コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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愁い顔のキミは、空を仰ぐ。
日時: 2016/11/24 18:12
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


「ボク、おとなになれるのかな__?」



「なれるよ、ふたりでおとなになろ?___」



「うん____!」


甘酸っぱい、幼い頃の記憶。

確かこの日はホタルがたくさん飛んでいて、二人で眺めていたよね。

小指を交えて約束したよね。

ほっぺにぎこちなくキスしあったよね。



だけど今は___会うことさえもできない。

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Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.5 )
日時: 2016/11/24 21:10
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


僕はその箱を鞄にしまい、両親の元へと戻った。

その後すぐに帰ることになり、鳥居を出た時、僕は彼女と二人で座った階段を振り返って見た。

彼女が微笑みながら、僕を呼んでいるような気がしたからだ。

だが階段にあるのは落ち葉だけで、彼女のいた痕跡すらない。

本当に彼女と僕は話したのだろうか。

僕の作り出した妄想ではないのか。

……もともと彼女という存在すらなかったのではないのか。

でも肩にかけている鞄の重みが、彼女が存在したという事実を痛いくらいに知らせている。

夢でもいいから、会いたい……。死んでもいいから、会いたい……。

こんなに愛しく想っても、彼女は気付きもしないのだろう。

いつの間にか彼女に対して腹を立てていた。

僕は天地を超えて彼女が好きなのに、彼女はそれに応えてはくれない。

普通の片想いではない。僕はもうこの世にいない彼女に恋い焦がれているのだ。

僕は彼女にはもう一生会えないし、話すことも、笑い合うことも出来ない。

だけど僕は今も彼女が好きだ。

Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.6 )
日時: 2016/11/25 22:34
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


彼女を失ってから引きこもり気味になった僕は、転校せざるをえなかった。

そして九月の末の今日、転校先のクラスメートと初めて顔を合わせる。

教室の皆の前で緊張しながらも深呼吸をし、息を吐くように言った。

「「僕」です。よろしくお願いします」

自分でも無愛想と自覚するほどの短い自己紹介を終え、僕は指定された席に着いた。

変な時期での転校なので、クラスメートの何人かが小声でささやきあっている。

〈嫌だな…。〉

そう思った時だった。

「私ね、日張歩未!宜しくね、「僕」くん」

元気よく言ったのは、前の席の女子生徒。握手を求めてきている。

面倒臭いと思いながら、僕は歩未と握手を交わした。

Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.7 )
日時: 2016/11/25 22:59
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


それからというもの。

僕は彼女以外の友人は要らないというのに、歩未はひっつき虫のようにずっとついて来る。

転校してきてから約一ヶ月。僕は階段下で歩未に言った。

「僕は独りが好きなんだ。もう付きまとわないで欲しい」

自分でも驚くぐらいに、最低な言葉が喉の奥から出てきた。

僕は歩未を見つめたまま、彼女の反応を伺った。

歩未は少し俯いた状態のまま、時が止まったかのように、一切の反応をしない。

大丈夫?、そう声をかけようとした時、歩未は不意に顔を上げた。

好奇心に満ちた潤んだ丸目に、爽やかに上げた唇の端。

彼女は笑っていた。

僕は唖然とし、しばらく歩未を見つめていた。

そんな僕の頬をつついた歩未は、再度、悪戯に笑った。

「私、ずっと「僕」くんの隣にいるよ」

僕は失ったはずの彼女に言われているような気がした。

それがどんなにいいものか。

僕は心でそう呟き、いつまでも見てくる歩未を突き放すように訊いた。

「ずっと?僕が死んでも"永遠"に隣にいれるのか」

彼女の隣に居れない自分自身の悲しみを歩未にぶつけるように……。

Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.8 )
日時: 2016/11/25 23:26
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


あの日、歩未に八つ当たりをして以来、僕は一週間以上学校を休んでいる。

両親には体調が優れないという仮病をつかっていて、休んだ日は一日中毛布に包まっている。

毛布に包まりながら考えているのは、あの日の歩未のことだった。


「ずっと?僕が死んでも"永遠"に隣にいれるのか」

自嘲にも似た笑みを浮かべながら、僕は歩未に問い掛けた。

歩未は必死に頭を働かせるように、視線を忙しく左右に動かした。

普通の人なら疑問にも思わずに、簡単に「うん!」と首を縦に振っていただろう。

だが歩未は、生きるか死ぬかの決断を迫られた時のように深刻な顔をし、必死に答えを探していた。

そしてやっと、

「居れるなら居たいよ、ずっと」  

と涙目になりながら言った歩未は、突然どこかへと駆け出してしまった。  


その時の歩未の表情と言葉は、僕に向けたものではないと分かっていた。

歩未も大切な人を失ったのではないのか。 

僕は学校にも行かずにずっとこの事を考えていた。

大切な人を失った悲しみを胸の奥にひた隠し、表では明るく接してくれていたのだ。

そんな歩未に僕は最低な事を言ってしまった。

僕は布団に包まったまま、その日の半日以上、ずっと頭を抱えていた。

そして日にちが変わった午前零時。

一番傷ついたのは歩未だという一番肝心な事実を僕は今、思い出した。

Re: 愁い顔のキミは、空を仰ぐ。 ( No.9 )
日時: 2016/11/26 00:02
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


翌日、僕は一週間以上振りに学校への登校を試みた。

それは何もかも歩未のためで、きちんと謝罪をするべきだと思ったからだ。

僕が平然な顔をして教室に入ると、皆が一斉に僕に顔を向け、転校初日のように小声で話し始めた。

僕は他人の目なんか気にする余裕もなかった。

とにかく歩未をと話すことだけが、学校に来た理由だったからだ。

だが、僕の前の席に歩未の姿はない。  

チャイムが鳴る寸前に時間をずらし、登校して来たので必ずいると思っていたのだ。

僕は心配になり、あまり僕に興味がなさそうな左隣の席の男子生徒に訊いてみた。

「あの、日張さんって……」

「お前と同じタイミングで不登校になって、それからずっと来てねえよ」

理由を聞きたかったが、予想以上にぶっきらぼうに言われ、

「ああ……そうなんですか、ありがとうございました…」

と引く他なかった。

だが、その無愛想な男子生徒が時々僕をチラチラと見ていたことに、僕は気付かなかっ
た。

歩未のいないその日は給食後、直ぐに早退し、付きまとわれた時に呪文のように教えら
れていた歩未の家へと向かった。

「青い屋根に、白い壁……ここかな」

記憶だけを頼りにやって来た。

近付き、「日張」という表札を見つけ、僕はホッと胸を撫で下ろした。



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