コメディ・ライト小説(新)
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- ある少女は、成長する事を拒むのです 。【終了】
- 日時: 2017/04/09 20:31
- 名前: SAKUYA (ID: z.RkMVmt)
どうも、皆さん初めまして!!SAKUYAという者です!!初の投稿となりますが、よろしくお願いします!!
今回は、学園モノを書こうと思っています。色々と不自然な点などあると思いますが、温かな目で見守ってくださると光栄です!
〜追記〜
2017:2:11 目次&キャラ紹介作りました。目次>>15 キャラ紹介>>16
2017.4.9 一旦物語終了 詳しくは>>24
〜第0話 はじまり〜
「学校なんて行きたくない。」
そう言ったら親は泣きそうな顔で私を説得させようとした。とても必死に。
「何よ、今まで私に興味示さなかったくせに。」
私はそう言って自分の部屋に引きこもった。それから二年半の間、私はずっと引きこもっていた。
「せめて高校だけは行ってちょうだい。」
引きこもってから一年半くらい経った頃、親が急にそう言った。どうせ高校に行ってもつまらないだけだと言ったが、入るだけでも良いと言われたので仕方なく近所の高校に入る事にした。不登校で暇だったので勉強する時間はたっぷりあったから、勉強には困らなかった。
「高校もどうせすぐに不登校になるよ。」
そう思いながら私は桜の木の下を通りすでに開けられていた校門を通った。
これからどんな高校生活が待ち受けているかは私は分からなかった。また現実から逃げてしまうかもしれない。いや、絶対そうなるに違いない。
でも、もし。奇跡が起きるのだとしたら。こんな私にでも運命の女神様は微笑んでくれるのだとしたら。
『友達』をつくりたい。楽しい時間を、過ごしたい。
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.5 )
- 日時: 2016/12/21 20:54
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第5話 素直になりたい〜
私は、やよいちゃんに返事もせずに走り出していた。
思い出したくも無い、忘れていたはずの過去を思い出してしまった。二度と、思い出したくないって思っていたのに。
これから学校を見て回ろうと思っていたが、とてもそんな気にはなれなかった。
私は学校を出て、家へと向かった。
やよいちゃんには酷い事をしてしまったな…。
でも、良い。今回の件で分かった。やよいちゃんのおかげで、分かった。
友達という言葉を聞いただけでこんな気持ちになってしまう。私にはもう、友達をつくる資格など無いんだ。もう、私には友達なんてできないんだ…。
「さぐりん…。」
何か私酷い事をしてしまったのでしょうか?そんな気はまったく無かったのですが…。
友達を作りたいだけだったなんですが…。
やっぱり、私に友達はできないんでしょうか?高校に入ったらいっぱい友達を作ろうと決めていたのに。
「どうしたんだ?こんなところで止まって。やよい。」
後ろから声をかけられたので振り向いたらそこには幼馴染のレイ君がいました。
「…何でも無いですよ。レイ君の方こそ、何してるんですか?もうとっくに帰ったと思っていましたよ。」
レイ君は家庭の事情で家事を全て担当しています。だから、中学の時もいつも早く帰っていました。そのせいで、あまり友達と呼べる存在も少なかったようですが…。
「ああ、そうだ。お前が知っている訳ないけど、三組の水原って知らないか?忘れ物しててさ。筆箱。」
「水原ってさぐりんの事ですか!?」
「さ、さぐりん!?た、多分な。学級委員で一緒なんだよ。ちなみに、俺らの中学にいたぞ?」
ビックリです。レイ君がさぐりんと知り合いだったなんて。
そういえば、レイ君って中学の時に一年生の頃女友達が一人だけいるって言ってましたけど、そこまで偶然は重ならないですよね。
私はさぐりんの事が知りたくて、レイ君に質問しました。
「さぐりんって、どういう子なんですか?私、さぐりんと友達になりたいんです!」
「俺今あいつ探してるからあんま詳しく言えないけど、あいつ中学の時不登校だったんだよ。一年生の時半年だけはきてたけど、急に来なくなったんだ。多分、その頃親友と喧嘩しただとか言ってたけど、それが関係してるかは知らないな。でも、友達関係の事だってことは間違いないと思うぜ。」
不登校。
さぐりん…。あなたも、苦しかったんですね…。
…無理に友達になろうとした私が馬鹿でした。私も、友達を作ろうとして必死でした。あなたの事、考えてもいませんでした。
すみません。あなたに、謝りたい。
でも、あなたの事を知った今でも。わがままかもしれないですけど。
あなたと友達になりたい!!
「もうすぐ12時だなー、あいつの家に直接筆箱届けに行こうかな?こんだけ探してもいないからどうせ帰ってるだろうし。」
「レイ君!是非、私も連れてっていって下さい!」
「ええっ!?まあ、良いけど。友達になりたいんだろ?じゃあ、目合わせて話した方が良い。その方が、想いは伝わると思う。」
本当、レイ君はたまに良い事を言います。これで私生活が完璧だったらモテたと思いますけどね。
って、今はそんな事良いです!
さぐりん、待っていて下さい!今、あなたの家へ行きます。目を合わせて、私の想いを、全部届けます!!
そして、あなたと友達になります!!
「…二年ぶりか、あいつの家に行くのは。」
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.6 )
- 日時: 2016/12/22 18:39
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第6話 第一歩〜
私にはもう友達なんてできない。
私は帰ってきてから家にいた妹に何も話しかけず部屋にこもった。妹が何か話そうとしていたが、無視して部屋に入った。
それから30分は経っただろうか。相変わらず私はベッドに寝転がっている。
明日、やよいちゃんには謝らなければいけないな…。
そう思いながら、ベッドから起き上がりお茶を飲もうと歩き出した。
何でだろう。さっきから、頭の中に須原の姿が思い浮かぶんだ。
私の事を必要だと言ってくれた、あいつの姿が。
あいつは、『友達』なんだろうか?
いや、違う。『友達』では無いと思う。
そもそも、『友達』ってなんだろう?もう私には、そんな事を考えても意味は無くなってしまったのだけど。
お茶をコップに汲み飲み干してまた部屋へ行こうとしたその時、インターホンが鳴り響いた。誰かが、家に来たようだ。
私は、玄関へと行きドアを開けた。そこには、須原とやよいちゃんの姿があった。
「須原?それにやよいちゃん?どうしてここに…。」
私が質問すると、須原は答えた。
「俺はお前が筆箱学校に忘れていったから届けに来たんだよ。ほい、筆箱。」
そう言って須原はカバンの中から筆箱を取り出し私に手渡した。私は、ありがと、と言って受け取った。
「でも、なんでやよいちゃんまで?」
「ああ、こいつはお前に話があるんだとよ。俺の役割はここで終わりだ。またな。」
須原はそう言って立ち去っていった。
やよいちゃんが、私に用がある。
やっぱり、怒っているのだろうか?謝った方が良いのだろうか?
私が考えていると、やよいちゃんは口を開いた。
「あのね、さぐりん。私、レイ君から全て聞いたよ。やよいちゃんが、不登校だった事。それが、友達関係の事なんだって。ごめんね、無理矢理友達になろうとして。」
やよいちゃんは頭を下げて謝った。そんな、私の方が謝らなければいけないのに。
そうか、全て知られちゃったか。でも、不登校になった理由は知られていないようだ。
「でもね、さぐりん。それでも、私はあなたと友達になりたい。あなたの境遇を知った今でも、あなたと友達になりたい!」
やよいちゃんは、なぜ私なんかと友達になりたいんだろうか?
断られる可能性が高いこの状況でも、なぜこんなに恐れも無く私を友達にしようとしてくるのだろうか?
理由は、わからない。
やよいちゃんが私と友達になりたいと思ってくれていることは、本当に嬉しい。
でも、私には友達をつくる資格がない。
ごめんね、と言おうとしたその時、やよいちゃんは話し出した。
「実は私もですね、いじめにあってた時期があったんです。それで、何度か挫けそうになりました。」
やよいちゃんが、いじめられていた?
こんなに明るい子がいじめられている場面なんて、想像もつかない。一体どうして…。
「当時、仲が良かった子がいました。ある日、その子に遊ぼうと誘われたのですが、その時は急いでいたので返事をせずに帰ってしまいました。その以来です。私が、いじめられるようになったのは。」
…。
私は、言葉も出なかった。
「本当に酷い事をされ続けました。もう不登校になろうか…。そう思った時に救ってくれたのが、レイ君でした。」
…須原が、やよいちゃんを救った。
なんと無く、予想はつく。あいつは、そういう人を見かけたら動いてしまうような人だから。
中学の時、そうだったから。
「レイ君のおかげで、私に対するいじめは無くなりました。それ以降、彼は私の支えになってくれました。さぐりんには今、支えとなっている人がいないんだと思います。」
確かに、そうだ。
昔から、私の支えとなってくれる人はいなかった。唯一私の支えとなった人も、私を裏切った。
私を支えてくれる人なんて、今までいなかった…。
「なら!私があなたの支えとなります。」
私の支えとなる人。そんな人ができたら、嬉しい。
やよいちゃんが今、私の支えになってくれると言っている。でも、どうしてそこまでやよいちゃんはするの?
こんな私に、どうして?
「そして、さぐりんにも私の支えになってもらおうと思います。」
「え?」
想定外の発言にびっくりしてしまった。
私が、やよいちゃんの支えとなる?
そんな事ができるの?
そもそも、なんで私がやよいちゃんの支えに?
「共に支え合い、生きていける存在が友達だと私は思うんです。今、あなたには支えとなる人がいない。そして、私には支えとなる人はレイ君しかいない。そのレイ君に、私は支えになってあげる事ができない。私とレイ君は友達じゃなくて、ただの幼馴染です。だから、本当の友達が欲しい。」
やよいちゃんも、友達が欲しいと願っていたんだ。
私と一緒で。
「さぐりん!わがままなのは分かっています!でも、お願いします!私と、友達になってください!」
やよいちゃんの中での『友達』は、『共に支え合っていける存在』だ。
私が、やよいちゃんを支えていける自信なんてない。
私の中の『友達』がどういう存在なのかも、分からない。
でも、友達になろうと言ってくれている人が今いる。
あれだつくる資格がないと嘆いておいたくせに、今はなぜだか喜んでいる自分がいる。
これからどうなるかなんて分からない。
また、『裏切られる』かもしれない。
でも、やよいちゃんは私を裏切ったりしないと思う。
こんなに、明るくて、前向きなやよいちゃんだから。
そんなやよいちゃんが、私と友達になりたいと願っている。
私は、なんて贅沢な人間なのだろう。
『あんたが友達を持つ資格なんて無かったのよ。』
ううん、そんな事ない。
過去の事に未だに取り憑かれている私。
一度忘れはずの、過去。
今、完璧に忘れてしまおう。
そして、新たな一歩を踏み出そう。
少しずつだけど、これから変わっていこう。
あの楽しかった日常を、もう一度体感できるように、私自身が変わっていこう。
これはその、第一歩だ。
「よろしくね、やよいちゃん!」
「ただいまぁ。」
俺は今家に帰ってきた。
扉を開けると、妹のみなみが出迎えてくれた。
「おかえり、お兄ちゃん!ところで、今日のご飯は何?私、ハンバーグが食べたいな!」
ハンバーグ、か。そういえば最近全然食べてなかったな。
「よし、じゃあ今日の夕飯はハンバーグだ!」
「わーい!お兄ちゃんありがとう!じゃあ、買い物行こ!」
みなみは準備を始めた。まあ、準備と言っても着替えるくらいなのだが。
俺、須原レイは妹と二人暮らしをしている。
俺が小学五年生の時からだ。
「そういえば、やよいちゃんと須原はどういう関係なの?」
私はやよいちゃんが帰る前に一つだけ質問をした。
やよいちゃんは、笑顔のまま答えた。
「レイ君とは幼馴染なんです。小学校から今まで、ずっと。さぐりんとも、同じ中学だったんですよ?」
「え!?そうだったの!?」
恐らく、一年生の時同じクラスでは無かったはずだ。そうか、やよいちゃんと中学一緒だったのか。
「レイ君とは家が隣なんですけど、ある時から多く接するようになったんです。」
「ある時?」
私が尋ねると、やよいちゃんは突然暗いような顔をして答えた。」
「レイ君は、小学五年生の時、両親を亡くしているんです。」
「え…。」
「それから私が家事を手伝うようになったんですけどね。最近はレイ君家事を一人でこなせるようになって、家に行くことは少なくなりました。たまに、妹のみなみちゃんと一緒に遊んだりするんですけどね。」
今まで、私は苦しい思いをしてきた。
けど、多分須原は、その苦しみを、超えるほどの、苦労をしてきたと思う。
あいつが、両親を、失っている…。
「レイ君のお父さんは作家でした。最後に書いた本は、爆発的な人気を起こしました。本来、その本は続編がある予定でしたが、作者が亡くなってしまったため、続編は無いままです。」
「作家…。」
「その本、さぐりんも読んでみたらどうですか?いい本ですよ。多分図書室に置いてあると思います。確か、本の名前は…。」
妹が準備できたので、出発する事にした。
玄関を出ようとした時、何かが落ちたような音がした。どうやら、妹が何かを落としたらしい。
「ああ、落としちゃった。友達から貰ってた本なのに…。」
「どうして貰った本持っているんだ?」
「面白かったから、暇な時いつでも読みたいんだ〜!ほら、この本だよ。」
人間のシルエットが書かれていて、題名が赤い字で書いてある。
間違いない。その本は…。
「この本の作者、私のお父さんなんだって!いやあ、私のお父さんは面白い本書ける人だったんだね!」
本の名前は…。
【ある少女は、成長する事を拒むのです。】
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.7 )
- 日時: 2017/01/01 18:04
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第7話 竜胆 たつき〜
「おはようございます、さぐりん!」
「あ、おはよー。やよいちゃん。」
登校している途中に、やよいちゃんと信号の前で会った。いや、ここで待ち合わせをしているから当たり前の事なのだが。
やよいちゃんと友達になってから1週間が経った。あれから私達は一緒に登校している。
家は近くなかったけど、お互いの通学路の途中で合流できるのがこの信号の前なのだ。
やよいちゃんとは、友達として上手くやっていけてるとは思っている。
色々楽しく喋れているし、休日に大型ショッピングモールで遊んだりもした。
このまま、友達として末長くやっていけたらいいなぁ。
こんな感じで、やよいちゃんとの関係は上手くいっている。じゃあ、その他の関係は上手くいっているのか?という疑問が出てくるだろう。
まず、他の関係というものがまだ私にはない。
何故なら。
「今日も須原は休みだから、学級員の仕事また一人で頼むぞ、水原。」
あの男、須原レイはあの日以来学校を休んでいる!
やよいちゃん曰く、
「レイ君は体調崩しやすい子なんですよ。」
らしいが、何も1週間も休むほど体調を崩すわけがないだろう!?まったく、何したらそんなに体調崩したんだか。
そんなこんなで、私はここ1週間学級委員の仕事をほぼ一人でやっている。そのせいで、クラスの人と喋ったりすることが出来ないのだ。そりゃあ、やよいちゃん以外の友達なんて出来ないよ。
さて、ほぼ一人でやっていると言ったのだが、実は学級委員の仕事を手伝って来やがる厄介な男が約1名いるのだ。
「今日も大変そうだねぇ、水原さん?手伝おうか?」
…噂をすればだ。放課後学校に残って書類をまとめていた私のもとに、ある男が現れた。
「…一人でできるから。だから手伝わなくていいよ、葉山君。」
葉山トオル。今、私の隣の席の男。
別に、何回も話したわけではないのだが、私はこの男が苦手だ。
何故なら、ナルシスト臭が漂って仕方がないからだ。
カッコつけようとして行動しているのが、丸見えなのだ。そんな男が隣の席だったら、誰でもうんざりするだろう。
「もう、その量一人でやるのは大変だよ、手伝ってあげるよ。」
そう言って、葉山は書類の半分を取った。
「だから良いって。あんたの力なんか借りなくてもこれくらい平気だから。」
私は、これ以上ないくらいの冷たい目で葉山を見て言ったが、葉山はそんな事を気にもせず作業を開始した。
「困っている女の子を見つけたら、手伝いたくなっちゃうでしょ?放っておくなんて、出来ないなぁ。」
うわ、クサイ!これ以上なくクサイ!
やはり、だめだ。この男はどうも好きになれない。こんな男がこれから先も隣の席だなんて、とても耐えられそうにはない。
けど、私は安心している。明日には、アレが行われる。
『席替え』だ。
「ほーい、席座れお前ら。さて、さっそくだが今日は席替えしちゃうからな。」
えー!?なんでいきなり!?
俺あの席がいいな〜。
私このままでいい〜。
教室中が、ざわめいた。驚きの声や、願望など、様々な声が行き交っている。
私か?私は当然、感動している。
あの、あの葉山と!遂にオサラバできる!ああ、ありがとう、神様!!いや、先生!!
「席はクジ引きで決めるぞ〜。はい、さっさと出席番号で引いていけ。」
クジ引きで決めるということに反論した生徒もいたが、無理矢理先生は意見を押し通しクジ引きで決めることに決定した。
私は、早く自分の順番が来る事を願っていた。
さあ、記念すべき席はどこだ!?
「はい、これで決定な〜。」
席が、決まった。
決まってしまった。
「隣じゃないけど、今度は斜めだね。またよろしく、水原さん!」
何でだ〜〜〜〜!?
神様、いや、先生!!どうしてあなたは私をこんな男とまた近づけた!?いや、隣ではない。確かに隣ではなくなった。でも、こんなの隣の席にいるのと同然だ。ああ、最悪だ。また、あの男のクサイ台詞を毎日耐えて行けなければいけないのか…。
そういえば、隣の席はどんな人なんだろう?葉山に気をとられ過ぎて気づいていなかった。
隣を見ると、ちょうど隣の席の男子と目があった。
瞬間顔を背けられた。
…は?
突然顔を背けられたら誰だって困惑するだろう。いや、悲しくなるだろう。
なんで、初対面の人にいきなり嫌がられなければいけないのか。私の心は、深い暗闇に沈んでいった…。
「ってか、お前まだ女子苦手なの?加納。」
私が暗闇に現在進行形で沈んでいる間に、葉山と私の隣の加納と呼ばれている男が会話を始めた。
「と、当然だ。僕の女性恐怖症は、多分一生かかっても治らないさ。」
…女性恐怖症?噂には聞いていたが、まさか本当に実在したとは。
私は少し安心した。私が嫌で顔を背けたわけじゃないんだな…。
暗闇のどん底から這い上がって来ようとしている私の事なんか知らないだろうが、二人は会話を進めた。
「まったく、せっかくの高校生活、そんなんじゃ楽しめないぞ、加納!?」
「うう、僕だって治したいとは思っているさ。でも、どうしても無理なんだ。女性を見ただけで、吐き気に襲われめまいがしてきて頭痛も激しくなるんだ。それなのに、目なんか合わせてしまったら、この世の終わりだ…。」
この世の終わりだ。
その言葉が私が暗闇から戻って来られる光を全て断ち切った。
そんな事を男子に言われたのは初めてだ。ショックを通り越して、いや、やっぱりショックだ。
暗闇に完全に堕ちてしまった私に、私の前の女子が急に話しかけてきた。
「ごめんね、この二人大変でしょ?葉山トオルと加納オサム。昔からの付き合いの私でも耐えられないわ。私、竜胆たつき!よろしくね、水原さん。」
ああ、普通に喋れる女子だ。よかった、こういう子が近くにいてくれて。
暗闇が少し晴れた私に、竜胆さんはさらに話を進めた。
「そういえば、水原さん。趣味ってなんかある?例えば、読書とか!あと、読書とか!」
やけに読書を推してくるな。多分、読書が好きなんだろう。
ああ、読書か。不登校の間はやる事がなかったから本を結構読んでいたな。好きといえば、好きか。
「私、読書結構好きだよ。」
そう答えると、満面の笑みで竜胆さんは私に語り始めた。
「おお、私も好きなんだ!ねえ、水原さんはどの小説家が好きなの?ちなみに私は言わずと知れた有名作家、南川シロウさん!あの人の書く小説はどれもすてき!シンプルな文章に、色んな意味を込めて書いてらっしゃる。あの人の本は、想像力を豊かにしてくれる!あ、ちなみにシロウさんのオススメの本は『南を向いて』だよ!この本は、ものすごい売れたんだよ。この本でシロウさんを好きになったっていう人がめちゃくちゃいるくらい!是非、読んで見たほうがいいよ!それとね、他にもオススメの小説があるんだ。えーっとね、いっぱいあるからどれをオススメしようか迷うな〜。『水色のガラス破片』とかどうかな!?あとは…」
だめだ。話が頭に入って来ない。多分一度話したら止まらない性格なんだろう。
このまま聞いてても頭に入って来ないし、疲れてしまう。
最近は、読書なんてしてなかったな。今日、放課後図書室に寄ってみようかな?気になる本もあるし。
学級委員の仕事は、昨日全部終わらせたからいいや。まったく、須原のやろう。今日も休んで。いつになったら来るんだろう?
「…っていう感じで、どれもこれもいい作品ばっかなんだよ〜。どう?読んでみる気にはなった!?」
…まだ話してたんだ。めっちゃ汗かいてる。必死だなぁ。
「ま、まあ。読んでみたいかな?とは思った、かな…。」
「本当?じゃあ、今日放課後一緒に図書室に行こうよ!」
というわけで、私は今図書室にいる。竜胆さんも一緒だ。どうやら南川シロウという小説家の小説がまとめられているコーナーにいるようだ。
私は、ある本を探し出した。ある本の題名は、
『 ある少女は、成長する事を拒むのです。』
須原のお父さんが書いたという作品。やよいちゃんが、是非読んでおいたほうが良いと進めてきたので、探している。
私は、図書室中を回ったが、なかなか見つからなかった。
「広すぎ、図書室…。」
なぜかこの学校、図書室だけは相当広いのだ。こんなに図書室にお金をかけるなら、もっと他の場所にお金をかけたほうが良いのに…。
ブツブツ言いながら本を探していたら、竜胆さんが本を数冊持ってこちらへ寄ってきた。
「オススメの本、いっぱい持ってきたよ!是非、読んでみて!」
「う、うん。分かった。」
本を受け取ったが、相当重かった。
よくこんなに本を持って私のところまで来れたな、竜胆さんは。
私は一旦竜胆さんからもらった本を机の上に置き、再び本を探し始めた。
しかし、いつになっても本は見つからない。本当に、そんな本図書室に置いてあるのだろうか?
その時、チャイムが鳴った。
「あ、水原さん。もう学校から出ないといけない時間みたいだよ。もう帰るね。じゃあ、明日感想聞かせてね!」
そう言って竜胆さんは図書室から出て行った。
この量を、一晩で読めってか。なかなか無茶を仰いますな、あの人も。
しかし、目的の本は見つからなかった。また、明日探すか。
明日須原が来たら、須原に直接聞いてみよう。
その本が、どんな本なのか。
私は本を抱えて図書室から出た。
「重っ!!」
…とりあえず、今はこの本達を運ぶ事に集中しよう。
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.8 )
- 日時: 2017/01/08 17:23
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第8話 母親〜
「どうだった?シロウさんの本は?面白かったでしょ?絶対面白かったに違いないでしょ!?」
朝、教室へ入るといきなり竜胆さんが話しかけてきた。私は、適当に流して鞄を片付け始めた。
私は今、圧倒的寝不足なのである。
竜胆さんから昨日貰った本を読んでいたのだが、量が多いんだ、量が。本自体はそんなに長くなく、むしろ短編集と言った方がいい本が多かった。
問題なのは本の量!まったく竜胆さんめ、あんな量を読みきるには、24時間読み通しても時間が足りないって。まあ、じゃあ読まずに寝れば良かったじゃないか、と。意外に面白かったんだな、これが。
今まで読んだ中でも、一位の称号を与えてもいい程の本ばかりだった。まさか、あそこまで面白いとは思っていなかった…。
と、そんなこんなで一晩中本を読んでいたため、一睡もしていない!
こりゃあ、今日は授業中は寝てしまうな…。
そう考えながら、私は鞄をロッカーに片付けに行った。
さあ、場所は変わってここは図書室。昨日に引き続き図書館である。
竜胆さんから貰った本はまだ全部は読み終わっていないのだが、半分は読み終わったので返しにきたのだ。
今は昼休み。今まで昼休みは学級委員会だの何だので潰れていたのだが、今日からは昼休みも自由時間になった。ああ、良かった。このまま昼休みが無かったらとんでも無いことになっていた。
昨日は放課後だったからあまり、というか私と竜胆さん以外誰もいなかったけど、今日は賑わっている。図書室の中は人だらけだ。
本を返してさっさとこの暑苦しい空間から出よう、と返却本スペースへ行こうとしたその時、後ろから突然肩を叩かれた。
「さーぐりーん!奇遇ですね、こんな所で会うなんて!」
「や、やよいちゃん!」
肩を叩いてきたのはやよいちゃんだった。
やよいちゃんも借りていた本を返しにきたらしい。私達は本を返して、図書室内に設置されている机へ向かった。
やよいちゃんとは毎朝登校しているが、今日は一緒に登校できなかった。私が時間を気にせず本を読み続けていたせいで、待ち合わせの時間に間に合わなかったのだ。申し訳ない。
そういえば、やよいちゃんに聞きたいことがあったんだった。
「そういえばさ、須原ってまだ学校来れないの?」
須原はまだ学校に来ていない。今日で10日目だ。
「あ、レイ君は大分体調回復したみたいですよ〜。明日には来れそうだって言ってました。」
「ふーん。1週間以上もかかるほど重病なのかね?あいつは。」
「良くあることですよ、レイ君は病弱ですから。」
あいつが病弱ねー。なんか信じられない話だ。
とりあえず、明日来るならあの本の事も明日聞いてみよう。
あ、あの本を探そうと思っていたんだった!すっかり忘れていた…。
でも今は図書室混んでるし、放課後でいいかな?あ!今日は放課後学級委員会だったんだ…。やけに学級委員会多くない?この学年…。
じゃあ探すのも明日でいっか。ん?そういえば明日って…。
「あ、さぐりん。明日土曜日でした!レイ君来るのは月曜日ですね。」
そうだった。明日は土曜日か。何しよっかなー?何にもする事ないしな。竜胆さんから貰った本を読みまくるか。
「明日空いてる?水原さん!」
教室へ戻るといきなり竜胆さんが話しかけて来た。朝も教室入ったらいきなり話しかけられたな…。
「あ、うん。空いてるけど。」
「良かった!じゃあ、一緒に遊ばない?」
「え?」
遊ぶという言葉を久しぶりに聞いた。ずっと不登校だったから、誰とも遊ばずにいたから。
それよりも、どうして私と?何で私を誘ったんだろう?
遊ぶという事自体に抵抗はないが、同級生と一緒に遊ぶという事は長らくしていなかったので、緊張してしまった。
「え?べ、別にいいけど…。ど、どうして?」
噛みながらも竜胆さんに理由を聞くと、竜胆さんは私の肩を掴んで理由を答えた。なんかすごい形相で。
「同じ読書好きという事で、仲を深めておきたいの!図書室においていないシロウさんの本も紹介したいし!」
同じ読書好きとしてか。どうやら私は竜胆さんの中で相当の本好きというランクに格付けされてしまったようだ。
竜胆さんと遊ぶ事はいいのだが、友達のやよいちゃんとも遊びたいな。
そう思っていたら、チャンスがいきなりやって来た。
「それで私ね、他の子も呼びたいの。だから、水原さんも誰か呼んで来ていいよ!」
こんなに物事が上手く進んで良いのだろうか?まあ、せっかくのチャンスだ。無駄にはしない。
やよいちゃんを誘っておこう。
そういえば、竜胆さんの連れて来る人って誰なんだろう?
「竜胆さんって誰を呼ぶの?」
「ん?ああ、加納と葉山だよ。」
「へ!?」
加納と葉山?女と目が合っただけで世界が終わる加納と女にカッコよく見せようとしているナルシスト葉山!?
…今更断るわけにもいかないし、はあ…。
私はため息をつきながら、竜胆さんと集合場所などを決め始めた。
「じゃあ、明日の正午、北梟駅前集合で!」
明日は何だか荒れそうな気分だ…。
「ふー、三冊目読破!この本も面白かったなー。」
独り言を呟きながら、時計を見た。
夜の11時30分。明日に備えてもう寝ておいたほうがいいだろうか?
やよいちゃんは快くオーケーしてくれた。
「さぐりんと一緒に遊べるなら、他の人がいても結構ですよ!」
先週の休日遊んだばっかだけどなぁ、やよいちゃんと。まあ、いっか。
お風呂に入ろうと部屋のドアを開けたら、ちょうどお母さんが仕事から帰って来て玄関で靴を脱いでいた時だった。
「…おかえり。」
そう言って私は早々と風呂へ向かった。いつもならこれだけで済んだのだろうが、今日はお母さんが私を止めて話しかけて来た。
「…ちょっと話があるわ。リビングまで来てちょうだい。」
お母さんと面向かって話すのは何週間ぶりだろうか。もともと父親がいないためお母さんが働いているから家にはあまりいないのだが、家にいる時でもあまり話さない。私が不登校になってからは、お母さんとは上手くやっていけていないのだ。
「…どう?今の学校は。」
「…普通。」
楽しくないわけではないが、適当に返事をした。
私が素っ気もなく返したせいか、お母さんは少し怒り気味で喋って来た。
「もう不登校にはならないでちょうだい。もう嫌よ、あんたが部屋に引きこもっているのは。」
いちいちこういう言い方をするから、この人を好きになれない。
「ほっといてよ。私がどうなったって関係ないじゃん。」
「関係ないって何よ!?」
すぐこうやって叫びだす。だから嫌なんだ、この人と話すのは。
「関係ないじゃん。お母さんだって私の事どうとも思ってないでしょ?」
「そんな訳ないじゃない!」
「じゃあ何で私に声をかけなかったの?」
この人は、不登校になった私に何も聞かなかった。どうして不登校になったのか、何が学校であったのか…。聞いてくれなかった。
あの頃の私は、やよいちゃんのいう支えとなる人が欲しかった。悩みを聞いてくれて、相談に乗ってくれる人が。
でも、そんな人はいなかった。学校はおろか、家族すらも。
「それは…。」
「言い訳なんて聞きたくない。どうせお父さんも私の事なんか興味なかったんだろうね。家出てっちゃったんだから。」
「お父さんの事は悪く言わないで!!」
急に声を荒げて叫んで来た。お父さんの悪口を言うと、すぐこうなる。
何よ、お母さんだってお父さんに捨てられたじゃない。こんなに庇う必要、ないはずなのに。
「お父さんはね、あんたの事を思っていたのよ。家族の事を第一に考えていたのよ。そんなお父さんのことを、悪く言わないで。」
家族を第一に考えていた?家族を捨てて家を出て行った人が、か。呆れて物も言えない。
こんな家族が、私は大嫌いだ。
「もういいでしょ?桜も起きちゃうし、もう話はやめよ。」
「…。そうね。話しかけてごめんなさいね。おやすみなさい。」
そう言ってリビングから離れていった。
学校は、上手くいっている、と思う。
でも、家族は、もうどう頑張っても、上手くいかないと思っている。
それでいい。学校のことさえ上手くいっていれば、家族なんてどうでもいい。
家族なんて、血の繋がっているだけの、ただの他人だ。
「あの子とも、うまく接する事は出来ない。私、もう限界よ…。」
『大丈夫だ。お前なら大丈夫。俺がいなくても。それより、桜は元気か?』
「桜桜って、ちょっとはさぐりの事も見なさいよ!あなたがそんなんだから、あの子はああなってしまったのよ…。」
『あいつがああなったのは俺のせいじゃない。何でもかんでも人のせいにするな。』
「やっぱりあなたは変わらないわね、出て行ったあの日から…。」
『…桜の事を教えてくれないんならもういい。切るぞ。』
「っちょっと待っ…。」
「…ごめんね…。さぐり…。」
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.9 )
- 日時: 2017/01/14 12:36
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
こんにちは初めまして、ましゅと申します。
全話読みました!
水原さぐりさんの「ある事件」とは何なのか……すごく気になります!
また彼女が変わっていく姿とか、家族関係に悩む姿……すごく引きこまれて、もう小説の中に入り込みたいくらい(笑)
とても面白いです!(*^_^*)
これからも更新楽しみにしています(*・・)/~~