コメディ・ライト小説(新)

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アイネと黄金の龍 【完結】
日時: 2019/03/21 10:38
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xJyEGrK2)

初めまして、四季といいます。
こちらの板に投稿させてもらうのは初めてです。どうぞよろしくお願いします。

本編 >>01-11

「小説家になろう」の方のサイトにも投稿させていただくことにしました。一応連絡として書いておきます。

Re: アイネと黄金の龍 ( No.1 )
日時: 2017/04/12 22:31
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: VHEhwa99)

プロローグ

 あれはまだ私が母と二人で暮らしていた、七歳の時のこと。

 激しい雨の日だった。私はちょっとしたことで母に厳しく叱られ、嫌になって家を飛び出ていった。呼び止めようとする母の叫び声が微かに聞こえたが、私は振り返らなかった。その時は振り返りたくなかったのだ。
 私は大雨が降る中、ぬかるんだ地面をあてもなく駆けた。
 どこへ続く道か分からない。それでもいい。とにかく母に叱られなければ構わない。このままどこか遠くへ——。
 ちょうどその時、目の前に湖が見えた。この世とは思えないほど美しく透き通った湖。私は目を奪われていたせいで足下の小さな石に気付かず、つまづいて転んだ。首にかけていたネックレスが一瞬にして湖の方へ飛んでいく。そして、その中へ落ちた。
「あっ……!」
 私は慌てて立ち上がり泥がこびりついた足のままで湖へと走る。
 誕生日に母からもらった、八の字の印が入った大切な水晶玉のネックレス。探さなくては。そう思い手を入れた泉の水は、冬でもないのに、妙にひんやりとしていた。それに思っていたより深そうな感じ。
 水晶玉を必死に探しているうちに、気が付けば結構身を乗り出してきていたらしく、バランスを崩した私は湖へ頭から落ちた。
 息が出来ない。かといって、泳ぐことも出来ない。足が下に届かない。
 もう駄目だ。ここで死ぬ運命かと諦めそうになる。暴れても沈んでいくばかり。
 手を伸ばしても、水面はもう遠い。

 ——黄金の龍。

 意識が朦朧とする中、私が最後に見たのは、光沢のある金色をした龍だった。薄れていく意識の中で見たものだから、それが現実なのか幻を見ているのかはっきり分からなかったが、その姿から龍であることだけはなんとなく分かった。
 きっと幻だと思う。けれど、その美しい青緑色の瞳は、脳裏にしっかりと焼き付いて離れなかったのだ。

アイネと黄金の龍 ( No.2 )
日時: 2017/04/12 22:38
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: VHEhwa99)

一話「十七の誕生日」

 今日は十七歳の誕生日。
 私を一人で育ててくれた母は五年前に亡くなり、現在はその姉、伯母がその代わりの役割を果たしてくれている。
 十七歳、といえば普通は青春まっしぐらだろう。友達と遊んだり、恋をしたり、人生に一度きりの楽しい時期だとか。だけど私には友達も恋人もいない。
 湖に転落した事故以来、私は突然気を失う病を患ってしまった。それが全ての元凶だ。村の医者に何度診てもらえど原因は不明のまま、発症する頻度は増加するばかり。私はついに入院することとなり、一日のほとんどをこの病室で過ごす生活が始まったのだ。
「アイネちゃん、起きていたのね。また本を読んでるの?」
 週に一度くらいだけ訪ねてくる伯母が病室に入ってくる。
「……はい」
 彼女は、いつも本ばかり読んでいる私を、変わった子と思っている様子が窺える。
「裁縫とか編み物とか、もっと女の子らしいことをしたらどう?必要なら物は持ってきてあげるわよ」
「……結構です」
 自身の意見を押し付けてくる伯母は正直苦手だ。私のためを思って言ってくれているの分かるが、こちらからすれば、余計なお世話。
「私は本が好きなんです」
「あら……、そう」
 伯母は口元を手で隠し、いかにも上品そうに笑う。だが浮かんでいる笑みは嘲笑う笑み。私にはそれが分かる。
「まぁいいわ。今日は誕生日よね。夜、お医者様と私とアイネちゃんで誕生会をしましょう。最後のお誕生日だものね」
 そう、私は余命一年。原因不明の病のせいで、こんなことになってしまった。余命が分かるのなら原因も分からないものかと思うところはあるが、小さな愚痴をぼやいたところで運命は変わらない。
「お誕生日ケーキを用意しなくちゃいけないわね。あとプレゼントも。夜を楽しみに待っていてちょうだい。今から買い出しに言ってくるわ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、また後でね」
 伯母は優しい微笑みを浮かべて病室の外へ出ていった。私は本に視線に戻す。
 ようやく一人になれたので息を吐き出す。世話をしに来てくれるのはいいが、私は伯母が苦手なのだ。憐れむような笑みがどうにも慣れない。

 病室で夢中になって本を読んでいると、あっという間に夜になった。
「アイネちゃん、十七歳のお誕生日おめでとう」
 紙袋を持った伯母と医者が病室に入ってくる。
「これがプレゼントよ」
 伯母が、綺麗に包装された、両手に乗せられるくらいの大きさをした箱を渡してくる。
「ありがとうございます」
「開けてみて」
 苦手な人からの贈り物。あまり気が進まないがやむを得ずプレゼントを開けてみる。二色の毛糸玉と編み棒が入っていた。
「素敵な贈り物でしょう?」
「……はい。嬉しいです」
 恩着せがましい態度が気に食わないが物をもらってしまっては仕方ない。
「ケーキも用意しているよ。最近村で流行りのイチゴショートケーキだよ。さぁ、どうぞ」
 真っ白でふんわりしたたっぷりのクリームで包まれたケーキに、可愛らしくイチゴがたくさん盛られている。白と赤のコントラストが食欲をそそる。
「こんなにイチゴ!私、イチゴ大好きなんです!」
 幼い頃はよく母がイチゴをたべさせてくれたものだ。
「気に入ってもらえたようで嬉しいよ。すぐに準備して、一緒にケーキを食べよう!」
 いつも一人で過ごしている私からすれば、この病室に三人は多すぎる気がする。みんなで集まるような広い部屋ではない。
 ただこの日、私は幸せを感じた。伯母も医者も笑顔で私の最後の誕生日を祝ってくれた。上辺だけかもしれない。それでもいい、と思った。

 楽しかった誕生日会も終わり私は床についた。こんな風に楽しんだのはいつ以来だろう。今は思い出せない。
 もしかしたらこれが最後かもしれない……。不安を掻き消すように私は眠るのだった。

 目が覚めた時、窓の外はまだ暗かった。雨音が静かに響いている。どうやら雨が降っているらしい。
 やけに喉が渇いている。水を汲むため、給水器がある廊下へ出ようと思いドアまで歩いていったが、ふと異変に気付く。人の気配だ。覗き穴から外を覗くと、伯母と医者の姿が見えた。
 何か話している。私は聞こうと耳をドアにぴったりとくっつけ、息を潜めた。
「あと一年であの子が死ねば、私も楽になります。ほほっ」
「これこれ、ハッキリ言い過ぎですぞ。彼女が聞いていたらどうするのです」
「まさか。アイネは寝ていますもの。あの子が聞いているわけありませんわ」
 聞こえるのはそんな話し声。私は信じられない思いで聞き続ける。
「こう見えて私、結構苦労してるんです。あんな奇病の娘を世話しているというだけで、周囲から気味悪がられますもの」
「ほぉほぉ」
「だというのにあの子は本を読んでばかり。私が会いにいってあげてもちっとも嬉しそうにしないんです。何ならもう訪問止めようかしら……」
 我慢が限界に達し、凄まじい勢いでドアを開ける。
「もう来なくて結構です!」
 私を見た伯母は突然のことに驚いた顔をしている。
「あ……アイネちゃん……」
「ご心配なく!私もう、ここから出ていきますから!」
 そう吐き捨て、病院を出ていくことにした。見慣れた廊下を走り抜け、夜でも簡易の鍵しかかかっていない裏口へ回る。内側からなら簡単に開けることが可能だ。そして外へ出た。雨粒が地面の水溜まりにあたり跳ねる音が大きい。

 そして私は、雨降る夜の闇へ駆け出した。

アイネと黄金の龍 ( No.3 )
日時: 2017/04/26 17:37
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 4IM7Z4vJ)

二話「邂逅」

 啖呵を切って飛び出してきたのはいいものの、なんせ数年ぶりの外だ。行くあてはない。
 雨は無情に降り続ける。思えば病室で履いていたスリッパのままここまで走ってきたので、足下が泥まみれになってしまっていることに気付いた。これだけ雨の日に土の上を走ったのだからやむを得ないことだが、少々不快感がある。
 これからどうしよう、と溜め息を漏らす。誰かの家に泊めてもらうわけにもいかないし、かといってこの大雨の中で野宿するというのは風邪を引こうとしているも同然。
 そういえば……あの日もこんな激しい雨の日だったなぁ、と十年前のことを思い出す。あの事件は、今考えても本当に謎に満ちていた。
 水晶玉のネックレスを探して溺れたはずだったのに、母は私を湖畔で発見したと言った。丁寧に横たえられていたのだと。だがそれはおかしいのだ。生還することを半ば諦めていたあの時の私が、自力で湖から出てこれたはずがない。
 溺れているのを発見した誰かが助けてくれた?……ということもあり得るかもしれないが、あの夜遅い時間だ。あんな暗い時間に人がいるだろうか……。昼間でも人通りのない場所だったというのに。
 そんなことを脳内で考えているうちに、真相を知りたくて仕方なくなってきた。あの場所へもう一度行けば何か少しでもヒントがあるかもしれない……。根拠はないが、そんな気がしてくる。
 そして導かれるように、あの湖へと向かった。

 やがて辿り着いた湖畔は人の気配が全くなく、雨音以外の音は何も聞こえない。私は恐る恐る辺りを見回す。もしかしたら水晶玉のネックレスが落ちていたりするかもしれない、と思ったからだ。しかし、特別な物は何も見当たらない。
 やっぱり私がおかしいだけなのかな……、とそう思った時、私は驚くべきものを見た。湖のほとりの二メートル近くありそうな大岩の上に、一人の青年が座っていたのだ。こんな遅い時間、しかも雨の中。これは明らかに不自然。ちょっとした好奇心から、近付いてみることにした。ゆっくりと歩み寄っていくが彼が私に気付く様子はない。
 私の足が彼の背後二メートル程に迫った時、青年は突如言葉を発した。
「また喧嘩でもしたのかい」
 初対面とは思えない、ずっと昔から私を知っているような言い方。
「貴方は……もしかして私を知っているの?」
「さぁね、そんなのはどうでもいいことだよ。今は関係ない」
 青年は振り返った。片側の口角を微かに上げる。
 彼の容姿を目にした瞬間、私は思わず唾を飲み込む。あまりに現実離れした神がかり的な美しさだったから。短く表すとすれば「この世の人間ではない」という感じだ。
 男性にしてはやや長めと思われる顎くらいまでの丈の金髪は雨に濡れているはずなのにふんわりと柔らかさを保っている。色白で丸みを帯びた顔だが、青緑色をした瞳は凛々しく吸い込まれそう。
 服装もまた独特。膝くらいまで丈がある詰め襟の中華風な衣装をまとっている。金の糸や飾りで華やかに装飾されており全身が金色に見えるぐらいの密度である。それでいて豪奢さを感じさせず、落ち着いた雰囲気なのが不思議だ。
「それより、どうしてここに来たんだい」
 私は、伯母の本心を聞いてしまって腹が立ち勢いでついつい飛び出てきてしまったことを話した。
「ふぅん、そうなんだ」
 彼はどうでも良さそうに続ける。
「あと一年で死ぬんだったら、伯母さんが楽になるっていうのも本当のことなんじゃない」
「そんな!酷いわ。あと一年しか生きられないのよ。少しくらい同情してくれても……」
 私がショックで思わずきつく言ってしまうと、彼は鋭い視線をこちらへ向けた。
「同情したら君の寿命が伸びるの?」
 もっともなことだ。
「いいえ……。でも少しくらい可哀想って思ってほしかったのよ。余命一年なんて……」
「何それ、変なの。人間なんてみんないつか死ぬじゃん」
 目の前の彼は飄々とした顔できっぱりと言いきる。
「僕は永遠に死ねない。だから死ねるのを羨ましく思うよ。ずっと生き続けるなんて、退屈で死にそうなんだ」
 永遠に死ねないなど、普通の人が言うなら信じられなかっただろう。くだらない冗談だと呆れたはずだ。だがこの不思議な彼が言うものだから、真実のように思える。
「不死ってことね。いいじゃない。羨ましいわ」
「そんないいものじゃないよ。つまらない毎日さ」
 本当につまらなさそうな顔をしている。
「贅沢ね。私は生きたくても生きられないのに」
「うん、知ってる」
「……ねぇ。貴方の命、私に分けてくれない?」
「はぁ?」
 呆れと驚きが混ざったような表情をする。綺麗な顔立ちなのにどこか可愛らしく見える。
「人間じゃないなら、そういうことも可能なんじゃない?」
「僕が人間じゃないって、どうしてそう思うんだい」
 彼の姿を見詰めていると、雨に濡れていることすら忘れてしまう程に引き込まれる。
「人間はいつか死ぬ。貴方がさっきそう言ってたじゃない」
「ふぅん。そう」
 少し間があってから。
「まぁ不可能ではないね。僕、何でも出来るから」
 彼は私の瞳を射るように見据え、また口角を微かに上げる。
「出来るのね。なら、お願い。十年分ちょうだい」
「いや、無理」
「じゃあ一年でいいわ!お願いします!」
「絶対ヤダ」
 きっぱりと断られた。私は期待していただけに肩を落とす。
「……そんな顔しないでよ。話くらいは聞いてもいい。僕の時間は無限だからさ。雨の日なら僕は必ずここにいるから」
「晴れの日はいないの?」
「さぁね。気が向いた時にはいるんじゃないかな」
 ちょうどその時。
「アイネちゃんっ……!」
 後ろから人が走ってくる音と伯母が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「それじゃ、またね」
 金色の青年は小さく手を振りそう言う。
「待って。貴方の名前……」
 言いかけた瞬間、彼の身体は金粉のようになり消えた。

「アイネちゃん!びしょ濡れじゃないの!」
 伯母が駆け寄ってきて、持っている傘に私を入れる。
「こんな雨の中、傘もなしに……。可哀想に。アイネちゃん、あれは誤解なの。私、あんなこと思っていなかったわ。貴女は大切な姉の子だもの」
 必死に弁解しようとするのが滑稽だ。
「……ふ、ふふ……」
 なぜか笑いが込み上げる。
「アイネちゃん?大丈夫?私と一緒に帰りましょう。お医者様も心配されてると思うわ」
 なんてバカバカしいの。この女は。
「一人で帰ります。伯母さんが変な目で見られると……お気の毒ですから」
「ごめんなさい。でも言ったはずよ。あれは誤解なの」
 話を聞く価値もない。偽りの言葉をいくら聞いても、ただ時間の無駄遣い。
 だから私は何も答えることなく、病院へ帰るのだった。


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