コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- アイネと黄金の龍 【完結】
- 日時: 2019/03/21 10:38
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xJyEGrK2)
初めまして、四季といいます。
こちらの板に投稿させてもらうのは初めてです。どうぞよろしくお願いします。
本編 >>01-11
「小説家になろう」の方のサイトにも投稿させていただくことにしました。一応連絡として書いておきます。
- アイネと黄金の龍 ( No.9 )
- 日時: 2017/04/13 17:20
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Oh9/3OA.)
八話「決断の時」
「覚悟しなよ!」
巨体から発される耳をつんざくような声。いつものソラと同じ声のはずなのに、とてもそうは思えない。
龍となったソラは伯母を凪ぎ払おうと長い尾を振り回す。あんなのがまともに当たれば即死は免れないだろう。巻き起こされる風だけでも嵐のようだ。伯母は恐怖のあまり涙目になって逃げようとするが、慌てているせいで足が絡まる。何度もつまずいて転けそうになっていた。
「ソラ!止めて!」
あまりに憐れに逃げ回る伯母がさすがに可哀想になり、ソラを制止しようと声をかける。
「……アイネ」
黄金に輝く巨大な龍の青緑色をした宝玉のような瞳が私を見た。
「待っていて。あんな酷いやつは僕が始末してあげる。アイネを傷つける者は許さない」
冷ややかな声で言うソラ。私は首を横に振る。
「お願い、止めて」
伯母のことは好きではないが死んでほしいというほどの憎しみがあるわけではない。
「……何を言っているんだい?君はあんなに嫌がっていたじゃないか」
ソラは長い首を伸ばして逃げる伯母の服の襟を軽く噛むと、空高く持ち上げる。
「私を育ててくれた人なの!だから殺さないで!」
可能な限り大きく言ったが、伯母を殺すことに執着してしまっている彼には聞こえていないようだ。
「暴れるのは止めて!」
私が再び叫んだ時、ソラはようやく動きを止めた。青緑の瞳が微かにこちらを見る。私は視線を合わせて頷く。
するとソラはくわえていた伯母を地面に落とし、金の粉を舞わせながら人の姿に戻った。
「い……一体なんなの……」
地面に落とされた伯母は疲れきった顔をしている。幸い、酷い怪我はないようだ。
良かった、と思った瞬間。安堵して気が緩んだのか足がよろけ転けそうになる。倒れかかった私を人の姿に戻っているソラが支えてくれた。
「しっかりして」
青緑の透き通った瞳が不安の色を湛えている。ソラの手が私の手を包む。とても温かい。
「……ソラ。平気よ。私は、ちょっと……眠たいだけ」
身体が妙に重たい。もうそろそろ死ぬのかもしれない。この時になってようやく受け入れることが出来た。
「駄目だよ、アイネ。こんなところで。絶対に駄目だ」
悲しそうな面持ちで何度も繰り返す。
「こんなの……どうして!」
ソラが苦しそうに漏らした刹那、背後にいた伯母が口を開いた。
「貴方のせいよ。貴方が無理させたから、アイネの命が縮んだのよ!」
よくもそんなことを言えるものだ。目の前にいる悲しんでいる者に対して追い討ちをかけるようなことを言うなんて、この上ない卑怯者。
「すぐに去れ。さもなくば、次は殺すぞ」
ソラは恐ろしい形相で伯母を立ち去らせると、こちらに向き直り、悲しそうに顔を歪める。
「僕のせいなの?僕が君を不幸にした?」
「……違うわ。ソラは何も……悪くないの……」
何とかしてそれを伝えたかった。
ソラに罪はない。誰が何と言おうが彼は悪くないのだ。彼は私の勝手に付き合ってくれていただけ。
「そんな悲しそうな顔をしないで。私は大丈夫だから……」
その時は迫ってきていた。自身に残された時間がほんの僅かだということが手に取るように分かる。
ただ、私はもう死にたくないと嘆くことはなかった。何もかも諦めて生きてきた私が、この生涯のうちで奇跡的に唯一愛したソラ。彼の腕の中で死んでいくのなら一番幸せな道だろうと思える。
私はそっと目を閉じた。湖のほとりで二人で過ごした、とても楽しかった日々が蘇る。そして、あの夜、黄金の龍に乗って見て回った景色。
「アイネ。僕はもう迷わない」
薄れゆく意識の中、ソラの小さな声を聞いた。
「君を救う。例えそれが禁忌だとしても」
気付けば私は見たことのない世界に立っていた。
真っ白な空間にただ一人。なのに寂しくはない。ぼんやりと暖かく、心地よい優しい風が吹いている。
何が起きているのかよく分からぬまま立っていると金色の粉が穏やかに舞った。手を伸ばしてみるが掴むことは出来ない。やがてそれは人の形となる。
「……ソラ?」
私は思わずぼやいた。
美しい金髪、整った顔、そして青緑色をした透き通った瞳。その姿は、どこからどう見てもソラだった。
「……私は死んだの?」
一番に尋ねる。
「いいや。君は死なない」
目の前の彼は首を横に振りながらそう答えた。
「君は生きてゆける。僕の命を与えたから」
言いながらゆっくり笑みを浮かべるソラ。私は信じられない思いで彼を見た。
「どうして……それは禁忌だって言っていたじゃない。禁忌を犯せば永遠に闇の中にいなくちゃならなくなるって、前に教えてくれたでしょ?」
ソラは静かに笑みを浮かべたまま、私の問いに答えることはせずに歩き出す。どこへ向かっているのか分からないが、私は彼の背を追いかけるように歩いていった。
長い長い道のりは、全てが真っ白だった。埃一つない、白以外は全くない世界だ。もちろん色もない。退屈で、でもどこか心が癒される。私はしばらくの間、そんな道を歩いた。
- アイネと黄金の龍 ( No.10 )
- 日時: 2017/05/05 22:24
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: oBSlWdE9)
九話「その先の未来へ」
ふっ、と目が覚めた。
私は目覚めはあまり良い方ではない。だがこの時は、やけにすっきりとした爽やかな目覚めだった。
今どこにいるのか。眼球を動かしてみても把握出来ない。とにかく周囲を見ようと思い身体を起こす。そしてその時に、私は驚きを感じた。驚くぐらい身体が軽い。身体の奥底から力がみなぎる。
あちらこちらを目を凝らしてよく見てから、いつもの湖畔だということに気付く。そこまでなって、私はようやく思い出した。
確か死にそうになって……ソラが命を……。
すぐに足下へ視線をやる。
そこには憔悴しきった顔で倒れているソラの姿があった。
「大丈夫!?」
慌てて手を握ると、彼は音を立てず静かに顔を上げた。
「あぁ……アイネ。良かった。成功したんだ……」
ゆっくりと話すだけなのに、呼吸が整わない。余程疲労していることが窺える。
「……これ返すよ」
そう言ってソラが胸元から取り出してきたのは水晶玉。八の字の印が刻まれている。あの日私が湖に落としたものと同じ水晶玉だ。
「どうしてこれを?」
「……君はずっと探していたよね。あの日から……ずっと。返すの……遅くなってごめん」
ソラは水晶玉をそっと私の手に乗せ、そのまま手を優しく握る。彼は人間ではない。なのに手の温もりは確かに人間のそれと同じものだった。
「あの日から、って?」
「……十年前の雨の日だよ。君はこの水晶玉を探そうとして湖へ落ちたよね……」
彼が言っているのは恐らく、母に叱られ家を飛び出したあの日のことだろう。
「僕は君を助けた。でも……、これを渡すことは……出来なかった」
青緑の静かな瞳に、一粒の涙が浮かぶ。水晶玉のようなその涙は頬を伝い落ちた。
「あの日、私が見た金色の龍。それは貴方だったのね」
誰に話しても幻を見たのだと馬鹿にされたこと。だが、あの日の私が見たものは幻覚ではなく、確かに本物だったのだ。
——と、その時。
横たわっていたソラの姿が薄れてくる。透き通る、というのが正しい表現かもしれない。いつもの金色の粉になる時とは違う。繋がれていた私の指が彼の指をすり抜ける。輪郭が見える程度で、もう触れることは出来なくなってしまった。
「ソラ、貴方は死なないのよね?不死なのよね?」
透き通った彼の影は穏やかな表情でそっと頷く。
「どうして私を助けたの。永遠に闇の中で暮らさなくてはならないのは嫌だって、そう言っていたのに……」
ソラは柔らかな笑みを浮かべて私に視線を合わせ、一度だけゆっくりと首を縦に動かす。その顔には、悲しみなんてものは欠片もありはしなかった。
「アイネ、君に幸せになってほしいと思った。ただそれだけのことだよ」
こうしてソラの姿は消えた。それが私たちの交わした最後の言葉となってしまった。
「……ソラ。さようなら」
彼は死んだわけじゃない。だから、それが運命ならば、きっといつかまた出会える。私はそう信じて空を見上げた。
「きっと、またいつか会いましょう。私はずっと忘れないから……貴方と過ごした日々」
湖畔にはもう誰もいない。たった一人、私がいるだけ。
初めからそうだった。誰かと傍にいることなんて諦めて生きてきた。幸せとか温もりとか、そんなものはどうでも良かったはずなのに。
私は声をあげて泣いた。悲しかったの。ただひたすらに。けれど少しして私は涙を拭くと、私は立ち上がった。
今の私には希望が見える。ずっと遠くの未来まで、私は歩いてゆける。彼が自身を身代わりに私にくれた道。だから立ち止まっているわけにはいかない。無意味に時間を浪費している暇はないのだ。
「ありがとう。私、幸せに生きるわ。ずっと……、ずっとよ」
見上げた空は晴れていた。天まで届くような、無限に広がるような大空。まるで新たな人生の始まりを祝福してくれているかのような空だった。
私はあれから村を出て、旅を始めた。世界中を巡り知らないものに出会うのはとても楽しいことだった。本という文字だけではなく、この目で見て身体で触れられる本物の世界は、全てが刺激に満ち溢れている。胸のときめきは留まることを知らない。
旅先で私はいつも日記を書いた。文学的なんかではなくて、拙い言葉の羅列だけれど、この現在の感動を未来まで忘れないために記しておくのだ。そうすれば生の世界の感動を、僅かでも、いつでも体感することが出来るから。
やがて十年が過ぎた。
私は久々に村に帰り、そこで貸本屋を開いた。旅先で買ってきた珍しい本を中心に貸すお店である。二十後半に差し掛かってまだ独り身ではあったが、毎日が楽しく充実している。村の子どもたちに絵本を読み聞かせたり、本好きの人と語り合ったり。これこそ自分の生きる道だと確かに実感していた。
そんな幸せな日常の中でも、少し切なくなる時がある。満月の夜だ。今住んでいる家の寝室の窓からは月がよく見えるのだが、満月の夜には、いつも不思議と胸を締め付けられるような気持ちに駆られる。そんな夜には水晶玉を握り夜空を見上げ、呪文のように呟く。
貴方は今、どこにいるの——?
- アイネと黄金の龍 ( No.11 )
- 日時: 2017/04/13 17:27
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Oh9/3OA.)
エピローグ
ある満月の夜、私は湖へと散歩しに行った。夜道は暗いが月明かりが足下を微かに照らしてくれるから困りはしない。
湖畔は今日も静かだった。ここを訪れるのは物凄く久しぶりだが、風景はあの頃と何も変わっていない。
澄んだ水。湖の周囲を取り囲んでいる大岩たちも大きな変化はない。多少苔がむしていることから、相変わらず人は訪れていないのだろうということだけが分かる程度だ。
私は湖のほとりにそっと座り込む。そこはソラと別れた場所だ。あの時私はこうして座ったまま消えてゆく彼を見送った。もう十年以上経ったのか、と懐かしい思い出に耽る。
「喧嘩でもしたのかい」
背後から聞こえた懐かしい声に、私は振り返った。
「……ソラ?」
思わず呟く。
そこに立っていた青年が彼に瓜二つだったからだ。金色の美しい髪、全身を包む華やかな黄金の衣装。そして青緑色をした瞳。
「……ソラなの?」
その青年は片側の口角を持ち上げ笑みを浮かべる。
「また会えたね。アイネ」
「……本当にソラ?」
私はまだ目を疑っていた。
「そうだよ」
冷たい風になびく金髪が幻想的な雰囲気を漂わせる。
「どうしてここにいるの?永遠に闇の中なんじゃ……」
彼は私の横を通り過ぎると、優雅な動作で大岩に乗り、身体をこちらに向けた。
「今から話すよ。時間はもうたっぷりあるんだからさ、慌てる必要はないんじゃない?」
私は頷いてから笑う。
「そうね。その通りよ」
彼に手を借り大岩の上へ座った。見るたびに切なくなった満月の月明かりが、今は何とも心地よい。
「私もね、貴方に聞いてほしいことがいっぱいあるの」
「僕を退屈させない?」
私は彼とそっと手を繋ぎ、満月の輝く夜空を眺めた。
「えぇ。退屈なんてしないわ。貴方のお陰で手に入れられた、十年間の旅の記憶よ」
- Re: アイネと黄金の龍 ( No.12 )
- 日時: 2017/04/13 17:27
- 名前: のんたん (ID: nG1Gt/.3)
全部読ませていただいたのですが、面白かったです。
まずアイネちゃん、伯母さんに色々言われても屈しない強い姿が印象的です。7話目で伯母さんに抵抗するところがとてもかっこよかったです!
次はソラ、実は龍だったことに驚きました。人間でない反面、とても優しい心の持ち主ですごいかっこいい。イチゴにぶつぶつ文句を言っているところがかわいかったです。
更新楽しみにしてます。これからも頑張ってください。
- Re: アイネと黄金の龍 ( No.13 )
- 日時: 2017/04/25 18:51
- 名前: クーゲルシュライバー (ID: GfbO1Kzf)
イヤー、面白かった!
クーゲルです。合作の『極炎の惑星』へのご協力には、感謝しています!
リク依頼で『読んで』とのことでしたが、いろいろ訳あって、ここにかくことになってしまいました...。
このストーリーは最近知ったのですが、何としても一番ひかれたのは題名!『黄金の竜』と言うキーワード。竜好きの私にとっては見知らぬふりをすることは不可能でしたよ~。
そしてストーリー。アイネちゃんとソラ君への友情と言うか、愛と言うか、その二つが入り雑じった物?にひかれて、どんどん読み進めていっちゃいました!
しかし、たったの11レス...。(;o;)まあ、長かったから良しとしましょう。
これからも頑張って下さい!q(*・ω・*)pファイト!