コメディ・ライト小説(新)

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初恋デッドライン
日時: 2021/04/21 22:53
名前: わらび餅 (ID: Jf2bTTLH)

はじめまして、わらび餅と申します。
小説を書くのは初めてではないのですが、この名前では初投稿です。至らぬ点はあるかと思いますが、よろしくお願いします!


腐女子の主人公が、初恋の彼とその親友に悶えながらも頑張る話。


※読む前に
*恋愛ものです
*主人公(♀)が腐女子です
*BLものではありませんが、そういった表現(主人公の妄想等)があります
*基本コメディですがシリアスもはいります
*亀更新


以上のことをふまえ、オールオッケーという方のみお進みください。








*登場人物
・渡辺
・田中
・鈴木
・町田






*目次

・プロローグ >>1
・1話「田中くん」 >>2-13
・2話「戦という名のデート」 >>14-15

Re: 初恋デッドライン ( No.6 )
日時: 2021/03/22 03:14
名前: わらび餅 (ID: DIefjyru)

 メッセージを打ち終わって、スマホの電源を落とした。なんだか妙に疲れた気がして、ため息をつきながら校門によりかかった。
 渡辺さんには悪いことをしたなぁ。今度なにか奢りということで許してはくれないだろうか。......まあ、多分、怒ってはいないと思うけれど、あの子だから。
 なんとなく、彼女なら許してくれる気がする。根拠なんてないし、最近会ったばかりたけど、彼女は優しい。どうしてかこんな自分を好いてくれて、真っ直ぐに気持ちをぶつけてきてくれる。少し気を遣いすぎるところもあるけど、そこも彼女のいいところだ。
 好奇心で始めた『遊び』のつもりだったが、少しだけ楽しんでいる自分がいる......ような気がする。
 
 だというのに、どうしてこうなったのだろう。
 
 
 渡辺さんと約束をして、そのままなんとなく授業をサボって、屋上の風に吹かれながら睡眠時間をたっぷりとった後の放課後。
 渡辺さんを迎えにいこうとしたその時、スマホが、着信を伝えるバイブのせいでふるりと震えた。嫌な予感にまゆを潜めつつSNSのアプリを開くと、案の定。
 見ず知らずの人間から届いたメッセージ。
 
 『鈴木のことで話がある、校門で待ってろ』、と。
 
「......はぁ」
 
 彼女のクラスへ向かおうとしていた足は回れ右、重いからだを引きずって渋々校門へ向かった。
 
 そして現在に至るわけだが。
 
 遠くから聞こえてきた不快な雑音に目を細める。
 それは確実にこちらに近づいてきている。ああ、嫌だな。せめて顔はやめて欲しいものだ、あとで鈴木が面倒くさい。そんなことを思いながら、ニヤニヤと近づいてくる集団に視線を向けた。どこの制服だろう。顔も知らないやつらばかりだ。まったく、鈴木に用があるのなら本人に直接言ってほしい。
 まあ、そんな勇気があるなら俺のところになんて来てないいのだろうけど。
 
「お前が田中か?」
 
 リーダー格のような、ガタイのいいかなりいかつい顔をした男がずいっと詰め寄ってきた。
 ちょっと近い近い、パーソナルスペースを守ってくれよ。
 
「......そうだけど、君誰? 何の用?」
 
 少しだけ怯えたような声を意識して尋ねる。そうすると、相手は俺を小物だと判断し余裕がうまれる。こんな女のような見た目でも充分役に立つものだ......ただし初対面限定で。
 狙い通り、男は嫌な笑みを浮かべてきた。
  
「まあまあ、とりあえずこっから離れよーや。鈴木の昔話でもしようぜぇ?」
 
 がしっと無遠慮に掴まれた肩に、太い指がくい込む。手加減というものを知らないのかなこの男は。
 下品な笑い声があちこちから聞こえる。しかしまあ、随分ぞろぞろと連れてきたな。ざっと数えて十人ってとこか。最近動いていなかったから、少しきついかもしれない。ああ、色んな人の視線がぐさぐさと......最近は細々と生きていたのに、台無しじゃないか。
 
 
 まあ、とりあえず。
 
 
 ......スマホ変えるか。個人情報漏洩よくない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 チンピラ共に連れてこられたのは、人気のない路地裏。まさにいかにも、な場所のチョイスに思わず笑ってしまうほどだ。そこまでテンプレ通りになぞらなくてもいいものを。
 
「呼ばれた理由、わかってんだろ? お前、鈴木の友達なんだってなぁ?」
「そう、だけど」
「あいつにさぁ、俺のダチが世話になってよお......こっちもお返ししねえとなぁって思ってなぁ......お前が人質になってくれりゃあ、あいつも大人しくきてくれるだろぉ?」
 
 随分と律儀で友達想いないい青年だ。甘ったるくて反吐がでそうなくらい。
 
「......はは」
「......なに笑ってんだ、頭いっちまってんのか?」
 
 そうだな、随分前におかしくなったかもしれない。
 
「お前みたいに大勢でかからないとびびって来れないやつなんかの相手、鈴木がするわけないだろう?」
 
 そう言ってにっこり笑ってやると、男は怒りで真っ赤になりながら胸ぐらを掴んできた。
 制服が伸びるからやめてほしい。シワになったらどうしてくれるんだ。
 
「調子に乗んなよてめぇ!」
「怒るってことは図星かな? 仇討ちだかなんだか知らないけど、無関係の俺を巻き込まないで欲しいなぁ。わざわざ人質って、まあいい手ではあるけどどんだけ弱いの君たち......っ!」
 
 腹に一発。胃が抉られるように男の膝がめりこんだ。こらえきれずにひきつったような咳がでる。
 蹴られたら痛いし殴られれば血がでる。痛いのも怖いのも嫌なんだ、俺は。
 
「くだらねぇこと喋ってんじゃねぇぞクソが。てめえは黙って鈴木呼べばいいんだよ」
 
 まだ、まだだ。まだ足りない。
 
「......だから、さ。呼んだところであんたらが勝てるわけないって言ってんの、わかんないかなぁ。大人しく地面に這いつくばってればいいじゃ......っ!」
「這いつくばんのはてめえだよっ!」
 
 二発、三発。二発目は顔面、三発は鳩尾みぞおち。たえきれず地面に倒れ込むと、あらゆる方向から何度も何度も体中を蹴られる。痛い、痛い痛い痛い。せりあがってくる胃液。血反吐がでそうなほど蹴られた腹や背中。多分、というか確実に痣になってるだろうな。
 痛みで霞んだ視界に、取り巻きのやつらの手に鉄パイプが握られたのを確かにみた。
 
 もう、いいか。
 
 再び自分の体を蹴ろうと降ってきた足を、片手でがしりと掴んだ。予想外であろう俺の行動に攻撃が止んだすきを狙って、掴んだ手に思いっきり力をこめる。足払いならぬ手払いのように、もう片方の手を地面につきながらぐいんっと横に振り回す。さすがに寝ながらじゃきつい......!
 
「うわっ!?」
 
 見事バランスが崩れて倒れてくれた男に、何事かとほかの奴らの視線が集まる。これ幸いと、ゆっくり立ち上がる。ああ、痛かった。
 
 けど。
 
「やっぱり、あんたらじゃ鈴木には勝てないよ」
 
 
 
 会う前に、俺に負けるんだから。



「だから大人しく、這いつくばってればよかったのに。ね?」

Re: 初恋デッドライン ( No.7 )
日時: 2016/12/28 15:13
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: MuN5clNF)



 ご無沙汰しております。お言葉に甘えて突撃しにまいりました(*´ω`)
 スレが立てられた日から追いかけ続け、一コメをかっさらうというお久しぶりの展開です。どうか私の田中くん愛を語らせてください。

 渡辺さんが本当に可愛い。腐女子という属性が良い味だしております。
 「性別なんて!! 愛の前においては関係ないんですよ」はい、その通りでございます。おおおおお、渡辺さん分かっておる! と喜びの舞を踊りました。例え少し腐女子気味でも、純粋に田中くんのことが好きな渡辺さん。好きな人のすばらしさを力説する彼女の健気さははるた大好きでございます。あといきなりゲンド〇ポーズとか笑かさないで! 一人で大爆笑しました。あ、あとわんこ系後輩くんとドライ系先輩のラブコメは是非是非読みたいです、宜しくお願いします。

 はい、推し。私の大好きな大好きな田中くん。出てくるたびに女子高生に戻ったかのようにきゃーきゃー黄色い声を上げております。好き。
 プロローグの鈴木くんに対する「お前のために歌ってやったのに」が可愛すぎて可愛すぎて私はそこから田中くんへと沼り始めました。
 こう、色々とにおわせてくる田中くんの発言にときめかずにはいられませんで。田中くんと渡辺さんのラブを純粋に楽しもうとしているのに、田中くんと鈴木くんの関係に萌えを感じずにはいられない自分がいて、しんどい(語彙力の欠如)
 田中くんと鈴木くんの過去も気になりますし、田中くんのアクションシーンも最高ですし、「這いつくばって」とかこうなんか静かにSっ気を出している彼がはい、好きです。

 鈴木くんと町田さんもすごく好きです。
 ピアスのくだりとか可愛すぎて。田中くんの冗談が本当だっても良かったのにな、とか妄想を始めます。けど、もっと何か深い闇てきなものがちらりと覗いているのでそれも気になるところですね。
 町田さんの渡辺さんの溺愛っぷりも好きです。田中くんや鈴木くんに牽制する姿とか格好良すぎて。お嬢様って感じの清楚な言葉遣いとかパソコン前でいつも合掌してます。

 キャラ愛だけでも凄くなることが分かりました。
 ストーリーも気になることが多く、今後も楽しみにしていきたいです。田中くん格好良いしか言わなくなったら末期ですので、もう既に末期です、すみません()
 更新がんばってください、楽しみにしております。また、別作品も色々読んでますので(わらび餅ちゃんの作品全制覇してる勢)そちらの方にもコメントいきたいなぁと思ってます。

Re: 初恋デッドライン ( No.8 )
日時: 2017/03/08 01:09
名前: わらび餅 (ID: yGaMVBz.)

はるちゃん


わあああああお返事遅れて申し訳ないです......!!
コメント嬉しすぎてめっちゃ読みました。そりゃもう隅から隅までしっかりと。あんまり嬉しいから涙がちょちょぎれそうです。

腐女子キャラ初めてで上手く動かせるか心配だったので、そう言ってくださるととても励みになります......!腐女子っていうかほぼ私なんですけどね!思考回路とかそっくり!推しのことになると饒舌になるのは仕方ないんですオタクなんです。
わんこ系後輩とドライ系先輩は私も読みたいので、はるちゃんぜひお願いします私に萌えをお恵くださいませ。

田中は面白ければなんでもいい、みたいなところがあるので、鈴木をからかうのが大好きなんです。SかMかでいわれたらドSの部類ですね彼は。なので積極的に鈴木に絡んでいくので、そのたびに渡辺が大歓声を心の中で上げております。田中いるところに鈴木あり。そんな感じなので渡辺も恋心より先に腐女子心が出てきちゃうんですね。かっこいいって思ってくれて嬉しいです!

町田さん、最初はあんな辛辣な子じゃなかったんです。なぜか暴走した結果、渡辺モンペのラスボス的キャラになりました。なんでや。
鈴木と田中の昔話とか、それこそピアスの話も、町田さんの弟くんとかも、色々出したいな、と思ってます。出せたらいいな(遠い目)

うううありがとう......!私もはるちゃんのストーカーなので、作品にコメントしたいです!します!


コメントありがとうございました!

Re: 初恋デッドライン ( No.9 )
日時: 2021/03/22 03:16
名前: わらび餅 (ID: DIefjyru)

 さて、どうしようか。
 いきなり反撃してきた俺に一瞬びびったチンピラ共だけど、すぐに威勢を取り戻しアリのように群がってくる。突き出してくる拳やら鉄パイプやらを躱しつつ、これからのことを考える。
 一方的に殴れば手を出したこちらが悪くなるから黙ってやられていたわけだけど、散々殴られ蹴られまくったいまは倍返しにしても正当防衛と言い張れる。はず。痛いのも苦しいのも嫌だから、はやめに終わらせたいところだが。というか顔面殴ったやつはどいつだ、お前だけは潰しておきたい。お前のせいで鈴木にこのことがバレたらどうするんだ。
 とまあ、殴られることは予想していたので最初から正当防衛にかこつけてやる気まんまんだったのだが、どうにも気分が乗らない。人目もないし、悪いのはあっちだし、別にやったってなんの問題もないのだけれど。
 少し、ほんの少しだけ、怪我なんてみられたら、渡辺さんが心配するかもしれない、なんて。いや心配どころか泣いてしまうかもしれないなぁ、あの子のことだから。
 
 渡辺さんは、嘘が下手だ。思ってることが顔にでまくっている。だから、まだ出会って数日だけど、俺のことを本当に想ってくれて、憧れの眼差しを向けてくれているのがいやってほどわかる。わかってしまう。こんな俺にそんな気持ち抱いてくれるなんていっそ哀れに思うし、どうせ長続きしないだろうとも思っている。恋人になったのも面白半分だけれど、純粋に好きだと言ってくれる彼女に、汚れた部分は見せたくない......なんてかっこつけてる自分がいる。
 
 こんな俺をみたら、彼女は嫌うだろうか。
 
 
「お巡りさん! こっちです! こっちで喧嘩が!」
 
 
 思考の海に沈んでいた意識が、突然聞こえた大きな声で引き上げられた。
 お巡りさん? 誰かにみられてたのかっていうかまずいんじゃないかこの状況。待ってください俺はまだなにも......まあ一人ぶん回したけど殴ってはいないし余裕で正当防衛の範囲内だろう。なんなら殴られてできた怪我を見せつけながら同情を誘って__あれ、いまの声、どこかで。
 
「チッ! おいずらかるぞ!」
 
 俺とは違ってどう考えても言い訳できないチンピラヤンキー共は、声が聞こえた道の反対方向へ走り去っていった。逃げ足だけは早い......っておいおい鉄パイプ投げるんじゃないよ危ないだろうが。
 お巡りさんはどこだろう、と声が聞こえた方向に視線を向けると、そこにいたのは。
 
「......渡辺、さん?」
「だ、大丈夫でしたか田中くん! ああこんなに怪我が......! 血、血が!」
 
 俺の目の前には、目に涙をためて、パニックになりながらも怪我の箇所を触れずに確認していく渡辺さんの姿が。制服のままだから、帰らなかったのか。ああ、やっぱり、泣いちゃってる、なんて考えてしまう俺は、頭のネジが外れているのだろうか。

「え......なんでここに......」
 
 そう聞くと、渡辺さんは少し言いづらそうに視線をそらした。
 
「......えーっと......ですね......田中くんから連絡を頂いたあと帰ろうとしたんですけど、田中くんが校門でガタイのいい怖そうな人達に囲まれていたと聞いて、気になってついあとを......す、すみませんストーカー紛いなことをして......!」
「いや、助かった......けど、一人でつけてきたの? 何かあったらどうするの、あいつらだけとは限らないし、もし目つけられたら......というかお巡りさんは」
「あっ、お巡りさんは嘘です......どうしたらいいかわからず、口から出任せを......ですね......そんなことより田中くん、はやく手当てを!」
 
 普通は、あんな喧嘩みたら逃げるだろう。ましてや女の子で、なにされるかわからないのに。嘘までついて、俺を助けようとしてくれて。
 すごいなぁ、渡辺さんは。
 
「このくらい大丈夫だよ。......ありがとう、渡辺さん」
「大丈夫そうにはみえないんですが......でもびっくりしました。田中くんが喧嘩なんて」
「......怖くなった? 俺のこと」
 
 いくら渡辺さんでも、こんなやつとは付き合いたくないだろう。やっぱり別れたく__
 
「え? いえ、強くてかっこいいなぁと......ああでも、万が一田中くんになにかあったら、って思うと怖いので、あんまりしてほしくないなあ、と......」
 
 渡辺さんは、嘘が下手だ。
 嘘をつくときは挙動不審になるし、目も泳ぐ。けれどいまは、眼鏡の奥の瞳はしっかりと俺を映していて、声も震えていない。だからこれは、渡辺さんの本心で。
 その言葉に、酷く安心している自分がいる。
 
 ああ、なんだ。怖がっていたのは渡辺さんじゃなくて、俺じゃないか。
 
「......ありがとう」
「ぅえっ!? こ、こちらこそありがとうございます!」
「ふっ......ははっ......なんで渡辺さんがお礼言うの」
「な、なんででしょう......田中くんの新たな一面を見せていただいたから......?」
 
 やっぱり、渡辺さんはよくわからない。よくわからないけれど、面白くて、いい子だ、とても。
 
「......あ、助けてもらってあれなんだけどさ、このこと鈴木には言わないでほしいんだ。あいつ、自分のせいだって落ち込むと思うから」
「......えっ」
 
 ん?
 
「す、すみません......あの、もう連絡しちゃって......私だけじゃ不安だったから、ここの場所も......」
「......あー......」
 
 それは、ちょっと、まずいなぁ。
 とにかく、鈴木が来る前に逃亡を__
 
「おい! 田中ぁ!」 
 

 ......ああ、今日はいい天気だなぁ。

Re: 初恋デッドライン ( No.10 )
日時: 2021/03/22 03:13
名前: わらび餅 (ID: DIefjyru)

「あー、えっと、とりあえず落ちつこうか鈴木」
「あぁ!? ざけんじゃねえよくそ田中! お前やっぱり!」
 
 鬼のような形相で田中くんに詰め寄る鈴木くん。
 こ、これはもしかして、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。いやだって、田中くんがあんなに強かったなんて知らなかったし......! 鈴木くんなら喧嘩強そうだから、何かあった時のためにと呼んだのだけれど......!
 
「......何も無いって、言ってたじゃねえか! 大丈夫だって! ずっと、嘘ついてたのか」
「......大丈夫だったよ、今までも。今日だって別に、大したことじゃ」
「怪我! してんだろうが! 俺のせいだろ!?」
 
 田中くんの両肩を、鈴木くんの大きな手が掴む。鈴木くんはそのまま俯いて、消え入るような声で呟いた。その顔をみることは叶わない。
 
「......なんで、なんで言ってくれなかったんだよ。頼りないからか? まだ足手まといか?俺はまだ、お前の隣に」
「鈴木」
「俺は、そんなつもりじゃ」
「鈴木、違う。違うよ。確かに絡まれたのはお前が原因だけど、結局は俺のせいだから。お前をこんなところまで連れてきた、俺の責任だから。お前が背負うことじゃないし、気にすることでもないんだよ」
「けど!」
「......はは、なんつー顔してんの。らしくないなぁ」 
 
 顔をあげた鈴木くんをみて、困ったように笑う田中くん。そこには、いつもの余裕めいた笑みはどこにもない。 
 田中くんよりひと回り大きなはずの鈴木くんが、いまはなぜだかとても小さくみえた。二人のあんな顔、みたこともない。あんな声、聞いたこともない。
 ああ、私はきっと、ここには立ち入れないんだ。少しでいい、ほんの少しでも、一緒に背負わせてくれたら、なんて。
 贅沢な願いだ。
 
「それにさ」
 
 金の髪を、ぐしゃぐしゃとかき回す。鈴木くんは黙ってされるがままだった。
 
「お前が勝てた相手に、俺が負けるわけないじゃん」
 
 ふふん、と言わんばかりのドヤ顔を浮かべる田中くんに、鈴木くんはようやく笑顔を浮かべた。いまにも泣きそうな、下手くそな笑顔だったけれど。
 
「......うっせー。いまは俺のが強いかもしれねえだろ」
「どーだか。泣き虫なのも変わってないしなぁ」
「黙れくそ田中」
 
 やっと、いつもの二人だ。
 軽口を叩きあって、信頼を寄せあって。私が好きな......ううん、好きになった、二人だ。
 
 というか、あれ? もしかしていま、痴話喧嘩を見せられたのでは? 理由もなにもかもさっぱりだけど、二人の間にはなにかがあって、いまその事で揉めて、でも田中くんの溢れるスパダリと包容力でいつも通りに......
 
「......ああ静まりたまえ私の萌える心......!」
「ん? なんか言った? 渡辺さん」
「いいいいえなんでも! ないです! それより田中くん、手当てしないと!」
 
 私がそう言うと、鈴木くんもはっと田中くんの肩から手を離した。
 
「そうだった。ここからなら俺んちの方が近いな」
「えー、いや、大したことじゃ」
「んなボロボロな格好で言っても説得力ねえよ! おらさっさと行くぞ!」
「わかったわかった......あ、渡辺さんもおいでよ」
「はい! ......え?」
 
 思わず条件反射で答えてしまったが、今なんて?
 
「手当て、してくれるんだよね?」
 
 女神かと見紛う程の綺麗な微笑みに、首を縦に振る以外、私に選択肢は残っていなかった。


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