コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 5ーanotherー
- 日時: 2013/07/29 21:32
- 名前: トウマ (ID: 5TWPLANd)
これはトウマが書いている『5』の本編に入り切らない番外編です。
本編を読んでなくても大丈夫かも知れませんが、本編も読んでくれるとトウマが喜びます。あと、そっちの方がわかりやすいです。
弱者の強み。
里見 春喜 AND 山梨 智哉
“ジャッジ”コンビの昔話
今日で俺たちの人生の10年間が終わる。長かったような、短かったような。だが、5年間ぐらいは記憶にないからやはり短いのだろうか?
ああ。勘違いしないで欲しい。
別に今から死ぬとかではないから。
今日は俺と春喜の誕生日なのだ。
春喜と智哉は家も近所で、生まれた病院も一緒。生まれた日も同じ。時間は春喜の方が2時間程早かったらしいが、殆ど同じ都合で生を受けたわけである。
「今日は春喜も智哉の家よね?」
さすがに生まれた日は全然違う幼馴染の柚子が春喜の肩を叩いた。
学校は菓子の持ち込み禁止だが、別の手には飴が握られている。
紫と赤がマーブルになったそれは魔女がかき混ぜる釜の中身を想像させる。
「もちろん。今日は家に誰もいないし」
誕生日の集まりは毎年智哉の家だった。
それは今年も変わらずで、春喜は口をにんまりとして智哉にピースなどしている。
「桜連れて後から行くから」
「うん。親にも言っとくよ」
「智哉んちに直行するから」
「家帰れよ。隣だろ」
「あれ? 扱いに差を感じる? これは俺の気のせいだろうか」
「気の所為だ」
「気のせいよ」
6月の雨の多い季節。
梅雨の雨に俺は悩まされていた。
春喜には智哉にも言ってない悩みがあった。
ザーー。ザーーーーー。
ガーーガッ。ザーーーzaaaー。
『最近、ヒドイな』
ガーガーッ。ザーーーーー。
ガァァーーガ。ザーー。
頭痛にも似た耳鳴りである。
ザーとかガーガーとかのノイズが前触れなく訪れる。
春喜は人目がないのを確認すると、普段はけして見せないしかめっ面をした。
「音の異能か」
「へ? うわっ!」
驚いたことは、言うまでもないだろう。
確かに人目を確認したのにその女は春喜の眼前にいた。
リアクションが遅れたのはけして春喜のマイペースではない。
「あぁ。驚くな。確かにお前が確認したときはここにはいなかった」
女はニタッと歯を見せて上を指差す。
「頭上注意だ」
年は30代の半ばだろうか。
だが、若々しさを感じる。
「空でも飛んでた?」
「そうだ。親戚に天狗がいてね。ちょっと空の歩き方を教えてもらった」
「天狗は空を飛ぶんだよ」
「多少は生意気な子どもだな」
「異能って? エスパー? サイコパス? コンパス? 定規? 鉛筆?」
「肝の据わった喰えないやつだな。お前、名前は?」
「サトヤ」
……即答が真実とは限らない。
普段は能天気だ、頭の中が春爛漫だ、お花畑だなんだと言われているが、春喜はキレる子どもだった。
「そっちの天狗は?」
「“ホウキボシ”」
「へぇ?」
危機感がなかった訳ではない。
ただ、その女の人は敵ではないと感じたのだ。
「あの子供は違う。耳鳴りは音の異能者の特徴だ」
「おかしいな。東弟が重力捜査の異能だって」
「左京か! 右京の方にかまされたんだろ?」
「いえ。確かに弟の方だと思ったんですが。柚鷹もいなかったし」
「だから言ってるだろ? あの兄弟は扱いにくいと」
春喜の泣き顔は見たことがない。
いつでも緩い笑顔をしている。
作り笑い、愛想笑いは気に入らないが、春喜のはそういう類いでない。
元から緩いのだ。
「遅いわね、春喜。何で隣なのに一緒に帰らないの?」
「俺も体育委員会があったんだよ。とにかくその向けてるチョコを降ろせ! 溶けるぞ」
「お姉ちゃん。ハル兄こないの?」
「家にも帰ってなかったしな」
「智哉。ちょっと学校まで見に行こうよ」
「私も行く!」
「雨降りそうだから桜はここにいて」
年下の桜は不服そうだったが何も言わなかった。
何故春喜の泣き顔のことを考えたのか。
それは最近春喜が何かを深くかんがえているようで、時々表情が愛想を浮かべていたからだ。
また家で何かあったのか?
と、心配していたのだ。
以前に春喜の家でポルターガイスト騒ぎがあった。
風も吹いていないのに物が倒れたり、椅子が浮いたりしたと。
その時も春喜は智哉が頑なに質問攻めにしなければ言い出さなかった。
まったく良くで来た幼馴染である。
傘を用意しているとき、ドアが開いた。
「あれ? 出かけんの?」
「ハル!」
キョトンとした顔の春喜だった。
「お前なにしてたんだよ?」
まさか、耳鳴りが酷くてぶっ倒れてたなど言えるまい。
「ノラネコと戯れてた」
……即答である。
「おじさんとおばさんは?」
「さっき店に戻ってったよ」
「柚子がいるってことは桜ももういるんだろ? 腹減ったよ。もう始めよう!」
「最後に来たのが何言い出してるのよ。罰としてケーキのイチゴはちょーだいね」
「あれ? 俺たちの誕生会だよね?」
「主役はゲストをもてなさないと」
「何か違う気がする!」
この頃から世間に異能者は増え出していた。
多くの組織が誕生したし、多くの事件が起きた。
ポルターガイストはそりゃビックリ! だったよ。
相変わらず家で一人の時しか起こらないし、最近は耳鳴りもすごいし。
だけど、変なことはそれだけで終わらなかった。
天狗に会ったのもそうだしーーいや、天狗の親戚か? 親戚が天狗だったけ? まぁ、どっちも一緒だ。
子供だけでワイワイやってると、来客があった。
「おかしいな。今日も店やってるんだから、そっちに行くとおもうんだけど」
智哉の家はケーキの美味しい喫茶店だ。
近所では評判で人気がある。
だから、
まぁーーーーおかしかったんだ。
全て。
過激派の思想はすでに広まっていた。おかげで異能者犯罪は増えていたし、異捜もとっくにできていた。
この頃はまだ知らなかったが、流れるニュースの特ダネの多くは異能者絡みだったらしい。
「もう泣くな」
「うっう……。だって、こんなに、小さな子が……」
「香。何か見えたか?」
「……………………犯人は大学生ぐらいの男。……能力は馬鹿力みたいだ」
「4人目か」
被害者は小学生の低学年ほどの子供だった。
強い力で顔を殴られている。
過激派の思想に酔った矮小な犯人はいつも子供を狙う。
雨が降り始めた。
香と達己は被害者が雨を凌げるようになるまでそこを離れられなかった。
何が起こった?
何が起こった?
智哉が飛んでいる。
壁にドスンと嫌な音と共に当たってやっと落ちた。
何が起こった?
柚子が悲鳴をあげて桜をだいた。
聞こえてくる笑い声。
ははははははははあは。あは。
よく飛んだなぁ。ああ。でも、死んでないだろ? 手加減って難しいんだぜ?
何が起こっている?
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- Re: 5ーanotherー ( No.5 )
- 日時: 2013/08/01 06:42
- 名前: トウマ (ID: 5TWPLANd)
春喜覚醒ーーーーー((((;゜Д゜)))))))!!
間違いなく『普段怒らないやつが怒ると怖い』タイプですね。
あいつだけは怒らせるな! っていう。
ではでは続きです。
ただ冷めた目つきで、睨むでもなく騒ぎ立てる男を見つめている。
智哉は普段からは想像もつかない幼馴染に身体の痛みも忘れていた。
「てめえ! 何しやがった!」
男が再び春喜を殴ろうとする。
手加減も一切ない。
だが、それは春喜には届かなかった。
男はハルに触れる前に何か見えざる力に押しつぶされ、床に叩き伏せられた。
「うぐっ」
間の抜けた声を出し、立ち上がりもできない。
徐々に抑えられる力が強くなるのか、苦しそうに悶える。
春喜の冷たい視線は男を捉えて離さない。
智哉は男が何かの力に潰されるのを覚悟した。
ぺしゃん。
とか、
ぱちん。
と。
だがーー。
「こんな男にお前の手を汚させるのは勿体無いな」
突然、ひらりと女が現れた。
確かに、何もなかったいなかったのに、その女は現れた。
そして、春喜の耳元でそうささやくと、
春喜は糸の切れた人形の様にその場で崩れ落ちた。
「ハル!」
「大丈夫さ。突然力を放って緊張の糸が切れたのさ」
確かに、春喜を動かしていた糸は切れた。
そして、それは智哉も一緒だった。
智哉はそのまま気を失った。
「ヤレヤレ。二つ持っていたのか」
親戚が天狗の女はそう呟いて、後ろを向く。
「達己。こいつらは“ホウキボシ”で預かる。サッサっと病院に送りな」
若い男がさっきの女の様に突然現れ、仕方が無いといった表情で、言われた通りにする。
「では、これは“ホウキボシ”幹部石橋 多恵の管轄ということで」
「ああ。そのクサレ外道はやるよ。異研が喜ぶだろ」
達己は何も言わなかった。
目が覚めたら、知らない場所で、智哉が隣のベッドで寝ており、柚子がその智哉の横の椅子で、桜が自分の横で寝ていた。
そして、眼前には、
「天狗の」
女の人が浮いて自分の目と鼻の先にいる。
「目が覚めたか。サトヤ」
「天狗は子どもが好きでしたね。だから助けた?」
「いや。私は天狗でない」
「じゃあ、俺はサトヤでないです」
「ああ。そして隣の子はサトヤでなくてトモヤだろ」
「新事実発覚?」
「はは。おもしろい奴は好きだ」
石橋 多恵というその人は、“ホウキボシ”という組織の幹部であり、重力操作の異能者らしい。
「ポルターガイストも耳鳴りも、全ての原因だろうな」
「じゃあ、俺は俺たちを襲った男と一緒で異能者だと」
「ああ。そうだ」
「……へぇ」
……即答はできなかった。
「それで?」
「うーん。俺の力は音と重力。強そうだな」
「私も重力操作だ。教えてやろうか?」
「……」
「言っただろ? おもしろい奴は好きだ」
「ははは」
眠る智哉を見つめ、柚子と桜を見つめながら、春喜はこんな風に笑ったのだった。
目が覚めたら、知らない場所で、春喜が隣のベッドで寝ており、桜がその春喜の隣の椅子で、柚子が自分の横で寝ていた。
「じゃあ、春喜は俺たちを襲った男と一緒で異能者だと」
「ああ。そうだ」
「それが?」
……即答である。
「何が異能者だ。こいつはすでに変わり者なんですよ。
11年目の付き合いを舐めないでください」
智哉はそう言って、
春喜との様々な騒ぎを思い出した。
高校生と緩い顔で喧嘩して勝つし、いたずらに巻き込まれて智哉まで説教を喰らうのは珍しいことではない。
そんな日常からして、春喜が異能者であるなんて、
本当に些細なことだ。
「ははは」
眠る春喜を見つめ、柚子と桜を見つめながら、智哉はこんな風に笑ったのだった。
それから、春喜は多恵の元で力を磨き、この2年後に智哉も異能を発現した。
「俺は弱いから、
でも、誰かに守られてるだけじゃダメなんだ。
弱いやつは沢山いるから、
強いやつなんて本当はいないから、
支えあえなくちゃいけないんだよ。
支え合えるはずなんだよ」
そう春喜が智哉に笑ったのはいつだったか、
「俺達はみんな弱虫で『弱児』なんだよ。
だから支え合う舞台を作らないか?
皆が主人公で皆が支え合う舞台」
「『弱児』って何だよ。格好悪いな。
どうせなら“ジャッジ”にしとけ。
しまりがでるから」
それからも様々なことが起こった。
そして二人は“ホウキボシ”から“ジャッジ“を発足させた。
だが、二人は何も変わっていないと柚子は思うし、桜も思う。
「あ! ケーキのイチゴ食べた! 今日は俺たちが主役だろ?」
「主役はVIPゲストを」
「もてなすものです!」
「え! 俺のまで?」
「しかも何気にVIPに昇格してるし!」
いつだって飽きずにずっとバカ騒ぎをしているのだ。
- Re: 5ーanotherー ( No.6 )
- 日時: 2013/08/07 21:12
- 名前: トウマ (ID: 5TWPLANd)
今度は異捜の新人、橘 浩也クンの話です
兄と妹
橘 浩也
猿マネが得意だった。
人がする行動の一つ一つが自分もできる。
流石にホームラン王の真似をして、ホームランが打てるわけじゃない。
もっとタイミングとか力とかが必要だ。
だけど、だんだんとそれができてしまった。
「ふうせんください!」
大業に手を降り、足を出して称しに赤い風船を渡した自分はパンダである。
二足歩行の。
昨日はコアラだったが、今日はパンダ。明日はクマのつもりだ。
二足歩行の。
あれ、これは普通か?
「いやぁ。橘クン本当に上手ですね」
「僕こういうの得意なんですよー」
浩也は遊園地で着ぐるみアクターのバイトをしている。
これが、動きがアニメのキャラクターそっくりだと評判なのだ。
ちなみにアニメも二足歩行である。
「おい。お前が橘 浩也か?」
二足歩行のパンダに話しかけたのは、夢と希望の遊園地にふさわしくない、がっちりスーツの男だった。
「そうですけど、あなたは?」
「12月25日午後5時25分。お前を逮捕する」
いつからジャポンは恋人のいないクリスマスにバイトを入れる男を逮捕する国に成り果てたのだろうか?
「はいはい。いらっしゃい。橘クンだったね。いやー。驚かせてごめんね。こうするのが一番手っ取り早くて。八幡クン怖かったでしょ? 彼ね、今子供の反抗期に悩まされてて、もう、目つきで人を殺せちゃうよ。あ! そうなれば君が彼を通報して立場逆転だね。いやぁ。でも身内から犯罪者はテレビでよく言う。警察の恥!! だねぇ。まぁ、僕達警察じゃないんだけどさー。でも雰囲気って大事だか ー〈以下省略〉ー それでキミここによばれたのね、君は特別な力があります! 君は異能者なのです!ーーーーーーーって寝てるし!!!」
いや、だって眠いよ。
長いよ。
〈以下省略〉にたっぷり30分あったよ。
朝の朝会の校長先生かよ。
ボコッ
「眠いわ! 長いわ! 〈以下省略〉にたっぷり30分あったし! 朝の朝会の校長かよ!」
おー!! 心の代弁者!!
「こら! 香!! 上司殴るな!ーーーーーーー蹴るなぁぁ!!」
あ。さっきのスーツだ。
でも、さっきと違って威厳が皆無だ。
「うっせ! 達己。私の睡眠妨害罪は万死に値する!」
「値わねぇよ! 蹴るな!」
「香ちゃん? ちょ締まってる、締まってるよ!!! ギブ! ギブ!! まったく! 上司にこんなことしたらだめでしょ! ぼくちゃんじゃなかったらこの引き締まりはマズイよ! ダイエットに成功した女性のウエストぐらい締まってるよ! 息を! 息ができないから! 香ちゃん? ギブ ミー ぷりーず!!!」
「長えよ!」
「あのー。僕帰っても…………ダメですよね。分ります!」
目が怖かった。
そのあと、達己さんが必死で香さんを宥めて、上司は解放された。
「安心してね。浩也クンは何も悪いことはしてない。宿題を提出してないぐらいだね。ダメだよー。提出しなくちゃ。
それでね。ここは異捜って呼ばれてて、異能者による異能者のための異能者でできた異能者集団だよ」
「え! 俺水だしたりできちゃうんですか?!」
それはなんとも有難い。水道代が浮くし、格好いい。
「できないね」
こんなときだけ短い返事。
「じゃあ、炎だしたり」
ガス代が浮く。
「できないね」
「雷だしたり」
電気代が「できないね」
「うぅ。じゃあ何が出来るんですかー?」
「バイト。うまく行ってたでしょ? 浩也クンの異能は『役者』とでも言えばいいのかな。人真似が出来るというか、猿マネが特技というか、そっくさんというか? それでいいかなぁ? みたいな?」
「え? しょぼい?」
「しょぼくなんかないよ! このぼくの能力なんか、『物体移動』だけど、達己クンと違って5ミリしか横にずらせないからね! ちなみに達己クンは『瞬間移動』で香チャンは『読物』ね」
ミリときた。確かにそれはしょぼい。
それから浩也がここに連れてこられた理由を雑談踏まえて長々と語られた。
途中で香と達己は寝始めたが。
要点をまとめると、
『バイトをしないか?』
と、言うのである。
「お断りします!」
「おお。即決即断だね。おじさんちょっと傷ついたよ。どうしてお断られたのかなぁ。因みにぼくの話が長いのは気にしなくていいよ。おじさんほとんどここにいないから。あと、わざとだから。おじさんジョークだから」
わざとなんかい!!
益々お断りしたくなる。
「いやぁ。今の着ぐるみアクターのバイト気に入ってるんです。こっちに入るなら、その時間も子供を笑わせてあげたいっていうか」
浩也は子供たちの笑顔が好きだ。それを見てると自分も救われた気になるのだ。
- Re: 5ーanotherー ( No.7 )
- 日時: 2013/08/19 16:25
- 名前: トウマ (ID: apTS.Dj.)
浩也の日常は続いた。
子供に風船を配り、キャラクターになりきる。
「ふうせんください! その赤いふうせん!!」
赤が好きな子らしい。ワンピースまで赤色の女の子だ。
「!!」
浩也は『役者』の能力を意識せずに使い、風船をあげる。
女の子はにっこりと花が咲くように笑って言った。
「好きなものになりきれる能力なんてステキね!!」
「……え?」
この女の子は知っているのか。
当然の疑問が浮かんだとき、
「美奈。行こう」
「うん!」
女の子を呼ぶ男の声がしてその子が去っていった。
「美奈ちゃん?」
このことが強く心に残った。
「どうだった。美奈?」
「うん。能力者だったよ。お兄ちゃん!」
「『アクター』か。変わった能力だな」
「……私の方が変わってるもん! 左京にも負けないよ。あいつが能力者って見たのは左京だけど、左京は右京の言うことしか聞かないもん」
「ああ、美奈。お前が一番良い子だよ」
少女は頬を赤らめて、満足そうに笑った。
美奈という少女は“ミロワール”所属の過激派だ。
彼女の能力は『炎』であり、一度能力を暴走させて人を殺してしまった。
それが彼女の両親と兄だった。
だが、彼女にその記憶はない。
美奈が大好きなお兄ちゃん。
彼女が抱きつく男の能力は『記憶改竄』であった。
香と浩也に親はいない。
多分もうこの世にいない。
少なくとも、そういうことになっている。
二人の能力は自然に偶発したのではなく、異研の作品である。
異研あがりの子供で身内がいるものは兄弟姉妹ぐらいで、親がいるものはほとんどない。
「最近、“ミロワール”の西村の噂を聞いたんだけど」
「あのナルシストがどうした?」
「橘 浩也に手を出したらしい」
「この前お前が引っ張ってきたガキ?」
「大体同い年だろ」
香は飲みかけたコーヒー牛乳、一パック100円を机に置いた。
「んじゃまぁ。ちょっと様子を見に行きますか。
よし! いけ! どこでも達己!」
「こら! ぱくるな」
面白くない。
ぜんぜん楽しくない。
お兄ちゃんは異捜ばっか。
あの着ぐるみの人ばっか。
面白くない。
ぜんぜん楽しくない。
美奈からお兄ちゃんを取ったら許さない。
もう一人にはなりたくない!
あれ?
お兄ちゃんがずっと一しなのに、いつ一人だったんだっけ?
「赤いふうせんください!」
それは例の美奈という少女だった。
「あ。美奈ちゃんまた来てくれたんだ」
『役者』を演じるのをやめて、浩也は浩也として、美奈に風船を渡した。
「美奈ちゃんは赤が好きなんだねぇ」
今日の美奈は赤い帽子に赤い靴だ。
「うん! 大好き」
そして浩也も気がついた。
美奈の目まで黒の中に赤が染み込んでいることに。
「『役者』のお兄ちゃん。知ってる? 美奈は炎と友だちなの。美奈には炎とお兄ちゃんしかいないの。うんうん。お兄ちゃんしかいないの。お兄ちゃんだけなの。お兄ちゃんがいなくちゃ一人なの」
「え」
「ねぇ。お兄ちゃんを取らないで?」
美奈の小さな身体から炎が湧き出してくる。服は燃えてないようだが、風船の糸が煙を上げて燃える。
浩也も熱気を感じた。
「熱っ!」
「お兄ちゃんを取る人なんて、全然ステキじゃない!」
竜巻になった炎が浩也を襲う。
異変に気づいた遊園地の客が何かのショーかと騒ぎ出した。
「そんなやつ燃えちゃえ!」
もう、ダメだと思った。
病院のベッドで眠る妹の姿が浮かぶ。
これが走馬灯なのかと感じたときーーーーーー浩也は、心臓が浮かぶような不快感に襲われた。
突然少女とキャラクターが消えた遊園地では、手の凝ったショーに拍手が起こった。口笛なども聞こえる。
赤い赤い風船だけが、うっすらと煙をあげながら空に漂っていた。
- Re: 5ーanotherー ( No.8 )
- 日時: 2013/08/19 20:43
- 名前: トウマ (ID: apTS.Dj.)
「岡元 美奈。8歳の時に異能を暴発させ、自分の家を全焼させる。
近隣の家からの証言により、両親から虐待を受けていたと思われるその少女の遺体だけが、見つからなかったことから、異能者と断定。
その後“ミロワール”の西村 啓一と行動を共にしているとの証言が多々報告される。
現在11歳の炎を操る少女である。
なるほど。君の異能で記憶を改竄させ、君は虐待から唯一の味方だったお兄ちゃんになりすました訳だ。
悪いお兄ちゃんだね」
「力の強い異能者は人類の宝。保護しようと思ってたんですが、
何分ちょと面倒くさい。
そろそろ炎より水が似合う季節ですし、異研にあげますよ。
正直言って飽きました」
「違う! 美奈は岡元 美奈なんかじゃない! 美奈は西村 美奈だもん! 美奈は啓一お兄ちゃんの美奈だもん!」
美奈の服から美奈の過去を読み取った香は顔をしかめて全てを話した。
美奈は頑として認めないが。
泣き出しそうになりながら、叫んでいる。
「美奈は美奈だ。啓一の妹だ。嘘をつくなっ!」
浩也は達己に保護されながら、美奈を宥めようと必死に呼びかけた。
「美奈ちゃん。大丈夫だから、安心して。きっとお兄ちゃんが助けてくれるから」
だが、何を言ってもムダだった。
「違う! 違う! 違うの!」
そして、美奈の炎は再び暴走した。
幾つもの竜巻になって狙いも何もなく辺りに降り注ぐ炎。
達己の瞬間移動がなければ、三人とも燃え尽くされただろう。
「違うの! 美奈にはお兄ちゃんがいるの! お兄ちゃんが守ってくれるの!」
第二、第三とくる炎の竜を避けて、浩也が目を開けた時、思わず息を呑んだ。
美奈の帽子が燃えている。
それは美奈自身も燃えているということだ。
「美奈ちゃん!! もうやめろ!」
「嫌だ! お兄ちゃんが助けにきてくれるもん!」
美奈の細い腕に火傷が広がる。
足に、首に、顔に。
凄惨な光景だった。
「あのバカ!」
達己と香も必死に止めようとするが、生憎二人の能力は彼女の力に何の作用もない。
どうすればいい?
どうすればいい?
子供のあんな姿は見たくない!
「そうだ! 僕がお兄ちゃんを『演じ』ます! お兄ちゃんのこと香さんが僕に伝えて下さい!!」
お兄ちゃん!
お兄ちゃん!
助けて! 熱いの! 痛いの!
お兄ちゃん! 助けて!
助けて! お兄ちゃん! 暑いよ!
お兄ちゃん!
助けて!
暑いよ!
お兄ちゃん!
「美奈? 大丈夫か?」
お兄ちゃん?
助けてくれる?
ここは凄く熱いの。
凄く痛いの。
「大丈夫だよ。美奈。美奈は良い子だから、大丈夫」
お兄ちゃん?
本当にお兄ちゃんなの?
私のお兄ちゃんはあなたみたいな顔じゃないの。
だけど、あなたもお兄ちゃんなの。
「では、交渉成立ということで、
あ! 記憶は戻しておきますね。事後処理はお任せします。好きに使ってください」
そうか。
あのお姉さんの言った通りなんだ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないんだね。
お兄ちゃんは私が殺したんだね。
ごめんね。
お兄ちゃん。
熱かったよね。
痛かったよね。
ごめんね。お兄ちゃん。
守ってあげられなくて。
ごめんね。
ごめんね。
『ご、めんね。お兄ちゃん……』
炎が消えた。
浩也の腕のなかで美奈が崩れ落ちた。
その顔の半分は火傷で埋め尽くされて、とても痛々しい。
だが、浩也にはまったく火傷がなかった。
「大丈夫か?」
香が心配そうに浩也を見た。
「……僕はまったく熱くありませんでした」
浩也が『演じ』たのは岡元 弘樹。
美奈の実の兄だった。
きっと、美奈は改竄された記憶の中でも、大好きだった兄を忘れてなかったのだ。
「……ぅう……」
浩也は泣いた。
いや、弘樹が泣いたのだ。
「ありがとう。美奈。ありがとう」
暫く涙を流した後、弘樹は浩也に戻り、浩也も美奈を抱いたまま、眠ってしまった。
「この子はどうなる?」
「異研送りだろう」
「……そっか」
「……田沼さんに頼んでは見る」
「……そっか」
一週間後。
「お兄ちゃん。見て見て! 水で像を作ったの!」
「おー。優香はスゴイな」
「えへへ。もっと褒めて! 啓一お兄ちゃん!」
何処かでそんな偽物の会話がしているとき、
浩也は再び異捜を訪れた。
「力を制御できずに、暴走させたり、力を気味悪がられて虐待にあったり、棄てられたりは珍しいことではないんだよ。
異操は異能者犯罪の抑止の為にあって、異研は異能事件後の異能者の保護や再発防止の研究をしているんだ。
ここの話、香チャンや達己クンも異研で育ったんだよ」
「なんて、田沼は言ったかもしれねぇが、異捜も異研も清廉潔白な組織じゃない。
でも、異捜にいたら多くを知れる。
それに目を逸らさないようにいるんだ」
香と達己から美奈は異研に入院したと聞かされた。
だが、やはり検査をされ、実験を受ける。
田沼に頼んで異能犯罪者だからと言わず、子供への対応を求めたということだった。
「俺、異捜に入ります」
浩也は宣言した。
俺の妹、身体が弱いんです。
いや、弱かったんです。
2年前に亡くなりました。
年のはなれた妹で、美奈ちゃんと同い年です。
よく笑う妹が、交通事故で意識不明の重態になりました。
もとから身体が弱かったのに、そんなことになって、
でも、妹は一回だけ目覚めたんです。
「お兄ちゃん…」
って、笑ってました。
すっごく救われた気になったんです。
俺は眠ってる妹の手を握ることしかできなかった。
でも、
「お兄ちゃん…」
って笑ってくれた。
だから、僕は子供の笑顔で救われた気になるんです。
だから、子供たちが笑えるように、少しでも出来ることがあるならしたいです。
「香先輩。達己先輩。これからよろしくお願いします!」
それから、浩也は田沼に無理難題を言って、月に一度、着ぐるみアクターとして異研に行く許可をもらった。
そしていつものように、パンダになる。
二足歩行の。
「浩也お兄ちゃん!」
顔の半分に焼け爛れた火傷の後が出来た美奈は、この月に一度の日を楽しみに待っているのだ。
- Re: 5ーanotherー ( No.9 )
- 日時: 2013/08/19 20:51
- 名前: トウマ (ID: apTS.Dj.)
11
東 京平 アズマ キョウヘイ
赤っぽい髪の元ヤン。愛想はいいから見た目で誰もがころっと騙される。
東兄弟の兄で、天才科学者。
でも柄悪し。
上條 隼人 カミジョウ ハヤト
色素の薄い気狂い。笑い上戸の確信犯。裏でいろいろ怖いタイプ。柚鷹の兄。
天才科学者だが、京平の補佐の方が好んだ。
東 右京 上條 柚鷹
「東先生!」
東 京平。彼は天才である。
今回のこの国家プロジェクトの貢献者の一人として若くして活躍している。
「弟さん二人がまた、いなくなりました」
「……右京だけでなく左京までですか。
……お騒がせして申し訳ありません。お腹が減ったら戻ってくるでしょう」
「あ! 東先生!」
京平はそう言うと、タッタッと言ってしまった。
残された二人の白衣の若い研究委員は顔を見合わせる。
「天才の考えてることなんか分からんな。実の弟を研究のモデルにするなんて」
「天才なんて頭のバネが吹っ飛んでるんだろ?」
このプロジェクトは『異能者の開発』を目的にしている。
マンガやアニメに出てくる超人的
な力を使う存在。
そんなものは夢物語だと思われるかもしれないが、
理論上不可能ではないと発表会したのが東 京平だった。
「行くぞ! サキョ!」
「うん!」
右京がそう言うと、右京の影が彼の身体から離れ、実体化した。
そのまま形を変えて黒い狼になる。
「これが狼。それでこれが狐だ」
影は狐になり、熊になり、また狼に戻った。
「スゴイ!」
「だr「おら! 何やってんだ二人とも!」げ! キョウヘイ!」
右京の高揚した赤い顔が曇る。
京平が右京の頭をグリグリと拳で押した。
「兄に向かって『げ!』とはなんだ。『げ!』とは」
「じゃぁ、『うわっ!』」
「チチクセェガキが反抗期きてんじゃねぇよ」
ペシン。
「うわ。痛そう」
「サキョ! 何で俺だけぇ。このニジュウジンカクショウワルアニキ!!」
パシン。
「うわ。痛そう」
東の三兄弟の仲は大変いい。
京平は双子のこの弟達をとても大切にしていたし、
双子も口の悪い、研究員の前では大人しい振りをする要領のいい兄が大好きだった。
「お前ら絶対人前で力使うなよ」
「分かってるよ。だからここまで来たんじゃん」
「それに、僕は能力まだ分からないし」
「左京。右京は馬鹿だから飲み込みが早かっただけだ。お前もそのうち分かるだろうから安心しな」
右京は京平の予測を遥かに超えて能力を発現させた。
だが、左京はまだ能力が分からない。
左京の能力がわかるまで、京平は右京の能力も隠しておくつもりだった。
「何のようですか?」
思わぬ研究室への来訪者に京平は尋ねた。
「京平クン。弟くん達の様子はどうだい?」
「とくに変わりはありません。能力値も正常です」
元々、異能者とはIQが特別的に高い子供を育てる研究に端を発している。
そこから、脳に放射線で刺激を与える方法が考案され、京平の理論は実証された。
東家には大きな借金があった。
今はなき両親が残した莫大な借金である。
その両親が事故で死に、残された莫大な借金に自らの死を覚悟した京平の大学で発表した理論が政府に認められ、この兄弟はなんとか生き延びたのである。
研究の為に借金は国が立替えて、京平は国に役立つ研究をする。
そういうことだ。
右京と左京が第一モデルに選ばれたのは、京平の弟。それも比較しやすい双子であるということでだった。
だが、先述したように、
東 京平は天才である。
自分の大切な弟を伊達にモデルに選んだのではない。
「君の理論は正確だ。だが、上司は第二モデルを選んだようでね」
「……第二モデル?」
モルモットにでも放射線を当てようというのか?
「上條クンは君の同輩らしいね。彼の弟も君の弟達と同年代らしい。是非このプロジェクトに貢献させてくれとね」
「上條 隼人! キサマ何を考えてる?!」
京平は隼人に殴りかかる勢いで言った。
「京平。そんな大声を出すな。二日酔いに響く」
「飲むな! テメェは何考えてんだって言ってんだよ。オラ!」
「不良高校生か君は」
隼人は京平の親友である。
大学時代から二人で弟自慢大会をぼっ発させて、二人に憧れを抱いていた女性を絶望させた過去があるほどに。
「たった二人だけなんて右京と左京が可哀想だろ? 二人はもう覚えてないだろうが、知った仲なんだ。柚鷹も友達が増えて嬉しいだろ?」
「お前なぁ。脳に放射線当てるなんて実験に弟を巻き込むな」
「君が言えたギリじゃないね。さては京平。お前国を騙してるだろ?」
「……」
東 京平と同じように、
上條 隼人もまた、天才だった。
二人が意気投合し、親友になったのも、共感する何かがあったからかもしれない。
「弟バカのお前のことだ。どうせ、危ないことはさせてないんだろ?
お前はもっと安全に、異能を発現させる方法を確立させて、それを弟に施した。
異能が現れたら、弟達は国からの補助で安寧だ。
違うか?」
隼人に詰め寄られ、壁まで押し寄せられる。
京平は不適な顔で、
「ハッ? そこまでわかってんならどうしてここにきた?」
隼人を挑発した。
負けず嫌いだったのだ。
「母さんが死んだ」
「……燈さんが?」
「一ヶ月前だ。この世の中は人殺しの息子に甘くないんだよ」
「……そうか……」
上條 燈は隼人の母親だ。
彼女は度重なるドメスティックバイオレンスにより、上條 辰馬を正当防衛で殺してしまっていた。
「上條 柚鷹だ。よろしく」
柚鷹はあ兄の隼人と違って愛想があまりない。
先ず目つきが悪い。
「ん。よろしくユタ」
「よろしくお願いします。柚鷹さん」
対照的な同じ顔に柚鷹は興味をそそられる。
自分と違って二人共可愛らしい顔立ちをしていて、彼らの兄だという京平とよく似ていた。
ただし、京平の他人に対する営業スマイルにである。
「じゃあ、ユタは俺の子分その1で」
「ちょっと待て。なんでいきなり子分?」
「俺の方が偉い」
「何を根拠に」
「見た目?」
うわ。ムカつく。
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