コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 旅館『環』においでませ!
- 日時: 2018/03/29 10:29
- 名前: 夕陽&狐 (ID: cyfiBIbN)
こんにちは!
今回は複雑ファジーで作品を書いている狐ちゃんが考えた案を私が小説にするという合作みたいな感じです。
ただし、ほとんど私が書くと思うので狐ちゃんの高い文章力を期待してたらすみません……。
話の内容としてはざっくり言うと旅館の話です。
ぜひお楽しみ下さい!
狐ちゃん挨拶>>1
登場人物>>2
プロローグ>>3
座敷童子との出会い>>4
妖怪達との出会い>>5
百人一首>>6
百人一首2>>7
百人一首3>>8
旅館の内部事情>>9
Page:1 2
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.5 )
- 日時: 2015/11/08 16:15
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
妖怪達との出会い
「あ、えっとよろしくお願いします……?」
いきなりのことに戸惑い、語尾をあげて返事をする。
その反応がおかしかったようで座敷童子は声をあげて笑った。
「我の名は紅葉。呼び捨てで構わんぞ」
「じゃあ、紅葉。よろしくね」
彼女の名は紅葉というらしい。
それを覚えたところで紅葉は私のパーカーの袖を引っ張った。
「とりあえず、祭! 百人一首をしようではないか!」
「え?」
「百人一首を知らないのか?」
「知ってるけど……」
なんで急に? と首をひねる。
「その顔は何で急にカルタをやるのか、疑問に思ってるのじゃな。答えは一つ! 我は今、百人一首をやりたいのじゃ!」
目を輝かせて紅葉は言う。
でも坊主めくりならまだしも、百人一首だと2人じゃ出来ないような……。
おばあちゃんもお母さんも仕事に戻っちゃったし。
しかし、それも予測済みだったようで紅葉は私の手を引っ張りながら言った。
「もう、仲間も集まっているのじゃ! 早く行くぞ!」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
急いでスニーカーに足をつっこみ、紅葉の後を追った。
* * *
「皆! 祭を連れて来たぞ!」
紅葉に連れてこられたのは近くの森の中。
そこには、人が三人と——、
「か、顔が落ちてるっ」
私は大きい顔をついつい凝視してしまった。
私の身長の軽く倍はありそうな顔。
髭が生えているので、恐らく人間で言うと男に近いだろう。
「失礼ね、私はただの顔じゃないわよ。つるって言うの」
出て来た言葉に思わず絶句してしまう。
だって男の声で女の子の言葉を使ってる……。
これは俗に言うオカマ……?
「祭の考えていることは多分半分くらい正しいと思うのじゃ」
紅葉は苦笑いで言った。
「よ、よろしくお願いします。つるさん」
「よろしくねえ、祭ちゃん」
私よりはるかに高い位置にある目とあわせて言う。
「では次の人なのじゃ!」
紅葉がそういうと三人は顔を見合わせた後、一人が前に出て来た。
「こんにちは、祭ちゃん。天狐の稲荷です。占いが得意だから、何かあったら頼ってね」
20代くらいの男の人で、人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。
年があまり変わらないはずなのになぜか“お兄さん”という雰囲気を持つ人だった。
「ちなみに祭、稲荷は見た目は20代じゃが、実際年齢は三桁はゆうに超えているぞ。あと、元の姿は狐じゃから狐になることも出来るのじゃ!」
だから年上みたいに見えるのかな?
「よろしくお願いします、稲荷さん」
ペコリと頭を下げる。
「次は十六夜殿と雪、どちらが先に挨拶するのじゃ?」
紅葉は残った二人に視線を移す。
そうするといかにもか弱そうな女の子が私を恐れるように稲荷さんの後ろに隠れてしまったので、もう一人の30代ほどの男性がこちらに向き合う。
「十六夜だ」
一言吐き捨てるように言って視線をそらされる。
「十六夜殿は貧乏神でとってもかっこいいのじゃ! 我も十六夜殿みたくなりたいのじゃ! ちなみに一緒に旅館にいるのじゃよ」
紅葉は補足で説明をしてくれた。
なるほど、貧乏神か。
そして紅葉と一緒に私の旅館にいるってことは……、
「え? じゃあ今旅館が危機的な状況なのこいつのせい!?」
初対面にもかかわらず“こいつ”呼ばわりでも許してほしい。
だってそうだとしたら私がわざわざ百人一首する必要ないよね?
「ああ? 俺が来たから旅館つぶれるとか本気で思ってるのか? これだから最近の人間は」
つまらなそうな不機嫌な表情で十六夜が言った。
「俺ごときで潰れる旅館なら元々そこまで儲けてなかったんだよ」
その言葉にカッとなって言い返す。
「そんな言い方ないでしょ! おばあちゃんとお母さんはがんばって旅館を潰さないようにがんばってきたんだから!」
子供っぽいとは分かっていても、やっぱり身内の努力を否定されるのは気持ちいいものではない。
「まあまあ、落ち着いて。祭ちゃん」
「十六夜ちゃんはいつもこんな感じなのよ。困ったものよねえ」
不穏な空気を察したのか稲荷さんとつるべ落としさんが間に割ってはいる。
流石に私もいきなり旅館が危機的状況になったのを人のせいにしたのは悪かった。
「ごめんなさい、十六夜……さん」
「…………」
反応はないが、きっとこういう性格なのだろう。
とりあえず一段落したので最後の女の子に視線を向ける。
「あ、えっと、その……」
私の顔と地面の間を視線が行ったりきたりしている。
やがて、意を決したように私を見て、
「ゆ、雪です。あ、えっと、迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いいたしますっ」
それだけ言ってまた稲荷さんの後ろに隠れてしまった。
「雪ちゃんは雪女なんだ。雪の日ならたくさん話せるけど今日は降ってないから無理みたい」
「雪は雪の日に限って乱暴になるのじゃ……」
稲荷さんと紅葉が軽く補足説明をしてくれる。
まあ夏だし雪降ってたら異常気象だな……。
「雪ちゃん、よろしくね」
見た目が16歳位なのとか弱い雰囲気からか“ちゃん”付けで呼んでしまう。
「では、百人一首の始まりなのだ!」
紅葉は嬉しそうに叫んだ。
そんな紅葉はきっと十六夜の嫌そうな顔は見えてなかったのだろう。
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.6 )
- 日時: 2015/11/28 20:39
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
百人一首
「そういえば私の家に百人一首なんてあったっけ?」
私はふと疑問に思い紅葉に訊ねる。
「百人一首は既に梢に準備してもらっているからな!」
紅葉は得意そうにふふんと笑った。
そういえばお母さん、宅配便待っていたみたいだったけどそれって……。
「そろそろ届くはずなのじゃっ! 楽しみじゃな〜」
やっぱりそのようだ。
紅葉は嬉しそうににこにこしている。
「なんで俺がガキのままごとに付き合わなきゃいけねえんだよ」
それとは対称的に不機嫌そうな十六夜。
「十六夜殿はきっと百人一首強いから我と戦うのはつまらないかもしれないが……」
「分かったらとっととガキ共でやれ」
「でも我は十六夜殿とやりたいのじゃ!!」
めんどくさそうに断っていたが紅葉の目に“うんというまで帰さない”と書いてあるのが見えたのか渋々参加することになった。
「じゃあ、旅館に行こうか」
稲荷さんがそう促し私達は旅館にもどった。
……というか私の家でやるんだね、分かっていたけど。
* * *
「丁度良かったわ〜。さっき来たとこなの」
家に帰るとお母さんがいつも通りの笑顔で言った。
もう私の部屋のテーブルに置いてあるらしく、札も広げてあるらしい。
準備が早いなあ。
「そういえば、つるさんはどうするの?」
私はどう考えても入り口より高いつるさんを見上げる。
壊すくらいしか私の部屋に行く方法が思いつかない……。
「それは考えてなかったのだっ」
紅葉は私の指摘に今気付いたようだ。
「というかまずはじめに札取るのが無理じゃねえか? こいつ、手ないんだぞ?」
十六夜の言うことはもっともだ。
何で早く気付かなかったのか。
「流石十六夜殿! 我が気づかなかったことに気付くなんて……!」
紅葉の十六夜の信仰が厚いことは置いといて、本当にどうしよう?
やっぱ本人に意見聞くのが一番だよね。
「つるさん、どうしますか?」
「そうねえ。流石に私が参加するのは無理があるわあ」
つるさんがそう言った時、
「我は皆でやりたいのだ!」
紅葉が私の袖をつかんで訴える。
とは言われても……。
「じゃあ読み手をやってもらうのはどうかな? 場所も僕が住み着いている神社なら広いしつるさんも大丈夫だろう」
確かに稲荷さんの提案はいいかもしれない。
「そうね、それくらいなら私にも出来るわ」
つるさんの賛同を得たところで私と稲荷さんと雪ちゃんで散らばっていた百人一首を箱に戻した。
ブルーシートをひくために紅葉と十六夜とつるさんは先に神社に行った。
そして、紅葉を楽しませるための百人一首大会が始まった。
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.7 )
- 日時: 2016/01/01 22:32
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
更新遅くなってすみません……。
* * *
百人一首2
神社の境内に着くと、そこには既にブルーシートはひいてあり、後は札を並べるだけであった。
というか、この神社で祀られてるのって、稲荷さんのことだったんだ……。
先導して私の前を歩く稲荷さんを一瞥して、私は思わず息をのむ。
この月黒稲荷神社は、『環』のすぐ近くにあることもあり、幼いときからしょっちゅう遊びに来ていた場所だ。
高校に上がったころには、初詣の時期くらいしか行かなかったけれど、なんとなく思い入れのある場所である。
その神社の主と、実際に会って話しているだなんて、なんだか不思議な気分。
そんなことを考えながら、私達は紅葉たちのいる賽銭箱の前に行き、手分けをして札を並べると、円の形に座った。
そこで私はふと気付く。
——つるさん、どうやって札をめくるんだ……?
読むのはいいが、読んだ札をめくり次の札に進むのは手がないつるさんには不可能だろう。
「大丈夫だよ、僕が彼の助手を見つけたから」
私の考えを読んだように稲荷さんが言う。
稲荷さんが、懐から笛を出しそれを吹くと……、
「可愛い!」
私は思わず声をあげる。
なぜなら木の陰から小さな狐が現れたからだ。
子狐は一直線に稲荷さんに駆け寄る。
その子狐に稲荷さんが簡単にやってほしいことを伝えると子狐は頷いてつるさんのそばに行った。
子狐はつるさんに向かって一生懸命何かを伝えるように鳴いた。
私にはよくわからなかったがつるさんには分かったらしい。
「そうなの〜。じゃあよろしくね〜」
とにこにこしながら言った。
「祭! 早く席についてほしいのだ! 我は早く始めたくてウズウズしているのじゃ!」
紅葉に急かされて私は自分の席についた。
「それじゃ、早速始めるわよ〜」
不気味にウインクをしてそう言ったつるさんは、すぐ脇で子狐が銜え上げた読み札を覗き込むと、ゆっくりと口を開いた。
「ほ——」
つるさんが最初の言葉を読んだ瞬間、すぱんっ!と乾いた音が響いて、雪ちゃんが札を取った。
取った札は「ただありあけの つきそのこれる」
多分合っているだろう。
私が高校の時、百人一首大会があった。
その時色々覚えたのだ。
流石に全部は覚えてないが1字決まりと6字決まりは覚えている。
そしてほではじまるのは「ほととぎす 鳴きつるかたを ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる」のみ。
「ほととぎす 鳴きつるかたを ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる」
つるさんは私が思ったのと全く同じ和歌を読む。
「雪ちゃん強いね」
「小娘の癖になかなかやるな」
私は思わず感心してしまう。
十六夜もこの速さは意外だったようで驚いていた。
雪ちゃんは、
「そ、そんなことないです……」
と恥ずかしそうに下を向いてしまった。
白い肌なので一層紅に染まった頬が際立つ。
「まあ雪はあまり外で遊ぶのが好きではないからね。よく百人一首とかあやとりとかしてたんだよ。この中じゃあ、一番手慣れているかもしれないね」
稲荷さんは私にそう教えてくれた。
確かに雪ちゃんは、外より中で遊ぶのが好きそうだ。
すると、雪ちゃんの横で今まで大人しくしていた紅葉が、突然ばっと立ち上がった。
そして、楽しげに十六夜の元に駆け寄ると、私のほうを見て言う。
「あのな、あのな。確かに雪は強いがのう、一番は十六夜殿じゃぞ。確か、60年くらい前だったか……雪はまだおらんかったが、撫子と百人一首をしたとき、十六夜殿は目にもとまらぬ速さで、ほとんどの札を取ってしもうたのじゃ。我ははっきり、この目で見て覚えておる……! なあ、十六夜殿?」
「ああ?」
黒目がちの瞳をきらめかせて言う紅葉を、気だるげに横たわっていた十六夜が、ぎろりと睨む。
しかし、そんな鋭い視線はなんのその。
紅葉は、十六夜のボロ雑巾のような着物の裾を掴むと、ぐいぐいと引っ張った。
「のうのう、十六夜殿。また見たいのじゃ、すぱーん!ってとるやつ。やってくれんかのう」
「てめえはいっつもうるせえんだよ。めんどくせえ、こんな茶番、俺が付き合うわけねえだろ」
「おお! まさに、能ある鷹は爪を隠すと。そういうことか?」
「……お前、頭わいてんのか?」
全く会話のかみ合わない二人。
会った時から思っていたけど、紅葉ってやたらと十六夜のことを買い被っている節があるみたい。
十六夜は、最初からどう見てもやる気0だったし、何度も暴言を吐いているのに、紅葉は面白いくらいそれを良い方向に受け取っている。
一体、紅葉と十六夜ってどんな関係なんだろう。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を、呆れたように眺めていると、不意に、十六夜が紅葉を思いっきり腕で振り払った。
小さな紅葉は、簡単に吹っ飛んで、ぼすんと地面に尻もちをつく。
「俺は寝る。やりたいならお前一人でやってろ!」
年甲斐もなく怒鳴って、十六夜はふん、と鼻を鳴らす。
その様子に、流石に心配になって、私は紅葉のほうに視線をやった。
だが、どうやらその心配は無用だったようで、紅葉はうっとりとした表情で立ちあがった。
「な、なんと……! 十六夜殿、出番を我に譲ってくれるのか!?」
「…………」
紅葉の言葉に、思わず絶句する。
彼女の思考回路は、一体どうなっているのだろうか。
十六夜はもう諦めたのか、一つ舌打ちをして、それ以上は何も言わなかった。
しかし、その時ふと、私はおばあちゃんの言葉を思い出した。
——あなたには紅葉のご機嫌取りをしてほしいのです
そうだ、なんだか色々起こりすぎて忘れていたけど、私は紅葉の機嫌を良くするために、今ここにいるのだ。
旅館『環』を経営難から救うため。
これからも学費を実家に払ってもらうため……!
私は、意を決して十六夜を見ると、なるべく可愛い声を努めて出した。
「い、十六夜さぁん。私も貴方のかっこいいところ、見たいなぁ……なんて」
詳しいことは分からないが、十六夜が百人一首に参加したら、紅葉は喜ぶこと間違いなしだ。
そうしたら旅館も黒字、万事解決である。
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.8 )
- 日時: 2016/01/17 12:35
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
百人一首3
飛躍しているものの、完璧な計画を瞬時に頭の中で練り上げる。
だが、その計画を一瞬で破壊するような冷たい声で、十六夜が言った。
「は? 人間は引っ込んでろ、ブス」
「!?」
私は、身を乗り出して言い返そうとして、でも良い反論が思いつかず、口をぱくぱくと動かしたまま硬直した。
ブスって言った……この人!? じゃなくて貧乏神!
とんでもないクソ神である。
人間とはいえ初対面の女性にブスだなんて。
大体、十六夜だって頭ぼさぼさだしガリガリだし、十分不細工である。
私は、こみ上げてくる怒りを胸に留めながら、深呼吸して身を戻した。
こういうときは、感情的になった方が負けだ。
冷静に、冷静に。
そう自分に言い聞かせて、私は再び十六夜を見やると、すっと目を細めた。
「……そんなこと言って、本当は百人一首、全然できないんじゃないの?」
「……なんだと?」
ぎろりと睨んできた十六夜の圧に押されつつ、私は心の中でガッツポーズをする。
こいつ、挑発には乗るタイプとみた。
「……だってそうでしょ? お願いしてるのにやってくれないんなんて。やらないんじゃなくて、やれないとしか思えないもの。60年前はどうだったのか知らないけど、もう百人一首なんて忘れちゃったでしょ!」
びしっと十六夜を指さして、明言する。
その光景に、紅葉と雪はあわあわと慌てた様子だったが、つるさんと稲荷さんは何やら可笑しそうにぷっと吹きだした。
なにか変なこと言っただろうか、私。
十六夜は、怒り心頭といった顔でこめかみに筋を浮かべると、勢いよく立ち上がった。
「なんだと!? 小娘の分際で! ごちゃごちゃほざいてると、てめえの財布の中身すっからかんにするぞ!」
大学生にとっては痛い一言だったが、それでも私は、負けじと十六夜を睨み返す。
「は、はあ!? なによそれ、脅しのつもり!? 言っておきますけど、私のお財布、今220円しか入ってないんだからね。そんなこと言われても、ちょっとしか痛くありませんー!」
「はっ、だからなんだ、小娘がいきがりやがって!」
「そっちこそ、貧乏神とはいえ、神様ならもっと神様らしくしたらどうなの!?」
売り言葉に買い言葉。
百人一首のことなどすっかり忘れて、私と十六夜は喚きながら言い争った。
他の面々は、しばらく面白可笑しそうにその様子をながめていたが、やがて、私と十六夜の息が切れ始めると、ぱんぱん、と稲荷さんが手を叩いて、静止をかけた。
「はいはい、もう喧嘩は終わり。折角百人一首をしてるんだから、早く続きをしよう」
「そうそう、私も賛成。次いってもいいかしら〜?」
次いで、つるさんも会話がひと段落したのを見計らって声をかけてくれる。
私は、その2人の声ではっと我に返ると、一度十六夜を見てから、おとなしく席に戻った。
なんというか、十六夜を挑発しようとしただけなのに、まさか自分の方が感情的になってしまうなんて。
地味に恥ずかしい。
いたたまれなくて、縮こまったまま黙っていると、紅葉がくすくすと笑った。
「なんじゃなんじゃ、祭。十六夜殿と仲良しじゃのう」
「ど、どこをどう勘違いしたらそうなるのよ……」
すでに疲れ果てて、恨めし気に紅葉を見ると、紅葉は更に微笑んだ。
「ふふ、まあよい。さあ、早く続きをやるのじゃ!」
その紅葉の一言で百人一首が再開する。
そのとき私は、十六夜がぎらぎらと目を光らせ、腕まくりをしたことに気づかなかった。
* * *
「楽しかったのじゃ!」
夕焼け空の下、紅葉は嬉しそうに言った。
結局あのあと、剥きになった十六夜が大健闘し、沢山の札があっという間に彼の手に渡った。
もちろん、雪ちゃんの強さも本物だったので、十六夜が一方的に札を取れていたわけではなかったのだが、それでも枚数は、年配者の意地か、十六夜が1枚差で勝っていた。
「ふん、みたか、小娘」
「あー、はいはい、すみませんでした」
得意げにそう言ってきた十六夜に、私は適当に返事をする。
けれど、実を言うと、雪ちゃんと十六夜の強さを侮っていた。
私も、本気ではなかったとはいえ、流石に2枚しか取れなかったのは悔しい。
ちなみに、紅葉や稲荷さんも2,3枚しか取れていない。
「十六夜さん、本当に強いですね……」
同じく、ちょっと悔しそうに雪ちゃんが言う。
彼女の場合、百人一首やカルタは得意なようだし、負けて悔しいのだろう。
十六夜は、いつまでも自慢げな表情だ。
「あー! 片づけをして旅館に戻りたいのじゃ! やっぱり夏は暑いのう……」
満足げだが、ちょっとぐったりしている紅葉。
だけど、こっちの暑さはまだましだと思う。
都会の方はもっと暑いよ……。
しかし、水分を取らず1時間近く外にいたので喉が渇いた。
私達は急いで片づけをしてそれぞれの場所に戻った。
* * *
「あら、祭。おかえりなさい〜」
笑顔で迎えてくれたのはお母さん。
いつも笑顔だが今日は一番機嫌がいいときの笑顔だ。
何かいいことでもあったのだろうか?
「祭、あなたも手伝って頂戴。お客様から予約が入りましたが、食材が足りないのです」
立ち話をしている時におばあちゃんが通りかかった。
お母さんが機嫌がいいのはこれが原因か。
たまにホテルを予約し忘れて困った方が環で泊まることがある。
今日もその類だろう。
「はい、分かりました」
近くのスーパーは自転車で20分ほどだ。
私が自転車の鍵を取るため自分の部屋に上がろうとした時、ばたばたっと軽い足音が聞こえて、私は顔を上げた。
その一瞬、廊下の曲がり角に、翻った赤が見える。
紅葉の着物の裾だ。
旅館には私やおばあちゃん以外にも人がいるのに、あんな騒がしい帰還の仕方で大丈夫なんだろうか。
そう思って眉をひそめていると、不意に、誰かが私の近くに寄ってきた。
「紅葉の機嫌取りありがとうございます」
耳元でささやかれたおばあちゃんの言葉。
「珍しく紅葉の着物が鮮明な赤です。紅葉の着物は機嫌によって鮮明さが変わるのですよ」
確かに最初に会ったときは赤と言っても丹色だった。
でも、今玄関でお母さんに今日あったことを話す紅葉の着物の色はスカーレットだ。
気付かなかったということは徐々に変化していたのだろう。
私は、紅葉が嬉しそうなことにほっとしつつ自分の部屋に向かった。
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.9 )
- 日時: 2018/03/29 10:28
- 名前: 夕陽 (ID: cyfiBIbN)
旅館の内部事情
「はあ〜。疲れたよ〜」
自室に戻ると、私は布団に潜って呟いた。
紅葉が幼いせいか、一緒に遊んだというよりは子育てをしている気分になる。
忙しない紫柄での生活に嫌気がさして、実家の月黒に帰ってきたのは良いけれど、結局こちらでも、大変な生活が続きそうだ。
「……っていうか、妖怪って、なにこの展開……」
布団に突っ伏したまま、私はぼそりと独りごちた。
よくよく考えれば、座敷童子や貧乏神に出会うなんて、とんでもないファンタジーだ。
そして、なんだかんだこの状況にあっさりと順応している自分が、何気に恐ろしい。
「…………」
けれど、不思議なことに、紅葉たちに会ったとき、怖いとか、妖怪なんてありえないとか、そういう気持ちにはならなかったのだ。
うるさい、やかましい、とは思ったが、どうしてか嫌な感じはしなかった。
むしろあの感覚は、懐かしい——そう、そんな感じだった。
じわじわと全身に広がる眠気に任せて、私はゆっくりと目を閉じた。
我が家特有の、お日様とい草の香りが混じったような匂いがする。
この匂いをかぐと、昔、布団を干すお母さんや、縁側に座るおばあちゃんと話しながら、庭の草木や生物を描いていた幼いころを思い出す。
こういう日はいつも、誰かが私のスケッチブックをしきりに覗き込んで、こう言うのだ。
——祭は本当に絵が上手いのう! 我のことも描いてくれ!
……あれ、誰だっけ。子供の時によく遊んだ、不思議な女の子。
下りていく瞼の裏に移る紅色を見ながら、私は静かに眠りに落ちた。
* * *
「祭、起きなさい」
「……ん」
あれ? 何でこんなところにおばあちゃんが?
そういえば昨日実家に帰ったんだっけ……。
そこまで考えて、私は即座に起きる。
時計を見ると、時刻は朝の6時。
どうやら私は、昨日部屋に戻った後、そのまま寝込んでしまったらしい。
旅館の手伝いをする時はもっと早く起きるから、もしかしたらおばあちゃんも気を使って寝かせてくれたのだろうか。
「今日は少し旅館の手伝いをしてくれませんか? 紅葉達は午後から来るそうなので」
「……分かりました」
一瞬、昨日のことも妖怪のことも、全部夢なんじゃないかって思ったけど、全部現実だったらしい。
まあ、いい。ごちゃごちゃと考えるのも疲れたし、久しぶりに旅館の手伝いをするのも悪くない。
私は、寝間着から従業員用の割烹着に着替えると、おばあちゃんと共に自室を出た。
元々絵を描くくらいしか趣味がなかったのだ。
だから、昔から暇な時間は絵を描くか、宿題をするか、お手伝いをしていた。
お手伝いすれば、お小遣いもらえたし。
「今日はどこですか?」
私が主にやっていた仕事は掃除系が多い。
お客様の部屋や庭など。たまに従業員の休憩スペース。
「お客様の部屋をお願いします」
「お客様のお部屋ですね」
確認してからふと気付く。
「あの、今いるお客様の部屋と今日来るお客様の部屋教えてくれませんか?」
今いるお客様の場合はお客様がいない時間に掃除を済ませ、今日来るお客様の場合は来る前に済ませる。
私が仕事を手伝うとき、おばあちゃんは掃除を頼むときいつもお客様が在室中の部屋を言っていたのに。
私が久しぶりに来たからか、言い忘れだろうか?
「ああ、そうでしたね。今いるお客様の部屋は——」
メモをとり、私は今日来る予定のお客様の部屋に向かった。
* * *
「始めまして。あなたが祭さんですね? 私は中西と申します」
「お久しぶり。祭ちゃん」
「1人で全ての部屋は出来ないし、2人に手伝ってもらったほうがいいでしょ〜?」と女将に言われたので、素直に頷く。
まだ20代位のほっそりした中西と名乗った女性と、私が小さい頃からこの旅館に勤めている高木さん。
高木さんは、昔からの知った仲だし、私もよく一緒に掃除をしていたことがあったので少し安心した。
一方の中西さんは、多分私が大学進学後に雇われたのであろう。
顔を見たことがない人だった。
「今日はよろしくお願いします」
私は頭を下げる。
こうして私達は、早速仕事にとりかかったのだった。
無事全ての部屋の清掃が終わると、私はもうすることがないので、従業員部屋で大女将に仕事の終了と異常なしを告げて、自室に戻った。
高木と中西は、しばらくそんな祭の後姿を見ていたが、ふと、梢が口を開くと、すぐにそちらに視線をやった。
「今月も結構厳しいですね……」
閑散とした従業員部屋に、不安の混じった声が響く。
梢が見つめているのは、部屋の中央にある机に広げられた帳簿。
ぎりぎり従業員に給料を払えるという売り上げは、何度見ても変わらなかった。
「……そうですね。しかし嘆いているだけでは変わりません。それに、少しずつ回復の兆しが見えてくるはずです」
「祭が世話をしている座敷童子のことですか?」
「ええ」
撫子が軽く頷いた。
すると、中西が細い眉をあげて、素早く反応した。
「え? 座敷童子がどうのって……冗談じゃなかったんですか?」
「ああ、そうか。中西さん、まだ『環』に勤めてから日が浅いものね」
高木は、くすりと笑うと、唖然とする中西の顔を覗き込んだ。
「今でこそ古い部分が目立ってきちゃってるけれど、そもそもこの旅館がここまで大きくなったのは、座敷童子のおかげだって言われてるのよ? 『環』を開業した初代大女将、清美様が縁側で遊ぶ座敷童子を見てから、急に繁盛するようになったんだって」
「ええ? でも、そんな嘘みたいな話……じゃあ高木さんも、座敷童子、見たことあるんですか?」
中西の問いに、高木は得意げだった表情を崩して、小さく首を左右に振った。
「い、いや、私はないわ……。だけど、この旅館は、座敷童子のご機嫌次第で経営が栄枯するんだって、本当にずっと言い伝えられてるのよ。ね、大女将?」
同意を求められて、撫子は苦笑した。
「……さあ、どうなのでしょうね。実際のところ、本当に紅葉が……座敷童が、この旅館の経営に関わっているのかどうか、それは分かりません」
思わぬ返答に、高木と中西が顔を見合わせる。
「でも大女将、それじゃあ、経営回復のために祭ちゃんに座敷童子のご機嫌取りを頼んだって……」
撫子は、優しげな表情で目を細めた。
「いいんですよ、そのことは。経営がどうというより、今回のことは、祭にとっても良い気分転換になるんじゃないかと思って、私が提案しただけなので」
高木と中西は、なんのことか分からない、といった様子で目を瞬かせた。
それに対し、撫子は再び苦笑して、言った。
「……ただ一つ、確かなのは、座敷童子は本当にいる、ってことです。ずっとずっと昔から……それこそ、私が生まれる前から、ここにね。最近十数年、姿を見せませんでしたが」
撫子は昔を思い出したのだろうか、少し遠くを見る眼差しになった。
「姿を見せたということはもしかしたらまた、繁盛するかもしれませんね〜」
会議の最初とは反対の柔和な表情を浮かべる梢。
楽観的な性格は彼女の長所であり短所でもある。
「まあ、あとは祭次第です。私達は祭を見守っていましょう」
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