コメディ・ライト小説(新)
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- 変革戦記【フォルテ】
- 日時: 2018/08/28 20:50
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: https://m.youtube.com/watch?v=oXxfk4iPPjY
※全年齢版
参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)
国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!
※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は、全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)
異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板
用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)
>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)
>>10->>17
第3話【fake town baby】
>>18
(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.9 )
- 日時: 2018/03/29 08:52
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: https://m.youtube.com/watch?v=-kxUFola5YI
「おい…暇って」
「シレイシツの奴らがうるせーんで来てみた。なるほどおもしれえことになってやがる」
突然に現れた少女、『ナナシ』は時雨を見て、にやりと笑う。この状況を、心から楽しんでいます、というように。
彼女───ナナシは名前がなかった。それどころか生年月日、過去経歴が一切【ない】、もしくは【不明】という謎の多い少女である。片手には白く輝く刀『白狼丸』を手にし、いつも棒のついた飴を食べている。そして口調、態度ともにこれでもかと言わんばかりに悪い、ということだけが彼女を形作るものだった。ナナシはケッと悪態づく。
「ホントはオレだけ来る予定だったんだがな。コイツもついてきやがった」
「え」
「ナナシちゃんが行くなら私も行くもん!」
「じゃぁかしい善人」
ナナシが苦々しい顔で背後をちらりと見やると、そこからひょっこりと別の少女が顔を出す。その少女は片手に『ピコピコハンマー』を手にしており、ナナシはふざけてんのかとひとり呟く。
ピコピコハンマーを手にしている彼女───善澄 善佳───は、ナナシの隣にたち、ふんすと胸を張る。邪魔だとナナシがいやそうに言っても、彼女は話を聞いていないのか、私はナナシちゃんのお友達だからね!とさらに誇らしげに顔を輝かせる。2人のその様子に、時雨はますます毒気が抜かれるばかりだ。
「お前らなにさぼってるんだよ早く終わらせろよ!」
「坊ちゃん早く弾丸を」
「弾丸くれ」
「お前ら2人は消費が激しすぎる!ほら!」
そんな中、生真が状況を無視して談笑していた3人に向けて大声をあげる。その生真に対し、問答無用で次々と真巳と玖音は弾丸を要求する。すぐにできるわけじゃないんだぞ!と文句を言いながらも、2人に早急に作った弾丸を放り投げる。時雨はこうしちゃいられないと、また錫杖の首の部分を握り直し、宙を舞う構成員に向けて突き刺した。
───フォルテ、『バレッター』。弾丸、薬莢を無限に生成するフォルテ。それ以外のことは一切できない。ほかにできることと言えば、通常では作れないような『特別製』の弾丸を生成できることくらいか。それでも銃をメインにして戦闘する真巳と玖音にとってはありがたい存在だ。それが生真のフォルテである。生真はまたきっとすぐに弾丸を要求されるんだろうなと思いつつ、生成する。その間、前線に出て戦闘する彼の付き人である真巳に変わり、泥が彼の護衛を任されている。次々に襲い掛かるグローリア相手に、泥は遠慮なく豪拳を叩き込む。あっけなく吹っ飛ばされるが、なかなかしぶといようで起き上がってはまたやってくる。それの繰り返しでそろそろ泥自身、飽きてきたところだ。
「はあ…」
「にしてもやけに回復早くないか向こうさん」
「穴も相変わらず開きっぱなしだし、そのフォルテを持つフォルトゥナはもう倒したの?」
「先ほど弾き飛ばしたて気絶させたが…どうやら『フォルテの効果を永続させるフォルトゥナ』がいるらしくてな。閉じようにもそいつもなかなかしぶとい。腹を斬ったがすぐに再生した」
「で、その間にもわらわら出てきやがる、と」
ナナシがそういうと、それに呼応するかのようにまた穴から3人ほど出てくる。これで相手は10人になった。力で無理なら数で押しと通ろうということだろうか。さすがにいらだちが沸き上がる。しかもいくら倒そうとしても次の瞬間にはつけたはずの傷が再生されるいう始末。おそらく相手のうちの誰かが『そういうフォルテ』を相手全体にかけたのだろう。余計なことをしてくれる。
「───なら。フォルテがきかねーくらいにボコればいいだけだろ」
そしてひとつの結論を、ナナシはニヤリと笑いながら、あえて向こうにも聞こえるように言う。
「ナナシちゃん賢い!賢いポイントひとつあげるよ!」
「いらねーよ」
「そんな無茶な…!」
「泥、その首の制御装置はずせ」
瞬間、泥の動きが止まる。
「おいナナシお前───」
「時雨。オメーはフォルテ使って穴閉じろ。メイドとスナイパーは撃ちまくれ。んで坊ちゃんは弾丸作ってろ。善人、オメーはもぐらたたきしてろ」
時雨が反論する暇も与えずに、ナナシは間髪入れずにほかのメンバーに指示を出す。最後に彼女は時雨を見てこう言った。
「アイツらを跡形もなくボコんなら、全部出すんだよ。どうせ殺しちまうんだから」
そういうとナナシは単身で突っ込んできた相手の顔面に、遠慮なく蹴りをかました。刀は使わずに。自らの足で相手を落とした。その場でもがくそいつに、ナナシはまた頭部をサッカーボールのように蹴り上げた。かなり力を入れてやったようで、彼女の靴には血のようなものが少しばかり付着していた。
「あとさ、脳みそやられたら、いくらフォルテかかってたって関係ねえよなァ?」
事実頭部を蹴り上げられたそいつは、よほど痛むのだろうその部分を、手で覆いながら苦しんでいた。聞くに堪えないうめき声があたりに響く。仲間のその無様なその様を見た相手方はすっかり引き腰になっている。どれだけ傷をつけられようともフォルテのおかげで痛みもないし、傷もすぐにふさがれていたはずなのに、脳みそが詰まっているその部分をやられただけであっさりと沈むなんて。そう思っているのだろう。ナナシはますます笑みを深めた。
「わかったらとっととやんだよ。死にたくねえだろ」
「ナナシちゃん、私は?」
「いいか、あいつらは全員モグラだ。もぐらたたきするとき、モグラのどこをたたけばいいか知ってるだろ」
「頭だね!」
「いまからやるのはもぐらたたきだ。そのインチキハンマーでぶったたいてやれ」
「はーい!」
ナナシのその一言に笑顔で答えると、善佳は向こうへ走っていき、たまたま目についたフォルトゥナの頭部めがけてピコハンを思いっきりたたきつけた。するとどうだろうか、ピコンとかわいらしい音が聞こえたと思ったら、瞬間たたきつけられた頭部は、まるで道路に落ちて車に轢かれたザクロのように、無残に飛び散った。脳漿や血液をあたり一面に飛ばしながら。これには時雨たちも、グローリアも、目を見張り呆然とする。ただ1人、真巳はこんな光景を主人に見せるわけにはいかないということからか、生真の目を素早くふさぐ。
いったいあのピコハンにどれだけの威力が備わっていたというのか。それとも張本人の力が強すぎるのかフォルテの影響なのか。肝心の善佳はその光景を見る前に、ナナシのもとへと戻ってきていた。自分の先ほどの行為で何が起こったかも知らずに。
「おけ?」
「よーしいいぞお前はもう下がってろ」
「え?うんわかった!」
どうやら彼女は言われたことを真に受けるタイプの人間なのか、ナナシがそういうと素直に従った。ナナシはいまだ呆然とする時雨たちに「何やってんだよ早くしろよ」と文句を言う。その言葉にハッとしたのか、真っ先に玖音が動く。すでに装填済みの弾丸を、すっかり腰を抜かしてしまった相手の1人の頭部に向けて放つ。結果は想像通り。頭部を、しかも眉間を確実に打ち抜かれたそのものは一部がはじけ飛び、物言わぬ肉塊と化した。それを皮切りにして、止まっていた戦闘が再び始まった。グローリアの残りの7人は、狂ったように時雨たちに襲い掛かる。その顔は恐怖か否か。とてつもない形相をしているのは確かだ。だが狙いはほとんど定まっていないようで、まったくの虚空にむけて刃物を振り回していたり、たとえ届いたとしてもかるくはじかれる。いったい何がしたいのか、本人たちですら判断が危うくなっているようだ。その間に泥は素早く首につけられていた『制御装置』を解除し、ゴトンと重々しい音を立てながらそれは重力に従って下に落ちる。瞬間泥の髪色はそれまで何物にも染めれれていないかのように真っ白だったものから、途端にどす黒く染まる。髪の毛もぶわっと一気に量が増えて地につくくらい長くなる。そしてラベンダーを思わせるような紫の瞳の片方は、血のように真っ赤に染まる。そして赤く染まった目の周りには、血管にも似た何かが走る。
これこそが泥が授かったフォルテ、『狂化』である。自我を失い、最終的には人格が壊れる代わりに、驚異的な力を手に入れるフォルテ。だがそれは、制御装置をすべて外し、100%解放した時の話である。普段は両手首両足首でそれぞれ5%ずつ、首で残りの80%を制御しているため、『すべて外さない限り』、あるいは『両手首両足のみの制御装置の解除』または『首の制御装置の解除』ならば、自我は保たれる。それでも本人にはかなりの精神的、および肉体的疲労がかかる。だから、そんなフォルテが、泥は何よりも嫌だった。それでも。それでも友のため、仲間のため、彼はこのフォルテを使い続ける。
「めんどうだから…一気に蹴散らそうか」
普段よりいくらかトーンを低くしてそうつぶやくと、腕を上げた次の瞬間には、7人のうち5人の頭部が吹っ飛んでいた、否、消し飛んでいた。それによるものか、穴は急速にしまっていき、最終的には消え去った。もう増援が来ることはないだろう。
それに続くように真巳も笑顔で愛用の、1つだけ弾が入れられたリボルバー式の銃を、ゆっくりと1人の頭部へ向ける。だが生真は前に出て彼女を止めようとしたのか大声で名前を呼ぶ。その顔は悲壮か後悔か。
「ま、真巳!」
「坊ちゃん、お静かに。残していただき…ありがとうございます」
ぼそりというと、その銃から発砲音とともに放たれた弾丸は確かに頭を貫いた。生真はその光景を見るまいとして、目をぎゅっと閉じる。残すはただ1人のみ。素早く時雨は地面を蹴り上げて真正面からそいつに近づくと、刃先を眉間に向けてピタリとくっつける。なぜだろう。自然と口角があがってしまう。なぜそうなるかはわからない。もしかしたら僕はとうに『おかしくなって』いるのかもしれない。でもどうでもいい。そんなものはなにもかも、どうでもいい。
「結局あなたも…そしていずれは僕も死ぬんです。ただあなたは僕よりも先に、そして僕に殺されるだけ。そこに違いはないでしょう?」
嬉しそうに、楽しそうに、『弔いの言葉』を贈ると、思いっきり刺し貫いた。
◇
「お帰り。よーがんばったな」
戦闘が終了し本部へ帰ってきて、各々は散り散りになる。その中で時雨は医療室でバイタルチェックを受けてそれが終わり、自室へ戻ろうとすると、煙草をふかして白衣を着た男がのんきに現れた。目元がなにか特殊なマスクで隠されているからなのか、表情はあまり読み取れないが、口角を上げてせせら笑っていることから、きっと楽しんでいるのだろう。何に?わからない。
「リーダー、見ていたのですか」
「そりゃーマグノリアのリーダーだぞ?見てねーわけねーよ」
時雨が聊か不機嫌そうに言うと、リーダーと呼ばれたその男は笑いながらガシガシと時雨の頭を乱暴に撫でる。そのせいで時雨の髪の毛はぐちゃぐちゃになる。
いかにも悪事に手を染めています、といような格好のこの男こそが、マグノリア創設者にしてリーダー、葛狭 狂示である。未成年のフォルトゥナでまとめられているこのマグノリアで、唯一の成人が彼である。今年22歳を迎えたらしい。本人は素性を良くも悪くも語ろうとせず、また表立って出ることがあまりに少ないため、『とりあえず煙草吸ってるのがリーダー』という認識がマグノリアの中で定着している。
彼は新たな煙草に火をつけながら時雨に対し、「お前ら暫く休暇な」と言い渡した。
「え、そ、そんな突然に!?」
「泥は制御装置取ったからしばらく動けねーだろうし、ナナシと善佳は無許可転送で形だけだが説教と反省文&外出禁止、そんで生真は精神的カウンセリングで真巳はそれにつきっきり、玖音は休暇届出してきたし、お前も俺が休暇届出しといたから」
「だ、出しといたってそんな勝手な…」
「リーダーからのありがた~いプレゼントだと思え。フォルテを使う戦闘は精神的、肉体的疲労が尋常じゃねえからな」
んじゃな、と手をひらひらさせながら去ろうとする狂示に対し、時雨は待ったをかける。
「どした」
「今日、転送エラーが起き、ヰ吊戯がそれに巻き込まれたと聞きましたが、どうなったので?」
「ああ。グローリアの構成員3人に絡まれたらしいが、全員跡形もなく消したってよ。その後本部に直帰。ケガはねえって」
「そうですか…」
「ま、オペレーターからお前らの場所にそのまま転送されそうになったらしいがな。キレて説教してやったらしいぞー」
「なんでそんな楽しそうなんですか…」
「いやああのオペレーター共、今日付けで前線送りにしてやったからな」
「特権の乱用ですね」
時雨はかんらかんらと笑う狂示に、あきれたような視線を形だけでも送る。だが当の本人はそれを無視して「休んどけよー」と言い残して今度こそ去っていった。
残された時雨はこれ以上ここにいても時間の無駄だと踏み、深いため息をついて自室へと戻っていった。
第1話【Magnolia】 終
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.10 )
- 日時: 2018/04/04 16:33
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=WHcFDJCjY3s
時雨たちが休暇に入ってから3日。与えられた休暇は1週間。ぞのおよそ半分を消化したのはいいものの、出撃もないとなると特にやることがなさ過ぎて、ただひたすらに部屋でぼうっとしているだけで1日が終わってしまう、というサイクルで時雨は3日を自堕落に過ごしていた。外に出て鍛錬でもすればいいのだろうが、なぜかやる気が起きない。このままではいけないと思いつつも、すべてのことに手がつかない。時雨は己に与えられた休暇を持て余していた。
「やっほ」
そんなときである。時雨の部屋の扉を開き、無遠慮にも入ってくるのは、彼の双子の姉である超子。ベッドの上に座り、ただぼうっとしている時雨をチラリと見やると、ふぅと息を吐く。
「あんたさあ、少しはぱーっと遊ぼうって気にはなれんのかね」
「…姉上、いらしてたのですか」
「え、反応遅…ってか、もーそんなんじゃだめでしょ!せっかく休暇なのにサー」
「やることがないんですよ…」
「そ・う・じゃ・な・く・て!」
がしっと超子は時雨の肩をつかむ。思いっきり強く。ぎりぎりと肩に超子の指が食い込み、時雨はあまりの痛さにぱしぱしと超子の腕をたたく。しかし超子はそんなことをお構いなしに話を続ける。
「リフレッシュしに、家に戻ってみたら?」
第2話
【Oshama Scramble!】
「え」
「だーかーら!そんなに疲れてるんなら、家に戻ってみたらッて!静かな場所だし、ゆっくりできるでしょ?」
「そ、そんな急に」
「もう連絡は入れてあるよ?」
「用意がいいですねずいぶんと」
じとりとした声で超子に言うも、超子は「ほめていいのよ!」と誇らしげに言うばかりで、時雨は何なんだとため息をつく。
「あとね、泥くんにもいってあるから」
「はっ!?」
超子から思いがけない一言が飛び出したせいか、時雨は思いっきりベッドから立ち上がる。どうどうと時雨を落ち着かせると、超子はまた口を開く。
「泥くんと時雨で、時雨の家でゆっくり休んできなよ。あすこはただでさえ山の中だから、猶更ゆっくりするならいい場所でしょ。おじさんたちには連絡入れてあるから」
「ずいぶんと…急展開ですね…」
「あんた前から頑張りすぎなのよ。この前だって急な出撃に自ら出てっちゃうんだから…まともな休みなんてあってもないようなものじゃないリーダーが休暇を1週間もくれたのが幸いだったけど、3日もそうしてんなら強硬手段に出るしかないじゃない」
「でもそれじゃあほかのみんなが」
「休めないって?まーったくあんたは!確かにあんたも大事な戦力よ。フォルテ抜きにしても、『陰陽術』が使えるのはかなり強い。よくわからないけど。フォルテッシモの操縦もフォルテッシモ自身も、ほかを寄せ付けない。いくつもの作戦のかなめであり続けたわ。で・も。ちゃんと休養もとらないで、ただ部屋でぼけっとしてるまんまで休暇を終わらせようって?ほかにやること見つかんないから?バッカねー、そんなんで休暇あがってもあんたまともに動けないわよ」
「それはどういう意味ですか姉上、僕だってちゃんと動けますよ。それだったらこの休暇も捨てて」
「ぼけっとしてたあんたがムキになるんじゃないッ」
「ァだっ」
超子からつらつらと飛び出てくる言葉に少々腹に据えかねた時雨は、ぐっと顔を超子に近づけて反論するも、後頭部に回った彼女の手刀がゴスッと直撃する。いいところに当たったのか、時雨は思わずその部分を手でおさえてその場にうずくまる。そのまま放っておくがごとく、超子は時雨の目の前に荷物をつめたのであろうキャリーをずずいと差し出す。
「はいこれ荷物ね。転送ルームで泥くんと一緒にいってね」
「な…いつの間に」
「うん、昨日やっといた!」
「姉上ぇぇ…!」
「やってやったぜ!」と誇らしげに、きらきらと輝く満面の笑みでそう言われてしまうと、もう時雨はただ恨めし気にうなるしかなく、しぶしぶそのキャリーを受け取る。早く行った行ったとせかされると、もう行くしかなく。時雨はとぼとぼ部屋を出て転送ルームへと向かっていった。それを笑顔で見送った超子は、時雨に向けていた笑顔を崩し、至極真面目な顔へと変わる。
「お姉ちゃんは心配だわ。あのままじゃきっと、いいえ、絶対に精神も壊れる…だからこそ。だからこそなのよ。ごめんね時雨。あんたはこうでもしないと、絶対に体も心も壊しかねないから。わかるのよ。あたしは───あんたのお姉ちゃんだもの」
いつもより強めの口調で、トーンでそうつぶやくと、彼女もまた主の消えた自室から去っていった。
◇
「というわけでっ」
ぱんっと小気味いい音が鳴る。その場にいるのは超子と歌子、そして松永───松永 久舵───、そして
「私たちもいるわ」
「エレちゃんたちもありがとねっ!」
まるで精巧なドールを思わせる容姿をした少女───エレクシア=エレーヌ───を含め、4人はリーダー、狂示の部屋へと集まっていた。相変わらず未成年が目の前にいるのにも関わらず、リーダーとあろうその人物は、新たな煙草を取り出しそれにジッポで火をつけて、1つ吸う。すこし部屋は煙たくなるが、それを気にせず超子は話を続ける。
「時雨を強制的に帰省させて休ませる作戦大成功!だよ!」
「FUUUU!イカしてんぜ超子ォッ!姉特権ってやつだNA!」
「(それ作戦とは言えないんじゃ)」
「ハハッ、元気だなーお前ら。んまあ時雨を帰省させたのはよくやった。休暇やったとしてもどうせ部屋でぼけーっとしてるだけだろうと思ってたんでな。玖音は休みなのをいいことにサバゲ―やりにいったっつーのに」
「あの子はいつも無茶をするもの。エレーヌもそういっていたわ」
「とりあえず無理やり休ませた時雨の話は終わりにしといて。リーダー、何かない?」
長くなりそうだと踏んだのか、超子はいったん話を切って狂示に別の話題を振る。彼はそのために来たんだろうがとせせら笑い、煙草の火を落とす。行儀悪く部屋に置かれた専用の机に腰掛け、足を組むとふむ、と頭の中の棚を引っ掻き回す。そうすること数分、なにかを見つけたようでああと声を出す。
「最近なんか栃木の日光で連中の研究施設を見っけたって話があったっけな。普段は見えねえように幻術かなんかで隠してるらしいが」
「どんな施設?」
「おう、その辺は調べといたから教えてやろう。どうせそこ破壊しろって発令出すつもりだったし。ちょうどいいやお前らに任せるわ」
そういうとニヤリと笑いながら狂示はまだ残っていた煙草を灰皿に押し付け、つぶす。そしてゆっくりと話し始めた。
「栃木県日光市。そのあるポイントで連中の研究施設が発見された。発見日は今日から5日ほど前だ」
仮にそのポイントを『A』とする。そのポイントAで発見された研究施設は、普段は幻術のフォルテか何かしらを使って見えないように施しているらしい。その施設ではフォルトゥナの子供を連れ去って研究の実験台にするのはもちろんのこと、そのフォルトゥナの子供を慰み者にしたり、洗脳や薬剤を施し『ペット』として裏社会に販売したり、さらには人身売買オークションにかけたりしているとのことだ。極めつけは子供を使って『そういうこと』をさせる商売までも手を伸ばしているらしい。すでに被害にあっている子供は数えたらきりがない。中には『ペット』として買われたり、オークションで競り落とされていって消息が不明な子供もいる。こんなことを、今現在国家権力を握ってこの国を支配している組織がやっていることなど、人々は到底思えないだろう。否、思わない。
「そんなもんをほっとけるかっつったら、できるわけねえだろ。というか普通そうだ」
「やっぱり大人は嫌いだわ…私も、エレーヌも。丸ごと潰さなきゃね」
そう『彼女』がそういうと、途端に右の金色の瞳だけが眼振を起こした。
「ええそうねエレクシア。わたしもよ。沸々と沸き上がっているの…とてもとても『痛い』ものが」
「お、エレーヌじゃねえか。どうだいやってみるか?」
「勿論よ。行きましょうエレクシア」
そして出てきた彼女、『エレーヌ』は狂示をひとつ、嫌悪感たっぷりに見上げると、そのまま部屋から出ようとする。それを超子はがしりと腕をつかんで止める。まだ話は終わっていない、というように。彼女は顔こそは変えないものの、足取りはどこかいやそうに戻ってくる。狂示はのんきにも、「ずいぶん嫌われてんなァ」とケラケラ笑う。
「あなたも大人だもの」
「ひっでえな。俺は今でこそ22だが、作った当時は未成年だぜ?」
「今は今よ」
「あーへいへい耳が痛いねェ」
「オイオォイ、リーダーはそんなに睨むもんじゃネェYO、フレンドルィイにいこうZE!」
「静かにしてくださる?」
「オレッチが静かでいられると思うかYO?FUU」
「そうね。あなたはそういう人だったわね…」
「で。話を戻すぞ」
このままでは本筋が流れてしまうと思ったのか、狂示は机から降りて待ったのジェスチャーをして話を戻す。
「お前らに任務を与える。その施設をフォルテッシモで潰してこい。塵になるまで、徹底的につぶせ。いいな。おそらく中に連れ込まれた子供はもう手遅れだ。無理に救出して元に戻そうと思っても、それはゆであがったゆで卵を、もとの生卵に戻すくらいには不可能だ。いいな。『跡形もなく』残すな」
それは『死刑宣告』にも似た『任務』が、たった今下された。
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.11 )
- 日時: 2018/04/14 23:19
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: 酒飲んで書いたからすんごい短い
超子たちが狂示から指令を受けていた同時刻。時雨は転送ルームで泥と合流して、時雨の実家である場所へと降り立っていた。時雨は久々に帰って来た実家を真正面から見て、ふう、とため息を一つ漏らす。泥はそんな時雨を見て、時雨、と彼の名を呼ぶ。
「大丈夫?もしかして、本当は帰りたくなかった?」
「まさか。ただ、姉上の強引さに呆れただけだ」
「ふうん」
ならいいんだけどさ。と泥はひとり、心の中でそっとつぶやく。泥は気づいていた。時雨がこの場所にきて家を見て、なぜため息をついたのか。なぜああ答えたにもかかわらず、物憂げな様子が解けないのか。本当は気づいていた。だけど、あえて『知らないふり』をして時雨に聞いた。どんな答えが返ってくるのか、どんな声で来るのか。泥は時雨のその様子が見たくて、あえて質問したのだ。時雨の返答と声は、予想通りだったが、まあ良しとする。何が、と聞かれると、きっと泥自身もわからないのだろう。
「いこっか」
「ああ」
泥が『いつもの笑顔』で促すと、時雨もまた、重々しく足を動かす。
───時雨がため息をついて、まるで帰ってきたくなかったというような態度をとった理由はただ一つ。
2人の目の前には、『ゆうに100は超える石造りの階段』が上へ上へとのびていたからであった。
◇
階段をのぼりはじめておよそ数十分。
ようやく上り終えた2人は、疲れのあまりに荷物によっかかるように崩れ落ちる。普段から体力仕事───と言えないかもしれないが───をしていたとしても、あまりの段数に気が遠くなるほどの階段を、休みなしで上り詰めたら、さすがに疲れるものは疲れる。足がこれ以上、動くのを拒否している。なぜ階段を飛ばして転送してくれなかったのか、正直半日かけて文句を言いたい気分だ。
「さすがに、これは」
「僕もこれには慣れないな」
「もう家の中入らなくていいんじゃないかな」
「そう思えてきたぞ」
肩で息を整えながら、時雨と泥は話をする。もう一歩も動けないようで、その場にとどまって目を閉じて眠りの落ちそうになる。だが
「誰かお客様かしら…?」
ひょっこりと現れた女性が時雨の家から出てきてなにかつぶやくなり、彼らの意識は清明なものとなる。動かない体の代わりに顔だけをそちらにあげると、時雨はあっ、と声を上げる。
「母上…」
つい口から出てきたその言葉に、出てきた女性ははっとして時雨たちを見る。そしてふっと微笑む。
「…あら、時雨ちゃん?それに今日は泥くんも一緒なのねえ」
「あ…倖さん、お久しぶりです…」
へらりと笑い、そういうと、倖と呼ばれたその女性───春夏冬 倖は、倒れこんでいた2人をひょいと抱え上げて、微笑みを崩さないまま家へと入っていった。今日のお昼はとびきり豪華にしなくちゃね、と嬉しそうに呟きながら。
◇
ところ変わってマグノリア本部。先ほどリーダーから破壊命令を下された4人は、作戦を練り上げるべく、大きなプロジェクタのある会議室へと集まっていた。プロジェクタの横には超子が立ち、ほかの3人は部屋の真ん中に設置された椅子に座って超子を見る。
「では。作戦会議を始めるよ」
「まず内容をまとめよっか」
「そうねん。それから始めましょ」
歌子がそういうと、超子はプロジェクタに、上から撮影された襲撃予定の場所、『ポイントA』地点を映しだす。一見何もないように見えるが、特殊な解析で発見したデータに変えると、途端に何もなかったはずの場所に、三角形で形つくられた何かが現れた。それにテキストが重ねられ、『グローリア栃木支部』と映し出される。
「今回襲撃するのは、ここ、栃木県日光市に在る、『グローリア栃木支部・フォルテ研究機関』。リーダーからもらったUSBに入ってた情報によると、ここでやっばいことしてるみたい」
「それはさっき、言ってたわ。もちろんエレーヌも聞いていたわ」
「そうねん。そいでリーダーはここに、フォルトゥナの子供たちがとらえられて、慰み者にしたり『そういうこと』に使ったり、人身売買オークションにかけてたりしてるって言ってたよね。あー反吐が出るわ」
「本当にね…」
「そこを、あたしらがフォルテッシモで奇襲をかけて、ぶっ潰す。やりたくはないけど、中にいる被害者の子たちもまとめてね」
そう超子がいくらかトーンを落として言うと、ほかのメンバーもずうぅん、と空気が落ちる。だが松永だけは違った。
「オレッチも気分はBADだZE…だがな、無理してHELPしても、救われねえことだってあるかもしれねえんだ…だからこそオレッチたちがここでDESTROYしてやんねえとNA。HOPEがこの先にあるかどうかなんてわからねえかもしれねえから、オレッチはだからこそこのMISSIONを達成したいんだ…」
どうしても言葉の節々や、最後の未来形な一言で台無しになってしまうのだが、言いたいことは確かに伝わったようで、超子は松永に賞賛の言葉を贈る。
「たまにはいいこと言うじゃん久チャン!」
「FUUUU!オレッチはやるときゃやるんだZE!」
「言葉遣いの意味はよくわからなかったけど…でも、言いたいことはわかるよ。被害にあった子たちの為にも、頑張らなきゃだよね」
「言いたいことはあるけれど、それが救いになるなら。私も、『わたし』もやるわ。…やれるかどうかは別だけど」
意外な人物の一言により、メンバーは本来の明るさを取り戻す。この明るさを取り戻したところで、会議を再開させる。
「では。まず襲撃方法なんだけど。周囲変換をするのはもちろんなんだけど。その後だね。データによると、この建物もんのすごい頑丈にしてあるみたいなんよ。あたしらの襲撃を予測してかしらね」
「わざわざ建物を見えなくしておいてさらに建物にも施しをするなんて…ずいぶんと大人は嫌なことをするのね」
「ほんとね。なのでここはまず、歌子ちゃんのフォルテで建物自体を弱体化させる。その間絶対、連中も仕掛けてくるはずだから、歌子ちゃんを囲うようにして、あたしらが守る」
「でもYO!それってYO!もし歌子が『別のどこからか襲撃』されたらどうすんだYO」
その問いに、歌子はふっふっふっと不敵に笑う。何か策はあるのか、度肝を抜くような、何かすごい策が───
「なにもかんがえてませーん!!」
その一言に全員が椅子から滑り落ちた。
続く
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.12 )
- 日時: 2018/05/05 22:39
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「久しぶりねえ。時雨も泥くんも」
そう言って倖は、すっかり疲れで机に突っ伏している2人の目の前に、ほうじ茶を差し出す。泥は震え声ながらもありがとうございます、と礼を言い、時雨もやはり礼を言ってほうじ茶を一気に飲み干した。かなり喉がカラカラだったのだろう。
「今日はどうしたの?」
「姉上から帰省を命じられたのです」
「まあ、超子ちゃんが」
「僕も桐乃さんから一緒にいけって言われまして」
「泥くんも?超子ちゃんすごいわねえ」
「ほぼ強引でしたけど」
倖が超子に感心している傍ら、時雨はぼそっと本音を漏らす。幸いにもその声は倖には届いていなかったようで、そのまま次の話題へと移る。
「状況はどんな感じ?」
「はい。先日、グローリアとマグノリアのあいだで、フォルテ使用の戦闘がありました。向こうは一時的にあるポイントと繋がれる、ゲートのようなものを作り出して、そこから直接構成員を引きずり出していました。まあその場はナナシさんや善佳さんたちの助力もあってどうにかなりましたが……」
「まあナナシちゃん達が?すごいのねえ」
「他にも転送エラーでヰ吊戯がグローリア茨城支部に行った事くらいですか」
「大丈夫だったの?」
「持ち前の勢いでどうにかしたそうですよ」
「あらあ……凄いわぁ」
逞しいのね、と倖は笑う。その感想はどうなんですか、と時雨が言ってみるも、褒め言葉よ?と返される。ため息をついて、時雨はほうじ茶を飲み干した。
「とっても頑張ったのねえ。今日は豪勢にしましょ。そういえば何日間いるの?」
「3泊4日ですね」
「なら4日間ね!何が食べたいかしら?」
「えっじゃ、じゃあ回鍋肉を……」
「抜けがけはなしだぞ泥!母上、僕はだし巻き玉子がいいです」
「ふふ、はぁい。腕によりをかけて作ってあげますね」
途端に騒ぎ出した2人に、倖は優しげに笑みを浮かべて調理場へと向かっていった。
◇
「何も考えてない……って?」
「その言葉の通りです!だからこれから助言をもらいに行こうと思って」
ところ変わって同時刻、マグノリア会議室。超子が防御壁に対する作戦に対し、何も考えていないと爆弾発言を放った直後。転げ落ちた3人の中の1人である歌子がそう聞くと、超子は自信満々に胸をそらしながら答える。どこからその根拠の無い自信が出てくるのか、小一時間ほど問い詰めてみたいものだが、今はそんなことをしている暇はない。歌子は超子にまた問いかける。
「助言って?」
「リーダーに聞いてもどーせ無反応だしさー。それならリーダーと繋がりがあって、それなりに話してくれそうな人に聞いてみようと思うの」
「それ、あの人?」
「そうそうあの人!」
ニッコリと屈託のない笑顔を浮かべ、超子はふふんと鼻を鳴らす。歌子とエレクシアは察しがついたようだが、肝心の松永はそれが誰なのか全くわかっていないようで、早く行こうZEとノリノリで言ってくる。だが相手が誰なのか分かっている2人は、心做しか『やめておいた方が』と言うような、嫌そうな顔を浮かべて超子を見る。しかし超子は行くって言ったら行くの、と聞かず、さっさと会議室を意気揚々として去っていった。
「個人的にものすごく行きたくないんだけど……」
「私もよ。正直行く気がないわ。部屋に戻っていいかしら」
「んーん、でも超子ちゃんの事だから会議室に戻ってくるんじゃないかな」
「待つしかないわね」
「どうしたんだYO早く行こうZE!超子追いかけねえとNA☆」
「……うん、止めはしないよ。止めは」
「後悔しないようにする事ね」
「?」
2人のため息が完全に理解できていない松永は、超子を追いかけて急いで会議室をあとにした。
「……あーあ、行っちゃった」
「何も知らないわ。何も」
「うん……」
その後ろ姿を、2人は哀れなものを見るかのような目で、見送ったのだった。
◇
ついた先は『マグノリア医務室』。超子は後に松永がいることだけを確認すると、ニッコリと笑って医務室の扉をノックする。その瞬間である。扉の先から声が聞こえてきたのだ。超子はすかさず扉に耳を当てる。
『ほな弥里チャン、今度はこのヤク打ち込んでみたろか』
『さいこ〜〜〜☆早く宜しく☆』
『今日もええ感じにぶっ飛んどるなぁ。ほな、遠慮なく……』
その時超子の行動は早かった。一瞬で扉を開き、中にいたと思われる2人組の男の方を、フォルテを使って中に浮かせ、だだっ広い医務室の遠くの方へとぶん投げる。
───フォルテ、『PSI(サイ)』。いわゆる超能力の総称で、彼女が扱えるのはサイコキネシス、パイロキネシス、テレポーテーション、レビテーション、クレヤボヤンスなど、種類は様々だ。体に浮かぶ紋様が、外へ露出していれば露出しているほど、フォルテの威力も高まり、また直前まで食べた食事のカロリーが高ければ高いほど、また威力が高まる。ただ、フォルテを使用したあとの消耗は激しく、かなりの空腹状態に陥る。そのため、常に高添加物、高カロリーの特別製の飴を食していなければならないという制限がついてくる。それでも強いものは強く、現在マグノリアの戦闘部隊では、トップに食い込むほどである。
そんなフォルテをそう易々と使っていいのかと言われると、間違っているのだろうが今は非常事態。速やかに処理せねばならなかった。
「弥里っち大丈夫!?」
「え?ヤクは?」
「いやそうじゃなくてなんか仕込まれなかった?」
「なぁんにも?」
「素かぁ」
弥里と呼んだその少女の受け答えに、超子はがっくりと肩を落とす。その様子を後から見ていた松永は、またテンションが上がって踊りながら中へと入る。
「FUUUU!流石だZE超子ォ!オレッチにできないことをォ平然とやってのけるゥ!」
「えっ、何このテンション高いアフロ?」
「最近入ってきた松永」
久舵、と言いかけたところで、弥里は既に松永に飛びついていた。目はやたらとキラキラしており、超子などもう眼中にすらなかった。
「ねー君所属どこぉ?何歳?フォルテ何ぃ?」
「FUUUUU!オレッチは松永でぃす!よろしくなのでぃす!今は戦闘部門だNA!オレッチの華々しい活躍みてくれYO!」
「きゃーっ!何この子チョーたのしー!」
「ええ……」
彼女の名は『三森 弥里』。マグノリアに存在する医療部に所属している研究者のひとりだ。普段はぶかぶかの白衣を着て、影で気味の悪い笑顔を浮かべたり、気味の悪い笑い声をあげたりしているが、それは仮初の姿。正体はマグノリア限定で、アイドル活動をしている『シェリー』だ。彼女の歌や踊りはマグノリアにくまなく伝わり、実際彼女のファンは相当な数がいる。だがそれを周りが知ることはないし、彼女から明かすことももうないであろう。
彼女は日々ここで新薬の作成に力を入れており、最近では『体が子どもの姿になる薬』も開発したとのこと。ただ使う用途がなくてお蔵入りになったらしいが。
「ちょっとまじやばいんだけど。写真一緒に撮ってよ松永くん」
「お安いごYOだZE!オレッチのHeartはseaのように広大だからな……」
その流れで弥里と松永の自撮り祭りが始まってしまった。まさかこうなるとは思いもしなかったようで、超子は2人を見てため息をつく。そして先程から、全く動かない男の元へと近づく。あの程度で気絶するはずがない。なぜならこいつは
「ヤク中やからな!」
「うお人の心読まないでよ!」
「あ、すんまへーん。当てずっぽうやったんやけども、正解しとったんやなあ」
がばっと飛び起きたその男に、超子は軽く後ずさりする。男はなんや酷いわあと言いつつも、形が崩れたメガネを直しながらかけなおす。
この男の名は『月見里 那生』。マグノリア医療部の長にして、マグノリアリーダーの葛狭 狂示の幼馴染である。過去経歴一切不明、偽名である確率は99%、フォルテも詳細不明と、何から何までが『よく分からない』人物である。ただ、手に負えないレベルのヤク中であることが明らかになっており、ついでに本人はよく遊んでる体を振りまいているが、実は全くの童貞であることも付け足しておく。そんな人間でも、医療部の長であるように腕は確かで、傷口も数分で塞いでしまう程である。ただ薬を首の方へ打ちたがるので、ほとんどのマグノリアのメンバーはこの医務室へ来ようとしない。何をされるか溜まったものではないからだ。
「そんで聞きたいことがあんだけど」
「そんなん知っとるわ。ポイントAにある施設の防御壁やろ」
「やっぱ知ってたんだ」
「そりゃ、ワイは狂示と幼馴染やで?」
知らんことはあらへんがなー、と那生は笑顔で言う。んまあ結論から言わしてもらうわ。那生はまず前置きをして語り始める。
「あの防御壁は壊せるで」
「どうやったら?」
「メカニック部門が開発したっちゅう『特殊防御壁破壊爆弾』や。それさえあれば余裕で壊せるで」
「確かなの?」
「試したことあるんやで。アレやないけどな。威力は絶大や」
あん時の爆発は死ぬかと思ったわあ、と背伸びをしながら言う。超子はその言葉を聞くと、ありがとね月見里先生、と呟いて小走りで医務室をあとにしようとした。が。
「ちょお待ちいな超子はん」
「えっ」
がっしりと那生に腕を掴まれる。そちらを見れば那生は悪い笑顔を浮かべて、超子をじっと見ていた。それはまるで『餌を見つけた』と言わんばかりの眼光。超子は身の危険をいち早く察した。だが、振りほどこうにも那生の力が強すぎる。
「あんさん……せっかくワイが情報あげたんやから、あんさんのフォルテの情報もくれへんか?ワイばかりあげても……な?」
「普通にお断りだわ何されるかたまったもんじゃないし。それにメカニック部門にもいかないと」
「まーまーすぐに終わるっちゅーねん。はい力抜いてー」
「させるかぁ!」
向けられた注射器がちらりと見えた瞬間、超子はフォルテを使って一瞬で那生の背後に回ったかと思うと、一気に足を振り上げて、彼の項の部分に向けて力を込めて降ろした。
「へぶぉ」
間抜けな声とともに地に落ちる那生。それ以降反応がなくなったのを確認して、超子は改めてため息をついた。そういえばすっかり忘れてた。この人は大抵ヤクを、誰彼構わず打ち込もうとするアホだったと。それでもヤクのひとつくらいはパクろうかな、と悪い思考が働いて、那生がコートに仕掛けておいた試験管1本を懐に忍び込ませた。
「さあてと。メカニック部門ね?」
超子は舌なめずりをして医務室をあとにした。
それでも松永と弥里の自撮り祭りは、まだまだ続きそうであった。
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.13 )
- 日時: 2018/05/15 21:37
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「おっじゃまっしまーっす!」
とてもとても大きな扉が、超子の顔を認識して少ししたあと、ゆっくりと、鈍い音を立てながら口を開く。ガチャンと鳴ると、中の様子が顕になり、超子は無遠慮に踏み込んでいく。
ここはマグノリア、メカニック部門。主にフォルテッシモの開発やメンテナンスを生業とする部門である。その為にメカニック部門が必要とする敷地はかなり広く、なれた人間でも案内のアプリやら何やらがなければ、高確率で迷子になる。それだけ広大『すぎる』のだ。
満面の笑みで入ってきた超子に、ある1人のメカニッカーが気づき、声をかける。ハネが強い長く白い髪をポニーテールにし、いかにもな丸メガネをかけた少女だった。超子も彼女に気づいたのか、やっほやっほー、と手をブンブン振る。
「超子ちゃーん!どうしたんすかわざわざこっちまで?話くれたらすぐにいったっすよ?」
「いやあ、実は耳寄りな情報をもらいましてえ」
てへへ、と超子は笑うが、対して少女はニヤリと笑ってメガネを光らせる。
メカニッカーの少女の名は『一条 常磐』。マグノリアメカニック部門の今の事実的ナンバーワンである。というのもメカニック部門のトップとナンバーツーは現在本部を離れており、そのせいで本来ならば3番目なのだがほとんど権限を持たないはずの彼女が、この部門を取り仕切っている。なかなかに仕事は楽じゃないようで、仮眠室にたまに行くと、布団に入らずベッドに頭を突っ伏す形で寝落ちている彼女の姿を見る。それほどまでにトップの仕事はハードなのだろう。主にメカニック部門にいる問題児の扱いと、よくフォルテッシモがぶっ壊れるのでそれのメンテナンスで。その姿を見るたびに、申し訳ねえ申し訳ねえと超子は心の中で謝るのだが、一向に良くなる傾向はない。正直すまんかった……!とまた、超子は心の中で常磐に謝る。
「お話はかねがね。『特殊防御壁破壊爆弾』すね?」
「早くて助かりまっせぇ」
「ふっふっふ。でもあげるには条件があるっす」
「条件?」
「はいっす。後であの『バカ』に、『ちったあ外でろ』って言っといて下さいっす」
そういった彼女のメガネの奥の瞳は笑ってなどいなかった。口元は僅かに上を向いていたが、瞳は決して笑ってなどいなかった。むしろ『あのクソ野郎』という文字が見えたほどだ。彼女の言う『バカ』が誰のことか分かっていたのか、超子は満面の笑みでりょーかい、とだけ。案外簡単な条件で良かった、と胸を内心なで下ろす。
「そんじゃま、爆弾については超子ちゃんのフォルテッシモちゃんに付けるっすね」
「あいよー、そうしてもらえると助かるわっ」
「今回出撃するのはどの機体っす?」
「んーと、あたしの『マザー』と久チャンの『愛宕丸』、歌子ちゃんの『ディーヴァ』とエレちゃんたちの『アルテミス』ね。もしかしたら増えるかもしれないけど」
「じゃあメインはその4機すね。出撃はいつす?」
「お昼すぎかなあ。多分」
「ふむふむ。ならそれまでにチェック終わらせるっすねー」
「あ、そういやさ、あすこにあるの『愛宕丸』?」
常磐がメモ帳を取り出し、出撃機体と出撃時刻を確認しているところで、超子が真後ろでメンテナンスをしていたあるひとつのフォルテッシモを指さす。なかなかに細いフォルムをしているが、どうやら作りはしっかりとされているフォルテッシモだ。超子はそのフォルテッシモ、『愛宕丸』を見て感嘆を漏らす。
「いつ見ても個性的だよねえ」
「見た目はヒョロいっすけど、機動性は充分す。しかもあれキューちゃんが1から設計したんすよ。あっ、ヒョロいじゃなかった、『フョロイ』だったっすね。キューちゃん的には」
「へぇー……つか久ちゃんそここだわるよねえ。あたしもヒョロいって言ったら『フョロイだZE!』って直されたっけ」
ケタケタと2人は笑い合う。何故だろうか、銀色のアフロが輝かしい彼の話をすれば、自然と笑いが混み上がってくる。マグノリアとグローリアの戦闘は日々激しくなっていく一方、メンバーはその戦闘に疲弊し、みるみるうちに表情が消えていっている。だが最近入ってきた例の彼のせいで、何をするにしても脳内に彼が現れてひとしきり笑わせてくる、という現象がちらほら出てきている。これを狙っているのか、はたまたただの偶然なのか。
「ま。その話は置いといて。爆弾の件はこっちで仕込みしとくっすから。他になんかあるっすか?」
「そうねー……強いていえば」
超子はうぬぬ、と唸ったあとで、これだと言わんばかりに口を開いた。
「うちのマザーちゃんに愛宕丸の性能くっつけられない?」
「無茶言うなっす」
◇
「遅いねえ、2人とも」
「そうね。退屈だわ」
「だねえ。やることないねえ」
「ただいまーっ!」
「えっ今?」
マグノリア会議室。医療部に心底行きたくないとして、この場所にとどまることを選んだ歌子とエレクシアは、暇を持て余していた。特にやることがないため、ただ単にぼうっとしてる事くらいしかない。あまりにも暇すぎて、数十分前に『微妙に使いどころがないフォルテをあげる』という、妙な遊びをしていたほどだ。しかしそれはもう飽きて、やはりぼうっと過ごすことになったのだが。
さてどうしたものかとなにか考えようとした矢先、医療部に出かけていた超子が戻ってきた。
「ふっふーん。特殊防御壁壊す道あったよー」
「ほんと?情報の出処は?」
「月見里センセだよ」
「え、信じていいのそれ」
「メカニック部門行って事実確認したからおーるおっけー」
「……メカニック部門?」
超子の口から出たその言葉を、エレクシアは疑問符をつけて復唱する。流石エレちゃんお目が高いっ!と超子はキラキラと顔を輝かせながら、先ほど手に入れた『特殊防御壁破壊爆弾』の話を2人に伝える。その話は2人の興味を引くのに容易いものだった。
「なるほど。つまりその爆弾を、あの場所にぶつけるわけね」
「破壊力凄まじいらしいからさー、爆発する時離れてた方がいいかもねっ」
「なら、その爆弾を最初にぶつければいいのだわ。それならやりやすくなる」
「そのへんは現場行かないとなー。爆弾が無駄になっちゃうかもしれないし」
「そうだねえ。で、そういえば松永くんは?」
「あっ」
ごめん忘れてた!と親指をぐっと立てながら言うと、歌子は乾いた笑いをし、エレクシアは心底どうでもいい、というような態度で超子を見るのだった。
◇
マグノリア医療部。松永との自撮り写真に満足したのか、弥里はスッキリした顔で松永に礼を言う。当の松永は「いいってことYO」と、サムズアップして言う。
「そういや超子ちゃんもういないっぽい?」
「Oh!どうやらオレッチは置いてかれたみてーだNA……」
「超子はんならメカニック部門に行かれたで」
「あ、童貞!」
「童貞言わんといてや弥里チャン!」
いつの間にか目を覚ましていたらしい那生が、松永と弥里に近寄って話に加わる。だが弥里から発せられたそれは、那生を凹ませるには充分なものだったようで、那生は壁に頭を打ち付けて「ワイかて……ワイかて……」と、ブツブツ繰り返す。
「あ、そうだ松永くん」
「どうしたんだbaby?」
「これさ。もしもの時があったら使ってね」
弥里から差し出されたのは、日常生活などでよく見る、小さな薬のようなカプセルだった。松永はそれを潰さないように気をつけて受け取る。だがこれだけでは一体何なのかわからない。首をかしげて、松永は弥里に聞く。
「MOSIMO?」
「『大変なこと』になるよ……♪」
そういった弥里の口元は、何よりも鋭く、何よりも悪役らしく、三日月よりもつり上がっていた。まるで『大変なこと』になることを、待ち望んでいるかのように。
ただ松永はそれを気にしちゃいないのか、ありがとYO!と言う。そして彼は独特な歩き方で医療部を後にした。恐らくメカニック部門に行くのだろう。最もそのメカニック部門には、既に超子はいないのだが。
「気をつけてねー……」
弥里はニヤリと笑って見送ると、さーてお薬の時間だ〜と、妙な色をした液体が入った注射器を、自らの首元に射した。