コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ストライド・バンド!!
日時: 2016/05/15 10:28
名前: Cookie House (ID: l.IjPRNe)

どうも!CookieHouseと申します!

記念すべき初回作です。いやあ、かんげきですなあ、まさかこのジャンルで小説を書くことになるとは。
実はシリアス・ダークで一度書いていたのですが……、あれはもう黒歴史といっても過言ではない。やばい。恥ずい。
前回のものよりもよい作品をお届けできるようがんばっていきたいと思います!

応援&コメントよろしくね!



プロローグ>>5  (コメントいただいた後にこのページを作ったので時系列が無茶苦茶なことになっております申し訳ありません)
第一話>>7
第二話>>8
第三話>>9
第四話>>10

Page:1 2



Re: ストライド・バンド!! ( No.6 )
日時: 2016/03/14 23:29
名前: どみの (ID: 99568qQj)

こんばんは

先ほどはコメントありがとうございました(^^)

お話に筋が通っていて、読んでて作者様の世界観ぐいぐ引き込まれました!

これからも頑張って下さい!
応援してます(*^^*)

Re: ストライド・バンド!! ( No.7 )
日時: 2016/05/05 12:50
名前: Cookie House (ID: l.IjPRNe)

第一話 事件


 「きゃあああ!!」

 名前も知らないクラスメイトの女子数名の絶叫が聞こえたのは、五月十五日の朝、つまり今しがたのことだった。
 絶叫、といっても事件が起きたわけではない。
 いや、彼女たちにとっては事件なのかもしれないが、手を取り合ってはしゃぐ姿を見る限り、彼女たちにとって喜ばしい事件であることは間違いないようだった。
 ___ああ、『あの事』か……
 今朝のニュースでも取り上げられていた、喜ばしい事件。
 新聞の一面を飾るようなものほどではないものの、僕たち高校生にとって大きな話題のひとつになることは確実の、そんな事件。

 「今年の《ストライド・バンド》のテーマライター、《HARU》だって!!」
 「聞いた聞いた!活動休止中だったのに、復活したのかな?」
 「うーん……でも新曲とかは出してなくない?」
 「……ま、いいじゃん!ヤバイ、めっちゃ楽しみなんだけど!」
 「分かるー!ヤバくない?!」

 知り合ってわずか一ヶ月経つか経たないかの女子三人をくっつけるのだから、ヤバいという言葉は相当ヤバい力を持っているのだろう、ヘッドフォンをつけた耳にも否応なしに声が飛び込んでくる。
 外界の音を遮断するようにプレーヤーの音量を少し上げて、僕は流れてくる曲に没頭した。


 《ストライド・バンド》という夏のイベントが開催されたのは、二千二十年、某有名動画投稿サイトでのこと。
 ネット社会の現代において、テレビ文化が衰退するのはしかたのないことなのかも知れなかった。
 職業・老若男女問わず誰でも投稿できるという自由さ、好きな動画を好きなときに視聴できるTPOを選ばないスタイル、なんと言っても豊富な種類の動画が人々を魅了し、ついにはテレビという媒体そのものを置き去って発展した動画の数々は人々の生活を潤し、いつしかほぼ全ての人口が利用する文化に成り果てた。
 その数あるジャンルの中でも特に支持を得たのが_____、音楽。
 あまりにも人気が絶えなかったためか、サイトの運営者が企画したのが、件の《ストライド・バンド》というわけだ。
 春先に”テーマライター”と呼ばれるアーティストを一人決め、そのアーティストの曲を課題曲として開かれるコンクールのようなもので、全世代に向けて開かれている。
 出場チームは主に”メディアバンド”と呼ばれ、好成績を残したチームはサイトのライブイベントなんかに呼ばれることも少なくない。
 予選はネット上の選挙で行われるが、毎回応募数が多く、前回、四回大会には応募総数が九千を超えたという。
 今年の五回大会のテーマライターは《HARU》、尚のこと応募数が高まりそうだ。


 _____と、なんとなく《ストライド・バンド》の歴史を振り返りながら窓の外を見やっていると、不意に耳からヘッドフォンが外れる感覚がした。

 「___なっ」
 「八咲君、でしたか」
 「……ええっと……ごめん、誰?」

 僕からヘッドフォンを剥ぎ取ったのは、女の子らしかった。
 黒髪のショートカットにフレームの大きいめがね、制服のシャツには蝶ネクタイが下がっている。

 「誰だなんて、失礼ですね。クラスメイトなのに」

 人がつけてるヘッドフォンをいきなり取り上げる奴も相当失礼な部類の人間だと思うけれど。
 
「え……あ、うん、ごめんなさい」
 「私は結崎四糸乃。八咲響也君に、お願いがあって来ました」

 クラスのことになんて興味がなかったから怒られるのも仕方ないとは思ったけれど、僕の思考は他の事にとらわれていた。
 ド直球に言うと、目の前にいる人物が可愛いことに尽きる。
 パッチリした二重に長いまつげ、すらりと伸びる手足、色白な上に小柄だから、冗談なしに人形のようだった。
 あ、人形はメガネないか。___そう思い直して会話に戻る。

 「お願いって?」
 「はい。唐突で申し訳ないのですが___、ちょっと私と、付き合ってください」
 「……は?」


「付き合ってください」という言葉を即座に勘違いしたあたり、僕の精神年齢はまだまだ子供なのだろう。
 それとも、彼女なんて持ったことがない僕にとっては、仕方のないことだったのか。
 仕方のないことだったのだと切に願う僕は、童貞も童貞だ。
 言葉の意味に気づいて、無言の時間がやけに長く感じられて、僕は息苦しさから逃れるためにとっさに言葉を紡ぎ出した。

 「えっ……」
 「あ、すみません、内容もろくに言わずに。実は_____」
 
 ガラリ、とドアの開く音に、結崎さんの言葉の続きは遮られた。
 
「結崎いるか?」

 この学校は私立だから、設備は十分すぎるほどに整っているはずで、別にさして大きく音がなったわけでもないのに、クラスの殆んどがドアのほうを振り向いた。
 見ただけでも伝わるサラサラの茶髪に細く逞しい体つき、よく通る声は男の僕でも惚れ惚れしてしまうほどだった。
 当然、と言うのもおかしいかもしれないが、目鼻立ちが整った、いわゆるイケメンと言うやつだ。
 首元には黒に赤ラインのヘッドフォンをしていて、それでもチャラい印象は決してない、清潔感のあるイケメンだった。

 「あ、栄倉君」

 「ちょっと待っててくださいね」と僕に言伝して小走りでドアに向かった結崎さんは、栄倉君と並ぶとまさに美男美女のカップルな感じがして、入り込めない空気感を持っていて、必然的に僕が教室にぽつんと取り残される形になった。
 ……うーん……
 唸りたい。
 さっきまで僕が話してたのになあ……
 なんだか虚しくなったけれど___、どうせ僕には高嶺の花だ。停止ボタンを押し忘れられた挙句机に放置されたヘッドフォンを首元に掛けなおす。
 ふとドアを見やると、なんだか既視感に襲われた。
 つまりは、栄倉君のヘッドフォン。
 ___僕と、同じ……?
 僕のヘッドフォンが青だから色は違うけれど、まず間違いなく同じモデルの機種だ。
 ミクサー社特注、限定二百台の《HARU》モデル。
 優れた音質と限定のデザインが特徴の、コアなファンしかもっていないことで有名なヘッドフォンだ。
 あの人も《HARU》のファンか……
 話が合いそうだとも思ったけど、なんとなく話したくないなあと思ってしまう自分に思わず苦笑いがこぼれた。

 「八咲君、ちょっと来てください」

 呼ばれて振り返ると、結崎さんが手招きしているのが見えた。
 行ってみると、件の栄倉君がやたらとこっちを見ている。

 「どうしたの?」
 「さっきのお願いのことです。そのヘッドフォン見る限り、八咲君《HARU》のファンですよね?」
 「え……あ、うん」


 「私達と、《メディアバンド》になりませんか?」


 無言でこちらを見続ける栄倉君にプレッシャーを感じながら、僕は結崎さんの言葉を反芻していた。

 《メディアバンド》か………



 「《メディアバンド》ッッ??!!」

Re: ストライド・バンド!! ( No.8 )
日時: 2016/05/05 12:52
名前: Cookie House (ID: l.IjPRNe)

第二話 青春

 《メディアバンド》になるということはつまり、当然「俺たちとバンド組まないか」的な意味になるわけだけれど、それを僕が《HARU》ファンだというだけでさしも当然の様に誘ってきたこの二人組みは___、いや、この目の前の四人組はいったいどういう考えを持ち合わせた変人なのか、というのが今の僕の一番の疑問だ。
 僕は今、音楽室に来ている。
 あの後結局「放課後部室に来てください」との結崎さんの申し出を断れず、放課後、この部屋に来てしまったというわけだ。
 現在、この部屋には二つの部活の部員たちが居る。
 ひとつは放送部___、結崎さんの所属する部活。
 もうひとつはというと、軽音部___、栄倉君の所属する部活。
 なぜこんなまるで関係の無い両部活が同じ部屋で共存しているかというと___、話は一昨日まで遡る。



 「放送部と軽音部で、合併しないか??」

 瞳に希望の色を浮かべた軽音部部長、有馬詩織は、放送部部長、夏目勇に、そう言い放った。
 五時の日差しはまだ明るいもののほんのりと赤みを帯びていて、楽しそうに見えるのはこの光の所為なのかもしれないと夏目は思ったが、少し下に見える相手の顔にはまさに嬉々とした表情が浮かんでいて、すぐにこの考えを取り消すことになった。
 「合併ってことはつまり___、軽音部と放送部をひとつの部活にしよう、と?」
 「ああ、そうだ。うちの学校の部活動の容認に関するルールは知っているな?」
 「そりゃあまあ……、確か、設立するのも存続させるのも部員数が最低七人必要なんですよね?」
 「ウチは部活の数が多いからな。出来るだけ部活を少なくしようとして多目の人数に設定してある。軽音部が二人、放送部が二人だから、合併すれば六人、あと一人つれてきさえすれば、理事長の慈悲で成り立っている部活の現状ともおさらば出来る上に、機材も共通するものがあるからよりよい環境で部活が出来る、というわけだよ」
 「はあ……」
 考えは分からなくはない、放送部にとっても悪い話ではないのだが___、夏目はうーんと唸って問いかける。
 「悪い話ではありませんが……活動内容はどうするんです?それに、あと一人の部員も」
 「あと一人の部員は、すでに目星をつけてあるんだ。本人が入るかどうかは別だがね。そして、その部員も、私が考えた活動内容にそってターゲティングしてある」
 有馬は、白く華奢な腕を大きく広げて、まるで演説か何かのように、こう言い放った。
 「テレビ文化が衰退してしまった今、残る情報媒体において動画メディアは大きく躍進を続けている___、君達放送部の技術と私達軽音部の歌声を合わせれば出来ることが、ひとつだけある」
 夏目が気づいてはっと目を開くと同時、有馬の桜色の唇が動く。

 「今や甲子園と並ぶ日本の青春イベント_____

  _____、《メディアバンド》さ!」



 ___、そこで選ばれたあと一人が、僕というわけなのだそうだ。
 「もしかして、このヘッドフォンだけ見て僕を選んだわけじゃ___」
 「もちろんそれは違う」
 ケースからギターを取り出しながら有馬先輩が答える。
 凛と響く声は少し低い、大人な感じを漂わせていた。
 振り向くと甘いにおいがふわりと香って、長い黒髪がいっそう魅力的に思えた。
 「ある人に聞いてね、君のご両親は音楽家だそうじゃないか。我々は軽音部員も含めてまだ楽器初心者といっても過言ではないし、世間一般の軽音部と比べればちゃらんぽらんのお遊び部だ」
 「お遊び部って……」
 「遊びみたいなもんだよ、充分。この中には楽譜すら読めない奴もいるんだ。君みたいのに教えてもらうのが一番だと思ってね」
 「じゃ、じゃあ僕じゃなくたって元吹奏楽部とか合唱部とか、音楽経験のある人を誘えばいいじゃないですか。この学校吹奏楽で全国大会まで行ってるんだし探せばいくらでも___」
 有馬先輩は手早く髪をポニーテールにすると、分かってないなと言うように目を伏せた。
 「君は今が部活動加入期間何日目だと思っているんだ、全国大会にまで行ったうちの吹奏楽部に入らずにこんな部活に入る元吹奏楽部がいるとでも?」
 「ぐっ……」
 「君しかいないんだよ、八咲君」
 僕の目をまっすぐに見つめてそう言った有馬先輩の誘いを断りきれず、結局僕は部員の自己紹介と軽い合わせだけを聴いて帰ることにした。
 軽音放送部(有馬先輩が言うにはメディアバンド部)の部員は現在五人、ギターボーカルの栄倉君、ドラムの村瀬君、ベースの有馬先輩、キーボードの夏目先輩、演出担当の結崎さん。
 村瀬君と栄倉君、結崎さんが一年生、夏目先輩と有馬先輩が二年生、珍しいことに三年生がいない部活。
 僕は村瀬君のことを知らなかったから一度三年生かと思ったけれど、村瀬君が僕のことを知っていてくれていたようで、自己紹介の時にはわりとすんなり話すことが出来た。
 栄倉君は超ど近眼だそうで、朝会ったときには僕が誰だか分からなくて声が掛けられなかったと謝ってくるぐらいの優しい人だった。メガネもよく似合っていた。さすがイケメンだった。
 家に帰って倒れこんだ布団の上で考え込む。
 「君しかいない、か・・・」
 ごろりと寝返りを打つと部屋の様子が見える。高校に入って以来パーマ気味の黒い前髪が垂れてきて、少し邪魔だった。
 それなりに片付いている机、少し離れたところにある小さな机に置かれたパソコン、教科書が載った本棚にはいくつか写真が飾られている。



 もう起きることのない、彼女の写真も。
 まぶしい笑顔でこっちを見つめる、大好きな彼女の写真も。

Re: ストライド・バンド!! ( No.9 )
日時: 2016/05/05 14:43
名前: Cookie House (ID: l.IjPRNe)

第三話 夢と現実


 その日の夢は、最悪だった。


 「キョウ君、助けてッッ!!」

 離せよ。

 「おい、いいのかよー?お友達が死んじまうぞぉ?」

 離せって。

 「はーいごー、よーん」

 助けるんだよ、夏帆を。

 「さーん」

 死なせなんかしない。

 「にー」

 僕が、助けなきゃいけないんだ!

 「いーち」

 助けなきゃ……ッ!!

 「ぜろ」



 _______________、助けなきゃ、いけなかったのに。




 「がはっっ」
 悪夢にうなされて起きた僕のワイシャツはぐっしょりぬれて、首に絡みついたヘッドフォンのコードが、まるで僕を縛っているかのように黒々と見えた。
 ふと目覚まし時計を見ると、デジタル盤の時刻は四時五十九分を示していた。
 「寝ちゃったんだ……あのまま」
 体を起こして首のコードを解くと、少し息が楽になるように思えた。
 ついでにネクタイも解いて、ほうっと息をつく。
 ご飯は食べていないし、昨日よりいっそう疲れた感じがするけれど、とりあえずと僕はシャワーに向かうことにした。
 嫌な汗は流れたけれど、悪夢の記憶はその日の授業も休み時間も、頭に粘るように張り付いて離れなかった。

 「八咲君」
 「………」
 「八咲君?」
 「………」
 「八咲君!」
 「ふえっ?!あ、ごめん結崎さん、なんだっけ?」
 「まだ何も言ってません。大丈夫ですか?今日一日ずーっとうわの空でしたけど」
 「あ、そ、そうだったかな?」
 「心配なぐらいに」
 「あ、はは……」
 帰りのホームルームが終わり、放課後になっても悪夢の残像は消えないまま、僕はひたすらボーっとしていたらしい。
 「八咲君、メディアバンドやりませんか?八咲君が入ればあと一人なんです」
 「うーん……、ちょっと考えさせてくれないかな。今かなり迷ってるから」
 「じゃあ、今日も見学しに来てください!」
 結崎さんが机に手を突いたほんの後、ドアが開く音がした。
 「結崎、部活行こうぜー……って、八咲もいんのか、ちょうどいい、いこうぜ、部活!」
 快活な声が耳に入って思わずドアのほうを見やると、今日は村瀬君も一緒らしく、長身の二人がそろって並ぶとなんだか体育会系な雰囲気がまぶしい。
 昨日と同じ感じ、栄倉君の訪問だった。
 ただ今日はちゃんとメガネを掛けているから話しかけてきてくれるし、栄倉君はギターを、村瀬君はドラムスティックを持っている。
 「ほら、いきましょう」
 「え、あ、うん」
 促されるまま音楽室へ向かう僕達四人は背丈も、髪型も、いろんなことが違うのに_____、何でか居心地がよくて、僕はすんなり音楽室に入っていた。

 「おお、来たか八咲君。待っていたぞ」
 音楽室には既に有馬先輩と、なぜか夏目先輩の荷物だけが到着していた。
 「こんにちは……夏目先輩は?」
 「夏目には今、楽器を取ってきてもらっているのさ」
 「楽器、ですか」
 「もうじきくると思うぞ」
 楽器、といっても有馬先輩のベースも栄倉君のエレキギターも村瀬君のドラムも夏目先輩のキーボードも、音楽室には存在している。
 いったい誰の楽器なんだろう。まさか結崎さんが使うのか?
 そんな考えの答えは、だんだんと近づく足音に運ばれて着実にやってきていた。
 「よいしょっ……と。あ、八咲君、来てくれたんですね」
 ガラリと教室のドアよりも古めかしい音楽室の引き戸を開けて、夏目先輩が到着した。
 「来たようだね」
 昨日と同じポニーテールの有馬先輩が立ち上がる。どうやら部活のときはポニーテールというのが彼女の自分ルールなようだ。
 「これが、君の楽器だよ」
 「……僕の?」
 「そう。アコースティックだからエレキよりも音量は小さいかもしれないが、今日は新曲をやるからこれで君に教えてもらおうと思ってね」
 「僕の……楽器……」
 金具を外してギターを持ち上げると、表面に塗られた黒いワックスが窓から差し込む日光に照らされて白い筋を描いた。
 適当な椅子に座って弾いてみると、まだチューニングが施されていないようで変な音がした。
 ヘッドのねじを回して調律をしていると、フロアタムを運び込んでいた村瀬君が意外そうな顔で僕を見た。
 「へえ、チューナー無しでチューニング出来るんだ」
 「まあ、楽器自体は昔から触ってるし、家でもたまに弾くし」
 「家にあるんだ、ギター」
 「うーん、ギターっていうか……実はオーケストラと軽音の楽器は全部家にあるって言うかその………」
 「「「「ぜ、全部?!」」」」」
 さもどうでもよさそうな村瀬君を除き、全員が声を上げる。
 「じゃ、じゃあ、家に楽器庫があったりとかすんのか?!」
 栄倉君にいたっては駆け寄って尋ねている。ちょっと近い。
 「楽器庫っていうか地下室が……」
 割と近めな栄倉君を手で制しながら答えると、栄倉君は「地下室!!」といいながらその場に崩れ落ちた。
 「結構お坊ちゃんなんだ」
 「お、お坊ちゃんって……」
 否定はしないことにした。
 「まあ、両親が演奏家の分楽器には恵まれてたと思うけど」
 ドン、とバスドラムのペダルの調子を確かめる村瀬君は、もう僕の話を聞いていないようにドラムに没頭していた。
 「では、なおさら期待できるな」
 あわせの隊形を作っていた有馬先輩が煌めく瞳でこちらを見つめているのに気づいて、僕は顔をそちらに向けた。
 「今から新曲を渡す。各自十分間で楽譜をさらったら合わせを始めるぞ」
 ギター、キーボード、ドラム、それぞれの音が音楽室に響き始めた。


 十分間飛び交った音がやんで、静寂が訪れる。
 「それではやるぞ。村瀬、カウントを頼む」
 村瀬君がこくりとうなずいて、スティックの乾いた響きが広がる。
 コードが二重に鳴って、曲が始まった。
 キーボードの下りの音階と、それに合わせたエレキとアコスティのハーモニーが広がる。
 「____今でも思い出せるよ___」
 「君と見た風景、誓いの証を」、歌詞の続きを栄倉君の歌声が追っていく。
 ………そういえばこの曲、夏帆が好きだったよな_____


 「ッッッ!!」


 どくん、どくんと心臓の音が大きくなっていく。
 反比例でもするように、周りの音が聞こえなくなっていく。
 いつの間にか僕の視界は床に近づいていて_______


 _______刹那、ガタリという音とともに僕は床に倒れ伏した。

Re: ストライド・バンド!! ( No.10 )
日時: 2016/05/15 10:26
名前: Cookie House (ID: l.IjPRNe)


第四話 拒否


 「八咲君!!」
 気が付けば、私は大声を出して合わせを中断させていました。
 ゴトリと鈍い音を立てて突然倒れた八咲君は、過呼吸気味に苦しそうに息をしています。
 隣でエレキを弾いていた栄倉君が、丸まって横を向いていた八咲君の体を仰向けに直すと、顔は青白く今にも死にそうな病人を思わせました。
 「なんだ、何故急に倒れたんだ!」
 有馬先輩がポニーテールを振り乱しながらわけが分からないといった声色で駆け寄ります。
 夏目先輩と村瀬君も少し遅れて駆け寄りました。
 「何があったの」
 村瀬君が冷静に話しかけます。
 「なんか……っ、俺が歌い出したら急に倒れて……!」
 顔面蒼白の栄倉君が必死に事情を説明しますが、慌て過ぎて何が言いたいのかまるで伝わってきません。
 「他には思い当たることないの」
 「思い当たること……い、いや、わかんねえ」
 「ふーん、じゃあ栄倉の所為かもね」
 村瀬君が冗談にならないような冗談をかまし、栄倉君が「俺っ?!俺の所為?!」と更に慌てふためきます。
 一方の村瀬君はというと、肩を叩きながら「大丈夫ー?聞こえるー?」と冷静そのものに八咲君の意識確認をしていました。
 やけに手馴れている村瀬君の手つき___実家はお医者さんか何かなのでしょうか___に皆も安心したのか、夏目先輩が立ち上がって「先生を呼んできます」と音楽室から遠く離れた保健室へ向けて駆け出しました。
 「……それにしても、何故こんな風に……」
 有馬先輩があごに手を当てて、一番の疑問を吐き出しました。
 「アレルギーか何かでしょうか?ハウスダストとか」
 私がそういうと、
 「いや、その可能性は低いと思うよ」
 と、八咲君が呼吸しやすいようにあごを持ち上げていた村瀬君が答えました。
 「湿疹もかぶれも出ていないし、呼吸困難に陥ってはいるけど喉も腫れてないし」
 続けて村瀬君が私に聞きました。
 「八咲君、何か薬飲んでたりした?」
 「いえ……特に何も」
 「じゃあ持病の可能性も低いか」
 本格的にお医者さんになり始めた村瀬君がつぶやく声を掻き消すように、バタバタと廊下から足音が聞こえました。
 「先生、はぁっ、つれてきました!」
 メガネのわりに運動は出来るのでしょう、夏目先輩が早くも帰還して、八咲君が連れて行かれます。
 「……にしても、本当に何があったんでしょう……」
 後に残ったのは、そんな疑問だけでした。


Page:1 2



この掲示板は過去ログ化されています。