コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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   好きな人 と 私の唇 。
日時: 2016/03/04 18:36
名前: 蒼奈 (ID: Aw5kQYTw)



  
   「 やっぱお前が一番だわ 」

   あなたはそう言うけれど、一番なのは私じゃなくて、

   私の 唇だけ でしょう?


  
   神田 晴菜

   杉本 遼 

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Re:    好きな人 と 私の唇 。 ( No.9 )
日時: 2016/03/16 00:01
名前: 蒼奈 (ID: Aw5kQYTw)



   「 お、よかったー晴菜まだ居た 」
   顔を上げると、涙で滲んでよく見えない。

   でも、その声は
   「 ……遼。なんで? 」
   まぎれもなく遼だった。

   「 なんでって、どうせ晴菜1人じゃ英語できねえだろうなと思って 」
   遼は私の前に座って私の方に体を向ける。

   「 泣いてんの? そんな英語難しいか? 」
   笑いながら言う遼。
   涙で滲んでいた遼は、もうすっかり見えるようになっていた。
   そんな遼を見ていた私は、気づいたらキスをしていた。

   遼に自分からキスしたのは初めてだった。
   でも、遼は拒んだりせずにそのまま私を受け入れた。
   その反応にビックリして、自分から唇を離す。拒まれると思った。

   「 やっぱお前とのキスが一番だわ 」
   いつもどおりそう言う遼。

   違う。違うのに。
   そんなこと言ってほしいわけじゃないのに。

   どうせなら拒んで欲しかった。
   やっぱり唇だけの関係で、そんなふうに見れないんでしょ。

   「 ほら、ここの文法確認しろ 」
   頭の中でいろんな感情がぐるぐるしてる私の前で、
   遼は余裕そうに英語のプリントを見ている。

   私とキスしたいなら、私と付き合ってよ。

   そんな醜い感情が口から出てきそうだった。
   でも、そんなこと言ったら今の遼との関係は崩れる。

Re:    好きな人 と 私の唇 。 ( No.10 )
日時: 2016/03/16 00:27
名前: 蒼奈 (ID: Aw5kQYTw)


   「 あ、遼じゃん。なんで居んの? 」
   「 居ちゃ悪いかよ 」
   笑いながら入ってきた裕ちゃんに、笑いながら答える遼。

   「 用事終わったし、晴菜に勉強教えてやろうかと思って戻ってきたんだけど 」
   遼居んのかよって付け加えて喋る裕ちゃん。

   「 俺も用事終わったの。晴菜に教えるって言ってたし 」
   な?って私に向かって言う遼。
   「 ……… 」
   「 晴菜? 」
   なにも答えない私に顔を覗きこむ遼。

   「 ……どうせ 」
   「 え? 」
   私の口も喉も、脳からの命令を聞かない。

   「 キスしたいから戻ってきたんでしょ 」
   「 は? 」
   遼はビックリしたように私を見る。
   その横で裕ちゃんもビックリしていた。

   「 なに? 七海さんとのキス気持ち良くなかったから
     わざわざ学校戻ってきて私にキスしに来たの? 」
   こんなこと言いたくないのに、次々に口から溢れてくる。

   遼もあからさまに機嫌の悪そうな顔をする。
   「 は? 何言ってんの?
     わざわざ英語教えに戻ってきてやったのに 」
   遼も止まらない。
   普段は見せない顔をして私を睨みつける。

   こんな遼は初めて見た。こんな喧嘩も初めてした。

   「 自分は良い人みたいな感じで言ってるけど、
     彼女いる人にキスされてる私の気持ち考えたことある? 」
   「 んだよ、さっき晴菜からしてきただろうが 」

   「 ほら、もうやめろって 」
   裕ちゃんが私と遼の間に手を入れて止めてくる。
   「 どうした晴菜。なんかあったのか? 」
   裕ちゃんは私の顔を覗きこむようにして聞いてくる。

   「 バカに何聞いてもバカな答えしか返ってこねえよ 」
   裕ちゃんの手の向こうで遼が喋る。
   「 遼は少し黙ってろ 」
   裕ちゃんは遼を見ずにそう言う。

   「 んだよ、俺の気持ちも知らねえくせに。戻って来るんじゃなかった 」
   遼はそう言って乱暴に立つと教室を後にした。

   遼が教室を出て行っても、私は動けなかった。……怖かった。
   正直、あんな遼初めてでどうしようかと思った。
   でも、後に引けなかった。

   「 どうした晴菜。なんか遼とあったのか? 」
   さっきまで遼が座っていた席に座って、裕ちゃんが心配そうな顔を私に向ける。
   ごめんね、裕ちゃん。

   「 裕ちゃん、……英語できる? 」
   「 英語? 」
   「 課題のやり直し手伝ってくれない? 」
   声が震える。手も足も力を入れとかないと震えちゃいそう。

   自分じゃ手が付けられない英語の課題。
   なのになんであんなこと遼に言っちゃったんだろう。
   ……なんで、自分からキスしちゃったんだろう。

   「 わかったよ。やるか 」
   「 ……ありがとう、裕ちゃん 」
   「 気にすんな 」
   相変わらず裕ちゃんは優しくて、いつもの笑顔を向けてくれる。

   ありがとう、本当に。
   裕ちゃんがいてくれてよかった。
   

Re:    好きな人 と 私の唇 。 ( No.11 )
日時: 2016/07/06 21:27
名前: 蒼奈 (ID: xSMD/D6J)


   +

   「 はい、神田。
     一応、合格な。後ちょっとミスあったから確認しとけ 」
   先生に渡されたのは、この前返された英語の課題。

   「 あ、ありがとうございます 」
   「 なんか元気ねえな? 夏バテか? 」
   笑いながら私の前に立っている英語の先生。

   遼と言い合ってから数日がたった。
   あれから遼に英語を教えてもらうことはなくて、話すこともなかった。
   ……喧嘩しちゃったなあ。
   こんなこと今までなくて、どうしていいか分からない。

   「 あ、いや。大丈夫ですよー 」
   無理やり笑顔を作って、先生を見る。
   「 おう、いっぱい飯食えよー 」
   先生も笑顔で私に言う。

   このぐらいみんな単純だったらいいのに。
   遼も、私も、何考えてるか分からない。なに、考えてるんだろう……。


   「 よし、とりあえず夏休み前半の補修は今日で終わりな 」

   教室でやったーって声が飛び交う。
   補修対象者は20人くらい居て、知らない人も何人か居た。
   みんな英語苦手なんだろうなー。クラス違うと分かんないなあ。

   「 神田……晴菜さん? だよね? 」
   先生から配られた英語のプリントを整理していたら、急に低い声で話しかけられた。

   「 え? ……そうですけど……? 」
   隣から声をかけられたのは、知らない人。違うクラスの人なんだろうな。
   若干日焼けしてて、ニコッと笑うと白い歯が眩しい男の子。
   人懐っこい感じがした。でも、なんか丁寧で爽やかな感じ。

   でも、なんで名前……知ってるんだろう。私この人の名前知らないんだけどなあ。

Re:    好きな人 と 私の唇 。 ( No.12 )
日時: 2016/07/07 22:36
名前: 蒼奈 (ID: xSMD/D6J)


   「 この後、暇ですか? 」
   少し身を乗り出して聞いてくる。
   は? え、なにこの人。

   「 い、いや、暇じゃないです 」
   咄嗟に嘘をつく。
   学校でナンパ? まさかね、バカでしょ。
   でも、そんな嘘をついた私を見て目の前の男子は笑いながら
   「 嘘でしょ? 」
   って言いだす。

   「 今、晴菜ちゃん嘘ついたっしょ? 俺そういうの分かんだよね 」
   さっきの撤回。全然、丁寧じゃないし爽やかじゃない。
   なにこの人、チャラい。変な人につかまってしまった。

   すぐに表情に出てしまう私は、今すごく嫌そうな顔をしているだろうな。
   でも、しょうがない。こういう人は苦手だ。
   あまり関わりたくないのが本音。
   
   「 嫌だなって思ってるっしょ? すぐ顔に出るタイプだね 」
   笑いながら私を指さす、目の前の男子。もう嫌だ。なにこの人。
   「 なにこの人ーって思ってる感じ? 」
   ……怖。
   何考えても、全部バレてしまいそう。もう嘘つけないじゃん。


   「 晴菜ー 」
   そんなとき、救世主が現れた。
   「 裕ちゃん! 」
   教室に入ってきたのは、裕ちゃん。さすが、裕ちゃん。

   「 もう補修終わり? 」
   「 終わった! 」
   私のとこまでやってきた裕ちゃんに私は笑顔で答える。
   私が犬だったら思いっきり尻尾を振っているだろうな。
   そのくらい裕ちゃんは信頼している。

   「 飯でも行く? あ、なんか取り込み中だった? 」
   裕ちゃんは私に申し訳なさそうな顔をする。
   裕ちゃんも表情に出るタイプだけど、私とは全然違う。
   もうなんか人の良さが全面に出てる。
   きっと裕ちゃんモテると思う。……遼には敵わないと思うけど。
   
   「 晴菜? 」
   ぼーっとしていた私の目の前に裕ちゃんは手を振る。
   「 あっ、いや大丈夫。お腹空いちゃった 」
   「 え、いいの? 」
   私は急いで荷物をバッグに入れる。
   裕ちゃんは隣の男子に気を使いながら聞く。
   なんかあまりこの人とは関わらないほうがいい気がした。
   本能?って言うのかな。ただ、私が受け付けてないだけかもしれないけど。

   「 あ、いいっすよ。ちょっとお話してただけなんで 」
   裕ちゃんにも、笑顔を向けるその男子。
   この人も人の良さが出てる気がするけど、裕ちゃんと違う。
   全然違う。別物。

   「 じゃ、晴菜ちゃんまたね 」
   私に手を振って教室を出ていた謎な男子。もう会いたくないなあ。
   私も席を立って裕ちゃんと教室を出た。

Re:    好きな人 と 私の唇 。 ( No.13 )
日時: 2016/07/10 18:40
名前: 蒼奈 (ID: xSMD/D6J)


   「 あの晴菜の友達、俺初めて見た 」
   裕ちゃんはハンバーガーを食べながら言う。
   そりゃ私の友達じゃないもん。知らないでしょうよ。
   「 私だってあの人初めて見たもん 」
   ポテトを食べながら言い返す。
   
   「 は? 友達じゃねえの? 」
   裕ちゃんは笑いながら言う。そんな面白いことじゃないよ!
   すっごいチャラかったんだからあの人!思ってること全部見破られちゃうし!
   「 急に話しかけられたの。怖かったよ、あの人 」
   「 良い子そうだったけどなあ 」
   裕ちゃんは、ハンバーガーを食べ終わって包み紙を丁寧に畳む。
   さすがA型の裕ちゃん。典型的なA型って感じ。

   「 裕ちゃんは騙されてんだよ 」
   私もハンバーガーを食べ終わって、
   包み紙を綺麗に畳もうと思ったけど諦めてくしゃくしゃ。
   結局いつもこうなる。そういう私はO型。
   私が裕ちゃんみたいだったら良いのに。

   「 お前も遼と一緒だな、くしゃくしゃにすんの 」
   私のくしゃくしゃの包み紙を指さしながら裕ちゃんは言う。
   そういや遼もO型だったっけ。こういう大雑把なところはよく似ていた。
   「 一緒にしないでよ 」
   なぜか意地になって、くしゃくしゃになった包み紙を広げて丁寧に畳みなおす。

   遼のことを考えると、どうしていいか分んなくなってむしゃくしゃする。イライラする。
   ……悲しくなる。むなしくなる。

   「 ……仲直りしねえの? 」
   裕ちゃんはジュースをストローで飲みながら聞いてくる。
   多分、今日私をお昼に誘ったのはこれを聞くためだろう。
   なんとなくそんな気がしてた。
   仲直りしたいけど、そりゃ前みたいに仲良くなりたいけど。
   「 したいけど……だって遼が…… 」
   どうしていいか分からなかった。
   あんなに遼が怒るなんて思ってなかったし、私が謝るのもなんか違う気がするし。
   でも、遼に謝ってほしいわけじゃない。
   「 俺は、お前たちに仲直りしてほしいって思ってる。
     つまんねえもん、お前たちが仲良くねえと 」

   私と遼と裕ちゃんは小さい頃からよく一緒にいて、よく遊んでいた。
   無茶する遼。ついていこうとする私。
   それを保護者のように見ている裕ちゃん。
   この3人の関係が居心地が良かったし、ずっとこのままでいいと思っていた。

   昔から遼にキスはされていた。
   気付いたら私は遼のこと好きになっていた。
   でも、気付いた時には遼には彼女がいた。でも、遼は私にキスをする。
   それで十分だった。結局遼は私に戻ってくる。

   キスをしに私に会いに来る。
   優しくキスをしてくれる。
   それで十分だったのに。最近の私はそれだけじゃ許せなくなっていた。
  
   「 ごめんね、裕ちゃん 」
   「 俺に謝ることはなにもないよ。
     この前、晴菜が言ってたこと分からなくもない。
     でも、あんな2人で喧嘩してもどうしようもないだろう 」
   「 そう……だよね 」
   目の前には畳みなおした包み紙。
   裕ちゃんのと比べると全然綺麗じゃなくて、私は裕ちゃんのようにはなれないんだと悟る。
   
   「 まあ、初めての喧嘩だな。
     遼もあんな晴菜初めて見ただろうし、ちょっと驚いてるだけだろ 」
   クスっと笑って裕ちゃんは私の頭をポンポンと叩く。
   大丈夫って言ってくれてるようで、私は泣きそうになった。
   やっぱり裕ちゃんには頭が上がりません。


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