ふっ。あぁ、そういうこと。こき使うって言いたいのね)
 そんなレイジの裏の感情を読みっとたが、不思議とその提案は悪くないと思えた。むしろわくわくしてきてしまった。
「仕方ないわねっ。そこまで言うならついて行ってあげなくもないけど」
 涙をひっこめ、しっかりとした声で笑未は答えた。言葉は冷たくしてこの心の中の好奇心は隠したつもりだが、キラキラと輝く瞳は隠しきれていなかった。レイジはそんな笑未を不思議なものを見るように眺めた。そして立ち上がり「ついてこい」とでも言うように割れたステンドガラスへと足を向けた。

 町が綺麗にライトアップされ明るく光るクリスマス・イブの夜。
 レイジは怒ったり、泣いたり、笑ったり、クルクルと目まぐるしく表情の変わる笑未へ、おおいなる疑問感とほんの少しの興味を覚えたのだった。


Re: 笑ってよ サンタさん ( No.2 )
日時: 2012/12/26 08:25
名前: 妖狐 (ID: OZDnPV/M)

 冷たくとがった風が前から押し寄せてくる。真冬の夜はやはり寒い。しかしそんな寒さをものともせず、笑未はソリから大胆に上半身をだし頬を上気させていた。
「うわーっ!教会があんなに小さく見えるなんてすごいわっ!見て見て、あっちは大きなクリスマスツリーが光ってる!!空から眺められるなんて素敵」
 いつもしっかりしていて強気なせいか子供っぽい部分をあまり見せない笑未だが、今だけは15歳本来の姿を取り戻していた。
「そんなに前に出ると落ちるぞ。まぁ、落っこちたところで拾いにはいかんがな」
 レイジは、先ほどとは打って変わってはしゃぐ笑未を冷たく見つめた。そして、トナカイに鞭を打ち付ける。すると、グインッとトナカイは急降下した。
「きゃっ!!」
 小さく悲鳴を上げ、笑未はとっさにレイジの服の裾を握り締める。レイジはそれを迷惑そうに見つめ抗議の声を上げた。
「はなせ」
「なっ、言われなくても分かってるわよ!それに急に落下なんてするあなたが悪いんじゃないっ!?」
 パッと手を放し、笑未は負けじとレイジに言い返した。そんな笑未の反撃を無視するかのごとく、レイジは再度トナカイに鞭を打ち付けた。
(ひっ、また落ちるの!?)
と、身構えた笑未だが今度はピタッとトナカイもソリも空中で止まった。
「ふぅえ?」
 と間の抜けた言葉を発する笑未の隣でレイジは袋を持ち、目の前にそびえたつ大きな屋根へと下りたつ。笑未も意識をはっと目覚めさせレイジの後を高鳴る胸を抑えつつ追っていく。
(なんだかドキドキするわ!勝手に人の家に入るなんて……これって不法侵入にならないわよね?)
 レイジはもちろんサンタクロースだからこんなことには慣れっこなのだろう、ズカズカと煙突の中に入っていく。真っ暗い煙突の中、笑未は先ほどから興味を持っていることをレイジに聞いてみた。
「ねぇ、あなたってなぜサンタクロースになったの?」
「俺がサンタクロースじゃおかしいか」
 煙突を降りながら二人は言葉を交わす。
「いいえ、そういうわけじゃないけど……」
「理由はない。ただたんに、サンタクロースの家系だったから。それだけだ。」
 たんたんとレイジは答える。
「やりたいことはなかったの?」
「そんなものない。俺はうれしい楽しいなんて感情、持ち合わせていなからな」
 冷たく突き放すような声に笑未は、胸が締め付けられるような感覚を感じた。そう言い切り、レイジは煙突から出て服についた煤を払った。それから黙々とリビングのような部屋を抜け、廊下を進んでいくと一つのドアに行き当たった。そこには下手な字で「りんたろうの部屋」と書いてある掛札が掛けてある。その掛札を確認するようにレイジは見つめると、ドアノブに手をかけた。
「望月 禀太郎(もちづき りんたろう)年齢7歳。欲しいもの、飛行機のプラモデル」リストの内容を思い出すように笑未に告げる。
「あぁ、あと、絶対子供を起こすんじゃないぞ。俺の姿を見られるわけ内はいかない。絶対な」
 ガンを飛ばすように笑未を睨みつける。その目に少しカチンッときながらも、笑未はしぶしぶうなづいた。その動作を確認し、レイジはガチャリとドアを開けた。部屋の中はうす明るかった。弱くスタンドが光っており、その光に映し出されるように一人の禀太郎と言う名の少年が眠っている。壁には世界地図や飛行機のプラモデルが所狭しと並んでおり、ベッドのわきには靴下がかけてあった。
「ふふっ」
 ついつい、禀太郎の純粋さに和まされ笑ってしまった。すると、禀太郎がもぞりと動いた。慌てて口をふさぐ。もしかして起きてしまったのではないかと思うと、先ほどのレイジの厳しい目を思いだしゾクリとした。だが、禀太郎は先ほどと同様規則正しい呼吸を繰り返している。
(びっくりしたわぁ……)
 安堵したその時だった。床に散乱していた積み木にぶつかり、大きな音がなる。今度こそ禀太郎が起き上がった。背中に痛いほどの視線を感じる。もちろんその視線を送っているのは、凍てつくような目をしたレイジだろう。
「だぁれ……?」
 眠い目をこすりながら禀太郎は口を開いた。すると背後からレイジがのそりと出てきてつぶやいた。
「ちっ、しょうがない。一発殴って記憶をなくすか」
 笑未は目を見開いた。そして、そんな恐ろしいことをつぶやくレイジの前へと、勇ましく禀太郎を守るように歩み出た。
「ちょっと、あなた本気?本気のつもりなら、シスターとして私が許さないわよ」
 こんな原因を作ったのは自分だということを無視して、笑未はレイジの前に立ちはだかる。そんな笑未の後ろで禀太郎はやっと意識がはっきりしたようだ。二人の格好を見て、大声を上げた。
「わぁ、シスターとサンタクロースだ!」
 先ほどよりもいっそうレイジの顔が険しくなる。こんな状況を打破するべく、笑未は禀太郎に言い聞かせるようにしゃべりかけた。
「ねぇ、りんたろうくん。今日起きたことは誰にも秘密だよ?」
 笑未はにっこりと笑い人差し指を口に当てる。それは「しーっ」のポーズ。母親が子供にするような愛情が笑未の瞳には映っていた。禀太郎は
「分かった!」
と元気よく返事をしてくれた。
(すごいな……)
 レイジはひそかに感心していた。レイジも何度か子供を起こしてしまった時が昔あった。そんな時どうしたらいいか分からず、よく泣かせてしまったものだ。長年、施設育ちで幼い子を相手してきた笑未にとって、小さい子の扱い方はベテランだった。
「ほらよ」
 笑未と禀太郎の会話を見つつ、レイジは慣れた動作でプラモデルを手渡した。手渡せれたプラモデルを見るなり、禀太郎は力いっぱい握りしめた。
「あのねっ、僕は将来パイロットになるんだ!」
 高々と禀太郎は宣言した。
「そうなの。がんばってね!」
「うん!!」
 禀太郎は力いっぱいうなづく。その笑顔に笑未はとろけてしまいそうだった。レイジは相変わらず無表情だ。だがしかし、いつも氷りついたように冷たい目が緩んでいるように見えた。笑みは目を疑って、よく見てみようとしたが、レイジはそれをさえぎるようにそっぽを向いてしまった。
(ううっ、気のせいかしら?)
 先ほどの光景に首をひねっていると、禀太郎はいい考えを思いついたとでもいうようにベットから立ち上がった
「シスターのお姉ちゃん、サンタクロースのお兄ちゃん。僕がいつかパイロットになったら僕の飛行機に乗せてあげるね!プレゼント配りなんてすぐに終わっちゃうよ。僕の乗る飛行機はすごく早いと思うから!!」
「ええ、よろしく頼むわね」
 笑未は穏やかな目で少年を見つめた。

 何年後かの未来の約束をし、笑未とレイジは窓から呼び寄せたトナカイの引くソリに乗って、次の家へと向かおうとしていた。レイジは去り際禀太郎に声をかけた。
「おい、子供。来年はもっと大きな靴下を用意しとけ。そんなちっぽけなものじゃ入らないからな」
「うん!!」
 笑未は思わず、二人の会話を見て吹き出してしまった。レイジはそんなところを気にしていたのか、と。そして、それはレイジの優しさを初めてかいま見た瞬間でもあった。

Re: 笑ってよ サンタさん ( No.3 )
日時: 2012/12/26 19:16
名前: 妖狐 (ID: OZDnPV/M)

 禀太郎と別れをつげたあと、笑未とレイジは十数件の家をまわった。禀太郎のような、子供を起こすような失態はしなかったが、起こしそうになることはたびたびあった。どれも笑未のせいで。そのたびに笑未は背中に殺気を感じたことは言うまでもない。
 願い事は様々だった。洋服にピアノ、ゲーム。時には世界ということもあり、さすがにそれは無理だということで地球儀を代わりに置いてきた。身近な物から視野の広い物まで、プレゼンとは多種多様だった。プレゼントを渡す事にも慣れてきた頃、今夜最後となる家へと着いた。二人そろって屋根に降り立つと、不意にレイジが声をかけてきた。
「おい、子供。結局何が欲しいんだ」
「子供って!…………はぁ……もう、いいわ」
 いつまでも変わらないレイジの言葉に、ついに笑未も根負けした。ため息をつきつつ、本来の目的をを思い出し考えるように立ち止まる。
「そうねぇ……いろいろな物があったけど、どれもぴんとは来なかったのよね……あっ、でも一つだけないようであるわ!!」
「どっちなんだ……」
 笑未は笑顔でレイジを見つめた。その意味ありげな笑顔に、レイジは顔をしかめるが
「なんだ?」
 と、先を促(うなが)した
「欲しいっていうよりはみたいなんだけど……」
 笑未は少しためらいがちに目を泳がせた後、決心したように口を開いた。
「あなたの笑顔が見たい」
「…………」
「……えっと……あの」
「…………は?」
 レイジは信じられないとでもいうような顔で笑未を見た。笑未もつられて、何か間違ったようなことを言っただろうかと心配になってくる。しかし、笑未は知っていた。プレゼントを渡すとき、瞳の奥に優しさが隠れていることを。子供に向けて「メリークリスマス」と声に出さず、つぶやいていることを。レイジは昔、母が言ったように、本当はとーっても優しいサンタクロースなんだってことを。だから、そんなレイジには笑ってほしいのだ。
「なぜ、そんなことを願うんだ?一年に一度の願いがかなう機会だろう」
 レイジは困惑の色を浮かべている。きっと、今までこんなことを言われたことはなかったのだろう。
「あなたが、レイジが優しいからよ」
 いくらスノーサンタと言っても、根本は優しいのだ。
「なっ、そんなわけはない。目が腐ってるんじゃないのか」
 いや、根本まで凍り付いていた。
「それに、俺はうれしいとか楽しいとか、そんな感情持っていないんだぞ?笑えるわけなっ」
「じゃあ、私が笑わせてあげるわ!」
 ついつい、出た言葉だった。根本まで温め溶かしてあげたい。そう思った。
「笑未、私の名前の由来知ってる?『笑顔で未来を切り開く』子になってほしいって意味なの。だから、レイジも笑いながら未来を切り開けるようにしてあげる。この私がね!」
 レイジは目を見張った。「笑わしてあげる」といった彼女に驚いたからだ。幼いころ、レイジは周りからうとまれていた。にこりともしないレイジは、他人から見たらさぞ不気味に見えていただろう。いつしか「仮面をつけた子供」とまで言われていた。そんな中、興味半分に近づいてくるものもいたが、少しレイジが毒を吐くとすぐに逃げていった。だが、笑未は違った。笑未はたとえどんなに自分が冷たくあしらっても、輝くようなオパール色の目で食いかかってきた。こんな少女は初めてだった。今も強気な顔で、絶対成し遂げるという決意を固め、輝く目でこちらを見つめてくる。
(なんなんだ、この女は。なんでこんなにもまっすぐに突っ走れるんだ)
 笑未の燃えるような赤髪が、幻想的に風に舞う。レイジはその時、生まれて初めて人を綺麗だと感じた。そんな瞬間、どうっと強い風が吹いた。風に押された笑未が姿勢を崩して倒れていく。それがスローモーションのように感じた。そして瞬時にレイジは思った。「俺は、この少女をなくしたくない」と。
「——っ!」
 とっさにレイジは手を伸ばした。無我夢中だった。パシッと笑未の手をつかんだ。しかし、安堵のため息はつけなかった。笑未は屋根からぶら下がる状態で、手を放したらまっさかさまに落ちていくだろうと予想できた。レイジは必死に引っ張り上げようとしたが、男のくせして筋肉がなく、ひょろりとしたレイジには到底無理なことだった。その上、レイジまでもが笑未につられ、どんどん空中へと引っ張られていく。
「くっ……!」
 そんな苦痛に顔をゆがめたレイジを笑未は見てポツリとつぶやいた。
「もう……いいわ。……手、放して?」
「は!?何言ってんだ、お前!」
「だって、このままじゃレイジも落ちちゃうじゃない!」
 笑未の言う通り、話す間もズル、ズル、と引っ張られていく。
「大丈夫よ、このくらいの高さ。死なないわよ」
 そういいつつも、笑未の顔は真っ青だった。
「絶対離さないからな」
「だって、レイジも落ちっ」
「—落ちないっ!信じろ。俺を信じろ、笑未!俺が笑いながら未来を切り開けるようにするんだろう!?」
「レ、イジ……」
 その時、また強い風が吹いた。その風に乗るようにレイジと笑未は空中へと放り投げられる。
『っっ!』
 数秒後にやってくるであろう痛みに二人は目を固く閉ざした。しかし、手はしっかりとつないだまま。
(落ちるっ!!)

—ポヨーンッ
「ふぇ?」
「は?」
 二人そろって間の抜けた声を上げた。目の前には、ふくよかな体にひげを生やしたおじいさんが座っていた。そう、レイジと同じ服装の。笑未が小さいころ夢に描いていたサンタクロース、そのものだった。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。メリークリスマス!」
 大きな抑揚のある声でサンタクロースは笑未に笑顔を向けた。
「わぁー!本物のサンタさんだわっ!」
 一方の笑未も、瞳を輝かせ笑顔を返す。レイジが後ろで「俺も本物のサンタクロースなんだが」とつぶやいていたが、そんな声も笑未の耳には入っていなかった。
「まったく……ごめんよ。うちの馬鹿孫のせいで、危ない目にあってしまって」
 どうやら、レイジの祖父にあたるらしい。ふいんきはまったく似てないが、深い目の色は同じだった。
「いえいえ。それにサンタさん、あなたが助けてくれましたから!すごいです!」
そう、落ちたときに運よく、サンタクロースの出っ張ってる大きなおなかに二人はぶつかり、無傷で教会の大聖堂へ送り届けてもらった。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。老人をほめても何も出てこんぞ」
 盛大に笑い、茶目っ気たっぷりな目でサンタクロースは言い、レイジの頭をガシガシと撫でた。
「まったく、こいつったら「俺を信じろ!」とか言いながら落っこちてやんの。ふぉっ、ふぉっ、うけるやつだなぁ!!」
「なっ、うるさい、じじぃ!」
サンタクロースはどうやら人をからかうらうのが好きらしい。レイジは心底嫌な奴に出会ったとでもいうかのごとく、苦虫をつぶしたような顔になっている。でも、そこは家族。二人の言葉は白々しいが温かみがこもっている。笑みはそんな二人が少し羨ましかった。
「笑美ちゃんと申したかな?本当に迷惑をかけたのう。そのお詫びと言っちゃなんだが、あの割れているステンドガラス直しておいたからのう」
 見てみると、粉々だったステンドガラスは元の原型を取り戻していた。それだけ告げると、サンタクロースはまた空へとソリに乗っていってしまった。
「ほわぁ、すごいわね。ねぇ、レイジ!」
 笑顔で振り返る笑未にレイジは、そっぽを向いて愚痴をこぼしていた。
「誰があんなじじぃ……俺はもっとすごい」
「ま、まぁ落ち着いて」
 そんなレイジを抑えつつ、笑見は先ほど思いついたことを口に出してみた。
「私ね、願い事。欲しいプレゼント決めたよ!」
「……すまんが、笑顔は無理かもしれない」
「あっ、ううん。それじゃないのよ」
 レイジはじゃぁなんだと、目で訴えてきた。
「あのね……さっき落ちてる時に考えたんだけど」
「落ちてる時に考えたのかっ!?」
 レイジは改めて笑未が意外と大物だと感じた。
「来年もクリスマスプレゼント配布したいの!」
 笑未はずっと感じていた。レイジといると楽しいと。このまま離れたくないと。だから、表向きは子供たちの可愛い姿が見れるから。本心はレイジと一緒にいたいから。もちろん、話した理由は表向きだけだ。レイジは眉間にしわを寄せた。
「は?そんなのでいいのか?」
 笑未は元気よくうなづく
「うん、もちろん!」
 そしてレイジも
「しょうがないな……」
 としぶしぶうなづいた。
 そんな二人は気づいていなかったのだ。両者、笑っていることを。

 翌年、2013年クリスマス・イブ
 望月 禀太郎は語る
「また、シスターのお姉ちゃんとサンタクロースのお兄ちゃんが来てくれたよっ!」
 と。そして——
「二人とも笑顔だったよ」
 と。

【END】

Re: 笑ってよ サンタさん ( No.4 )
日時: 2012/12/25 23:20
名前: 妖狐 (ID: OZDnPV/M)

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
最大級の感謝を皆様にっ!(ニコッ

また、
【お助け 神様!】

【僕らの宝物の日々〜君が隣にいるから〜】

も書いておりますので、読んでくださったら嬉しいです!!

また、会えることを願って。

Re: 笑ってよ サンタさん ( No.5 )
日時: 2013/01/19 11:29
名前: 妖狐 (ID: CvekxzGv)

はい、こんにちは!

続き書こうかな?と思案中です。
【感想・質問】など どしどし待ってます
コメントが一つでも入っていたのならば、続きを書こうっ!!
ていう勢いです。

コメント待ってマース(本文の誤字脱字申し訳ございませんでした)


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