コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】
日時: 2022/08/04 16:50
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: lCrzzWFh)

美奈です。

「俺の恋敵は憎たらしい式神だった」、ざざっと略して「俺式」の新スレッドとなります。
気合を入れ直してリセットしたくなり、新しく作成した次第です。
旧「俺式」の黒歴史を知る←
皆様も笑、初めて「俺式」を読んで下さる方々も!
初心者の私をどうか見捨てないで下さい←懇願です
まだ右往左往してるピヨピヨな初心者なのです……笑

コメント等々もお待ちしております。
よろしくお願いします(^^)

p.s.色々ありすぎて投稿、中断繰り返しています。。でもやっぱりこの作品はどれだけかかっても仕上げてみたいので、もしまだ私のこと覚えてたら、また初めてだけどなんか興味あったら見ていただけると嬉しいです。究極マイペースでやらせていただきます。今後ともよろしくお願いします。
2020.9.13 「小説カキコ小説大会2020・夏」において、コメディ・ライト板で金賞頂きました。どうもありがとうございます!
2021.9.1「小説カキコ小説大会2021・夏」において、コメディ・ライト板で銀賞頂きました。どうもありがとうございます!
2022.1.11「小説カキコ小説大会2021・冬」において、管理人・副管理人賞頂きました。どうもありがとうございます!

ーprecious guestsー
昇我ツヅル様・blueI様・ラビット様・ジャニーズwest&様・MINA様・せいや様・いろはうた様・はるた様・てるてる522様・朱雀様・真朱様・雪林檎様・むう様・skyA/スカイア様・りゅ様

【目次】

<Season1 俺はブレザーに身を包む>

主要人物紹介 >>1

第1章 9月
第1話〜第5話 >>2 >>9 >>12-14  第6話〜第10話 >>17-21
第11話〜第15話 >>22-24 >>27-28  第16話〜第18話 >>29-30 >>33

第2章 10月
第19話〜第20話 >>35 >>39
第21話〜第25話 >>40 >>43-44 >>48-49  第26話〜第30話 >>50-51 >>55 >>61-62
第31話〜第35話 >>63-64 >>66-67 >>69  第36話〜第40話 >>77-78 >>83-85
第41話〜第44話 >>88-91

第3章 11月
第45話〜第50話 >>92 >>94 >>97-100
第51話〜第55話 >>101-105  第56話〜第60話 >>106-110
第61話〜第65話 >>111-115  第66話〜第70話 >>116-120
第71話〜第75話 >>123-127  第76話〜第80話 >>128 >>133-136
第81話〜第85話 >>137-139 >>141-142  第86話〜第90話 >>143-147
第91話〜第93話 >>148-150

第4章 後日譚
第94話〜第95話 >>151 >>154  第96話〜第100話 >>159-163
第101話〜第105話 >>164-168  第106話〜第110話 >>169-171 >>175-176

番外編
#1〜#3 >>57-59 #4〜#5 >>79-80
受賞御礼の番外編 >>153 新年のご挨拶 >>178

<Season2 俺はブレザーを脱ぎ捨てる>
第1章 あれから俺達は
第1話 〜第5話>>179-183

第2章 ピッカピカの春学期
第6話〜第10話 >>184-188 第11話〜第15話 >>193-197
第16話〜第20話 >>198-202

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.180 )
日時: 2021/02/13 20:15
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

第2話
 まず高一の11月から話そう。
 俺の人生史上ほぼ最大の事件が起こった。
 それは華音様とホラー映画デートをした、わずか数日後のこと。

「えー、突然のことで先生もびっくりしてるんだけど…篠塚さんが、転校することになってしまいました……いやぁ残念だよ篠塚さんっ……!」

 涙もろい担任が早速泣きながら伝えたのは、とんでもない事実だった。クラスの非リア男子どもは大声で「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」と嘆き、女子も驚きを隠せていなかった。華音様の仲良しメンツでさえ、知らなかったようだ。俺は隣で耳をつんざくような悲鳴をあげる悠馬をチラリと見つつ、次の瞬間には椅子からずり落ちていた。映画館の椅子と違って、教室の椅子はずり落ちるとめっちゃ痛い。

「篠塚さん、ううっ、みんなの前、でっ、ううっ、経緯を少し説明っ、ううっ、してくれるかなっ、ひっく」

 すでに嗚咽交じりの声になってしまった担任に応え、華音様は教壇に立った。

「誰にも話せてなくて、ごめんなさい。私も一昨日くらいに親から聞いて、まだ整理がついてないんだけど……3学期から、父の仕事の都合でアメリカに行くことになりました。本当は単身赴任して欲しかったんだけどね、そううまくは行かなかったんだよね……。なので、みんなといられるのはあと1ヶ月弱です。今まで仲良くしてくれてありがとう。あともう少しだけど、最後まで仲良くしてもらえると嬉しいです」

 アメリカ……遠いぜ……。
 華音様が俺の生活に色彩を与えてくれたのに、あなたがいない中であと2年もある高校生活をどう過ごせと?! 俺の生活はモノクロになってしまうよ?!
 あの台無しの映画デートを思い出にして、心の拠り所にして生きて行けと?そんなの無理よ?
 あぁ……辛い……人生がこんなに辛いとは……。

 俺は迷った。大いに迷った。
 華音様と多くの思い出を残すべきか、あえて残さないべきか。
 残したら心の支えにはなるかもだけど、その分離れてから辛くなる。残さなかったら多分辛さは減るけど、きっともっと会っておけば良かったなって後悔する。

 そして俺は決めたんだ。
 12月の期末試験の後、華音様を誘ってみた。幸いにも誘いに乗ってきてくれた。先月見たホラー映画には続編があって、それが12月に公開されることになっていたのだ。俺達はそれを見に行った。今度は悠馬が現れることはなかった。偉いな、あいつも学習したんだな。ちなみに華音様は2回、しがみついてきてくれた。うわぁ懐かしい。
 そんで華音様がLINEで美味しそう、って言ってた店でご飯食べて。バラ色の1日だった。

「あの、京汰くん」
「ん?」
「ありがとう」
「え?……あぁ、奢りなんて気にすんなよ! 一緒にいれて楽しかったし!」
「そうじゃなくて、あ、それもあるんだけど、とにかく、ありがと!……アメリカに行っても、連絡取らせてね」
「おう! もちろん!」

 その時、冷たい風がぴゅうっと吹いた。思わず身震いした華音様の手を取ったのは、無意識だった……と思う。想像以上にかじかんでて、びっくりして。一瞬、華音様の両手をぎゅうっと包み込んで、それから俺のマフラーを貸した。もう俺の想いは十二分に伝わっていたはずだし、そうした行動を拒まない華音様も、きっと同じ想いだったと信じている。
 けど、想いを言葉で伝えたらもっともっと、別れが辛くて苦しいものになっちゃうからさ。日米間のテレビ電話なんかじゃきっと絶対物足りないし。会って抱きしめたくなっちゃう。俺、華音様のスマホから飛び出して襲いそうだもん……ってリアルホラーじゃん。でもそんくらいの気持ちだったんだよなぁ。
 だからあの時は、俺のマフラーにくるまれて、嬉しそうな顔をした華音様を見るだけで良かった。それだけで、冷たい風なんか全く気にならないくらいに俺の心はぽかぽかして。あぁ、甘酸っぱいわぁ。自分で言うのもアレだけど、非常に切なくて美しい思い出。

「あのさ……これ、あげるね。嫌なことあっても、これ握ってたら大丈夫だから!」

 そう言って、俺が見習い陰陽師だとは知らない華音様は、淡い紫のパワーストーンを俺の手に握らせた。スピリチュアルなものが特段好きなわけではないらしいけど、このパワーストーンは「何となく可愛いし、持ってたら嫌なことが減った気がする」という理由で持ち続けていたらしい。だからあのパワーストーンは、陰陽道の呪文以上に効果があると俺は本気で信じている。
 帰宅した俺を出迎えた悠馬が『本当に華音様行っちゃうんだね……うわーーん』とガチで泣く所を見たのも初めてだったな。別れ際に返されたマフラーを俺はずっと見つめてた。良い香りしたんだよね。あぁ切ない。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.181 )
日時: 2021/03/01 13:24
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

第3話
 そうして高一の3学期から、華音様のいないモノクロの日々が始まってしまった。年末年始のタイミングで帰国した父にも、「お前妖に生気吸われたか」って真顔で聞かれるくらいには魂抜けてた。うん、俺は切ない恋という名の妖に生気を吸われちゃったよ、お父さん。
華音様とはLINEを続けていたけど、そうコンスタントには続けられなくなった。なぜって?——時差よ。こっち起きてる時に向こう寝てて、こっち寝てる時に向こう起きてるわけ。最初は頑張って華音様の時間に合わせて電話もしてたんだけど、数日で死んだ。授業中は沈没、小テストは撃沈。俺が夜寝てる隙に悠馬が勝手に俺のスマホで華音様と電話したらしく、その次に華音様と話した時には「京汰くん、無理しなくていいからね!」と言われてしまった。高2を控え、大学受験も考えないといけなかったから、この時は素直に華音様の言うことを聞いた。

 そして進級と共に、また大事件が起こったんだ。
 それは——人生史上ほぼ最大のモテ期。俺の人生には再び彩りが添えられ始めた。
 何がすごいって、クラス替えした途端よ? 週1で告られ始めた。「藤井くん……実は前から少し気になってて!」とか「面白いし、よく見るとかっこいいし……」とか。1人テニス部の後輩とかいた。俺帰宅部なのによ? どうもテニス部の城田とつるんでる所を見られたらしいけど。もう訳が分からん。まぁ1つ心当たりがあるのは、高1から高2の間の春休みに身長が5cmくらい伸びたことかな。元々低くなかったんだけど、急に180cmになった。そしたら急にモテ始めた。これには悠馬もびっくりしてたな。身長マジック。
 当然最初は俺の方が舞い上がってしまって。でもまだ心にはしっかり華音様が残っていたから、「ありがとう。でも俺、今彼女とか作る気ないわ……ごめんな」とかすんげぇキザな振る舞い見せてた。うわぁ今思い出すと寒気しかしない。はっっず。いやあのね、ちょっとね、みんなの憧れ皆川先輩的な雰囲気真似したかったんだよね。皆川先輩の記憶がみんなからごっそり抜けてるのを良いことに、ここで思いっきり雰囲気パクろう、という魂胆だったわけです、はい。まぁ悠馬には家で盛大に笑われたけど。イケメン式神に笑われるの腹立つわ。俺これでも必死にパクってたのによぉぉ!

 ただこうしたカッコつけマンの日々も、予想外の形で終わりを告げた。

「……ちょ、うわ、あああああっっっっっ!!!」

 スマホを落としました。……学校のお手洗いに。
 こういう所、俺やっぱバカの素質あるって思ってる。俺にはカッコつけマンなんか似合ってねぇんだよな。分かってたよ、うん。調子乗ってた。
 水没したスマホは見事に機能不全に陥りまして。俺は放課後慌てて携帯ショップに行き、新しいスマホを買った。ここまでは良かったはずなんだけどさ。
 次の瞬間、気づいたのであります。
 LINEのバックアップ取ってねぇじゃん、と。アカウントの引き継ぎとかしねぇまんまにインストールしちゃったじゃん、と。
 クラスとか仲良しメンツのLINEとかには招待してもらえて入れたんだけど、肝心の華音様のアカウントどこやねん。
 きっと華音様のお友達(女子)はアカウント知ってたけど、聞いたら怪しまれそうだし。俺の周りの男どもは芋の極みで、華音様を友達追加すらできてねぇし。俺の周りはジャガイモとサツマイモとサトイモとタロイモしかいねぇんだわ。
 そんなわけで、華音様と俺を繋ぐものが何1つ無くなってしまったのです。SNSの繋がりって思った以上に脆弱ぜいじゃくなんだな、と実感したのを思い出すわ。

 そしてさらに追い討ちがかかった。
 俺がスマホを新調した数日後、クラスの女子が盛り上がっていた。

「華音超可愛い~♡」
「アメリカでも元気そうで良かったよね!」

 はっ?! 何を見てるんだ?! 俺は彼女たちの輪を覗き込んだ。すると……写真があるではないか。LINEで送られてきたらしい。相変わらず美しい華音様の隣には、さらに美しいAmerican boyがいた。え。何このイケメン。てか距離近くない?! 腰に手添えられてない?!

「華音、クラスでウェルカムダンスパーティー開いてもらってたんだね!」
「えーペアになった男の子はライリーって言うんだ!」
「それが華音の隣の子じゃない?」
「ま?!」
「うわやばっイケメン。はい昇天」

 ら、ライリーくんとダンス……もう俺の知らない世界に足を踏み入れたんだな、華音様は……。
 その写真を盗み見て、俺の心はプッツン、と切れた。
 あ、全く怒ってないのよ? 華音様にもライリーくんにも全くムカついてない。
ただね、悟ったのよ。
 華音様は新しい一歩を踏み出したんだって。俺の時計だけが止まってたんだって。
 そんで決めたの。


 せっかくモテ期が来てるんだもの。彼女作ろうって。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.182 )
日時: 2021/03/14 18:25
名前: 美奈 (ID: tDLDmNtV)

第4話
 俺のモテ期はGW明けも続いた。彼女作ろうとは決めたんだけど、やっぱり妥協というか、惰性で付き合うのはいけないと思ってたのね。相手にも失礼だし。だからなかなかOKを出さなかった。
 でもある日、初めて、俺がちょっと前から気になってた女の子に呼ばれたんだ。

「クラスが同じになってから、気になってて……多分その、す、好きで……もしまだ彼女とかいなければ、私と付き合ってもらうこと、できるかな……」

 お相手は山崎莉央ちゃん。この前クラスメイトになったばかり。だからお互いのことはまだあまりよく知らないけど……。
 普通に可愛い。ボブヘアがよく似合う。逆に彼氏いないの? って聞きたくなるくらい。この子なら、俺も付き合えそうな気がする。
 俺は莉央に手を差し出した。今これ、「手を出した」って読んだ奴しばくからな。俺そこまでデリカシーない奴じゃねえぞ。

「ありがとう。……これから、彼氏として、よろしく」

 莉央は目を見開いて、でもすぐに俺の手を握った。俺がもう片方の手で莉央の頭をくしゃっとすると、莉央は綺麗な笑顔を見せた。

<ふうーっ! 京汰くんおめでとっ♡ 莉央ちゃんのこと大事にするんだぞっ>
(もちのろん)

 こうして俺は晴れてリア充になったわけである。


 莉央の場合は、付き合ってみたら何か違った、とかいうのはラッキーなことになかった。普通に可愛いし良い子。ただ華音様のように、悠馬が視える才能はなかった。だから俺も、悠馬のことは話さなかった。陰陽道のことも黙っていた。無闇に言うのも良くないからね。
 莉央といる中で、恋愛のハウツーは一通り学んだと思う。一緒にいる中で自然と好きになったし、莉央も俺を好きだと何度も言ってくれた。
 特筆すべきは、莉央がめちゃくちゃ勉強熱心だった、という所だろう。ここが本当に俺とは正反対。まぁ莉央の家庭が法律家や学者揃いだってのも影響してるとは思うけど、偏差値は常に70付近。俺は超努力して60超えるくらい。莉央は国立を目指していた。勉強に関しては、真面目に次元が違ったなぁ、と思う。お家も何かすげぇ豪邸だった。お手伝いさんが3人もいたことにめっちゃびっくりした。悠馬はそのうちの1人をスカウトしたいとか言ってたな。俺1人でもめっちゃ手かかるんだってさ。心外な。
 お互いに受験勉強を頑張っていたけれど、最初から同じ大学に行く気はなかった。てか行けないもん。頭脳が決定的に足りなかったから、俺は早々に諦めたし、莉央も期待してなかったはずだ。

 恋愛自体は極めて順調に続いていたのだけれど、あっぱれ、と言わざるを得ない事件が起きた。まぁこれは事件というか栄光なのだけど。

「京汰、見て! 私未だに信じられない!!」

 莉央のおかげで継続して努力する癖がついた俺は、自分が思い描いていたよりも遥かにレベルの高い有名私立大学に合格することができていた。これには父親もびっくりで、「お前すげぇじゃん! さすが俺の子! 運の強い子!」と意味不明に舞い上がってたな。
 そしてあとは、国立志望の莉央の結果を待つだけになっていた。
 彼女が俺に見せたのは、合格発表の掲示板の写真。弾ける笑顔で番号を指差す莉央。その端にちょっぴり写り込んでいる、赤い大きな門。
 何を隠そう、これは東京大学の合格掲示板なのである。莉央はその年、俺の高校で唯一の東大現役合格生になったのだった。

「な、なんと……!! おめでとう莉央!!」

 こうして俺達は互いの合格を祝って喜んだのだけれど、その直後に俺らの間に不穏な空気が漂い始めた。

「京汰、こんなこと言いたくないんだけど……」
「どうした?」
「別れて、欲しい」
「……は?」
「本音言えば一緒に東大行きたかった。でも京汰、早々に諦めたでしょ。世の中には偏差値30くらいあげて難関大学に合格する人もいるのに。……私ね、京汰には京汰に合った人を見つけて欲しい。私も東大で自分に合う人を探してみる。……今までありがとね、すごく楽しかったよ」
「え…………」

 端的に言うと、振られたのだ。
 学力格差を前にして。
 確かに彼女が東大です、は俺にとってはなかなかのパワーワード。
 いや確かにね、早々に諦めましたよ。でも俺偏差値15くらいは上げたんだけどなぁ……莉央の許容範囲は偏差値30upだったようだ。それはね……ちょっと俺には、結構なかなかすごくとっても非常に難しかった。
 だからね、潔く腹を括ったんですよ。
 俺は身を引こうと。このままちゃんと振られようと。
 こうして俺と莉央の甘い日々は、卒業を機にあっさりと終わりを告げたんだ。
 あぁ切ない……!!

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.183 )
日時: 2021/03/22 14:06
名前: 美奈 (ID: tDLDmNtV)

第5話
 華音様がいなくなってからの2年間を振り返ってみたけど、かなり駆け足で振り返れちゃった気がするのは俺だけ? もうちょいスロー再生の方が良かったかしら。

 ざっくりしてたけど、俺の高校3年間はまぁこんなもんです。

『ねえ京汰のことばっかひどくない?! 僕もメインキャストのつもりなんだけど?! ほんっと君はいつまでも自己中で成長の欠片もないというか何というか。もうとにかく自己中。利己的。セルフィッシュ』

 最後の3つ全て同じ意味じゃねえか。
 まぁそれは置いといて、確かに悠馬についての説明は全編カットしておりました。綺麗バッサリ、こちらの都合でカットしてたんですけど本人にバレました。くそぉ、しまいには俺の悪口また言いやがって。マジムカつく。でも仕方ないからちょっとだけお話します。

 俺の死神……ゴホンゴホン失礼、式神の悠馬は高校の3年間、俺の世話係をちゃーんとやってくれてて、受験期はマジで教育ママに見えるくらい、働きアリにも働きバチにも見えるくらい一生懸命働いていました。赤本コピーして俺に解かせて、しかも志望校全部の赤本を5年分3周させて。3食に+αで夜食も作って。きっと、俺の母親より動けてる。そこは感謝してます。でも、受験当日(本命校)の弁当を開けた時、ご飯の上に海苔で“必勝”じゃなくて“調伏”って書いてあったのは本気で恥ずかしかった。隣の席の奴が、一瞬こっちを見たんだよ。で、「ぎょっ」って顔をしてた。俺も1回開けた蓋閉めたもんね。大学は敵じゃねえから! てか陰陽師の端くれ相手に調伏って式神の分際で書いてきやがったのも結構憎たらしく……もしかしたら、その負のエネルギーが原動力になって受かったのかもしれない。それもどうかと思うけど。てかあいつどんだけ器用なんだよ。
 ……まぁいいや。こんくらいで悠馬の説明は終わりにしますね。俺にしては結構話してあげた方。

 そんなこんなで俺は才女・莉央ちゃんとお別れし、晴れて大学生になったわけです。東大じゃないけど。そこそこの大学に。
 ちなみに俺は、某私大の社会学部にいる。興味あるのは割と何でも学べるっていう、一見魅力的な一方で、専攻が自分でも分からなくなるような学部。やりたいことったって、陰陽道は絶対やんなきゃいけないし、他にやりたいことってのが特になかったんだよなぁ。何かの専門家になるとか考えてなかったし、何かのお店やるとか医者やるとか教師になるとかいう夢もなかったし。かといって、サラリーマンの自分を想像できたわけでもなかった。でも両親も悠馬も、「大学くらいは行っとき」と口を揃えて言い続けた。父親はzoomで顔を合わせる度に「行きたい大学決まったか?」なんて聞いてきて、あぁ、こりゃ行かなきゃならんのだなと俺は静かに悟ったわけである。そして同じような時期に、元カノ・莉央の才女っぷりが露見したのである。だから俺はひとまず勉強して、動機は何となくで入学してしまった。でもまぁ「大学は人生の夏休み」って言うし。一応4年間あるわけだし。自分探しの第一歩として、外見だけとりあえず垢抜けとけばオッケーって勝手に思って今に至ってる。
 入学式で初めてスーツを着て。まぁ高校の制服がブレザーだからパッと見あんま変わんないけど。でも気持ちだけはちょっとシャキッとした気がして。見知らぬ人に大学の門の前で写真撮ってもらったのを海外の父親に送ったら、「おめでとう似合ってるよ学費あと何万かかるんだ」っていう棒読みメッセージが来た。大学行けっつったのあんただろ。もうちょい感動しろよ。ただでさえスマホ越しなんだから豊かな感情表現しろよ。って思ったから、「大根役者か」って返信しておいた。ちなみに既読スルーされている。
 高1の時の皆川先輩調伏で自分の力不足を思い知ったので、まずはサークルよりも陰陽道を優先しようと決めた。悠馬が放置される時間長くなるのかわいそうだしな。一応俺にも情けってもんはある。だから入学式が終わった後は、新歓の人混みに突っ込むことなくまっすぐ帰宅。俺は俺なりのキャンパスライフを謳歌するつもりだ。

 あ、こっからは現在形な。明日から授業が始まる。必修のクラス分けは既にされてるけど、どんな人がいるんだろ……わくわく。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.184 )
日時: 2021/04/07 01:11
名前: 美奈 (ID: tDLDmNtV)

第2章 ピッカピカの春学期

第6話
『何やってんのほんとにもーう!!』

 ジリリリリリリ…………。

「うーまだ止まってねぇのかよもーう! てか起こせよバカ」
『ば、バカって! 通うのは京汰でしょ?!』
「どーせ悠馬も行くだろ! 朝飯食う時間ねーじゃん! 午後イチだからぜってー間に合うと思ってたのに!」
『大学生になったんならいい加減自分で起きろぉぉぉっっっ!!』
「世話係が口出すんじゃねぇ消すぞこらっ」

 ジリリリリリリ…………。

「あああもうっ、スヌーズうるせぇぇぇっ!!!」
『京汰の声量がスヌーズ遥かに超えてるって』
「冷静なツッコミはやめろ黙るんだっ」

 現在、11時30分。11時に起きて、余裕持って大学に行くはずだったのに。
 悠馬は起こしてくれないし、耳障りな音でいつまでも鳴り続ける目覚まし時計が鬱陶しい。ええ、自分でセットしたんですけどね。それにしても入学式の後から、悠馬くんがなんか厳しいんだけど。自分でやれーって。ぴえん。てかお前世話係だって。悠馬から俺の世話って仕事取ったら何が残るんだよ。怪しさしか残んねーじゃん。俺が役割付与してんのに! もう!

『ねーえ、独り言でかい。心の中の声がぜーんぶ吐き出されてるよ。僕めっちゃ責められてる。泣いちゃうよ?』
「勝手に泣いてろこの野郎」

 あー忙しいよ、寝坊しちゃったから、と言いながら、ベッドから飛び起きて俺はせかせかと動き回る。
 本当は分かってる、俺が起きなきゃいけなかったんだよなぁ〜。でも悠馬いるからつい甘えちゃうんだよなぁ〜。ってことくらい。俺もそこまでバカじゃない。
 だから、朝イチ(11時30分が朝イチかどうかはさておき)にしては悠馬にキツく言いすぎたな、泣いちゃうって言ってたもんな、ごめんな、って思うけど、それを言葉にしたら負ける気がするから口が裂けても言わん。そして多分、ごめんなって4文字すら言えなくて、背中を向けながらあちこち動き回ってごまかしてる俺の心を、多分このイケメン式神は分かってる。だからムカつくし憎たらしい。でもだからこそ頼っちゃう。
 何なんだ、この曖昧な、アンビバレントな気持ちは。これは恋か。
 …………いや、死んでもそんなことはない。

『手が止まってるよ!』

 ほら、シャキッとして! と俺の両肩を持つ悠馬に、胸がときめいて……全身がちょっぴり熱くなって——。
 いやいやいやいやいやいやいやいやいやっっっ!!!
 んなわけないっ!! 俺は悠馬にムカついてる! 恋敵だもん! 余計な一言いっぱい言うもん! 悠馬は憎たらしい式神だ! うん、出会った時からずっと、ずーっと憎たらしいと思ってる! 間違っても、す、好きなんて……いやいやいやいや! 憎たらしいだけ! ちゃんとしろ自分!

『京汰くん? どしたのよ、首取れそうなくらいブンブン振って。ヘドバンしてんの』
「してねぇわっ!!」

 こうして今日も、ドタバタな1日の始まり。俺と悠馬の生活は、良くも悪くも安定している。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。