コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜
- 日時: 2013/03/29 06:54
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
——すべての人が、大きな秘密を隠している——
プロローグ
その日、主人公・柚月のクラスメイト・紺野悠人が屋上で死んでいた。
どうやらそれは、他殺だとわかり、事態は大きくなる。
そして、しだいに生徒たちは自分たちの中に犯人がいるのでは、と疑い出す。
そんな中、柚月の幼馴染である美少年の奏が突然学校へあらわれる。
奏は、2年前の夏に突然行方不明になり、それ以来誰一人として彼の居場所や生存を知らない。
しかし、紺野の死で暗くなった学校も、はじけた性格の奏が転校してきたことにより、一気に明るくなる。
だが、物語の展開はあらぬ方向へ—————。
こんにちは!椎良(しいら)です!
すいません、出だしからダークすぎてッ(>_<)
結構、上のほうネタバレしてますが気にしないでください!
シリアス・コメディ・驚き(?)・恋愛要素を含めた学園系にしたいと思います!
気軽にご訪問してください(*^_^*)
*登場人物*
鈴宮柚月(スズミヤ・ユズキ)
高3。あまり目立つタイプではない普通の少女。まあまあ美人。
肩につく程度の髪をチョコンと結んで、横髪をたらしている。
奏とは幼馴染。
矢沢奏(ヤザワ・カナデ)
高3。明るくはじけた性格のイケメン。
女タラシだが誰にもきらわれない。紺野とは小学校からの親友。
紺野悠人(コンノ・ユウト)
高3。突如として屋上で死亡する。
野球部主将でクラス委員長。明るく部活熱心で成績優秀だった。
緋山里歩(ヒヤマ・リホ)
高3。読者モデルで柚月の親友。
紺野をひそかに好きだった。
鈴木香音(スズキ・カノン)
高3。気の強い少女。奏に好意をもつ。
宮脇順吾(ミヤワキ・ジュンゴ)
高3。クラスのしきり役。よく遊びで紺野と漫才コンビを組んでいた。
栗谷知佳(クリタニ・チカ)
高3。ちょっとドジなクラス副委員長。
立石義明(タテイシ・ヨシアキ)
担任。野球部の顧問。
時田京子(トキタ・キョウコ)
副担任。誰にでも優しい。
またキャラが増えるかもしれません!
キャラの説明に追加もあります。
*本編*
第一話>>1 第二話>>2 第三話>>3 第四話>>4
第五話>>5 第六話>>6 第七話>>7 第八話>>8
第九話>>9 第十話>>10 第十一話>>11 第十二話>>12
第十三話>>13
*番外編*
【Memory Of You】
Episode、1>>14
本編にも出ている宮脇くんの中学校の頃の話です。
気長に書いています(*^_^*)
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.5 )
- 日時: 2013/03/25 06:16
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第5話
矢沢奏の登場は、この空気からして場違いだった。
「矢沢!お前どうしてここにいるんだ?」
「ん?あぁ、俺…4日後ここに転校してくるから」
「えぇッ!」
みんなが驚いていた。
「もうちょっと喜んでくれてもいいんじゃねえの?」
「・・・あ、いや…今、そんなことできないし」
「なんで?」
首をかしげて不思議そうにする奏。
宮脇は、自分からは言いだしにくく、口を閉ざしたままだった。
「ま、いいや。ただちょっと、今日はあいさつに来ただけだからな」
両手を頭の後ろにまわし、鼻歌を奏でながら教室の中に入る。
(なにも知らないなんて……幸せ者だな…)
能天気な奏を見やりながら、柚月は少し腹立たしく思っていた。
奏は、なつかしい顔ぶれを見ながら、ひとりひとりに話しかけていく。
みんな、苦笑しながら奏のテンションにのってあげている。
そして奏は、一回りしたあと、柚月の席へ来た。
「よっ。久しぶりだな!幸せ者!」
「は?それはアンタのほうでしょ。みんなに気ぃ遣わしてどうするの」
「ん?みんな、気ぃ遣ってんの?なんで?」
「いや、だから————」
その瞬間、教室の扉が開く。
入ってきたのは、立石と、副担任の時田京子だった。
二人を見るなり、奏はテンションをあげる。
「うっひょー!立ティと時ティじゃんッ俺ですよ俺!」
奏が自分を指しながら、2人の前に走っていく。
「や、矢沢か!?」
「そうでーす。いやぁ、何年ぶりだろう!!相変わらずですね」
「待て矢沢!確かお前、2年前に無言でいなくなったよな?」
「ま、いろいろあってですねー」
「あのとき大変だったんだぞー。ニュースにもとりあげるか迷ってたのに」
「まじすか?くそっテレビデビューを見逃した!」
「そういう問題か!お前のこのこと何しにきたんだ」
「あ、俺ですねー4日後に転校してきますんで、この学校に」
「「え」」
立石と時田が唖然とする。
————————放課後…
奏は職員室に呼ばれ、今先生たちと話をしている。
みんなも一旦、今日は帰ることにした。
「それにしても久々に矢沢君見たなー。かっこいいよねー」
「全然変わってなかったよねー見た目も中身もー」
女子たちはキャーキャーと騒ぎ立てる。
今日あったことを少しでも忘れようとして——————。
「里歩、帰れそう?」
まだ机に俯いている里歩に、そっと尋ねる柚月。
「ごめん…。私、もうちょっとしてから帰るよ。どうせ今日も撮影あるから」
「そっか。わかった。仕事がんばってね」
「うん。ばいばい」
「じゃあね!」
精一杯の笑顔を浮かべた。
少しでも里歩の気を楽にしてあげたかった。
(里歩は…紺野君のことが好きだったんだもんね)
そのことには、うすうす気づいていた。
校舎から出た時、何度も南棟の屋上を見つめた。
すると、屋上のフェンスのところに人影が見える。
「!」
急いで、南棟へ走っていく。
南棟の校舎の下から、じっと屋上を見つめる。
誰かがいる…・・・・・・けれど、あれは—————。
「どうして奏があんな場所に!?」
矢沢奏が、ちょうど紺野が倒れていたあたりに立っていた。
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.6 )
- 日時: 2013/03/26 08:07
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第6話
矢沢奏は、数分してから、急にフェンスを越える。
50センチほどの小さな通路のようなところに足をおき、それからじっと目をまっすぐに向けた。
柚月は驚いて、
「駄目っ奏ぇぇぇーッッ!!!!!!」
彼へ向かって叫ぶ。
奏はそれに気づいて、すぐさま真下を見た。
「ゆ、柚月っ!?」
必死な顔の柚月を見て、奏は急に爆笑した。
「はーはははッッ!なに泣きそうな顔してんだよ!」
「泣いてない!それよりも奏、なにするき!?まさか、し、死ぬ…」
「死なねーよ」
「じゃあ、なんでそこに…」
「まぁあとから話すって!それよりさ・・・・・・・」
「!?」
柚月が心配そうに見守る中、奏はフッと笑顔を浮かべる。
「今から俺、ちょっと飛び降りるから!」
「はぁぁ!?なにいってんのバカじゃない!」
「馬鹿でもこんなことしねーよ。ってなわけで、柚月、ちゃんと受け止めろよー」
「なんで私?無理無理!そんな反射神経よくないって」
「大丈夫!信じれば大丈夫だ!」
「簡単にいわないでよ」
「俺はお前信じるから、お前は俺を信じれ!」
「なにどさくさに紛れて、かっこいいことを…」
「いっくぞーー」
そして、矢沢奏は屋上から飛び降りた。
柚月は、あたふたする。しかし、集中して、手を伸ばした。
ものすごいスピードで奏が飛んでくる。
ドサッ!!!
奏の体を受け止めたと同時に、思いっきり倒れこむ。
「いったぁーい!」
思いっきり地面に背中を打った柚月。
仰向けになった状態の柚月のうえには、奏が倒れていた。
奏はムクッと上半身だけ起こして、両肘を伸ばす。
「ナイスキャッチ!」
「こぉの、バ奏がッ!!!」
思い切ってパンチをくらわそうとしたが、すばやく片手をつかまれた。
つくづく腹が立つ。
「でも、ちゃんと受け止められたじゃん」
「まぁそうだけど」
「信じたからだよ。俺はお前をメッチャクチャ信じたんだぜ。お前もちゃんと俺を信じただろ?」
「うん…」
「そういうこと」
「信じるだけで、そんなことができるなんて」
「不思議だよなー」
柚月はボーっとしながら辺りを見る。よく見れば、景色が横になっていた。
そこでハッと気が付く。
「今、気づいた!どけてよ、奏!」
「えーやぁだ」
「はぁー!?こんなところ誰かに見られたら…」
「うっわ顔真っ赤ぁー」
「うるさい!もう早くってば」
「ちぇッ。へいへい」
名残惜しそうな顔をして柚月から離れる奏。
柚月は立ち上がり、制服をはたいた。
「それより…どうしてあんなところいたの?」
「あぁ。さっき先生たちに聞いたんだよ、紺野のこと」
「…………」
「悲しかったなー本当。小学校からの親友だったから余計に…」
「…じゃぁ……なんで奏は、泣かないの」
若干怒った顔をして、奏に問いかける柚月。
奏は柚月の顔を見やったあと、彼女に背を向けた。
「お前だって、泣いてないだろ」
「なんで私よ…?」
柚月は、怪訝そうな顔をした。
奏は、「ま、いいか」というふうな表情でため息をつく。
「帰ろうか」
「待って。まだ話は終わってないよ、奏はどうしてあんな場所に…」
「だから帰りながら話すって」
「———っ」
柚月が納得のいかなそうに表情をしかめていると、奏は無理矢理、柚月の手を引っ張って歩き出した。
柚月も反論せず、そのまま歩き始める。
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/03/26 15:11
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第7話
————帰り道・・
「聞いたときはホントびっくりだったなー。へへッ1分間口が開いたまんまだったし」
—————どうしてコイツは重い話をしながら・・・へらへら笑えるんだろう。
柚月は疑問に思いながら、彼と自分の間を見た。
しっかりと繋がれた手。
(無理矢理引っ張ってきたのは奏だけど……なぜ離さない?)
わかっておりながら握っているのか、はたまた、握ってることすら忘れているのか。
不思議なヤツだ、と渋々思い込む柚月。
しかし少しだけ、繋いだままでいい、と思っているのも事実。
(馬鹿なのか、私は———…)
奏の手の平のあたたかさを感じるだけで、自分たちが2年間も離れていたことを忘れてしまう。
それほど奏の存在というものは大きかったのか。
柚月は疑問に考えた。
でもすぐに、そんなことは吹っ飛ぶ。
「で?さっきの続き!」
「それでまぁ、どこで死んだんだろうって思って屋上行ったわけ。鍵とかかかってなくてすぐに入れてさ。紺野が倒れていたとこはすぐわかったよ、なんかいかにもここに人がいましたよーってヤツ、ほら刑事ドラマでよくあるじゃん。地面にひもとかシールみたいなので人の倒れてる姿を作ってるヤツ」
「あのさ、そこらへんどうでも・・・」
「ま、聞け。そんで今度はどんふうに死んだかなって思って、俺も同じように倒れてみたんだ」
「で、なにかわかったの」
「そらがきれかった」
「もういいです」
「いや、ホントだって!空がほんっと綺麗で、まあさっき見たから微妙にオレンジぽかったけどさー。あんな眺めいいところで死ねるなんて、ちょっとあれだなーって思って」
「あれって?」
「その、紺野を殺した奴がさ、もしかしたら最後にあいつに綺麗な空を見せてやりたかったんじゃねーのかなって」
ふたりの間に流れる沈黙。
「全然意味がわからない。バカだとしか思わない」
冷めた顔をしながら棒読みで言葉を発する柚月。
真剣に聞いていた自分もバカだ、と思い始める。
「まー待て。でも、俺も試してみたんだよ。色んなところで」
「なにを?」
「綺麗に空が見える場所。方向変えて同じ風に倒れてみたり、違う感じの体勢にしたりと、いろいろな」
「なんか無駄な努力な気が・・・」
「いやいやそれがそうじゃないんだって。やっぱ紺野が倒れてた場所じゃなきゃ、あんなに綺麗に見えないんだ」
「はぁ?なにそれ、犯人が紺野君に綺麗な空を見せながら死なせたってこと?」
「うーんまぁ、だいたいそんな感じ?死ぬ寸前、まだ意識があるときに見せたかったんじゃねーかなって」
柚月は、頭の中がおかしくなるのを感じた。
「あのさ普通に考えてよ。少しでもそんな良心を持つ人がさ、人を殺したりすんの?」
「どんな人がいるかわかんねーじゃん」
柚月は「もういい」と本気で思った。肩をすくめながらため息を漏らす。
やっぱりこいつが考えていることはよくわからない———。
思考回路をめぐった結果、答えはそれに尽きる。
「じゃあどうして奏は、屋上のフェンスを乗り越えてあんなところに立っていたわけ?」
「それはまぁ色々ありましてなぁ」
「そうやってまた、私に謎を増やさせる!」
「へーそうなの?俺のこと謎に思ってんだー」
「そうだよ。女ったらしでへらへら能天気で、自由人で、でも大事な事だけは隠すよね」
「そうか?お前だってそうじゃーん」
「なにが」
怒った顔をしながら柚月は奏を問い詰めた。
「大事な事だけは隠す——それ、お前にもあてはまんじゃねーの?」
「はッ———」
「俺が貸してたCDを壊してんのとか」
「うぅっ!!」
奏がいじわるそうな笑みを浮かべる。
「はーい柚月ちゃんはいけない女の子だねー。罰として今から俺んち来てもらわなきゃねー」
「はぁ!?なんでそうなるの!!」
「引っ越してきたばっかで、部屋まだ段ボールだらけ。手伝ってもらうから」
「嫌だよ!」
「んじゃーレッツゴーな!!」
必死に拒否をするものの、柚月は、繋がれた手とともに引っ張られる。
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.8 )
- 日時: 2013/03/26 18:13
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第8話
—————奏の引っ越してきたマンションにて・・
「奏ーっ、この本棚どこにおけばいいー?」
「適当でいいよ」
「このテーブルどこがいいかなー?」
「適当でいいよ」
ガタンッッ
柚月は、組み立て式のテーブルを思いっきり床に落とす。
ソファでケータイのゲームをしていた奏が、驚いて振り返った。
「さっきから、さっきから………自分はゲームばっかりして、私が物の配置聞いても適当にって…」
「えーだめー?」
「駄目に決まってるでしょぉーがぁ!こういうのは住む本人が決めないと!」
「めんどくせー」
「ひどい怠け者ぶりねー!手伝ってと言っておきながら、人に全部やらせて!」
「だって女子のほうが整理整頓うまいっしょー」
「ぢゃぁ、他の女の子に頼んでよね!あーもう頭きた!帰る!!」
「え〜いいのっかなぁー?CDはぁ?」
「弁償して明日返す!じゃ・あ・ねッッ」
憎らしい表情で言葉を返し、柚月は、カバンを持って部屋を出ていこうとする。
「あーぁッ!なんであんなヤツの引っ越し手伝いなんか!ていうか、こんなことやってられる場合じゃないっての」
————————今日、あんなことがあったっていうのに…………。
それでもここで手伝いなんかしているのは、今日のことを、少しでも忘れたかったからなのか。
柚月は、玄関で革靴を履きながら、考え込んだ。
(紺野君は——…誰に殺され、・・・・)
その先をつぶやこうとした瞬間、背中にドォッと重みを感じる。
なぜか、奏から抱きしめられていた。
「本気で帰んなよ————。まだ荷物残ってるんですけど」
柚月の背中に顔をうずめて、力なさそうにボソボソとしゃべる奏。
一方、柚月は———というと、だいぶ赤面していた。
「だから、ほかの子に頼んでよ。何十人っているでしょ、その顔売って付き合ってる女が」
「……………」
「なんかしゃべりなよって。あれ?もしかして女をたらすのやめた?」
「やめてねぇーけど?」
「そこはハッキリ言うのか…」
「てかお前、顔あかい」
「そうだねーアンタが抱き着いたりしてるからねー」
「んだよ、中学のころは普通に………」
その瞬間、柚月の目の色が変わった———————。
キッと奏に振り返り、睨む。
「馬鹿ッッッッ!お互いにその話もうしないっていったじゃん!!!!!」
「—————っ。悪ぃ、つい思い出して・・・」
沈黙する時間————。
1分がすぎたあたりで、奏がしゃべりだす。
「ま、今のはなかったってことで!いつもどおり幼馴染であってそれ以上ではない関係!ってやつな」
「………うん」
なにか、自分の中にあった固い壁が、少し削れたような気がした。
同時に、異様な違和感。
「あーっと、さっきはごめんなー。今からはちゃんと俺も働くんで」
「あっそ。じゃあ一人で頑張って」
「うっそー!そこ『仕方ないなーそれなら私も』って雰囲気になんねーの!?」
「人生甘くないからねー。でも、今日ぐらいならいいや」
「まじ?うおっし」
———————奏の笑顔があったかい。
———————やっぱりこの関係でいるのが一番おちつく——。
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.9 )
- 日時: 2013/03/26 19:59
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第9話
部屋の整理はすべて終わり柚月は帰ろうとしたのだが、夕食まで作っていってほしいと奏から必死に言われ、仕方なく奏宅マンションに残った。
「思ったけど、家の場所ちがうよね」
柚月はにんじんの皮をむきながら、横でお湯の沸騰を待つ奏に問いかけた。
「俺、ひとり暮らしすっからねー」
「マジ?できんの?」
「大丈夫ー。ちゃーんと若い家政婦さんがいるから♪」
そういってニヤリとしながら柚月を見る。
「私は家政婦でもなんでもないから。それにいざとなれば彼女さんたちに来てもらいなよ」
「なーんかその言い方、いかにも俺が『ひとりじゃ何もできない』ってかんじじゃん」
「あら、ご理解が早いですこと」
「おめーひでぇこと言うなー。相変わらず、いや、もっとか?」
「いいんじゃない。別にまともじゃないってわけではないんだし」
「いや、柚月は変わってるな」
「どこが?」
「変わってるっていうか、謎っていうか」
「それ、奏だから」
「いやいや柚月ちゃんですよ〜。いつになったら、その固いお面をはずすのやら」
ぴたっと手がとまる。
また、ボーっとなった。
———————————意味がわからない。お面?
—————それって私が本当の自分を出してないっていうこと?
「私は普通。ちゃんと人とバランスよく付き合ってるし」
「ほれ、そこ。そこがダメなんだよー。柚月は、誰にも悪口言われたことないだろ?」
「え…」
「俺も聞いたことないもんなー。人とちょうどいい距離で接してる証拠。いいことのようで悪いことだ」
「どうして…?ていうか別にそんなんじゃ」
「無意識にそうなってんだろうね。普通にさぁ、悪口言われる人のほうが素出てるじゃん」
「まぁ、そうだけど」
「あれだよね〜。ちょうどいい関係でいないと怖いんだよね柚月は。それを超えると何があるか不安なんだ」
「ちがう…ちがう…って!!」
「そんな必死になるなよ。でも柚月はちょっと・・・『ちょうどいい関係』にこだわりすぎなんだよなー」
「奏—————」
「なに?今更帰るとかいうなよ?逃げたら許さん」
「お湯ッ!」
「へ!?」
いつのまにかお湯が沸騰していて、鍋からジャバジャバと水分が抜けていく。
奏は慌ててガスを止めた。
「あーもう、危なっかしい!こんな話するから!!」
「ですなー。ちょっと哲学?心理学?すぎたかな」
「何学でもないよ!」
—————
—————
「はぁ、腹いっぱい……」
夕食が済み、結局、柚月は帰れずにいた。
「いつになったら帰してくれるんでしょーか?」
「あー…もうめんどいなー。泊まってく?」
「殺す」
「うっそー冗談。柚月んちって門限ある?」
「あるっぽいけど、いつも10時過ぎとかに帰っても怒られないからなーどうなんだろう」
「じゃあ、俺が寝るまでいてくんない?一人はやたらと寂しくてねー」
「あんたはガキか!!」
柚月は、思いっきり奏のほっぺたをぐにーと伸ばした。
ぎゃーッと悲鳴をあげる奏を見ながら、大いに爆笑する。
「いつまでも、いてあげるよ。今日だけは————…」
————————————今日だけは、ね…………。
この掲示板は過去ログ化されています。