コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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君に捧げた初恋 (処女作)
日時: 2018/06/10 23:07
名前: 華憐 (ID: zA4wGfC2)

▽プロローグ


「懐かしいな。俺、初日、ちょっと遅れてきたんだよな。」

「そうだっけ?覚えてないや」

「そうだよ。入った瞬間、みーんな座っててさ、オタクみたいな奴らばっかりで、もう終わったなって思ったよ」



結城がクスクスと笑うのにつられて、私も笑う。

そうだった。私もあの日、この教室で、同じようなことを思ったんだった。



「でも、あの日来た教室が、この教室じゃなかったら、俺たち出会ってすらなかったかもしれないんだよな」

結城が、私と繋いだ手にギュッと力を込める。



「出会えてよかった」

結城は、まっすぐ私の目を見て言う。
私の頬に、涙が伝った。


「ちゅーしていい?」

いたずらっぽく結城が笑う。いつものトーンなはずなのに、少し声が震えている気がする。


目を閉じる。2人の小さな隙間を、暖かい風が吹き抜けた。
走馬燈の様に、今までの出来事が頭の中で駆け抜ける。



4階の、1番隅の教室。
私たちは2年前、ここで出会ったんだった。


そして、私たちは今、同じ場所で
卒業の時を迎えていた。



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▽目次

*プロローグ >>00
*第1話 出会い >>01 >>02 >>03 >>04 >>05 >>08
*第2話 事件 >>09 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>16 >>17 >>18
*第3話 縮まる距離 >>19


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▽お客さま

*ことり 様

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Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.11 )
日時: 2015/08/21 12:19
名前: 華憐 (ID: mJV9X4jr)


「聞くってどうやってよ…」

誰もいない帰り道で、小さく呟いた。


iPhoneの画面には、吉野くんとのLINEのトーク画面が映し出されていた。

簡単な業務連絡程度の会話しか交わしていないのを、
ぼーっと見つめながら、指は止まったままだった。


てっきり、有紗は彼のことが好きなんだと思っていた。
いや、好きなのを、照れ隠しで、あんな風に言ったのだろうか。


"付き合ってもいい"


有紗の言葉を反芻する。


有紗は確かに言ったのだ。
吉野くんと美乃里を応援すると。



でも、もしも自分にチャンスが巡ってきたら…?


付き合ってもいい。


…のか。


iPhoneをポケットにしまう。
めんどくさいな、と思わず声が漏れた。



このことを茉結に話したら、面白がるだろうか。
冴えないゼミの割に盛り上がってんじゃーん!
と笑ってくれるだろうか。


しかし、今は茉結のトーク画面を開く気にすらなれなかった。
私はポケットに手を伸ばし、
イヤホンから流れる音楽のボリュームを少し上げた。





目を開くと、横に置いてある時計は、まもなく日付が変わるのを示していた。
帰ってきて、直行でベッドに飛び込んだまま、
いつのまにか眠ってしまったらしい。



うつ伏せになったまま、枕元のiPhoneに手を伸ばす。


[LINE 有紗 : 起きてる?]

[LINE 有紗 : もう寝た?]

[LINE 有紗 : 寝たよね]

[LINE 有紗 : 時間できたら電話欲しい]

[LINE 有紗 : 初音にだけ話がある]

[LINE 有紗 : 不在着信]


ぼやけた目でおびただしい数の通知を追った。


有紗に吉野くんのことを頼まれてから2週間。

結局、私は連絡をできぬまま、
ただ有紗の伝えるニュースだけを聞いて、現状を知っていた。

夜中にLINEが来ることもしょっちゅうで、この手のLINEも慣れてきていた。



頭がひどく痛む。変な時間に寝たからかだろう。
私は力なく、そのまま目を閉じた。






−あの時。

私が、もっとお人好しで、もっとマメで、
もっとおせっかい焼きだったら、
何か変わっていただろうか。


それとも、あの時、二度寝しなければ、
その前に、ベッドに飛び込まなければ、
私は、何かに気づけたのだろうか。


私は、知らなかった。
これから起こることも、
今、起こっていることも。


何も、知らなかった。

Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.12 )
日時: 2015/08/21 17:01
名前: 華憐 (ID: mJV9X4jr)


ピピピ…


目覚ましに手をかける。
と、同時に反対の手で、iPhoneを拾った。


有紗からの通知は昨日のまま。
私は、


[ごめん、寝ちゃってた。
電話、いつでもしてきていいよ!]

と返事すると、ゆっくりベッドから降りた。


半開きの目をこすりながらリビングに向かう途中で、
バイブが低く鳴った。有紗からの電話だ。

思いがけない早さに、階段を降りる足が速まる。


「もしもし。有…」

「初音…ごめん…。」


ヒックヒック…しゃくりあげる声。
有紗は… 泣いていた。


「今から言うこと…。誰にも言わないで欲しい…。」


父も母も仕事に出かけたのだろう。
誰もいないシンと静まり返ったリビングに、
電話口の有紗の声が響くような気がした。


「わたし…死のうとした。昨日、怖くて、寝れなくて、カッターで、手首…」


途切れ途切れの言葉が、うまく聞き取れないのは、
有紗が泣いているからなのだろうか。
それとも、私がうまく事を理解できていないからなのだろうか。


死のうとした。
カッター。
手首。


まるでドラマのワンシーンで語られるようなセリフは、
電話口から私の耳に、無理やり、入り込もうとしていた。


「いろいろ、病気持ちで。わたし。
過食症とか、パニック障害とか。
もうなんだか、寝れなくて、寝れなくてさ…。」


「で、今どこにいるの?大丈夫なの?」


やっとの思いで言いながら、ごくりと唾を飲み込んだ。


「実家。親に電話したら、車で下宿先まで飛ばしてくれて、
強制的に帰らされて、今。」

「よかった。無事なんだね。」


ほっと息をつく。
なかなか続く言葉が見つからない。
私は落ち着きなくリビングを行ったり来たりしていた。


「初音、ごめん。一緒に頑張ろうって、言った。
けど、しばらく学校休むし、ゼミ…」

「そんなのいいから!任せて!
有紗は自分の体のことだけ考えたらいいから、わかった?」


私はたまらず、有紗の言葉を遮り言った。


「…ありがとう」

大きく鼻をすする音に、か細い声。
いつもの有紗ではない、全く別の人が、電話の向こうにいるのが、
容易に想像できた。



電話を切る。
光が差し込みはじめたリビングの床に、私はへなへなと崩れ落ちた。



私は、何も知らなかった。
彼女の抱えているものも、彼女の日常も、
何も知らなかったのだ。


自分で自分を傷つけるほどの深い悩みは、
少しでも彼女を知ろうとすれば、
私にもわかり得たのかもしれない。


でも、私は、知ろうとすらしなかった。
私は完全に、彼女と距離を取ろうとしていた。


彼女を、ひとりにしたのは…
− 私だ。



そばに置いたiPhoneを放り投げた。
壁にあたったそれは、ゴンっという鈍い音と共に、さらに床に叩きつけられた。


ロックをかけ忘れていた目覚ましが、遠くで鳴り続けている。
私は床に座り込んだまま、動けなかった。

Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.13 )
日時: 2015/08/21 22:09
名前: 華憐 (ID: m.v883sb)


翌週、いつも通り、ゼミの授業がはじまった。
みんなそれなりに打ち解けたのか、これまでよりも、
少しざわざわと騒がしい気がする。


ふと横の空席に目をやる。
いつも隣で声を張り上げて出欠を取る有紗は、いない。


「有紗はお休みなので、私が出欠とりまーす」


私は、平静を装い、精一杯、明るく振る舞った。


「あいつが休みとか珍しいな。風邪でもひいたの??」

吉野くんが身を乗り出して聞く。

「体調不良で実家帰っちゃったんだって。すぐ戻ってくるよ」



私がそう返すのに、ふーん、と吉野くんは頷くと、
「じゃ、しばらくゼミ長って呼ばせてもらうわ」と、笑った。


救われた、と思った。
吉野くんの笑顔のおかげで、私も力を入れることなく笑うことが出来ていた。


と、同時に、脳裏で密かに考えていたことが、浮かび上がってきてもいた。


有紗に頼まれたことだ。


吉野くんが、有紗のことをどう思っているのか。
吉野くんは何を考えているのか。


有紗は今、1人で何を思っているのだろうか。
本当に、私以外…吉野くんには、何も話していないのだろうか。
今、彼女が必要としている人は、誰なんだろう。


私は、美乃里といつも通り、ふざけあっている吉野くんをそっと眺めながら、
今日こそは、何かしらの連絡をしようと、誓った。

Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.14 )
日時: 2015/08/22 11:48
名前: 華憐 (ID: mJV9X4jr)

ぼーっと、何も映していないiPhoneの画面を見つめる。


どう切り出せばいいのか、わからなかった。


あれから、有紗からは、なんの連絡もなかった。

もしかしたら、吉野くんとのことも、忘れているかもしれない。
そう、この後に及んで、自らの逃げ場を求めている自分を、私は、呪った。


[おつかれさま。急にごめんね。]

[ひとつ聞きたいことがあるんだけど、]

[吉野くんは有紗のこと、どう思ってるの?]

[明日の朝、返信があることを期待して寝ます、おやすみなさい。]


1語ずつ打ちながら、ずるいなぁと思った。

いつもそうなのだ。私は、真面目な話を
真面目に締めることができないのだ。


画面を閉じ、どさっとベッドに倒れ込む。


有紗がいない今、もはや私が吉野くんに聞いたことは、
意味をなさないのかもしれない。


そもそも、吉野くんから返事を受けたとして、
私は、どう反応すればいいのだろう。


私は、一瞬芽生えた使命感のようなものが、
まるで嘘っぱちだったのかもしれないと思った。


あの三角形のどこにも、交わりえない自分が、
今その1辺に手を伸ばそうとしていることに、
私は、少し喜んだのだろうか。
私の使命感は、その喜び故だったのか。


つくづく、自分の愚かさを痛感して、私は、なかなか寝れなかった。






− 翌朝。

iPhoneの画面が通知で埋まるのを、薄目で確認した私は、
身体を起こすと、ゆっくり画面を開いた。


吉野くんからの返事を、恐る恐る開く。


[おはよう]

[有紗のことどう思っているのかって、]

[それは恋愛的なやつ?]

[200パーセントない]

[なんでそんな女子中学生みたいな甘酸っぱいこと聞くん]

[俺も初音ちゃんが起きたら返信があることを期待して二度寝します]



ふーーーっと、深い息を吐く。


200パーセントない。


彼がいつものおどけた調子で言うのが目に浮かんだ。


[わかった、ありがとう。ほんと急にごめん。]

[前から聞こうと思ってたけど聞けなかった]

[ほんと、女子中学生みたいだよね。(笑)]


当たり障りのない返信をしながら、
私は、どこかほっとしている自分を、また、呪った。



ブー。通知が鳴る。
彼も起きているらしかった。



[有紗に頼まれたん?]

[お前も大変だな(笑)]

[俺も聞きたいことあるから、来週話そ]


聞きたいこと。
なんとなく、検討はついていた。



吉野くんは有紗に連絡したのだろうか。
いや、有紗の方が、先に吉野くんに助けを求めたかもしれない。
それどころか、有紗の方で、吉野くんに真意を聞いているかもしれない。



私は、昨日まで心の奥で湧いていた小さな喜びが、
一気に不安とめんどくささに変わっていることを感じていた。

Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.15 )
日時: 2015/08/24 12:34
名前: ことり (ID: /bKE8PZK)

やっぱり、何度読んでも面白いです!

昨日、今日とまだ更新されてないようですご、楽しみにしてます。←更新してない人がいうことじゃない。


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