コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 色彩の星を____*
- 日時: 2014/04/10 18:54
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
僕らはこの星を握って、夢幻の世界を夢に見るんだ。
***
初めまして、こちらのサイトには初めて投稿させて頂いてます。
唄華、と申します。
上記の通り、本当に初めてと言う事で、至らない点も多々ある事をまずはお許しください。
今回は大好きなファンタジーを題材に書かせていただきます!
基本ほのぼのしながらも時には戦闘、時にはシリアス、時には感動、時にはその感動さえもぶち壊すアホっぽいもの、というのを考えております。
唄華自身が暗い奴なので、シリアス路線突っ走る場合もありますが、基本のほほんとした雰囲気を目指します。頑張ります。
大体はほのぼのというかゆったりしているものを書こうかな、と思っています。気軽な気持ちで読んでいただけると幸いです(*・∀・*)
唄華自身もゆっくりのろまな野郎ですので、ゆっくりまったり更新していきたいと思います。
そして文才の無いお馬鹿なので許してやってください(;∀; )
それでは、宜しくお願いします!
諸事情により題名変えました。すみません…
リアルの方で学校が始まりましたので、更新率がくり、とさがります。学生は辛いです。
其の辺のご理解、よろしくお願いします。
*目次
世界観・用語 >>01
登場人物 >>02
プロローグ >>03
第一章 【契約】
一話 >>04 二話 >>05 三話 >>06
四話 >>07 五話 >>08 六話 >>09
七話 >>12 八話 >>13
第二章 【恋歌】
九話 >>15 十話 >>16
小さな小話
(ここは本編の間にあった小さな小話です。基本ゆるゆるです。
これを読んでいなくとも本編の内容を理解できるようにできている…はずなので、
暇があったら覗いてやってください(*´∀`*))
八.五話 >>14
----------キリトリセン----------
50閲覧有難うございます!(14.3.31)
- Re: 色彩の星を____* ( No.8 )
- 日時: 2014/03/25 12:51
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
「キミは・・・誰だい?」
宙に声が響く。声は音となって遺跡内を震わせる。
懐かしいような声はクスクス、と笑いながら答えた。
『君が契約しようとしていたものだよ、そう、僕は死神タナス。生と死を司るもの』
死神、タナス。と隣でセイカが唾を飲んだ。何処からとも無く聞こえてくる声はこの死神のものだろう。
『さあカトレア・ヴェン・オーディン。早速だけど契約を交わそう。其処にある祠の中を開けてくれ』
「おい、ちょっと待てよ!!」
タナスの言われた通りに祠の中を開けようとした瞬間、隣に居たセイカが両手を広げて立ちふさがっていた。
その表情は驚き、悲しみ、驚愕、その他諸々の感情が入り混じった顔をしていた。
どうやら、本当に自分が契約すると思って居なかったのだろう。
「カトレア、お前契約する気か!?」
「うん、そのつもりさ」
「考え直せよ!主霊と契約した後の事、親父さんが居なくなった今、奥さんを支えられるのはお前だけだろ!!そんな中で契約なんかしたら奥さん、どれだけ悲しむかわかったもんじゃないぞ!!」
「…」
それでも自分は思う。自分は騎士になんてなりたくなかった。そのことで両親と喧嘩もよくした。
自分は、僕は、遺跡を調べたかった。古代エムリタが残したその秘密を。それを解き明かすためには、まず契約しなくちゃいけないんだ。
自分は立ちはだかったセイカを思いっきり睨む。セイカは一瞬驚いたようだったが、すぐに睨み返す。
死神は何も言わない。かといってその姿を見せるということでもない。静寂の攻防が続いた。
瞬間、強い突風が吹いた。上からじゃなく正面から。でも正面には穴らしき穴は無い、祠から吹いていた。
その反動でセイカは前方に転び、祠の扉は開いた。自分は何とか耐えたが、少しでも気を抜かせばセイカと同じく転がっていた。
目を塞いでいた腕を解くと、祠の中が見えた。祠の中には淡く光るブラックオパールがあった。
そのブラックオパールは、そこはかとない何かを感じれた。怖い、そう思ってしまった。
『さあこれを、握ってくれ』
優しい這うような声色が囁いた。自分は引き寄せられるように祠に近づいた。這い蹲っているセイカは中々立ち上がろうとせず、何かをぶつぶつ言っていた。
自分はそんなセイカの異常な反応にも気付かず、祠の前に立った。
手を伸ばし、淡く光るブラックオパールを手にしたとき、まぶしい光が視界を遮った。
眩しくて、思わず目を閉じた。ゆくっりと目を開けると、其処にはボロボロの灰色のコートを着ている青年が居た。宙を浮いている時点で、まず間違いなく人間じゃない。
「キミは・・・」
『そう、僕が死神タナス。会えて嬉しいよ・・・カトレア。』
ゆっくりと柔く微笑んだ。赤茶の髪に穏やかな赤色の目。瞳と同じ優しい色した赤いマフラーが靡いた。
ようやく起き上がったセイカは此方を見て、ただただ呆然と眺めているしか無かった。
こんなことを見る機会なんて、一生の内に一二回も無い、寧ろ無いのが普通の現象である。
優しく微笑むその姿を見て、自分も呆然するしか無かった。死神が、こんなに優しそうだなんてとちょっとずれたことを考えながら。
『指輪に、それを嵌めて』
「指輪って・・・これなのさ?」
いつの間にかポケットに入っていた古びた指輪を取り出す。うん、ゆっくり頷くので手に入れたブラックオパールと嵌めた。
丁度ぴったりに嵌り、瞬間地面から巨大な魔方陣が展開された。
魔方陣の色は禍々しく、そういうところから死神らしさで滲み出るんだなあと感心しながら眺めた。
「・・・おいカトレア、契約、したのかよ・・・」
『そうさ、今さっき契約は成立されたんだよ』
「・・・だそうな」
「・・・はあ、」
セイカは思いっ切り溜息を吐き、諦めた様な顔で続けた。
「カトレア、もう契約したなら取り外せ、とは言わない。
でもな、覚えておいてくれ。
お前が契約したことで、悲しむやつがいるってこと・・・」
悲しそうな表情に変わっていった。恐らく悲しむ人って言うのは母や死んだ父、家の者、そしてセイカ自身の事だろう。
そこまで深くも同情は出来ないけど、じゃあさ、と一か八かの賭けに出てみる。
「セイカも付いてくれば良いのさ」
「・・・はあ?」
たっぷり五秒の静寂が流れた。
こんな提案をした理由は至極簡単だ。
「自分はこれから遺跡巡りの旅に出かけるのさ、セイカが付いてくれば怖いことは減るし、それにセイカも悲しまずに済むのさ」
「・・・お前、何いってんのかわかってるのか?」
「当然さ!」
『・・・ぷっ、あっはははははは!!』
ずっと黙っていたタナスがいきなり笑い出した。見ると頭を抱え大爆笑。喧嘩に発展しそうだった雰囲気も、ちょっと和んだ・・・気がする。
頬に涙を溜めて未だヒック、笑いを堪えた状態でタナスは答えた。
『・・・いやっ、ごめん、ね・・・だって君達、夫婦みたっ・・・ふふっ』
「だ、」
ちょっとこれはマジで怒りたい。
「「誰が夫婦だって!?」」
そういった時、タナスの笑いが加速した。さっきまでピリピリしていたセイカも、ちょっと呆れたような何時もの表情に変わっている。
「とりあえず出るのさ、外に」
「・・・おう」
『そっ、そうだね・・・ふふっ』
「まだ笑うかてめえ」
『ごめんよ・・・ふふははははっ!』
ちょっと馬鹿らしいそんなやり取りも、凄く幸せに思えた。
- Re: 色彩の星を____* ( No.9 )
- 日時: 2014/03/29 10:25
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
遺跡の外へ出ると相変わらずの新鮮な空気が待っていた。来たときよりも日は落ちていて、良い子は帰る時間となっていた。
遺跡内に居る時間はそんなに長かったのか、と思う反面もうちょっと居たかった、というのが本音なのである。
予想以上に体力を使ったのか、或いは死神が近くに居る所為なのか、セイカはちょっと疲れたような表情をしていた。
自分は興味のあることだったらとことん嵌るタイプらしいので、その興味が失せるまで耐えられる体力はある。
何故か付いてきた死神は、ニコニコしながら自分の後ろを歩く。この世界が珍しいかのようにきょろきょろと辺りを見回している。
横目でチラリとタナスを見たが、どう見ても神には見えない。ちょっと変わった風貌をしたヒューマそのものだ。
ただ今現在、ちょっと誤解されそうな姿勢というか格好と言うか・・・まあ変な姿勢をして辺りを見回した。
『へぇ〜この世界には緑がいっぱいなのですね〜』
「おう、・・・でさお前、」
『何だい、セイカくん』
「何で俺によっかかってるんだよ!!!お前重い!!!」
『えーっ、だって僕、久々に神殿内から出たから体力が衰えて歩くのも億劫なんですよ〜許してください〜』
「それだったらカトレアによっかかれば良いだろ!!何で俺なんだよ!!」
『だって主によっかかるなんて恐れ多いし、主、女の子だからね・・・セクハラで逮捕されたくない!』
「こいつ意外とむっつりだな・・・それにカトレアはそんなに胸はない!ほら見ろ!あれを・・・」
そう叫んでセイカは自分のほうを指した。ほうほうこれは、僕への挑戦状かなと思う。
自分の犯した失態に気付いたのかセイカはやべっ、と漏らす。しかし男に二言は無いと言う言葉がある、取り消すなんて言ったって聞いて遣らないのさ。
「・・・タナス、初の実践なのさ、準備は良いな?」
『大丈夫ですよ〜主、』
「さあ、標的はセイカ・クロートーなのさ!」
『じゃあ、遠慮なく狩らせて頂くよ!』
「えっ、ちょっ、まっ、う、うわあぁぁぁぁ!!!」
セイカの悲痛な叫びが森に響いた。
自分はそんなの目もくれず、降霊術とはこんなもので良いのかと一人頷いていた。
「まったく・・・」
少しボロボロになった頭を掻きながらセイカはそう一人呟いた。
乙女の成敗もといお遊びをして戯れていた二人は、日が暮れるまで遊んでいた。自分はそれを眺めているだけでも楽しかったので、二人のやりとりをのほほんと見守っていた。
現在二人…自分とセイカのみでネリアンの森を歩いている。目的地は自分の家だ。
タナスはというと、最近は便利なものでこの指輪のブラックオパールの中で眠っているらしい。
降霊術で使役される神々は普段こういった本体と呼ばれる宝石の中で眠りに就き、戦いに備えているらしい。
タナス自身も「久々に外へ出で、思いっ切り遊んだから疲れたよ」と苦笑いを零していた。
父が遺した古文によると、この世界が創られたのは4000年前のことらしい。
つまり、タナスは4000年もずっとあの祠で眠り続け、今日解放されたということらしい。
ネリアンの森の構造は複雑そうで割と簡単だ。それにこの森のことを熟知しているセイカも居るから、尚更迷うことはない。
沢山の木々を抜け、出てきたのは街を一望出来きる岬だった。
無人の展望台に誰が付けたかわからないベンチ。不慮の事故で人が落っこちないように立てつけられた柵。
勿論誰も居ないわけで、静寂と冷たい空気に包まれていた。
少し爽やかな風を体全体で受け止めて、自分は大きく息を吸った。
前を歩いていたセイカが突然と立ち止まり、僕の方へと振り返った。ほらまた、その真剣な目。
「カトレア、お前、もう此処へは帰らないんだな?」
「…どうしてそう思うのさ」
「やっと解放された身だ。もっと色々な遺跡を調べてみたいんだろ」
「…うん、…でも一回家には帰るのさ、…明日早く、此処を出るのさ」
「…そっか」
彼は残念そうに俯いた。何故そんな顔をするのだろう、それを見ていると此方まで苦しくなる。
何かの迷いを断ち切ったかのように彼は徐に顔をあげた。そして僕の腕を引っ張り、僕の肩に彼は顔を埋めた。
「…ごめん、本当はいけないんだろうけど、今だけ…今だけこうさせてくれ」
「…!」
きっと頬が熱い。体が硬直して手も動かせられないけど、きっと今までになく紅潮してる気がする。
暫くして彼は漸く顔をあげた。凄く残念そうで、悲しそうな顔をしていた。
無理に取り繕った笑顔が痛い。出もしないのに、涙が出そうになった。
「…セイカはついて行ってくれないのさ?」
「俺がついていっても、邪魔なだけだよ」
「…僕は、セイカに来て欲しい…本心なんだけどな…」
呟いた言葉は風に攫われ相手には聞こえなかったようだ。とても悲しいと思うし、苦しいとも思え、ちょっと気恥ずかしい。
セイカは心配そうにこちらを見た。すると右手につけていた指輪が振動し始めた。
思わずそれを突き出してみると、ブラックオパールからにゅるりとタナスが出てきた。
『やっほ〜』
「タナス!なんで出てきたのさ!命令してないのさ!」
『神様だって自分の意思で動きたい時があるんだよ…さて、セイカくん、』
「…!?俺っ!?」
いきなり出てきた奴にいきなり話題を振られて戸惑った。表情に困惑の色が見られる。
タナスはそれも気にせず、出会って初の真剣な表情になり、セイカを見た。
その表情は、敵方にいたとしたらと考えると恐ろしいくらいだった。死を刈り取るもの、タナス。
そう考えるだけで背筋がぞっとした。
『セイカくん、君には来て欲しいんだ。主のためでもあるし、それに…』
「…それに?」
タナスは言い留まった。何か言いにくいことでもあるのか。
「自分からもお願いするのさ、お願いセイカ、来て欲しいのさ」
「…」
セイカは再度俯いた。冷たい風がざあっと吹いた。
暫くしてセイカは漸く口を開いた。蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「明日、決めさせてくれ…今、そんな余裕はない」
「…!待って欲しいのさ、セイカっ!」
呟くと同時に彼は森の中を駆け抜けた。日が暮れ、元々森の中が薄暗いというのもあり、すぐに彼の姿は見えなくなった。
自分は引きとめようとしたが、頑固者の彼が素直に聞くとは思えなかった、でも声は掛けたからまあ希望はあった…はず。
隣に佇んでいるタナスはきょとんとした顔で、去った後を見つめていた。
「…タナス、さっき何を言おうとしたのさ」
『主にも彼にも、まだ伝えられない昔話、だよ』
すぐにいつもの調子になって微笑んだ。その顔は懐かしむような不思議な顔だった。
「…とりあえず家に帰ろうかな」
『じゃあ僕が送っていくよ』
「…えっ」
『じゃあ、捕まっててね!』
「えっ…ええぇぇぇぇっっ!?」
何気なく呟いた一言が禍を招いた。タナスは僕を持ち上げて、岬から飛び降りた。
平然とした顔でタナスは笑っていたが、自分にはどうも怖い。下から当たる風が異様に冷たく、それもまた怖さを倍増させるに難しくなかった。
ふと下を見下ろし思った。この街とおさらば、か。
十何年間という短い期間だったけど、楽しかったなあ。
冷たい風を浴び明るい街に飛び込んで、また明日、色んな意味で自分の始まりを迎えられると思うと、胸が高鳴った。
- Re: 色彩の星を____* ( No.10 )
- 日時: 2014/03/29 10:57
- 名前: 雨 (ID: 5YqwrR3X)
はじめまして、雨と申します<(_ _)>
滅茶苦茶おもしろいです! 設定からわくわくして、ぐわーっと一気に読んでしまいました(^^)
カトレアちゃんの「〜さ」が可愛いです(*^^*)
降霊術の契約の場面は『え、大丈夫!?』という感じになっちゃってました。
これからもちょくちょく来させていただきたいです! 更新頑張ってください<(_ _)>
- Re: 色彩の星を____* ( No.11 )
- 日時: 2014/03/30 11:54
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
ウワァァ雨さん、コメント有難うございます…!(*´∀`*)
こんな拙い小説に面白いと言ってくれて嬉しいです…!
ハラハラとかドキドキとかを感じてくれたようで何よりです!
正直感情移入しにくい文だなあ、と自分で感じていたので、ちゃんと場面ごとの情景が伝わっているみたいなので少し安心してます…()
はい、これからもゆったり更新頑張って行きたいと思います…!
有難う御座います…!ヾ(*´∀`*)ノ
- Re: 色彩の星を____* ( No.12 )
- 日時: 2014/03/30 13:01
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
空は高く澄んでいて雲一つない快晴だ。しかし街は少し霧がかって所謂朝靄が漂っていた。
少女カトレアは少しの荷物を持ち、外へ出た。これなら身を隠すのに良いかも、なんてことを考えながら。
昨日の夜はどうやって屋敷から出ようか、最初に何処に行こうか、そしてセイカは着いてきてくれるのだろうか、と悶々と悩んでおり、殆ど眠れなかった。
そのせいでちょっと気怠いし、目の下にも隈ができていると思う。
まず屋敷から出ること、これはクリア。今日の天気が幸いした。
次に行く場所はまだ決まっていない。でも港町に行けば何か情報が掴めるかも知れないと思い、とりあえず近くの港町コーラルの町に行こうかと思っている。
最後、セイカがついてきてくれるか。
カトレア自身は付いてきてほしいのが本心だ。何より男性一人いるだけで旅の効率が良くなる…と思うからだ。
ああ見えても剣術はできる方なので、道中魔物に襲われても落命する危険性は、一人で旅するよか断然低い。
そういった意味もあるのだが、最大の理由は良くわからないこの感情だ。
こう、相手のことを考えるともやもやして、それでいていざ目の前にすると心臓の鼓動が早くなる。おかしな感情が突き動かしていた。
まあいいや、と大きく深呼吸し、身を隠すのに適し、そしてコーラルの町への近道であるネリアンの森に入った。
森の中は大量の霧で埋め尽くされ、前らしい前が見えない。
こんなに霧が出る時期なんてもう少し後のはずなんだけどなあ、と小首をかしげながら一歩を踏み出す。
すると急に指輪が光り、タナスが出てきた。昨日契約したばかりで、いきなり出ることにはまだ慣れておらず、無表情無感情だと良く言われたカトレアでも流石に驚く。
『ここってこんなに霧が深いのかい?』
「ううん、普段はもっと晴れているのさ」
『そうかい…っ!カトレアっ!』
急に叫びだしタナスはカトレアを突き飛ばした。カトレアは近くにあった木にぶつかりいてて、と声を漏らす。
薄く目を開いてみれば、タナスの奥にウルフの群れがいた。幸い4、3匹ぐらいだったので、頑張れば一人でも清掃できる。
が、今カトレアは降霊術師となった。となれば戦闘スタイルも変わる。
ゆっくりとカトレアは立ち上がり、お気に入りのピンクの傘を強く地面に叩きつけた。すると地面から黒紫の魔法陣が展開される。
それに呼応するように、タナスが巨大な鎖鎌を出現させる。それを掴むと姿勢を低くし、ウルフたちに向き合った。
「術者の名において命ずる!目の前の魔物を一匹残らず残滅するのさ!行け、死神タナスっ!」
『仰せのままにっ!』
言い出すなりタナスは駆け出した。鎖鎌を大きく振りウルフたちの腹を切り裂く。
そこから飛び出た血をカトレアはじっと見ていた。ウルフたちは突然の仲間の死に一瞬怯んだが、すぐ果敢に攻撃を仕掛けてきた。
ウルフたちの鋭い牙はタナスの腕を狙ってきた。しかしタナスはものともせず、槍状に変化させた鎖でウルフを切り裂いた。
圧倒的な力を振るうタナスをじっと見ていた。降霊術を使用するのは初めてだが、何故か体が勝手に動く。
降霊術を使えるように契約したせいなのかもしれないが、こうもっと違う、ずっと昔にやっていたような…。
『カトレア、危ないっ!』
えっ、と声を漏らした。ウルフたちを倒し終わった直後、カトレアが凭れ掛かっていた木の裏に、ウルフの群れが潜んでいたのだ。
タナスが狩ったウルフは4、3匹だったが、その内の一匹が援軍を呼んでいたようだ。
咄嗟に立ち上がりウルフたちに向き合うが、鋭い牙はカトレアの心の蔵まで来ていた。
もう駄目かもな、と思い目を瞑った。
だが、いつまでも痛みは来ず、何かを引き裂くような音がした。
恐る恐る目を開くと、そこには見慣れた幼馴染が、二本の剣を振るっていた。
「…セイカっ!」
「まったく、あぶなっかしいったらありゃしねぇ」
ドサリ、とウルフの死体が地面に落ちた。カトレアは下がれ、とセイカが耳打ちしカトレアは素直に従った。
『僕も戦うよ、』
前に躍り出たセイカと背中を合わせるようにタナスは来た。セイカはそんな相手にも目を暮れず周りを見渡した。
どうやらウルフの群れどころではなく、大群に囲まれていた。あちらこちらの茂みから鋭い眼光が見える。
「とりあえずお前はカトレアを優先しろ、俺が殆どぶっ叩いてやる」
『じゃあお言葉に甘えてそうさせて頂くよ、セイカくん!』
同時に二人は駆け出した。セイカの繰り出す双剣の連撃と、タナスが繰り出す鎖鎌の一掃。どちらを見ても惚れ惚れしてしまう。
しかし、降霊術を使用している際はその場所から動けない。動いたら術式が解かれ、鎖鎌は無くなってしまう。
なのでカトレアは二人の快進撃を眺めるしか無いのだ。それが堪らなく悔しかった。
そう思って地面に突きつけていた傘を持ち上げ、胸の前に掲げた。それは本来騎士の気を付け、の姿勢なのだが、カトレアはこれが慣れていた。
大きく息を吐くと浮かんでいた魔法陣が更に色を濃くした。魔力を多く含んでいるという合図だ。
徐に顔を上げ、傘を前方に突きつける。魔法陣は瞬にして光り、輝きを放った。
「万象の力!我らに撃の力を!フォルツア・レーゲン!」
戦っている二人に赤い魔法陣のような印が付いた。降霊術は神を召喚し戦う職業である、と言われている。
たが、昨日地下室で読んだ古文にはもう一つ、降霊術者ができることがあった。
それは補助魔法と呼ばれる魔法で、人の体に眠っている潜在能力を一時的に呼び覚ますといったものらしい。
彼らに掛けたのは"撃の力"。つまり力だ。
先程からバッサリ切っているウルフたちの傷跡も、カトレアが補助魔法をかけてから深くなっている。
「よっし、じゃあ一気に決めるぜ!」
一旦後ろに後退したセイカがにやっと笑い、戦闘態勢を解いた。その代わり剣を握る手に力を入れた。
赤色の魔法陣が頭上に展開される。彼はヒューマである為魔術は使えないのだが、ヒューマ特有の還元が使える。
還元とは、宙に漂う魔力を取り込み、一時的に肉体を強化することだ。
彼の場合、腕、足腰、そして双剣に魔力を取り込ませ、一段と早く、そして一段と力強くする戦闘態勢をとる。
「来い、聖なる力!我が糧となれ!」
魔法陣が割れ、赤いオーラが彼を包んだ。一瞬にしてオーラが無くなると、見た目は余り変わらないのだが持っている剣が太く、巨大になっている。
タメを入れて走り出すと、先ほどの何十倍も速い速度で駆け出した。後ろで戦っているタナスも、すこーいと能天気な声で評価する。
目にも止まらない連撃で、キリがないウルフの群れを切り倒していく。
たが、ウルフの群れは減らず、寧ろ増えているようにも感じる。
三人が息を飲むと、ガサリ、と異常な音がした。その音がした茂みを見ると、今までのウルフよりも何倍もでかい、巨大な何かがいた。
「あいつが親玉か…」
『でも、あれを倒せば多分この群れは引いてくれると思うよ』
「自分もそう思うのさ。でも逆に言えば、あれを倒さない限り、僕たちは此処で足止めを食らうばかりなのさ」
「そっか…じゃあ、」
じゃり、と地面の砂がなった。二人はもう一度戦闘態勢を取り、カトレアは傘を構える。
それが合図のように、親玉は真っ直ぐに突進してきた。汚らしい唾液が付いた牙を向かせて。
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