コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜
- 日時: 2016/02/24 16:27
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: /ReVjAdg)
それは、唯一人を主君と定めた忠誠を誓う純然たる美しき乙女の追従者。
己の血と肉、己の智と技、命を持ってして傅く忠実なる臣下。
病める時も健やかなる時も、試練に苦渋する時も束の間の平穏なる時も、絶望に膝を堕とす時も希望を託し祈る時も、共に在り、傍らに有り続ける終生の随伴者。
如何な理由があろうとも決して主の御身を裏切らず、またその研鑚たる恩赦に報いるべく研磨を惜しまない。
その魂魄を分かち合い、育み、慈しみ、愛し、切磋琢磨し、響き合い、昇華して共に頂に至ることこそ真の響命者と成り得る。
それが盟奴。
魂の片割れ。
其の現身。
故に『心魂盟奴』と言う。
目次
0 >>1
1 >>2
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3 >>4
4 >>5
5 >>6
6 >>7
皆様如何お過ごしでしょうか、Frillです。今回のお話は『TS(性転換)』を含みます。耐性の無い方はプラウザバックをお勧めします。露骨な性的表現などは極力控えますが、なにぶん私も執筆しないジャンルなので生暖かく見守って頂けるとありがたいです。
Page:1 2
- Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.3 )
- 日時: 2014/11/24 21:40
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: MT1OWC7F)
2
眩い白尽の世界に包まれる中で、青年はこの日、この時、正午を以って、とあるMMORPGタイトルの正式サービスが終了するという事実に悲嘆を隠せなかった。
何処にでもある至極ありふれた話だ。
今もそこかしこで起きているだろう、経営利益を生み出す術が尽き、運営が困難となったゲーム業界においての企業の末路。
その結果が一つの仮想世界の破綻。
定期業務の終了。
ただそれだけの事。
今の御時勢、別段珍しい事でもない。
最先端3DCGを駆使し、現実世界を超えた、を謳い文句に活動を始めたフルダイブオンラインゲーム。
自由度の高い内容で瞬く間に人気を博し、一時社会現象にもなったMMORPG。
高価で年齢制限という規制もあったが、それでも多くの人々がこぞってログインし、思いのままにリアルの枠組みを抜け、ヴァーチャルの世界を楽しんだ。
イベントや大規模アップデートがあればマスコミは皆お祭りのように囃したて、メディアは大々的に取り上げ、特集を飾った。
余りの人気と加増するアカウントでサーバーが一時不調になることもしばしば起こり、ログインを中断されたユーザーが公式掲示板で怒りを露わに運営会社に抗議、脅迫するという事件も取り糺された。
それほどまでに人々を魅了したこのゲーム。
しかし、滔々と流れていく年月と技術の進歩、なにより世間の流行には勝てなかった。
まず機材の圧倒的軽量化で、従来のモデルと一線を描く新機種をライバル企業が発表。
より洗練されたグラフィックの美しさや細やかさ。
装着容易な画期的デザインのコントローラーのモデムギアは人々に衝撃を与えた。
簡単な操作性で最早ベッドに横になる必要は無く、インタラクティブダイレクトモジュールがより安全性と有用性を可能とした。
後押しするように続々と発売される後発のゲームタイトルに敵うはずもなくあっという間に追い抜かれ、新機種携帯ゲームが我先にと台頭する。
軽量装着で気軽に手持ち可能。時と場所を選ばず爽快操作で誰でも遊べるゲームが数多くリリースされるようになった。
多くの人々は価格も安価で、そこそこ楽しめる手軽な娯楽を選んだ。
先進の開発企業も時代の波に乗り遅れまいと、様々な手段を講じるが時は無情に残酷に過ぎ行く。
日に日に傾く運営会社の経営悪化、それに伴い業務の縮小。
ゲームの存続自体が危ぶまれた。
それでも一部のユーザーに根強い人気を持ったこのゲーム。
その熱い応援に励まされたのか、何とかサービスは継続されていた。
だが、それも一ケ月前の公式ホームページに掲載された通知文がすべてを物語り、そして宴の終わりを告げたのだった。
運営の経営破綻、企業の合併、開発スタッフの解散。
青年は、再び大きく息を吐く。
モニュメントディスプレイの時計は間もなく正午0時に差し迫ろうとしていた。
今起きている画面の白いフラッシュノイズが終わる時、ネットワークの回線切断と共にゲームのサービス終了が通告されるだろう。
チラリと背後に控えるメイド、配下の少女たちに視線を向ける。
現実では在り得ないくらいの美人揃い。
スタイルも鮮烈かつ抜群、天が二物も三物も惜しみなく与えたような眩惑の美悠。
当たり前である。
皆自分が容姿から性格、一からすべてデザインし、長時間かけてカスタマイズして創りあげた至高の乙女なのだ。
共に戦場の死線を翔け、魔物が巣食う迷宮を攻略打破し、魔王や邪龍、はたまた魔神や破壊神を相手に大立ち回りを繰り広げた。
輝かしい栄光の数々。
多くのプレイヤーと腕を競った。
互いのメイドを決闘させたり、より優れているのはどちらか等を一日中論争したりもした。
それだけでは物足りなくなり、終いには違法改造のチート行為にも少々手を染めたのも今となっては懐かしい想い出である。
勿論このゲームは戦闘だけでは無く、メイドたちとの愛の営みも完備されている。
特別会員制限定課金の制限解除パッチはかなり高額だったが、彼女たちとの目くるめくも狂おしい獣欲の禁忌は今もリアルの愚息を奮い起たせそうだった。
青年、プレイヤー名イクス・シュタッドフェルトは何度目かも解らない大きな溜息を深々と吐く。
睡眠と生活費を削り、時間の許す限り投じた遊幻の日々。
そのすべてが、その情熱のすべてが今、水泡の露と消えるというのだ。
なんと嘆かわしいことか。
願わくならば今一度、この空想の異界で・・・。
加速する白光のリフレイン。
減遅する意識のディフレクション。
そして世界は暗転した。
- Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.4 )
- 日時: 2014/11/25 14:41
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 9jf1ANEm)
3
ブラックアウトした世界。
このまま何事も無く終わりを迎えるものと思われた瞬間。
急速に明滅する光が集束し、そして凄まじい閃光を伴い暗闇を弾き、開闢させた。
まるでビックバンが起こったかのような目まぐるしい現象。
そして青年が現状に気付いたときには、先程の激しい光りの奔流は消え失せ、冷然とした静寂が辺りを支配していた。
そこは今しがた佇んでいた山並みが一望できる丘の上ではなく、パルテノン建築に酷似した厳かな神殿の内部に移り変わっていた。
「これは・・・。転移か? しかし、何故こんな所に・・・」
辺りを見回す。
絢爛豪華とは言い難いが、白亜の巨石で区切られた床の石畳みに細かな彫刻が施された立派な石柱はいにしえの歴史を感じさせる祭壇をおもわせる。
祭壇の中心部には神聖な雰囲気を醸し出す剣を掲げた翼を広げる天使像のオブジェが勇猛な姿を垣間見せる。
知っている。
ここはこのゲームをプレイする者ならば誰でも知っている場所だった。
『黎明の神殿』
ゲーム開始時に必ず此処から始まるからだ。
「・・・ああ、そうか。ここでサービス停止の通告がプレーヤーに送られてくるのか。だとしたら、例の・・・」
少し首を傾げていたが、当然のように納得した青年、イクス。
すると、これまで何度も見てきたお決まりの光景が目の前で展開される。
虹色の燐光が渦を緩やかに捲いて、やがてその中心に一人の神々しい輝きを讃える世のすべての男を虜にさせるような、とても美しい女性を形作った。
『明星の女神 フリージア』
このMMORPGゲームにおいて創造神であり、母なる慈愛の神、恵みの豊穣神とも呼ばれる存在でもある。
足先までサラリと届く真っ直ぐな白銀の髪。
金色の右眼と対をなすような深く蒼付く左眼のオッドアイの双瞳。
透けるような柔らかな生地布のトーガを羽織る美の根幹を成す女神は微笑を浮かべて桜色のポッテリとした厚めの唇から言葉を紡ぐ。
「青年、この世界は貴方を満足させるに値しましたか?」
キャラクタークリエイト時にも聞いた鈴が鳴るような美声。
プレイヤーが死亡した時の演出、その他の重要なイベントなどでも見知った姿、聞き及んだ口調。
間違いなくこのゲームの中心を担う存在でもある女神様。
「ああ、もちろんだ。今までプレイしたゲームの中でも最高にご機嫌な時間だったよ。・・・まあ、それも今日でお終いなんだが・・・」
イクスは苦笑いしながらも、最後の最後でこうしてNPCといえども最高位の女神と自由会話を出来る事を嬉しく思った。
運営の粋な計らい、という奴かもしれない。
最後までユーザーを楽しませるつもりのようだ。
「・・・そう。それはなによりです。しかし貴方も周知の通り、この領界、異空世界『ヴァルハラル』は残念ながら黄昏の終焉を迎える事になりました」
女神は青年の言葉に微笑んだが、自身が述べる言の葉に哀しげに顔を曇らせる。
だが、僅かに憂いた女神は顔を上げ、慈しむような視線でイクスを見つめる。
「私は貴方をずっと視ていました。そして思いました。この者は本当にこの世界が、心から好きなのだと、本当に楽しそうに冒険をし、世界の一欠けらまで愛していたのだと」
突然の女神の自己評価に面喰ったイクス。
視ていた?
まさか、今までのプレイングを余すことなく監視されていたのか?
チート行為も、メイドとの悦楽官能体験も。
「あ、あの、あれは出来心というか、その・・・」
そんな青年の内面を察したのか、女神は優しげな笑顔を浮かべる。
「何も問題ありませんよ。そういう仕様のゲームですから。楽しみ方は人それぞれ個人の範疇。寧ろそこまでこの世界に入り込んでもらって、一創造神としては神冥利に尽きます」
蒼くなって慌てる青年に女神は慈母の眼差しを向けると静かに語る。
「・・・心残りは貴方に命を貰ったあの子たち。他のプレイヤーたちと違い、貴方は本気で彼女たちを愛していた。物のように決してぞんざいに扱わなかった。共に笑い、泣き、怒り、生きた。いずれ消えてしまう架空の夢物語なのに・・・。まるで自身のすべてをそこに置き去りにしたように・・・」
女神の言葉にふと、思考が切り替わる。
女神の言った、あの子たちとは自分の仲間のメイドたちの事。
思い出す。
初めてプレイしたこのゲームの事を。
随分と昔のように思う。
サービス開始以来、数年と経っていたがそれ程時の流れを感じさせることは無かった。
楽しかったからだ。
本当に楽しかったからだ。
そして思い出す。
このゲームを始めたきっかけを。
- Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.5 )
- 日時: 2015/07/19 19:42
- 名前: Frill (ID: 6Z5x02.Q)
4
元々昔からゲームは好きなほうだ。
今まで色んなジャンルのゲームをプレイしてきたが、やはりロールプレイングが自分には合っていたと思う。
定番で王道のものから、コアでマニアックなものも数多くこなしてきたと自負できる。
その中でもこのネットゲーム『心魂盟奴』は良作だった。
とりわけこのゲーム最大のウリであるパートナーであるメイドの育成は燃えた、いや、萌えた。
しかし似た様な育成ゲームは数あれど、これほど自身の琴線を震わせ深く刺激したものは他には無かった。
自分はリアルでは爽やかイケメンな好青年で通っている。務める商社でも割と評判が良く、上司や同僚からも受けは良い。
しかし浮いた話は一切無い。
自慢じゃないが異性からの誘いは引く手数多だ。が、色々理由を付けて断っている。
別に女性が嫌いという訳では無い。だからって男色でもない。ソッチの気は無い、いたってノーマルでエロ好きな普通の男だ。
ただ単に現実の女に辟易し、嫌気が然していただけだ。
その点このゲームは素晴らしい。
自分の好みの女の子、容姿から性格まで一からを創造し、一緒に冒険をする。
そして更にリアル3Dの美麗なグラフィックは現実では在り得ないほどの倒錯をもたらした。
こうして己の現実離れは加速し、よりいっそうバーチャル、仮想世界の中へとのめり込ませたのだ。
「・・・俺はこのゲームが好きだ。最早生き甲斐だ。愛してると言っても過言ではない。それに此処には俺の愛するパートナー達が、彼女達がいる。俺はこの世界で生きていきたい、むしろこの世界が終わるなら、現実世界なんて・・・」
イクスが遠い眼差しで、まざまざと想いを馳せるのを女神は優しく見守っていたいたが、その表情が少しだけ思い詰めたものに変わる。
「・・・やはり私の目は間違っていはいませんでしたね。貴方ならば失われし世界の行く末を担う事が出来る筈です」
女神の言葉にイクスは首を傾げる。
「? どういう事だ」
「この世界の停滞に伴い、私の神としての干渉力も極度に弱まってきました。いずれ殆どの力を失ってしまうでしょう。そうなる前に私の残された神力でこのヴァルハラルを『在るべきもの』へと転生させます」
女神フリージアは意を決したように力強く告げるとその眼差しを目の前の青年に向ける。
「願わくば、貴方にも異界の加護があらんことを・・・」
「何を言って————」
イクスは女神の金と青の双眸に見つめられながらその意識が徐々に朦朧としてきていたのに気付いた。
だが、ゆっくりと迫る暗闇が彼の疑問も女神の姿も薄れいく狭間の波に飲み込んで消し去ってしまったのであった。
- Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.6 )
- 日時: 2015/07/19 22:42
- 名前: Frill (ID: 6Z5x02.Q)
5
「————おい、このまま犯っちまっていいじゃねえのか」
声が聞こえる。
「なんでまた、こんな所で寝てやがるんだ?」
とても耳障りな下卑た男の声だ。
「いいじゃねえかよぉお! んぅな事はよぉおっ!! それより、さっさっと運んじまおうぜ! 流石に街道沿いだと人目に付きそうだからよっ!!」
それも複数。
どれもむさ苦しそうなオッサン共の声だ。
「へへ・・・そう慌てんな。こんな別嬪滅多にお目に掛かれねえぜ。皇国の貴族御用達の一流娼婦並みか、それ以上かもしれねえぜ」
どうやら会話の内容からして善からぬ事を企んでいるようだ。
それも女性に対して。
許さん。
俺は確かに女性とは距離を置いてはいるが、嫌いという訳では無い。
ただ、自己中で表面しか見ないリアル女子にうんざりしているだけだ。
もちろん世の中そんな女ばかりではない事も分かっている。
どちらにせよ下劣な真似はこの俺が絶対にさせはしない。
しかし俺はどうしてしまったのか。
女神と会話していたら突然意識を失ったみたいだが。
そういえば先程から身体が固まって動かないのは何故だ?
まるで石化しているようだ。
「でもよ、普通に考えたらおかしいよな? どうしてこんな所で倒れてるんだ? 女が。それも『メイド』が」
な・・・ん、だ・・・とっ!?
メイド、だとっ!?
こいつら、よりにもよって俺の愛するメイドさんに乱暴しようとしていやがるのか!?
駄目だ! 我慢ならん!!
こいつら絶対に許さないぞっ!!
畜生っ! 動けっ! 動けっ!
俺の身体っ!!!
このままだと見ず知らずのメイドさんが汚されてしまうじゃないかっっ!!!!
動けよぉおおおおおおおっっっ!!!!!
『オートシークエンス作動。インタラクティブモジュール確認。作動不良、各種不具合、その他のトラブル異常無し』
突然滑らかな、酷く蠱惑的かつ美麗なボイスが紡がれた。
俺の口から————。
『マスター認識は無し。よって自己保存防衛プログラムに従い行動を確保』
そしてまったく動かなかった己の四肢に忽然と意志が宿り出した。
と、同時に重く閉ざされていた瞼がゆっくりと開く。
『————起動します』
- Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.7 )
- 日時: 2016/02/24 16:29
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: /ReVjAdg)
6
昏い帳、まるで棺桶の蓋のような重い両の目蓋が開く。
突如開け放たれた隙間から眩しいばかりの陽光が射し込んでくる。
「————な、なんだ!? いきなり起き上がったぞ!!」
ザワザワと煩わしい耳障りな男どもの雑多な声が聞こえる。
「ちっ、騒がれるとめんどくせえな。とっとと犯っちまおうぜ」
徐々にクリアになる思考、今現状置かれている状況が解る。
数人の汚らしい男たちが俺の周りを囲んでいる。
こいつらか、婦女子に狼藉を働こうとする輩は。
徐々にクリアになる視界、鮮明に映る光景が広がる。
こいつらの身なり、完全に山賊のそれだ。
よく見れば剣や斧で武装している。
うん、間違いなく凶悪な悪党だ。
しかし、違和感を感じる。
妙な視線を。
この男たちの俺を見る眼が。
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて俺を見ている。
この視線は、そう・・・あれだ。
「この女、たまらねえイイ身体つきしてやがる・・・へへへ」
髭面に涎をたらす不細工な小男。
「ああ、改めて見ると、むしゃぶりつきたくなるぜ」
それに呼応して頷き返す太った豚と見間違うデブ男。
それぞれ下卑た笑みを並べている。
俺も男だから解る。
女性に対して向けるどうしようもない下衆な感情だ。
その欲望めいた期待、それを何故俺に向ける?
ちょっと待て。
あれ?
そもそも俺は、どうして————
『ターゲット捕捉、殲滅対象を確認。これより自動戦闘に移ります』
これ、俺か?
・・・俺の声ってこんなに高かったか?
まるで女の声のような・・・。
俺の思考は俺自身の口から発せられた言葉と同時に再び途絶えた。
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