コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- さよならばいばいまた来世【1/13更新】
- 日時: 2017/01/13 01:36
- 名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: yGaMVBz.)
夢を、みた。
『王子様が、迎えに来てくれる夢』
そんな有り得もしない夢を、みた。
でも、私を迎えに来たのは__
***
ひよこと申します。
これは元々別名義で書いていたものですが、ちょっと思うところがあったのでこの名前であげさせていただきます。(元の題名は「さよならばいばい、また来世」ですが、一字一句同じ題名だと投稿できないので「、」を消しました)
ゆっくり更新ですが、どうかよろしくお願いします。
*登場人物
・伊野崎 ゆづ(いのさき ゆづ)
・佐神 桜也(さがみ おうや)
・白城 真花(しらき まなか)
・早風 一希(はやかぜ かずき)
・楓
- Re: さよならばいばいまた来世【6/5更新】 ( No.16 )
- 日時: 2016/10/23 13:07
- 名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: hfyy9HQn)
鳥や虫、自然の音をBGMに、黒板に刻まれたたくさんの文字をノートに写していく。ゆづは頭にはそこそこ自信があったので、慣れない授業でも理解は早かった。自信があるというか、体が弱かったせいで勉強しかやることがなかった、ともいう。といっても、さして嫌いではないし、解けた時の達成感はなかなか癖になる。
ただ、どんなに勉強しても、国語だけは理解ができなかった。
「わ、ゆづちゃんのノート綺麗だねぇ! すっごく見やすい!」
「まな......ちゃん。ありがとう」
校舎の中を一通り案内してくれてからも、真花はゆづに話しかけてくれている。他のクラスメイトはまだ様子見なのか、あまり積極的に接してはこない。というより、真花が人懐こいというだけなのかもしれないが。
「私授業でノート書くの面倒くさくて、よくお休みの日とかにかーくんに見せてもらってるんだぁ。かーくんもノート綺麗だけど、ゆづちゃんはもっと綺麗だね! こう......女の子! って感じの!」
どういう感じかはいまいちわからなかったが、褒められて嫌な気はしなかった。小、中学の頃は入退院を繰り返していたため学校に馴染めず、こうやってクラスメイトと喋る機会もなかった。
(普通の学生って、こんな感じなのかな......桜也くんも、普通の学生だった時があるのかなぁ)
ちらり、と隣の桜也を盗み見る。今日の授業はもっぱら夢の世界へ羽ばたいていたようだったが、大丈夫なのだろうか。
そんな視線に気づいたのか、真花も桜也のほうに目を向ける。
「桜也くんってすごいよね。モテモテだし優しいしかっこいいしモテモテだし! でもそういう話題になったの、この学年に上がってからの気がするんだよねぇ。一年生の時はあんまり目立ってなかったような......というか、いたっけ? みたいな......まあ、私がバカだから記憶にないだけかもしれないけど! あはは」
真花の発言を聞いてぎょっとする。
(まさかこの人、洗脳とか使ったりしてない......!?)
彼が人間ではないことは、信じたくはないが信じざるを得ない。昨夜、他の人に見えていなかったのがなによりの証拠だ。一体彼が何者で、どこからきて、どうして自分の願いを叶えようとしてくれているのか。ゆづは全くわからなかった。
(いい人......人? 存在? ではあるんだけど......)
とにもかくにも、桜也はゆづにとって今最も気になっている人物であるのは確かだった。
だからこそ、ゆづは突拍子もない行動に出てしまった。
***
移動教室の合間や休み時間に、真花や一希からこの学校の話を聞いた。どこにでもある、普通の学校だった。時々真花が脱線するものの、どれも普通の、面白い、ゆづにとっては普通ではない話だった。桜也はというと、学校にいる間はどこまでも完璧な優しい優等生のままであった。それはとても奇妙なものに思えたのだが、どうしてそうしているのかはわからなかった。
さて、灰色のコンクリートを赤く染める光が降り注ぐ頃、ゆづは人生初のストーカーをしていた。されたのではない、していたのだ。
不審者よろしく電柱の影からこっそりと覗く彼女の視線の先には、黒髪の彼が帰路についている姿があった。彼女とて好きでこんなことをしているわけではないのだが、じわじわとこみ上げてくる好奇心には勝てなかったのだ。彼が一体どこに帰るのか、そもそも帰る場所があるのか、上司なる人物とは誰なのか。疑問は募るばかりだ。それと同時に不安も募る。
(......ばれたらどうしよう。やっぱりこんなことやめたほうが)
妙な汗を背中に感じ始めた、丁度その時だった。
「あっれー? 野良くんの飼い主ちゃんじゃない?」
どこか気のぬけた声が頭の上から降ってきた。
(......上!?)
ぎょっとして空を見上げると、そこにはニコニコと人好きのような笑みを浮かべた青年が立っていた。
そう、立っていたのだ。地面なんてなにもないはずの空中に。見えない床でもあるのかと思ってしまうほど、二本の足でしっかりと。
「やー、はじめまして! 野良くんのオトモダチでーす」
つんつんした茶色の髪をゆらゆらさせながら、『野良くんのオトモダチ』はにこやかに手を振った。
(......チャラい!)
思考回路がショートしたゆづは、目の前の非現実的な現実が受け入れられなかった。
- Re: さよならばいばいまた来世【9/6更新】 ( No.17 )
- 日時: 2016/09/06 22:04
- 名前: 上瀬冬菜 ◆P8WiDJ.XsE (ID: i8MUn/7P)
ひよちゃん、お久しぶりです。
ひよちゃんの小説が更新されてるのを見て心の中で「うおっひょお!!」とわけのわからん悲鳴を上げた上瀬です((
小説を一通り読ませていただいたので、感想を。
レス5。冒頭部分すっげわかる夢シチュだ!!(え)
こういう夢見る女の子ってすごく素敵だなあというか、王道なのすごい好きっていうか、なんていうか、わたしのぼきゃぶらりーでは表せないけど素敵だなって思いました!
でもすぐの過去系にえってなりました。昔なのか。
そんでもってまた急展開とも取れる一文で気分上がりました。やっぱり文章書くの上手い。上手い。(大事なことなので二回言いました)
そしてね、一回コメントしなかったけどレス5のお話読んだことがあるの。そのときはただただ驚いてた。どういうことなのかなって。意味がわからない! じゃなくて伏線だ! って感じで。
今もそれは変わりません。どういうことなんだろうって気になります。
病気とかなのかなあ? と今は思っています。それとも神様がいたら神様が定めた運命とか…?
あと、ゆづちゃんの青年さんに対する口調がすごく好きです。他人行儀なのは仕方ないけどそれがすごく好き…。
青年さん幽霊なのかな、天使なのかな、ネタバレになるから言えないけど正体気になるこのイケメンめ!!((
願い事。キーワードってやつですね…((
ゆづちゃんの一言が気になるなぁ。どうして昔のゆづちゃんを知ってるんだろう。
おおおおお桜也くんなのね!! おおお!!((落ち着け
おうやくん、名前カッコいい…!
そんでもってゆづちゃんの名前も可愛いと思ってましたハイ((
ゆず、じゃなくてゆづ、なのがいいなぁ。
真花ちゃん可愛い…っ。
なんとなくだけど、親友ポジっていうか、いいお友達になりそうな予感。
かーくん見た目のギャップすごい((あだ名が
かーくんですか、かーくん……ふふふ((
鳥や虫、自然の音をBGMに、黒板に刻まれたたくさんの文字をノートに写していく。
引用失礼しました。この一文好きです。
ゆづちゃん国語苦手なのかな? ゆづちゃんの書く文字は清楚な感じなのか丸っこい可愛い感じなのかどっちだろう。
そして唐突の野良くんのオトモダチ。うっわあこの手のキャラストライク…!!((
多分だけど、桜也くんの知り合いみたいなひとなのかな?
…と、感想でした! ちょっと長くなったかも。
伏線がするっと散りばめられていて上手だなぁと思います。
あとゆづちゃん可愛い。
更新されたらまた来るね!
- Re: さよならばいばいまた来世【9/6更新】 ( No.18 )
- 日時: 2016/10/23 01:54
- 名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: hfyy9HQn)
冬菜ちゃん
返事遅れてごめんね......!!
ほんと申し訳なさすぎてスライディング土下座じゃ足りないね......とりあえず地面に埋まっとくね......
やっぱりちっちゃいころってそういうのに憧れるよね。私もプリキュアとかそういうのみて憧れてたけど兄の影響で一番はウルトラマンになりたかったらしいんだ......大人になったらなれると思ってたらしいんだ......(母親談)
ゆづちゃんも色々大人になって、お姫様にはなれないってわかったんだろうね。いまは......どんな夢をみているんだろう。
ひいいいありがとう......!!
私冬菜ちゃんの文めちゃくちゃ好きなんだ......心の中で勝手にファンタジーの先輩だと思ってるから......
私も読んでてなんだこれってなるわかる......伏線とよんでいいのかと思うくらいの粗末なあれですけどそこは海より深い心をもって目をつぶっていただけるとありがたいm(._.)m
桜也くん傍から見れば頭のおかしいひt((......中二病みたいな感じだけど彼は彼なりに思うところがあるのでそっとしておいてあげて......
ゆづの名前、最初ゆずとゆづで迷ってたんだよー!!
なんとなく書いててが可愛い方がいいなって思ってゆづになったから、可愛いって言ってくれて嬉しい(*^_^*)
しばらくはまなとかーくんが出張ります。そりゃもうぐいぐいと。ほぼメインになる予定。
この二人の過去とかもちゃんと掘り下げたいなぁって思ってます。いつになるかな......
最初は鳥や虫__のくだりはなかったんだけど、ちょっと寂しいなって思って......あとなんか小説っぽくなるかなって......()
ゆづは根っからの理系だから国語とか苦手で、なにより人の気持ちを考えるのが得意じゃないんです。ここらへんの話も多分ちょろっとでてくるかなーと。
最後のチャラ男は自称桜也のオトモダチです。自称。こいつは桜也サイドの主要キャラになる......予定。次の更新はこいつメインだからよかったら読んでくれると嬉しい......そのまま好みのキャラになるかどうかは......(^_^)
コメントありがとう!!
- Re: さよならばいばいまた来世【9/6更新】 ( No.19 )
- 日時: 2016/11/06 01:43
- 名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: rn3pvd6E)
目の前の現実があまりにも非現実すぎて、ゆづの脳内は冷静すぎるほどに冷静だった。先日の桜也の件ですこしばかり耐性がついていたのかもしれないが、それでも、彼女の脳は正常に働きすぎた。
(人って浮けるんだっけ......ああそっか、桜也くんは人間じゃないって言ってたし、彼のお友達なら人間じゃないのかな)
__なら、別に『普通』じゃないか。
そんな考えが『異常』だと指摘してくれる人物は、残念ながらいなかった。
「__ああ、やっぱりあの時の君だ! いやはや、人間の成長は恐ろしくはやいもんだね、僕が瞬きしている間にこんなにも大きくなるなんてさー」
宙に足をつけたまま、桜也のオトモダチはぐいっと前かがみになりゆづの顔に己のそれを近づけた。
「それにしても相も変わらず表情が動かないね。せっかく空から現れたっていうのに眉一つ動かさないなんて、さすがに傷つくなー」
全然傷ついていなさそうだしこれでもびっくりしているんだけどなぁ、なんて考えていると、突然もにゅっと頬をつねられた。あまりに唐突のことで反応できず、ゆづは彼の整っている顔立ちをまじまじとみることしかできなかった。
深い藍色の、すこしツンツンした髪。綺麗な緑色の瞳。どこをとっても人ではない容姿だが、なぜか妙に心を惹かれた。一度みたら忘れられないほどの顔だが、記憶の底をひっくり返してもそんな覚えはない。なら彼はなぜ自分を知っているのだろう。
美しい顔の観察と考察もそこそこに、へらへらと笑いながらゆづの頬を思いのままに伸ばしたり縮めたりしていた彼は満足したのか、その指をぱっとはなし、大袈裟に両腕を広げてみせた。
「さて、時間稼ぎはここまでにして......」
「......時間稼ぎ?」
「そー。オトモダチの桜也くんがどうやらいたいけな女子高生にストーキングされて困っていたみたいだからちょっと助けてあげようかなっていう親切心。その証拠に、彼はもうどこにもいないよ」
そう言われて先ほどまで桜也がいた場所に目を向けると、彼は確かに忽然と姿を消していた。
「......気づいてたんですか」
「あいつが人間の気配に気がつかないわけがないよ。しかもあんな熱烈に視線を送られたら尚更。君ってば顔に似合わず大胆なことするんだねぇ。まあ気になるのもわかるけど、だめだよー、お仕事の邪魔しちゃ」
「お仕事?」
「うん。だから邪魔にならないように__」
綺麗な笑みをを貼り付けたまま、彼はゆづの片手をとりぐいっと引き寄せた。ぽすんと彼の胸に頭を預ける状態になったゆづは驚愕した。
(え......)
「空から堂々と覗こう!」
先ほどまで地についていた足は、彼と同じように宙に浮いていた。
「私、浮いて......」
「大丈夫、透明なガラスの板の上を歩くのと変わらないよ。あっ、それと普通の人にはみえなくなってるから安心してね。さあ、行こうか」
手はしっかりと彼に握られている。落ちる心配なんてするだけ無駄だろう。しばし逡巡していたが、ゆづはおそるおそるその一歩を踏み出した。
「......そういえば、名前、なんて呼べばいいですか?」
「名前? なんだったかなぁ。えーっと......ああそうそう、僕は楓だよ。君は確か......かずちゃん?」
「......ゆづです」
「そうだ、そんな名前だったね。まあ長くも短くもない付き合いになるだろうけど、よろしくね!」
踏み出した足は、しっかりと宙を蹴った。
***
「ああ、いたいた」
普段下からみている人や家を上からみるというなんとも不思議な感覚になりながら空中散歩をしていると、いまだ手を繋いだままの楓が声を上げた。
「ほらゆづちゃん、あいつちょうどお仕事中だ」
そう言われて指さされた方向をみると、確かに学ラン姿の桜也がなにかにむかって話しかけていた。なにかとはなんだと聞かれたら、うまく言葉にできないようななにかに。
さて、これが仕事中かと言われると首を傾げるしかないが。
「......あれは、なんですか?」
「まあ立ち話もなんだから、そこの屋根にでも座ろうか。話はそれからにしよう」
誰のかも知らない家の屋根に二人並んで腰掛ける。ずっと座っているとお尻が痛くなりそうな硬さだ。
「そうだとは思ったけど、やっぱり君にはなにも言ってないんだね。あいつ変なとこでガンコだからなぁ......隠したっていずれバレるだろうに。ねえゆづちゃん、桜也の目の前にいるあれ、なんだと思う?」
「わかりません。なんだかゆらゆらしてて、光の塊みたいですけど......」
すぐにでも消えてしまいそうな、淡い緑とも黄色ともいえない光を湛えたなにかは、風がふいているわけでもないのにゆらゆらと揺れていた。声はここまで聞こえないが、桜也の言葉に時折反応したかのように揺れが止まる。
「あれはね、ゆづちゃん。魂だよ」
「たま、しい......? あれが......?」
「桜也の......僕達の仕事は、死んだ魂を上へ連れていくこと」
「上......?」
「僕らは『死神』。君たちがそう呼んでいる神さまさ」
ゆづを迎えに来たのは、小さい頃憧れていた王子様でもなんでもなく、『死』そのものだった。
その事実は、ゆづの心の中にすとんと落ちて消えていった。ああ、やっぱりそうだったのか、とあっさり納得できるほど、衝撃的なことではなかった。自分が長生きすることができないというのは、とうの昔に知っていた。もうすぐ死ぬことも、桜也に告げられなくともわかっていた。それが運命だと、この世に生まれたその瞬間から決まっていたことだと、彼女は幼い頃に突きつけられたのだから。
「......死神さんは、ほかにもたくさんいらっしゃるんですか?」
「わかってたけど、ほんと動じないよねぇーゆづちゃんたら。そうだね、世界規模でみたら相当の数いるんじゃないかな」
「どうして、楓さんは私のことを?」
「楓でいいよ、さんづけなんて背筋がぶるっちまうぜ。そりゃ、当時君のことでこっちは大騒ぎだったからさ。なんせいままで飼い主を決めなかった野良くんが主を決めたんだよ? しかも年端もいかない女の子ときたもんだ! 幼女趣味だのなんだの言われてて大変だったなぁ」
話を聞くかぎり、なんだか自分のせいで大変だったようで申し訳ない気持ちになる。といっても欠片も覚えていないのだが。
「その、飼い主っていうのは?」
「いわゆる比喩ってやつだけれどね。僕達は君たち人間の中から選んだ一人のお願いを三つだけ叶えることができる。できないことはないけど、生と死に関することは聞き入れられないんだ。こわーいひとに怒られちゃうからさー。骨折とか、命に関わらない怪我や病気なんかはなんでも治せる。金持ちになりたいとか、素敵な恋人がほしいとか......とにかくなんでも」
そんな魔法のようなことが、本当にできるのだろうか。
そんな考えを感じ取ったのか、楓は笑いながら言った。
「僕達は人間じゃない。生きているわけでもなければ死ぬこともない。空中だろうが地面と変わりないし、海だろうが火の中だろうがただ存在できる空間でしかない。人間が起こすことができないことを奇跡とよぶなら、これは奇跡だ。か弱い君たちがいまを生きている、それのご褒美ってとこかな」
「......そんな、そんなものを、どうして桜也くんは私なんかに」
「僕も疑問だったけど、こうしてしゃべってわかった気がするなぁ。君、放っておいたら堕ちちゃいそうだし。桜也は珍しいやつでさ、ひとつひとつの魂にああして向き合って、少しでも未練をなくしてから上に連れていくんだ。死神のなかには上から網かなんかで問答無用に連れてくやつもいるってのに」
優しいんだ、どうしようもなく。
そう言った楓の横顔が、なぜかぼやけてよくみえなかった。
「......僕もあいつも、最初から死神だったわけじゃないんだよ」
そう言ってこっちを向いた楓は、また笑みを貼り付けていた。
「そうだなぁ、例えば僕は、形がなかった」
__少しだけ、昔話をしよう。面白くもない、ただの化け物の話だけれど。
- Re: さよならばいばいまた来世【11/6更新】 ( No.20 )
- 日時: 2017/01/13 09:48
- 名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: RblFco13)
初めて、自分が存在する『モノ』であると認識したのは、いったいどれほど昔のことだろう。
確かに存在はしている。ただ、形がない。黒い靄のようにふわふわと、なにもない真っ黒な空間に鎮座していた。そこがどこかなんてわからないし、いつからそこにいたのかもわからない。けれどそんなことに興味なんてなく、空っぽの小さな世界で、ただそこにいた、それだけの存在だった。
そうして幾つの時が流れただろうか。いつしか、言葉では言い表せないなにかが、ぼんやりと自分の中にあることに気づく。それはじわじわと、奥底から湧き上がっては弾けた。それが数え切れないほどになると、自分という存在が徐々に塗り替えられていった。
最初は、自由に動ける二つの足が。次に腕、頭、口......だんだんと機能を持ったパーツが増えていき、いつしか人間と呼ばれる形になっていた。空っぽだった頭に、考えることのできる脳が作り上げられたとき、やっと僕は理解したのだ。自分を形作るこれらは全て、誰かの、何かの願望だったのだと。この世のどこかで命を持っていた者達の、けれど叶えられなかった欲。それらが集まって、 “ 僕 ”という存在を作り上げた。
真っ黒だと思っていた空間は、実は灰色だった。見える目がなかったからだろう。よく目を凝らすと、大小様々な黒い影が、一列になってどこかへ向かっている。ここは一体どこだろうかと、出来たばかりの頭で考え始めたその時。
「おや、珍しいな。こんなところにお前のようなものがいるなんて」
腰を折り顔をこちらによせながら、突然現れたその人はとても可笑しそうに微笑んだ。片目は黒い眼帯で覆われており、薄紫の長い髪を後ろで束ねた、女性とも男性ともいえる綺麗な顔立ち。細められた紅い瞳に己の姿を捕えられ、その場からぴくりとも動けなくなる。
「欲に魅入られたか。可哀想に、お前はいつか人を殺すだろう。貪欲になり全てを欲し、それでも絶対に手に入れられないものがあると知った時、お前は命ある者を滅ぼすんだ」
ころす、殺す。命を奪うこと。
できたばかりの脳が僕に言った。『殺す』のは『罪』だと。どうして僕がそんなことをするんだろうか。殺すのはいけないことだ、そういう決まりだろう。してはいけないことは、しちゃいけないんだろう?
「それは人間の考えだ。お前は人間でも、ましてや生物ですらない。そんなものに収まるほど単純じゃあない。......そうだな、今度またここに来た時、まだお前が誰も殺していなかったら、私が連れていこう」
そう言って、ゆらりと空気に溶けるようにその人は消えていった。
まだなにもわからない脳に、確かに刻まれた、『殺す』という言葉。
僕はこの後、それを嫌でも知ることになる。
しばらく時が経っても溢れ出す欲に従って、自分の体はどんどん変化していった。見た目だけなら完璧な人間だと言える程に。
けれども、どうしても、変化しないものがあった。
心、というものが、どうしても手に入らなかった。
自分の中に入り込んだ欲が、僕に訴える。心が欲しいと。豊かな感情が欲しいと。
それでも手に入らなかった。心というのは、形のないものだったから。心は、どこにあるのだろう。胸の中だと、脳が言った。けれどどこにもない。僕には、心がない。でも欲しい。あれがなくては、人間にはなれない。欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい......
__なら、誰かのを奪えばいい。
ああ、その通りだ。僕は言った。
頭の奥底のどこかで、誰かがだめだと声を荒らげるのを、聞いた気がした。
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