コメディ・ライト小説(新)
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- いちごミルクに砂糖は要らない。
- 日時: 2018/04/21 16:00
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: NGqJzUpF)
君がいなくなって、もう七年も経ったよ。
でも、まだ、君を忘れられないんだ。
□■□
◆ 一ノ瀬空
◇ 当麻えな
◇ 佐藤奈々
◆ 香坂日向
◇ 白石小夜香
初めてこの作品を書いたのは私が中学一年生の時でした。つまらない授業を受けつつ、隠れてノートに小説を書いていたあの頃のことを思い返してみれば、今ではとても懐かしく感じます。それこそこの物語のように七年近くの時間が経ち、また書き直しをしようと思ったのは、この作品をちゃんと完結させてあげたいと思ったからです。七年の間にプロットはどこかに消え、覚えていたのは彼らの下の名前だけとなってしまいました。あの頃に書いていたような作品をもう一度書く、ということはできませんが、七年後の自分が彼らのハッピーエンドを描けたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
いちごミルクに砂糖は要らない。だって、甘すぎるから。君の、その嘘も。
- 10 ( No.10 )
- 日時: 2020/07/15 22:48
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
手紙をくれた男性は、和彦さんといってとても家族思いの優しいお父さんだった。子役時代の私のファンで、初めて会ったときは握手しただけで舞い上がるくらいだったから、私は少し照れてしまった。
奥さんもすごく優しい人で、でもだからこそ私に重荷を背負わせることが酷だと少し切なそうな表情で謝ってくれた。別に他人なんだから気にしなくていいのに、と思いつつ、私はにっこりと笑って頑張ります、といった。すべてが幸せで終わる、ハッピーエンドを作るのが私の役目だから。
騙す相手になる一ノ瀬空に初めて出会ったのは、依頼者の両親二人に会ってから二日後のことだった。依頼者の知り合いの根回しで入院することになった私が、ちょうど和彦さんのお見舞いで来ていた空とばったり会った。上手く演じれた自信があった。彼の興味を引いて、彼に和彦さんの症状を極力見せないこと。それが私のお仕事。
仲良くなって、できるだけ和彦さんから空を遠ざける。苦しむ父親を見せるわけにはいかないから。
和彦さんは大きな手術を控えているけれど、成功率はとても低いらしい。もし、万が一死んだときにそばで支えてあげられる年の近い人間がいたらいいと思ったんだ。和彦さんの優しい穏やかなあの声が、反芻する。
作られた友達じゃなきゃいけない理由はなぜ、とはどうしても聞けなかった。
病院で生活しているうちに一人の少女と仲良くなった。名前を白石小夜香といって、私はすぐにわかった。空が彼女に気があることを。
まだ十歳そこらの子供だったし、ちょうど異性を少しだけ意識するみたいなその程度のものだろうけど、空の小夜香に対する態度は他とは違った。三人でいるうちに少しだけ疎外感を感じて、それでも私はちゃんと笑った。だって、私は空の一番になる必要はないし、信頼さえ勝ち取れれば良かった。
「何でこんなこと、してるんだろう、わたし」
作られた「当麻えな」という少女は、空にとってはただの友達の一人で。それは私自身じゃなく、もう別物だった。空のことをちゃかして、こっちを向かせることで私は精いっぱい。
そんな時に、一人の少年と出会った。ちょうど私たちと同い年で、彼もこの病院にいた。だけど、患者とかじゃなくて、病院側の人間。私たちが入院している病院の一人息子だった。
「お前、何で入院してんの」
病院の花壇の奥に、小さなベンチがあって、ちょうど日陰になる場所で私の見つけた穴場だった。そこで日向に初めて会った。ここ、俺の秘密基地だったのに、と最初は少し拗ねてたけど、時間が経つうちに世間話をする仲になっていった。
「うーんとね、しんぞーのびょうき、かな」
日向の前でもちゃんと私は当麻えなを演じていた。誰にも気づかれちゃいけないから。
「ふーん。じゃあ、こんなとこ来たら駄目じゃね? 早く病室帰れよ」
日向は少しぶっきらぼうな少年だった。だけど、のちに私は気づいてしまうのだ。最悪の事実に。
「……まじか」
小夜香は不治の病にかかっているらしい。あんまりちゃんと聞いたことはないけれど、何百万人とかに一人の珍しい病気らしく、治療法がまだ確立されてないから、治ることはまずないでしょうと医者から言われているみたいだ。彼女は普段は車いすで移動をしているが、彼女の車いすを押していた人物を見て私は開いた口が開かなかった。
小夜香は愛おしそうな目で彼を見ていた。それが日向だった。後から聞いたら、二人は幼馴染でよく日向に散歩に連れて行ってもらっているらしい。そして、また吐きそうな事実を私は彼女から告げられた。
「わたしね、日向のことが好きなんだ」
耳を塞いで、目を逸らしたくなるくらい、面倒くさい三角関係の出来上がりだった。
- 11 ( No.11 )
- 日時: 2020/07/03 00:29
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
恋という病は非常に厄介だ。感情を上手くコントロールできなくなって、自分が自分じゃなくなっていって、最後には何にも見えなくなるから。だから、駄目だ。
最悪な形で三角関係を見つけてしまった私は大きなため息をついて、自分の病室に戻った。ふいに和彦さんに会いたくなって、新しく移動した彼の病室(個室)に訪れると、部屋の外にも聞こえるくらいの大きな咳き込む声が聞こえてきて、ぞっと私の背筋は凍り付いた。
そうだ。彼は死ぬのだ。
病室で看護師さんに背中をさすられている真っ青な顔をした和彦さん。私はこの状況を「見慣れ」なきゃいけないのに、その場に立ち尽くしたまま動くことも声をかけることもできなかった。
「空には見せられないでしょ。ごめんね、えなちゃん」
後ろから空のお母さんの声が聞こえた。ペットボトルのお茶を三本手にもって、私にパイプ椅子に座るように促してくれる。
「空にはなんて言ってるんですか」
「お父さんはすぐ元気になるよって」
「信じてるんですよね、空は」
「うん……えなちゃんのお陰で、こうやって症状が酷くなったときは空のこと連れだしてくれてるし、まだばれてないわ」
「それで本当に、いいのか、私はなんだかわかんなくなってきました」
父親を亡くしたら、空は壊れるのだろうか。死を見届けることが、そんなに「苦」になるのだろうか。
本当はよくわからなかった。この家族の真意が。空は「何も知らなくていい」という、それは優しさじゃなくて、撥ね退けじゃないのだろうか。
家族ってよくわからない。だから私は彼らに干渉はしない。上手く用意された役を演じ切るのだ。
「手術の時、約束通り一緒に病院のお祭りに行くように声をかけておきました。安心してください」
これで和彦さんの手術が失敗したとき、私はどうすればいいのだろうか。
空を支えられる自信がない。だって私は全部知ってたうえで空を騙していたのだから。
空はきっと怒る。私の演技に気づかなくても、八つ当たりで私に怒りをぶつけるはずだ。それでも、私はちゃんと彼のことを支えることはできるのだろうか。
□
手術は成功したのか失敗したのか詳しいことはよくわからなかった。だけど、時間が足りなかった。
和彦さんが死んだことを聞かされたのは、私と空が金魚すくいをしているときだった。さっきまで楽しそうだった空の表情がゆっくりと曇っていって、そして私の顔を見た。
「手術、俺、今日なんて聞いてない」
「……」
「なあ、えな。お前は知ってたのかよ。お前知ってて祭りに誘ったのかよ」
ごめんなさい。ごめんなさい。何度も何度も謝って、私は嘘の涙を瞳からこぼす。
演技のつもりだった。だけど、罪悪感が胸の奥でモヤモヤと、肺に棘でも刺さっているかのような異物感が、気持ち悪くて苦しくて今すぐにでも胃の中のものをすべて吐き出したくなった。
呼吸がどんどん荒くなっていって、過呼吸みたいになっていく。
「お前は嘘つきだ。手術はだって来週って言ってたじゃん。しかも、そんな大きなやつじゃないって。父さんからそう聞いたって」
和彦さんが死ぬことはなんとなくわかっていた。日に日に弱っていく彼の姿をずっと見ていたから。
だけど、空にばれないように、隠すことで精いっぱいで、あまり考えないようにしてた。現実が足下から闇に食われていく。
「お前なんか、お前なんか、」
私にとってくれた赤い金魚を地面に投げつけて、涙を瞳に浮かべながら心底軽蔑した目で君は言った。「お前なんか死んじゃえ」嘘つきの私に彼はありったけの暴言をぶつけた。
わかってたはずなのに、すべてが気持ち悪くて、だんだん脳に酸素がまわらなくなっていって、いつのまにか視界がぼやけていった。ふらっと足に力が入らなくなって、地面に私は倒れ込んでいた。
不安そうな表情の空が私の体を揺すって、声をかけて、悲鳴を上げる。
清々しいくらいの青空に、私はゆっくり意識が曖昧になっていく。この物語は、一度これで終わった。当麻えなは、もう彼の前から消えたほうがいい。
私は嘘を上手くつけなかった。だって、この嘘は和彦さんが死なないことを前提で作った嘘だったから。
ごめんなさい。私はこの続きを演じきれなかった。空を支えてあげられる友達にまで、なれなかった。
空のお母さんにお願いして、今回はこれで辞退させてもらった。このまま私は、周りの人間に「死んだ」ことにされて、彼の前から姿を消した。当麻えなはもういない。
もう、空の前には現れない。そう約束をして、和彦さんのお墓の前で私は泣きながら花を手向けた。
三話 「 当麻えなはもういない 」
- Re: いちごミルクに砂糖は要らない。 ( No.12 )
- 日時: 2018/12/02 23:13
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: E616B4Au)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10873
はじめまして。友桃(ともも)と申します。
タイトルに惹かれてクリックしたのですが、予想とは違ってミステリアスな雰囲気のお話で、とてもおもしろかったです。
空くんとえなちゃん2人の関係だけでも不思議な部分がたくさんあって、わくわくしながら読んでいたのですが、
空くんが呟いたのが小夜香ちゃんの名前だったときにすごくびっくりしてそのまま先が気になって最新話まで一気読みでした!
こういうミステリアスな雰囲気の小説を私は書けたことが無いので、うらやましいです^^
執筆がんばってください!
友桃
- Re: いちごミルクに砂糖は要らない。 ( No.13 )
- 日時: 2018/11/22 22:55
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: BBxFBYlz)
初めまして、立花と申します。もちろん友桃さんのことは存じております。緊張で返信を打つ手が震えておりますひえええええ。
タイトルは個人的にとても好きで、気に入っているのでとても嬉しいです。久しぶりに中学生のころに書いたお話を読み返してみると矛盾とかが酷くて内容は意味不明だけど、やっぱり自分で書いたお話だからか愛着が沸いてきて、このお話を最後まで書ききりたいという思いが強くなりました。リメイクで頑張って書いてるのですが、もうすでに矛盾とかがちらほら出てて困っているのですが、面白いと言っていただけて本当に幸せです。
しかも、このお話を書いていた当時? ぐらいに読んでいた作品の作者様に言っていただけるなんて本当に私は幸せ者です。ありがとうございます。
キャラクターの関係性や、ストーリーを大切に、当時の私が書きたかったお話が書き切ることのできるよう頑張ります。コメントありがとうございました。
短いお話ですので、もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。ありがとうございました。
- 12 ( No.14 )
- 日時: 2018/12/01 23:58
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: BBxFBYlz)
恋をすると、途端に人は変わるらしい。らしい、で片づけられるほどそれはオレからは遠く、夢のような存在で、彼女に、当麻えなに会うまではこんな感情知らなかった。正直、知りたくなかった。
■
空のことが好きなのだろう、と勘付いたのは彼女が空の前ではとても悲しい笑顔で笑っていたから。報われない恋なんかして馬鹿だなって当時は思っていた。
当麻えなは一体何者なのか、ということが気になったのは彼女の計画の最終段階。空の父親とえなが妙に親密な関係だったことが気になって、家に帰って親を問い詰めた。
どうしてえなは、この病院に入院してるの?
心臓の病気、と本人は言っていたけれど、それにしては妙なことが多い。専門的な治療を受けているところを見たことがなかったし、彼女の体調からそれっぽい要素が全く感じられなかった。
両親は困惑しながら、言葉を詰まらせながら、ゆっくりオレに教えてくれた。
彼女は本当は病気ではなく、訳があって入院しているのだと。
うちの父親が空の父親と大親友らしく、空の父親からのお願いをきくためにえなを入院させたという導入部分の話だけ父さんは話してくれた。それ以上は言えないと言葉を濁した父さんは、今にも泣きそうな顔でオレの頭を撫でた。そのときに、空の父親の命が短いってことに気づいてしまって、オレは何も言えなくなってしまった。
一体、何の目的でえながオレたちの世界に投入されたのかはわからなかったけれど、絶対に「理由」があるってことはわかった。だから、どうにかしないとって思った。だって、このままだとえなは、
「えなが死んじゃう」
***
「あんたって馬鹿みたい。死んだ女のことなんて早く忘れたほうがいいんじゃない」
「えなって本当口悪いよな。素はそんな感じなの?」
中学に入って色んな伝手で当麻えなのことを探して、ようやく再会できたとき、彼女の見た目は大きく変わっていた。可愛らしいあの頃の面影は薄く、つんとした辛辣な言葉を使う女の子。見た目は大きく変わってなくとも、話し方や表情が全然違ってあの頃のえなとは別人だった。
クリームがいっぱい乗ったフラペチーノかなんかよくわからないものを飲みながら、えなは大きくため息をついてこちらをじろっと見た。
「うるさいな。当麻えなは死んだの。ってかもともと存在しないの、それでいいじゃん」
「オレ、ちゃんと調べたんだよ。当麻えなって昔人気だった子役の名前だろ。それってえな本人なわけ?」
「ああ、うん。むかし役者をやってた頃もありましたね」
有名私立中学の制服を着た「死んだはず」のえなが言葉を紡ぐ。きっと「違和」があるはずなのに、それもどうでもいいって思えるくらいにオレはえなに入り込んでいた。
「オレは、えなのことが好きだったんだ」
「ふうん。でも、私はえなじゃないから。あなたの好きだったえなに戻ることもないし、空のことが好きだったえなに戻ることもない。きっとこの先一生」
当麻えな。本名、柚原志麻は真剣な面持ちでそう言い放った。
彼女はきっと、当麻えなが嫌いだったのだと、久しぶりに再会してそう思った。