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2人のダミー 【完】
日時: 2016/04/30 10:04
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

人気俳優の添田徹は、明日にも仕事を控えている。

しかし、その前日になって、

「添田が誘拐された!?」


マネージャーの加藤が一日限り世話をすることになったのは、添田徹にそっくりな、二人の若者。

果たして彼らは一日で本物の添田徹となれるのか!?






とまあ、こんな感じのお話です。

気軽に読んで頂ければと思っているので、是非、時間があるときなどは寄っていってください^^


【目次】

第一話〜2人のダミー >>01

第二話〜着物の添田とチャラい添田 >>02

第三話〜添田徹になるために >>03

第四話〜二人の事情 >>04

第五話〜深夜の練習 >>05

第六話〜添田と徹 >>06

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Re: 2人のダミー ( No.2 )
日時: 2016/04/30 08:36
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

【第二話、着物の添田とチャラい添田】


だだっ広い空間にポツリと取り残された二人の添田徹は、怪訝な顔をしながら頭を突き合わせて相談していた。

「私たち、何かしましたかね」

「変な電話でもかかってきたんじゃないっすか?」

着物の添田は腕を組む。
目を閉じて何かを考えるような素振りをしてから、


「突然ですが、あなたは『しりとり』というものをご存知でしょうか」
と、チャラい添田を見た。

「知ってますけど、何すか?」

「いや、何故か、無性にあなたと勝負したくなってしまって」

「まあ良く分かんないっすけど、よし、やりましょう」


何を思ったのか、二人は練習室の床に、向かい合わせで座り込んだ。

「いきますよ」

チャラい添田は頷く。

「しりとり」

「リス」

「スリ」

「りんご」

「ゴマすり」

「り、ばっかりっすね」

「まだ勝負は始まったばかりですよ」

「く……」

二人は姿勢を正座に変えた。

「どうぞ」

「……リキュール」

「瑠璃」

「離乳食!」

「栗」

チャラい添田の顔が歪んできた。

「り、り、り………竜宮城!」

「瓜」

「うう……。あ、リボン!……あ」

着物の添田が、口元をにやりと釣り上げる。

「勝負あり、のようですね」

「『り』ばっかり使うからっすよ!」


ふふっと笑い、満足げな表情をして着物の添田は立ち上がった。

一瞬、その場が静まり返った後、いきなり勢いよく練習室の扉が開く。


「お前ら!」

加藤は、練習室全体に響く声で二人を呼んだ。

二人は顔を見合わせてから加藤を見る。

「何でしょうか」「ん?」


何故か呼吸が荒い加藤は、ハア、ハア、と息継ぎをしながら、さっきよりも大きな声で叫んだ。

「今から特訓だ!!」

Re: 2人のダミー ( No.3 )
日時: 2016/04/30 08:40
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

【第三話、添田徹になるために】


練習室を出て、いや、この建物を出て、しばらく考えてから、俺は「時間がない」という事を悟った。

社長の手にかかり、添田が見つからないなんてことは無いと、そう信じたいが、もしもの事がある。

あいつらを少しでもマシなものにすることは出来るかもしれない。


やってやろう、と決めた俺は、全速力で練習室まで走った。



「今から俺のことは教官と呼べ。いいな!?」

二人を置き去りにした練習室に入るなり、俺はそう言った。

着物を着た添田は戸惑いながらも「はい!教官!」と良い返事をしたが、チャラそうな添田は「何で」と疑問を投げかけてきた。

「お前らは、添田徹だ。今からお前らは添田徹になるんだ。俺がその為に手助けをしてやる」


二人は納得するどころか、顔をしかめる。

「なぜ私たちが添田徹さんになるんですか」
「ホントっすよ」


まさか、社長から話を聞いていないのか?

俺は頭を抱えた。

「もう何でもいいから、とりあえず俺の言うことをやれ」

ストレスのせいか、少しやけくそだ。


「まずお前」

俺は着物の添田を見る。

「俺はお前を今から“添田”と呼ぶ。お前は自分の事を『私』ではなく、『僕』と呼べ」

添田は動揺しながらも、応えた。

「分かりました、教官。わた——いや、僕は添田」

次に、チャラそうな添田を見る。

「お前は“徹”だ。あと、その『すかすか』喋るのをやめろ」

「徹っすか。分かったっす」

「それをやめろ」

「わ、分かった———でございます」


長い道のりになりそうだ。
まあ口調は後からでも間に合うだろう。

次は歌だ。

本物の添田は歌の評価が高い。

これがボロボロでは、ほとんど終わったとしか言い様がないのだ。



「お前ら、ふざけてんのか?」

彼らに歌わせてみると、もう、今度こそ頭を抱えることしかできなくなった。

発声練習の段階からやば過ぎる。

現実逃避だ。
ダンスに行こう。



「1、2、3、4、5、6、7、8」

数を数えるのに合わせて、ステップを踏む。

「よし、これをやってみろ。まずは添田」

「はい」

添田は正座から立ち上がり、俺の前に立った。

袖を少しまくり、深く息を吸って———。

「1!2!3!6———」

「ストップストップストップ!」

「へ?」

添田が動きを止め、素っ頓狂な顔を向けた。

「色んな事がめちゃくちゃ!何でいきなり数字が飛んだの!?」

「?」
と首をかしげる。

もう笑うしかない。

「はい帰って!次、徹」

添田が元の位置に正座になり、かわりに徹が来た。

かと思うと、唐突に踊りが始まる。

「1、2、3、4、5、6、7、8!」

「何だ、そのタコみたいな独特な動きは」

「オリジナルっす。あ、です」

「新しい要素を加える必要はないだろう」

俺は思わずため息を漏らした。



「……もう駄目だ。悪いが、お前らにはできない。わざわざこんな事に付き合ってもらって申し訳なかった」

二人に頭を下げてから、背を向けて練習室を出た。

「待ってください教官!」


廊下を歩いている時に、添田と徹の必死な声に、引き止められる。

「頑張りますから、どうか最後まで付き合ってください」

「なんか、できる気がしてきた——です」



やる気はあるのか。


俺は無意識に腕時計を確認した。

午後一時。

やる気があるこいつらを、俺が放っておいてどうする。


「昼にしよう。特訓はそれからだ」

振り向きざまに言った。


「はい!」

添田と徹の、明るい笑顔が見えた。

Re: 2人のダミー ( No.4 )
日時: 2016/04/30 08:44
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

【第四話、二人の事情】


俺は近くのコンビニで弁当を買ってきた。

練習室の隣の小さな部屋で、三人でコンビニ弁当にありつく。


「せっかくだから、お前らの事を教えてくれよ」

ふと、そのことが気になり、弁当を見ていた視線を二人に向けた。

もう俺のことは、社長から聞いているはずだ。
現に、添田は俺の事を「加藤さん」と呼んだ。


期待の眼差しで二人を見ていると、何故だか添田の表情が曇り始めた。

「教官が聞きたいのはこんな事ではないでしょうけど、わ———僕の話を聞いていただけますか?」

急に、重い空気が流れ始める。

添田の訴えるような眼差しに、気付くと俺は「おう」と頷いていた。

「わた———僕には」

「私でいい」

「私には両親がいません。あまり詳しくは聞かされていませんが、父も母も、もうここにはいないらしいです」

寂しい笑顔を浮かべて語る添田の横顔が、物凄く切なく感じる。

「一人ぼっちでいるところに、あるおばあさんが手を差し伸べてくれました。おばあさんはとても良くしてくれて。その方にもらったのが、この着物です」

添田は自身がまとっている深緑色の着物を示した。

「交通事故で亡くなった、息子さんのものだそうです。あなたが息子に似ているからって」


一瞬、深いため息をついてから、添田の表情が明るくなった。

「ずっと一人で、頑張ろうと思えることもなかったから、だから、社長さんに声をかけられて嬉しかったんです。出番はなくても、せめて頑張ろうと思える事ができたから」

「お前ならできる。本物の添田が見つかったら、出番は俺が作ってやるよ」

「はい」

添田は満面の笑みで応えた。


「あの」

「ん?」

振り返ると、徹が椅子から立ち上がっていた。

「喋っていいすか」

「あ、ああ」



『そうだね』

ふいに徹がポケットから取り出した小さなクマのぬいぐるみが、無機質な声でそう言った。

「何だ、それ」

「相棒っす」

「喋るのか」

『そうだね』

クマが答えた。

どうやら『そうだね』くらいしか言葉のレパートリーはないようだ。

「はあ……。ホントはもっと喋れたんすけどね」

「ほう?」

「“イクラ食べたい”とか“世界征服!”とか」

逆に、そうだね、だけでいいのではないか。
徹はクマのぬいぐるみを右手の人差し指にはめ、俺の顔の前でくねくねさせた。

『そうだね、そうだね、そうだね』

「こわいこわい」

もはや可愛いというより恐怖を感じる。


「俺は人と話すのが苦手なんっすよ。どうも上手く気持ちを伝えられなくて。でもコイツなら、何を言っても“そうだね”って共感してくれる」

『そうだね』

徹の顔は、嬉しいのか悲しいのか分からないような表情だった。

「俺の言葉で相手を傷つけたこともありました。そのときから、何だか言葉が怖くて」

徹が俯いた。

「教官にも、相手に気持ちを伝える難しさは分かりますよね」

俺は黙って頷く。

「俺がこんなだから、だんだん周りから友達が減っていったんです。もう、何もかも嫌になってきて」


気が利かない俺には、何と声をかけたらいいのか分からない。

だが———。

「大丈夫だ。誰にだって苦手なことくらいある。今ここで、お前はやれる、ということを証明しないか。俺もとことん付き合う」

徹が顔を上げる。
俺の顔を数秒見つめてから、微笑んだ。

「頑張るっす」

Re: 2人のダミー ( No.5 )
日時: 2016/04/30 08:51
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

【第五話、深夜の練習】


昼から、現在深夜一時まで練習し、添田の方は、歌がマシになってきた。

本物にはやはりかなわないが、前よりは大分上手い。

しかし、ダンスはへっぽこのままだ。

未だに謎の動きが抜けない。


徹はダンスが踊れるようになった。

オリジナルの独特の動きが改善して、かっこいいと思える域だ。

だが、相変わらず歌声はすごい。悪い意味ですごい。


こうなったら、歌うときと踊るときに分けて二人を出すしかない。

練習室で、疲れ果てて倒れこむ二人のもとに、俺はしゃがみこんだ。

「添田、お前は歌担当だ」

「は……はい……教官」

「徹、お前はダンスだ。できるな?」

「……オッケーっす。……です」

二人共、呼吸を整えながら応える。

頑張れよ、と声をかけたところで、ポケットの携帯が鳴り出した。

「はい」

『あ、加藤くん?』

「社長!」

『良かった、徹君が見つかったよ』

………は?

「そ、添田が見つかった!?」

二人が俺を見上げる。
何となく俺は少し二人から離れた。

「見つかったって……添田、明日のライブは出れるんですか?」

『そんなひどい事はされていないようだ。出れるよ。良かったな、サポートを使うことにならなくて。まだ仕上がってなかっただろう』

俺は携帯を握りしめた。

「添田と徹はどうなるんですか」

『は?添田と徹?』

「ああ……。添田のサポートは、もういらないんですか」

『そういうことになる』


俺は電話を切った。

ただただ悔しい。


携帯をしまってからも、俺は二人と顔を合わせられなかった。



ふと、添田と徹の明るい笑い声が聞こえてきて、驚いて振り返る。

「良かった。添田さんが見つかって」

「俺らが出ることにならなくて良かったっすよ」


泣きそうな顔で笑っていた。

練習室に、二人の悲しい笑い声が響く。


「お前ら、それでいいのかよ」


俺は怒鳴った。

「この終わり方でいいのかよ!」

「だって!!」

徹が叫ぶ。その後に聞こえてきたのは、彼の嗚咽だ。

「もうどうしようもないじゃないっすか」
『そうだね』


「そうですよ」

添田の声も潤んでいる。

「また一人に戻る。それで終わりなんです」


練習室に静寂が訪れた。

色々な思いが重なって、胸が苦しい。



「———ここでやろう」

俺はかすれた声で言い、二人を見た。

「お前らの集大成を、俺に見せてくれよ」

精一杯微笑んだ。


二人とも顔を見合わせ、頬を涙で濡らしながら、大いに頷いて笑った。

Re: 2人のダミー ( No.6 )
日時: 2016/04/30 08:57
名前: マル彦 (ID: 21zier3A)

【第六話、添田と徹】


「添田、ちょっと待て」

「はい」


ライブが始まる直前、俺は誘拐事件から解放された添田に声をかけた。


「お前がいない間、頑張ってた奴がいるんだ。社長の喧嘩に巻き込まれて大変だっただろうけど、今日は自分の中で一番のものにしてほしい」

添田と徹の努力を背負って、と心の中で付け足した。


添田は、よく分からない、といった表情を一瞬見せたが、すぐに笑顔になって、
「頑張ります」
と大きな声で言った。




やはり本物の添田は凄かった。

添田と徹の二人の努力の結晶と同じくらい、輝いて見えた。


決して二人の出し物は上手い!と言えるようなものではなかったが、それでも、俺の中では最高に綺麗なものとして映っていた。



また、二人に会えたら、今度は添田と徹としてデビューさせてやりたい。


【完】


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