コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。
- 日時: 2016/11/24 18:12
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
「ボク、おとなになれるのかな__?」
「なれるよ、ふたりでおとなになろ?___」
「うん____!」
甘酸っぱい、幼い頃の記憶。
確かこの日はホタルがたくさん飛んでいて、二人で眺めていたよね。
小指を交えて約束したよね。
ほっぺにぎこちなくキスしあったよね。
だけど今は___会うことさえもできない。
- Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.10 )
- 日時: 2016/11/26 00:26
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
僕は躊躇しながらも、日張家のインターホンを鳴らした。
物音一つせず、この家は本当に人が住んでいるのかと心配になるほど静寂に包まれていた。
何気なく二回目のインターホンを鳴らしたとき、
「「僕」くん…。どうしたの?」
と見覚えのある、今から会おうとしていた人物の声だと直ぐに分かった。
歩未は買い物袋を提げている。買い物帰りなのだ。
僕はゆっくりと振り返り、
「やあ……」
とぎこちない作り笑いで、一週間以上振りに歩未と顔を合わせた。
白い頬が痩け、随分と食事を摂っていない印象を受ける。
僕の無神経な言葉で彼女はずっと傷ついて、食事も喉を通らないような状態だったのではないのか。
〈大丈夫?〉
この言葉はいくら喉の奥から出そうとしても、声にならずに消えていく。
歩未は僕が金魚のように口をパクパクと動かしていることに気付き、
「どうしたの?」
と必死に聞き取ろうとしてくれる。
こんなに他人を思いやる人物を、何故自分は大切にしなかったのか。
僕の身体は『罪悪感』に完全に支配され切っていた。
金縛りにあったかのようにその場を動けずにいると、歩未が何も言わずに近付いてきた。
そして歩未は僕の腕に触れ、無理に笑みを浮かべた。
「私が学校を休んだの心配して来てくれたの?……だったら、私、大丈夫だよ」
休んでいるのは、一昨日、突然亡くなった祖父の葬式に行っていたからだという。
葬式後の休みは心を落ち着かせるための休みだと、歩未は説明した。
- Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.11 )
- 日時: 2016/11/26 08:55
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
じゃあ、生命力が感じられないのは、祖父が亡くなったためなのか。
それだけではない、僕はそう感じた。
僕に無理に笑顔を向け、安心させ、早く帰らせようとしているのではないか。
僕は考えている内にネガティヴの極みの極みまで考えを巡らせていた。
「明後日には学校に行けると思うから……じゃあね」
歩未が短く手を振り、ドアの中へと消えていく。
その一瞬に僕は歩未の手を掴んでいた。
歩未には会ったときから、どことなく彼女の面影を感じる。
そのせいで何でも、彼女に重ねて見えてしまうのだ。
ドアの中へと消えそうになったのは、正真正銘、『歩未』のはずだが、僕には『彼女』が消えてしまうような気がして、咄嗟に掴んだのだ。
「きゃっ」ドアの向こうに短い悲鳴が聞こえる。
歩未は手を掴んだのは僕だと言うことに気付き、再度ドアの外へと出てきた。
何を聞けばいいのか、僕は一瞬迷った。
だが、訊く内容は直ぐに決まった。
僕は歩未の全部を見透かすように歩未の目を見据え、言った。
「日張は、誰か大切な人を失った事があるのか」
- Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.12 )
- 日時: 2016/11/26 11:31
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
歩未は傷ついた顔をし、目に涙を浮かべた。今にも泣き出しそうな、悲しい顔。
「……何でそんなこと聞くの…?」
涙目でそう問い掛けられ、僕は罪の意識に苛まれた。
聞かなきゃ良かったか。
だが、僕はもう覚悟が出来ている。
僕は歩未の目を見て、言った。
「この前、「僕と永遠に隣にいれるのか」って聞いたとき、日張、「居れるなら居たい」って言ったろ?…あれ、僕に向けた言葉じゃないと思ったから」
歩未は俯いていた。
拳を潰れそうなほど強く握り、歩未はゆっくりと顔を上げた。
「そうだよ……「僕」くんに向けた言葉じゃないよ……。」
ボロボロと目から流れ落ちる涙。
歩未は泣きながら、僕に話し始めた。
歩未には「連城和人」という幼馴染みがいたこと。
その幼馴染みに恋い焦がれていたこと。
十四歳の時に和人が後天的心疾患を発症し、突然死したこと。
歩未の口から出る、残酷な程の人生に同情を通り越し、自分が経験したような気持ちになった。
語り終えた今も、歩未は声を抑えて泣いている。
「何で……何で、和人が……」
歩未の涙に濡れた顔を見、耐え切れなくなった僕は歩未を優しく抱き寄せた。
驚いた歩未だったが、僕の背中に腕をまわし、「和人、和人、」とかつての幼馴染みを呼びながら声を上げて泣き始めた。
- Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.13 )
- 日時: 2016/11/26 11:55
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
数分後、ようやく泣き止んだ歩未は僕から離れて、
「「僕」くんの服、濡れちゃったね……替えの服持ってくるから、待ってて」
と言い、今度は本当にドアの中へと消えた。
僕は歩未をこんなにも傷付けていたのか…。
僕は虚ろな目でガラスの外を見た。
豪雨ともいえる凄まじい雨が降っており、道の所々に池のように深い水溜りを作っている。
歩未の話を聞いている最中は一切気付かなかったが、ガラスに当たる雨はパチパチとすごい音をたてている。
この雨が僕と歩未の辛い思い出を全て流し去ってくれればいいのに。
僕と歩未が出逢ったのは、神様の意地悪としか思えない。
二人は出逢い、互いを傷つけ合い、過去を振り返らずに、共に前へ進んでいく。
神様は何故、僕らを引き合わせたのだろうか。
僕らが出逢わなかったら、傷つかずに済んだのに……。
僕はそう思いながらも、口には出さなかった。
この出逢いは大切なこと、大切な人を見い出すために用意された"運命"だと思ったからだ。
- Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.14 )
- 日時: 2016/11/26 13:31
- 名前: REI (ID: 4NzAaWKB)
翌日、僕は歩未と登校をした。
二人は教室のドアの前まで来たが、歩未が止まり、教室の前でウロウロとしていた。
「入りたいんだけど、足が重くて……」
歩未はそう言い、唸りながら頭を抱えた。
その時、後ろから来た左隣の男子生徒が、
「ドアの前に立たれると、邪魔」
と言ってきたので、二人はサッと横に退け、
「どうぞ」
とその男子生徒を中に促した。
男子生徒はムスッとしたままドアを全開にし、中へ入っていった。
それに続き二人も入り、無事に第一関門をクリアした。
もしかしたら男子生徒は入りやすいようにしてくれたのか。
僕は左隣の男子生徒に声をかけ、出来る限りの笑顔で、
「ありがとう」
そう言ったのだが、男子生徒は「は?」と冷たい視線を返してきた。
あっ…違ったんだ…。
謝罪をしようと思ったが、男子生徒はイヤホンをし始めたので、止めた。
僕は休んでいた分の勉強をやろうと考え、教科書を広げた。
「「僕」くんも勉強するんだね。どこまで行った?」
歩未に話しかけられ、教えると、
「早いね、「僕」くんって頭が良いんだね」
と褒められた。
すると、隣の男子生徒が突然舌打ちをし、ちぎったノートの紙に殴り書きをした。
その紙を「ん」と言いながら僕に渡し、紙を開くと、
『七瀬一平。覚えとけ』
と筆圧の強い字で書いてあった。
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