コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

アオゾラペダル
日時: 2015/11/29 13:09
名前: 逢逶 (ID: KG6j5ysh)

どうも、


逢逶(あい)です。

未完成小説多数有。
私が書き進めてきたGimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~の終わりが見えてきましたので新しい作品に着手します。
ちなみに今作はGimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~を読んでいただければ内容がわかりやすいかと…。

読んでくだされば嬉しいです。


*First Season EPISODE*
~ENTER the MAZE~
episode0 >>3
episode1 >>4
episode2 >>5
episode3 >>6
episode4 >>7
episode5 >>8
episode6 >>9
episode7 >>10
episode8 >>11
episode9 >>12

Page:1 2 3



Re: アオゾラペダル ( No.8 )
日時: 2015/11/16 21:27
名前: 逢逶 (ID: 9AGFDH0G)

episode5
title スランプ

誰もいない教室。
時計の秒針の音だけが響く。


全身が震える。

頭の中に駆け巡るのは、鈍い感覚とスランプという四字。





しばらくして、クラスメイトがやってきた。


「かすみー、はよ」


「おはよ」


精一杯の笑顔で挨拶した。




「ねぇ、聞いた?今日転入生来るらしいよ」


そんな声が聞こえてきた。



そういえばレイはまだ美術室にいるのだろうか。
私は美術室に忘れたリュックを取りに行くついでにレイの様子を見てこようと再び階段を登った。





しかし、レイはすでにいなかった。
代わりに鍵と置き手紙が机の上に置いてあった。


〝急に飛び出して行くなんておかしなやつだな〟



そう書かれていた。
だけど腹立たしい気持ちを持つことすらできなかった。


今は異常事態に頭がパンクしそうだ。




…どうしてあんな状態になったのだろうか。




教室に戻って、クラスメイトが次々と登校してきた。
みんな私は普通だと思っている。




「夏純、はよ」


隣の席の裕樹が微笑む。
私は今までで一番の下手くそな笑顔を裕樹に向けた。



がらっ、


前の扉が開いて担任がやってきた。



後ろにはレイがいた。



ざわめく教室。
女子のときめきの声が聞こえてくる。



「えー、今日から仲間が増えます。…自己紹介を」


「…ヨシザワ レイタロウ。よろしく」


先生は黒板のチョークで、

〝吉沢 零太郎〟

と大きく書いた。


レイが、零太郎になった瞬間である。
だけど零太郎ってなんだかしっくり来なくて、やっぱりレイに戻った。



「席は…」


先生が呟くと、女子の期待が溢れ出した。
手を合わせる女子や、隣の男子をどかそうとする女子。


「…あの人の隣がいいです」


レイが指差したのは私だった。




「でも、夏純の隣は俺です」

裕樹がきっぱりと言ったのに、レイは知らんぷりで先生に視線を向けている。


「…まぁ、三人でも良いんじゃないか?」



先生が困り気味に机を移動させて、私の隣は裕樹とレイになった。






「一時間目始めるぞ」


号令で始まった一時間目の数学。
得意科目。



全て忘れて、シャープペンシルを手に取った。


瞬間、





頭がぐらっと揺れて、ペンを落としてしまった。






同時に吐き気もして、


私はトイレに駆け込んだ。




「おい!どこ行くんだー?!」




先生の言葉にも答えられなかった。





私はスランプに陥ってしまった。

Re: アオゾラペダル ( No.9 )
日時: 2015/11/22 15:59
名前: 逢逶 (ID: KG6j5ysh)

episode6
title 鮮やか



「大丈夫か?」


「はい、少し吐き気がして」


「今日はもう帰った方がいい。家で安静にしなさい」


「はい」





私は早退することになった。
ペンすら持てない体になってしまった。




前はこの世界がどう見えていたっけ。
なんでこんなに汚く見えるのだろう。





先生に家まで送ってもらった。




「ありがとうございました」


「いいえ、安静にな」


「はい」







家に入ると、お母さんとお父さんが心配そうな顔で駆け寄ってきた。



「吐き気がするんでしょ?ちょっと横になりなさい」


私はソファーに寝転がった。
もう吐き気はしない。



あの一瞬だけ。



ペンを持った、一瞬だけ。




私はきちんと話すべきだと思い、体を起こした。





「お父さん、お母さん…。私、描けなくなっちゃった…」






私は全てを話した。
お父さんもお母さんもさみしそうな顔を必死に隠そうと、気丈に振舞おうとしてるけど上手く行かないみたい。

顔、引きつってるよ。





「先生には一応言っておこうな」

お父さんの言葉に私は必死に顔を横に振った。


「ダメだよ。私、絵を描かないといけないの。だから、絶対にダメ…」



お母さんは何かを言いかけたけど飲み込んで、私の頭を優しく撫でた。


「ペンも持てないなら大変だな…、隣の子にノートコピーさせてもらえばいいな。右手に包帯巻いて…、重度の突き指ってことにでもしておくか?」


私は頷いた。




眩く光る空。
夕暮れ時に名残惜しさすら感動に変えてしまう、宇宙。
きっとそうなんだろう。

ただ私の目に映る全てのものが、モノクロなだけ。

せめて世界が色鮮やかだったことは確かだと思いたい。

Re: アオゾラペダル ( No.10 )
日時: 2015/11/23 17:51
名前: 逢逶 (ID: Ft4.l7ID)

episode7
title 生意気

翌日、学校に行くなり手の負傷を心配する声が上がった。
嘘をつく罪悪感を感じながらも、大丈夫だよ、と明るく返事をする。

席に着くとレイが私の手をじっと見つめた。

「なに?」

私が尋ねても変わらず私の手を見つめていた。


「なに?」

私が再度尋ねるとレイは私の顔をじっと見て、ノートになにやら文字を書き始めた。


〝手を怪我したってのは嘘だろ〟




私は心臓がどくんと不吉な音を立てたのを聞いた。


「嘘じゃない…」



〝絵はもう描かないのかよ〟





「今は、怪我してるから描けないだけ。治ったら描く」

当たり前でしょ?と首を傾げる。



レイはしばらく私を見つめた後、ため息まじりに



「嘘が下手なんだな」


と呟いた。





言い返そうと思ったけどチャイムが鳴ってしまい、タイミングを失った。



私は絵を描くことは愚か、ペンを持つことすらできない。
誰かに奪われてしまったわけではない。
だから再び手に入れる方法が分からない。



三限目の体育。
唯一ペンを持たなくてもいい教科。
だけど参加できない。
私は重度の突き指なのだから。


「はぁ…」


一人体育座りで見学。
みんなはバスケ。
楽しそう…。


「ため息ばっかついてんなよ」

ん?

見上げると隣には私を見下ろすようにレイが立っていた。


「別に」

そっけなく返す。
だって、こいつ…、気付いちゃいそうじゃん。


「お前さ、友達作れよな」

私の隣に座って生意気な口をきく。


「余計なお世話ですー。てか、もう次試合じゃん?」


「あ、まじか」


真っ白な肌が輝く。
どこからどう見ても運動よりは勉強って感じ。

なのにレイの活躍で圧勝。




私は少し、レイが眩しい。



それが怖い。

Re: アオゾラペダル ( No.11 )
日時: 2015/11/25 20:56
名前: 逢逶 (ID: xV3zxjLd)

episode8
title 助け

不思議な世界さ
窓からこぼれる光で 真っ青に染まる
目に映る 満たされてゆく
僕の世界は…ah…また生まれてゆく

きっとこれからは 日常がパレット
月が微笑み 夜に虹がかける
また葉が揺れ 海が踊る
僕の世界は 色で溢れている
目を閉じたら 全てが愛おしく包まれる
I become the dazzling light to light up the future.
(私は未来を照らす眩い光になる)




KISSTILLの代表曲になった〝Freedom〟はお父さんが私の世界をモチーフに作詞作曲を手がけた。
私の今の世界はこの歌みたいに鮮やかじゃない。



歌詞カードをぼんやり見つめていると、隣の席の裕樹に頭をわしゃわしゃされた。



「んもー、ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃん。直してよね」


ほら、と櫛を渡すと裕樹は渋々受け取って髪をとかしだした。


「あ!またイチャついてる!」


クラスの男子に茶化されても、それはいつものこと。
気にせず歌詞を読みこむ。

「なに見てるの?」


「んー?KISSTILLの。読んでみ」


「父ちゃんのか」

裕樹に歌詞カードを渡す。
私のお父さんが伊藤大和ってことは周知の事実。


「どう?」


「うん。良いよね、これ。言葉運びが繊細で。お前の父ちゃん何でもできるのな」


「まぁね」


「俺もそういう父ちゃん欲しかったかも」


「まったく、市長の息子がなに言ってるの」


「いや、だからさ。金じゃん、結局は。好きなことやってる人ってかっこいいよ」



裕樹は裕樹のお父さんを尊敬していない。
だからか、高価な物を買ったりましてや自慢したりなんてしない。

だから好き。
だから恋愛対象で見たことはない。
裕樹は尊敬できる人。

「ちょっと来い」


裕樹に手を引かれ教室を出た。
急に真面目な表情になるから少しだけ驚いた。


生徒相談室に連れて来られた。


「ちょっとどうしたの?」


裕樹が扉を閉めて、落ち着かなさそうに目を逸らす。


「あのさ…」

「うん」





「絵描けなくなっただろ」







私は目を見開いたまま動けなかった。



すぐに否定しなかったのは…





…誰かに助けて欲しかったから。

Re: アオゾラペダル ( No.12 )
日時: 2015/11/29 13:05
名前: 逢逶 (ID: KG6j5ysh)

episode9
title 甘え


「ただのケガだよ」


「はぁ…。わかるよ、そんなの嘘だって。ペンを持った時、吐きそうになってただろ。そういうのわかるんだって」




ばれてた。
今まで言わなかったのは裕樹の優しさなのだろうか。



「違うの…違うの…」



ひんやり、頬に冷たい感覚。





「なんで泣くんだよ。違うならなんで…」


「泣いてない。違うの」



否定すればするほど涙は溢れた。


「俺じゃ、救えないかな。俺が夏純のこと支えるよ。…だから泣かないで」


裕樹は私を抱きしめた。
私は涙をボロボロ流しているのに気にせず裕樹の胸元に顔をうずめた。


「…俺、お前のこと好きだ」


私は全身が熱で包まれるような感じがした。
裕樹は恋愛対象ではない。


でも、誰かがいないと崩れてしまいそうで。
私はゆっくり頷いた。


ずるい私は裕樹に頼ることにした。


本当はこんなことだめなのに。



「私…、スランプに陥っちゃって。…ペンすら持てない。…描かなきゃいけないのに、描けないの…。それで…今まで見ていた綺麗な景色が…、全然色が見えなくて…。こんな自分が嫌い…」


「…いつかまた描けるようになるから、頑張ろう」




私はなんだかスッキリできずにいた。


そもそも描きたいのかもわからない。






「保健室から…氷もらってくるね」


「うん」


裕樹は私の泣き腫らした目を冷やすため、保健室に行った。
やっぱり優しい。



私は誰かに甘えなきゃいけないんだ、そう思い込むことにした。





がらっ



裕樹だと思ってぱっと見た。




「レイ…」







レイは震える声で言った。








「お前がスランプに陥ったの…、俺のせいかもしれない」


Page:1 2 3